- Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101024110
作品紹介・あらすじ
大学教授を父親に持つ引っ込み思案の優等生・相馬涼子。アル中の母親をかかえ、早熟で、すでに女の倦怠感すら漂わせる不良少女・松尾勝美。17歳の2人の女子高生の出会いと別れを通して、初めて人生の「闇」に触れた少女の揺れ動く心を清冽に描く芥川賞受賞作。他に、母と娘の間に新しい信頼関係が育まれていく様を、娘の長すぎる髪を切るまでの日々のスケッチで綴る「揺れる髪」等2編。
感想・レビュー・書評
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表題作はとても瑞々しく良かった。
ただ、あとの2篇は女性的な感傷が強すぎて正直鼻に付く。どの登場女性もエゴイストで、作者が自己投影していない事を祈りたい。その一方空間の色彩や温度感の表現が豊かで、他作が気になりもした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
1983年下半期芥川賞受賞作。小説に描かれている時期はいつ頃だろうか。筆者自身の体験がもとになっているとすれば、1960年代半ばの山口県防府市ということになろうか。今でこそ普通の共学になったようだが、かつて山口県内の公立高校は長らく男女別学(校内に男子棟と女子棟がある)だった。そこでの相馬涼子と松尾勝美との交友とすれ違いとを描くが、それは結局のところ交点を結ばない。涼子は、理解しようとしたはずのクラスメート(いわゆる不良であり、特異な環境にいる)を最後までファーストネームではなく、「松尾」と呼ぶのだから。
芥川賞としてはややインパクトには欠けるか。この時の候補作では、むしろ干刈あがた「ウホッホ探険隊」の方が良かったかもしれない。高樹のぶ子にはまだ次があり得た。
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(2004.08.24読了)(2003.03.08購入)
この本には、芥川賞受賞作の「光抱く友よ」を含めて3つの短編(「光抱く友よ」「揺れる髪」「春まだ浅く」)が収められている。表紙の藤井勉さんの絵から幼い子供の物語と勝手に思っていたのだが、「光抱く友よ」は、「ア・ルース・ボーイ」と同じ17歳の高校生の話だった。
●光抱く友よ
相馬涼子、平凡な女子高生?担任の英語教師三島良介に他の女子高生と同様憧れを抱いている。学校は、男子校舎と女子校舎別れている。瀬戸内に面しているというのだから著者の故郷山口県の話なのでしょう。
ある日の放課後、階段の踊り場で、三島が、同級生の松尾勝美を叱責しているのを聞いた。三島の乱暴な口の聞き方を聞いて、三島に対するあこがれの感情は消える。
松尾は、本来一学年上の生徒なのだが出席日数が足りなくて、一年生を二回やり、二年になって涼子と同じクラスになった。週の半分も学校に来ないし、出てきてもいつの間にかいなくなる。授業中も教師に指名されると物憂げに立ち上がり「わかりません」と答えるだけなので、教師も相手にしなくなる。定期試験の日は登校し、白紙に近い答案用紙で、鉛筆を転がして解答している。松尾に関しては体を売っているとか中学一年の時に堕胎したというような噂まである。
涼子は、階段でのことを聞きたくて、松尾に声をかけて一緒に帰る。
三島が松尾の母親宛の手紙を書き、母親からの返事を書いてもらったのだが、あまりにも稚拙なので、信用してくれなかったので、涼子に代筆を頼んできた。
交友が始まり、誘われて訪ねた松尾の部屋には、天体図が多数貼られていた。隣の部屋には、母親が寝ているという。母親は、酒びたり状態のよう。松尾は、母親と喧嘩しては家出を繰り返してきたという。そのたび男友達、女友達、と泊まり歩いては、戻るという生活だった。米兵のマーチンと知り合ってからは、マーチンのところに行っていたらしい。そのマーチンとも喧嘩してしまったという。天体図はマーチンの影響である。
母親は、精神病院に入り、松尾は母親の代わりにホルモン焼きの店をやっている。
みんなから排除されている少女と知り合って、涼子は何を得たのだろうか?
「損したあ、あんたと出合うて」と言わせているけど。
著者 高樹 のぶ子
1946年 山口県生れ
東京女子大学短期大学部卒業
1984年 「光抱く友よ」で第90回芥川賞受賞
1994年 『蔦燃』で島清恋愛文学賞受賞
1995年 『水脈』で女流文学賞受賞
1999年 『透光の樹』で谷崎潤一郎賞受賞 -
この作品を読んでいると相馬涼子という高校二年生の普通の女の子が、憧れの担任の三島先生が松尾勝美(涼子より一つ年上だが留年して同じクラス)に対しての暴言ともいう言葉から三島に失望と憤慨を覚え、勝美に近づく。そこで勝美のすさんだ態度、母親千枝と勝美の家庭の状況にとまどいながら、自分も周囲の人間から違ってみられるようになっていく。
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タイトルにひかれて手に取った。
表題作「光抱く友よ」は優等生の涼子と不良の松尾、全然違うタイプの出会いと別れ。ずっと涼子のほうが追いかけてたし好きって言ってるし恋愛でなくとも二人の関係は特別。でもハッピーエンドにはならない。そこがよかった。
全体的に昭和ノスタルジックだが、本筋はそれを気にせず読める。表題作が1番好みだった。 -
今は離れてしまった郷里防府の地が舞台だ。作中、郷里の情景描写が巧みで味わいがあった。
そして女の友情の物語、作者は二人の女子高生に限りない優しさをもって描いている。大学教授を父に持つ相馬涼子は早熟の不良少女松尾勝美に言う。「うちは、なんで松尾さんみたいな皆がよく言わんひとに近づいたのか自分でもわからん。ただ松尾さんは、これまでの十七年間、うちの心がきちんと片づいとったところを引っくり返したんよ」と。青春の中での友人の位置をどのように評価しているか作者の心中を推し量れる。 -
芥川賞。雑誌でオススメされていて読んだ。
時代が感じられ、普遍的ではないが、昔の思春期の女性の心の移ろいが感じられる。この頃ってこんな感じに暮らしてる人がいたんだな。。
今でも同じなのか。。
明るい話ではない。
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久しぶりに、本当の小説らしい本をよめた。
高樹のぶ子のえがく…清冽な女性の描写が、
今どきにはない新しさをかんじさせる。
ストイックなことは結構みだらさを含んでいて、今のように性におおっぴらな時代にかえって妖しいものを見せてくれる。
フランスの哲学的な小説を思い出させられるのは自分だけかもしれないけれど。 -
芥川賞、解説:荒川洋治
光抱く友よ◆揺れる髪◆春まだ浅く