蜘蛛の糸・杜子春 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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レビュー : 419
  • Amazon.co.jp ・本 (128ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101025032

感想・レビュー・書評

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  • 「お釈迦様は極楽の蓮池のふちに立って、この一部始終を、じっと見ていらっしゃいましたが、やがてカンダタが血の池の底へ石のように沈んでしまいますと、悲しそうなお顔をなさりながら、又ぶらぶら御歩きになり始めました」(「蜘蛛の糸」13p)

    文章として1番洗練されていたのは、やはり「蜘蛛の糸」であると思う。鈴木三重吉に頼まれて初めて書いた芥川の童話集である。研究によって、元ネタが判明し、更にはトルストイの童話にもほぼ似た話があることが判明した。芥川の凄いのは、その2つとも最後に小難しい教訓をつらつら述べているのに、芥川はラストをお釈迦様の顔でさらりと流したことである。

    私が20世紀最大の知識人と評価している加藤周一の「青春ノート」を覗き込むと、青年加藤は芥川に影響を受け、かつそれを如何に超えるか苦心していた。よって、単なる短編小説家と思っていた私の芥川龍之介評価は変わりつつある。確かに芥川の知識は、当時の日本の知識人の水準を遥かに超えていたと思う。この小さな童話集だけに絞っても、インド、中国、日本古代の知られざる典籍が元になっていて、更に短編小説の手法はヨーロッパ文学が基になっている 。それでも彼は自殺せざるを得なかった。大きな課題が、加藤周一の前に立ちはだかっていたとしても不思議はないと思うのである。

    「アグニの神」は、在り来たりなジュブナイル・ストーリーなのだが、驚くことにその発端は「いったい日米戦争はいつあるか」という占い師への問いかけだった。日米開戦の16年前の記述である。

    約40数年振りの再読。320円で、お釣り調整のために買ったのだが、下手な現代小説よりも考えるところがあった。

  • H29.10.2 読了。
    ・初芥川作品。蜘蛛の糸、犬と笛、杜子春はお気に入り。羅生門も改めてじっくりと読んでみたい。
    ・現代作品にあまり見られない道徳観がちりばめられた短編小説でした。

  • 芥川作品を読むのは何年ぶりだろう。たぶんブクログには1冊も登録していない。いわゆる文学作品を、私はあまり読んでいない。
    読もうと思ったきっかけは、勧められたから。図書室の福袋。これを読んだ人、次はこれ、という感じで。
    なるほど、芥川龍之介はこういう文章を書くのか。面白さあり、メッセージ性あり。正直さ、誠実さが大事で、そういう人は報われる。そうでない人は、地獄に落ちる。シンプル。いろんな文体があって、不安定さや、迷いともとれる。短編は気楽に読めていい。なぜこの本を勧められたのかはよくわからないけど、勧められなかったら読まなかったのは確か。こういう機会も、いろいろと考えるチャンス。

  • 芥川龍之介が少年・少女向けに執筆した作品が収められていた。私のお気に入りは、「犬と笛」、「白」。「魔術」も結構好き。芥川龍之介は犬が苦手だったと聞いたけど、作品の中に犬が出てくるものがあるのが気になる。

  • 1.蜘蛛の糸
    冒頭の文章は好き過ぎて覚えてしまいました。
    この作品は自分とっての芥川文学の原点です。
    この作品は少年文学という括りでは語れない名作だと思います。

    2.犬と笛
    少年向け小説。姫君を助ける男の冒険活劇。

    3.蜜柑

    4.魔術
    魔術師志望の男が魔術師になる資質を問われる話。
    魔術師の使う魔術の描写が美しく引き込まれる。
    蝙蝠の様に飛ぶ本。暖炉の炎。金貨。
    夢オチ式の単純な話ですが、描写が優美でとても好きな作品。

    5.杜子春

    6.アグニの神
    中国で行方不明になった少女を探す日本人。
    誘拐した少女を利用して交信術でアグニの神を呼び出す印度の魔法使い婆。
    解釈は人それぞれですが、少女を救うアグニの神が存在するのかしないのか、「運命の力の不思議なことがやっとわかった・・・」謎を残す終わり方が好きです。

    今夜の計略が失敗したことが、
    ――しかしその為に婆さんも死ねば、妙子も無事に取り返せたことが、
    ――運命の力の不思議なことが、やつと遠藤にもわかつたのは、この瞬間だつたのです。
    「私が殺したのぢやありません。あの婆さんを殺したのは今夜ここへ来たアグニの神です。」

    7.トロッコ
    懐かしい子供の頃の情景が思い浮かぶ作品。
    子供が一人きりで見る町の宵闇のイメージがとても好き。
    心細く冷たい空気までが良く伝わってくる。
    懐かしい絵本童話の様に冷たい。

    8.仙人
    貧乏なマジシャンが乞食に同情して自らの不幸話を披露する。その乞食は仙人であったというオチ。
    要するに暇を持て余した神々の遊び。そんな話。

    9.猿蟹合戦
    猿蟹合戦の「その後」を語った話。とても短い話だがかなり面白い短編。
    次男蟹のその後についての逸話が特に面白い。
    「勿論小説家のことだから、女に惚れるほかは何もしない。ただ父蟹の一生を例に、善は悪の異名であるなどといい加減な皮肉を並べている。」
    最後の〆まで完璧。
    「猿と戦ったが再最後、蟹は必ず天下のために殺されることだけは事実である。語を天下の読者に寄す。君たちもたいてい蟹なんですよ。」
    この題材と数ページのボリュームでこんなにも面白い話を創作出来る芥川文学の素晴らしさ。

    10.白
    少年向け小説。白という名の黒い犬の話。

  • 幼い頃父に何度も「蜘蛛の糸」と「杜子春」の話を聞かされた記憶がある。もちろんその頃は、芥川龍之介の名だと知らずに、ただ面白い話だなーと幼いながらに父の話に聴き入った。それが芥川龍之介の作品であることを知るのは数年後の事である。そしてまた改めてこの作品を読んでみた。そんな話が詰まっている本書は、10編の短編から成っている。

    「蜘蛛の糸」...罪人カンダタが、蜘蛛の糸を使って地獄から抜け出そうと話。
    「犬と笛」...髪長彦が、笛と3匹の犬をお共にお姫様を救おうとする話。
    「蜜柑」...現実に嫌気がさした憂鬱気味の主人公の【私】が、電車でたまたま乗り合わせた娘の行動に感銘を受ける話。
    「魔術」...魔術師マティラム・ミスラに魅入った主人公の【私】が、ミスラから魔術を教わろうとする話。
    「杜子春」...杜子春が仙人と出会い、仙人になるために修行する話。
    「アグニの神」...妙子の父の書生である遠藤が、魔法使いに囚われている妙子を救おうとする話。
    「トロッコ」...トロッコに魅入られた良平少年が、トロッコで遊び、家に帰る話。
    「仙人」...仙人に憧れる権助が、古狐といわれる医者の妻の元で、仙人になるための修行する話。
    「猿蟹合戦」...猿の仇を討った蟹が死刑になる。猿蟹合戦のその後を描いた、猿蟹合戦のパロディー。
    「白」...犬が主人公の話。犬殺しに殺されそうになっている【黒】を見殺しにしてから、体毛が黒くなった【白】が、白の体にもどるため奮闘する話。

    個人的に好きなのは「蜘蛛の糸」「杜子春」「蜜柑」「トロッコ」だ。
    「蜘蛛の糸」は、有名ながら何度読んでも面白い。ラストで自分だけが助かろうとして失敗する姿は、人間の汚い所を見せてくれる。ラストのそんなカンダタを見る御釈迦様の表情もいい。
    「杜子春」は、金よりも大切なもの、親の愛を教えてくれた。地獄で鬼たちに鞭打たれ瀕死にながらも、息子杜子春のことを気にかけるその姿は泣ける。
    「蜜柑」は、匂いと色の表現が非常にうまい作品。文章なのに嗅覚と視覚を刺激してくる。ラストは心があったかくなってほっこりした。
    「トロッコ」...ノスタルジックな作品。これを読んでるうちに自然と自分が、少年時代の自分にタイムスリップし、主人公良平と重ねていた。少年時代の憧れ、恐怖が詰まっている。

    とにかく芥川の作品は分かりやすい。ストレートにメッセージが心に響く。幼い頃の私でも、その話の面白さ(読み聞かせであったが)が分かるほどだ。しかも分かりやすいからといって、決して子供向けであることではない。どの作品にも、人間のエゴイズムや善悪が詰まっていて、読んでいると自分もこんな汚い所あるなー、とつい考えてしまう。
    本書はどの作品も短く、それでいて濃厚で、しかも10編も味わえるのだからお得だ。短編の名手芥川の技を存分に堪能し、自分なりの好きな作品を探してみてほしい。

  • 解説に「『猿蟹合戦』は古来から伝わる伝説的童話のパロディーであり、気の利いた社会の風刺になっているが、しょせんは気軽な戯作である」とありますが、その風刺と理不尽さに一番心が動きました。

    「君たちも大抵蟹なんですよ。」という文末がなんだか悔しい。

  • 本書の中にある「トロッコ」を再読したくて手に取った。トロッコは、精読の経験が初めて出来た中学1年の国語授業の題材だ。何コマかかけて読み込んだ授業だった。主人公の少年が弟たちと立ち入り禁止の作業現場でトロッコを動かした時の心理、後日作業員に声をかけてトロッコに乗せてもらった時の心理、動かしているうち思いがけず遠くまで運ばれてしまった時の心理、日没近くに不安の中で走って帰った時の心理…。なかでも、行きと帰りで風景が違うことと、その不安の重なりが印象的だった。小説とはこんなにも丁寧に人を描いているのかと驚き、忘れられない授業になった。そしていま再読すると、そこに描かれている心理が、長い人生にもうまくはまることに気づく。大人になっても初めてやることは怖いのだ。この本に収録されている作品は元々は子供向けに書かれた小説ばかりではあるが、大人が読んでも感じることが多い。だから長年読まれ続けるのだろう。

  • 大人向けの童話という印象。読みやすく考えさせられる短編集です。そして秀逸なオチが用意されています。トロッコのみ子供のころに興味と冒険、そして恐怖を描いて異色ですね。どの短編も味わい深いと感じました。

  •  年少者の為に書かれた作品を集めただけあって全体的に読みやすく、『蜘蛛の糸』等一部の作品を除き基本的にハッピーエンドに類する結末のものが多いので肩肘を張らずに気楽に読める。
     一篇一篇が短くすぐ読み終えることが出来る上、これまで多くの人に愛読されてきた芥川作品に対して今更こういう感想を抱くのも滑稽かも知れないけれど、久々に「この話を読んでいる間はオチのネタバレを踏みたくないな」と思えるような、先の展開が非常に気になる話が多かった。
     そんな中での変わり種が『猿蟹合戦』。有名な童話の「その後」を描くことを通し、現代にも通じる社会風刺が展開される中、最後の短い一文が強烈な印象として残った。

著者プロフィール

小説家(1892-1927)。東京帝国大学文科大学英文学科卒業。創作に励むかたわら、大阪毎日新聞社入社。「鼻」「蜘蛛の糸」など数多くの短編小説の傑作を残した。1927年、服毒自殺。

「2019年 『羅生門・鼻・蜘蛛の糸 芥川龍之介短編集 Rashomon, The Nose, The Spider Thread and Other Stories』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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