河童・或阿呆の一生 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101025063

感想・レビュー・書評

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  • 天才。子供の頃に「鼻」、「父」といった作品は読んでいるし「鋭い心理描写だなぁ」と感じた様な記憶は何と無くある。ただ大人になってこうした晩年の作品を読むと、「心理描写」といった言葉に括れない凄味があることがわかる。

    日本文学は夏目漱石や森鴎外といった系統と、川端康成や三島由紀夫といった系統に大きく分かれると勝手にカテゴライズしていたが、芥川はその二系統を軽く凌駕する。強いて言うなら太宰に近いものを感じるが、太宰は此処まで心象風景が上手くない(太宰ファンの方々、ごめんなさい…)。

    「彼は今で言うところの統合失調症だったんだろうなぁ…」この一冊に収められている短編を読み終えて、そんな事を感じた。

  • 河童…面白かったです。
    ラストがそれかよ!というのはあるけど。。。

    芥川の晩年の短編を集めたものらしく、自ら命を絶つ前の生きる苦痛、精神的な崩壊が作品全体に漂い、一人の人間として死に向き合い、救いを求めている心情がつぶさに描かれている。

    偉大な作家の最晩年の心情、読んでみるのもよいと思います。

  • ―僕はもうこの先を書きつづける力を持っていない。こう云う気もちの中に生きているのは何とも言われない苦痛である。誰か僕の眠っているうちにそっと絞め殺してくれるものはないか?(239)

    ここには芥川の晩年のすべてが詰まっている。


    「大導寺信輔の半生」
    予は父母を愛する能はず。否、愛する能はざるに非ず。父母その人は愛すれども、父母の外見を愛する能はず。貌を以て人を取るは君子の恥づる所也。況や父母の貌を云々するをや。然れども予は如何にするも父母の外見を愛する能はず。(15)

    信輔を以て彼の心の吐露を連ねる。信輔の半生にどれほど自身を重ねたか。


    「玄鶴山房」
    のみならず死はいざとなって見ると、玄鶴にもやはり恐しかった。彼は薄暗い電燈の光に黄檗の一行ものを眺めたまま、未だに生を貪らずにはいられぬ彼自身を嘲ったりした。(53)

    愛人に入れ込んだ玄鶴の終わりを描いたもの。彼の家庭は静かに、だが確実に崩壊しており、彼はそれでも愛人を求めようとする。その様を淡々と眺めて冷笑する看護婦の甲野は、やけに人間臭く、だがこれが世間だと思い知らされる。


    「蜃気楼―或いは「続 海のほとり」―」
    芥川の文体の美しさを表現した短編。この本の中では特殊な位置にあるように思う。


    「河童」
    我々は人間よりも不幸である。人間は河童ほど進化していない。(115)

    或拍子に、河童の世界に足を踏み入れた「僕」。その世界は人間の世界とは種を異にしていた。河童の語る宗教や生死感、恋愛感などは芥川の代弁であろう。
    そして河童の世界から人間の世界に戻って精神病患者扱いされる様も。


    「或阿呆の一生」
    いえ。死にたがっているよりも生きることに飽きているのです(184)

    五十一編の中に彼の死への羨望がよく読みとれる。彼は彼自身を嘲り、死の齎す平和を思った。

    「歯車」
    彼が見たという歯車は、閃輝暗点だと言われている。私もその症状を持っており、改めてこれを読むと同じものだと思う。彼は歯車を見るたびに自分が狂人になったと悲観する。私は、果たして狂人なのだろうか?彼が見たという歯車が見える私は。

  • 『河童』が読みたくて学校で借りてきました。
    なんというか、…すごい短編集。
    河童のお産について書いてあるシーンが一番頭おかしいと思いました(誉め言葉)。

  • 河童が途中で読み終わっていたのでとても気になっていたのですが、なるほど、オチはああいう…救われないなぁ。
    さすが芥川龍之介です。何かを読者に悟らせようとする力は凄まじいものがあります。この人こそ教師になるべきだったのでは、とすら思えます。
    芥川大先生の指導の下、今日も本を読みます笑。

  • 1.芥川後期の作品は、読者の好みが分かれる。この本で注目すべきは『河童』。主人公が異界(河童の国)に迷いこみ、そこを舞台に社会風刺をする内容は『ガリバー旅行記』と少し似ている。

    2.遺作の一つ『歯車』は、川端康成・佐藤春夫が「傑作」と賞賛し、久米正雄・宇野浩二が「書きすぎて雑音が多い」と叩いた問題作。個人的には自殺へと向かう心理を冷静に描いた秀作だと思う。

    3.『或阿呆の一生』は友人の作家・劇作家の久米正雄に託した「芥川の自伝」だが、芥川には「私生活を暴露する勇気」がなかったため、「フラグメント(断章)形式」で曖昧なことしか書いていない。

    『或阿呆の一生』の登場人物は以下の通り。

    「一生独身だつた彼の伯母」→伯母のフキ。芥川の母親のフクは、彼を産んだ七ヶ月後に発狂してしまう。そのため、芥川は母の実家に預けられ、伯母に育てられた。

    「彼の先輩」→文豪・谷崎潤一郎。

    「ゴオグ・耳を切つた和蘭人」→印象派の画家フィンセント・ファン・ゴッホ。

    「先生」→芥川の師匠・夏目漱石。夏目漱石が『鼻』を絶賛したことが、芥川の作家デビューのきっかけになる。

    「彼の妻」→妻の芥川文。友人・山本喜誉司の姪。

    「『月』『彼女』『スパルタ式訓練』『雨』の彼女」→鎌倉小町園という料亭の女将・野々口豊子。芥川文の友人・相談相手。後に芥川の愛人になり、二人は駆け落ちを計画したが実行しなかった。

    「狂人の娘」→芥川の愛人・秀しげ子。彼女は人妻で、当時は「不倫=犯罪」であり、秀しげ子との関係に悩んだことも「芥川が自殺した理由」の一つという説がある。『歯車』でも「復讐の神」として登場。

    「或画家」→芥川の親友・小穴隆一。

    「彼の妻が最初に出産した男の子」→芥川の長男で俳優になった芥川比呂志。

    「彼の姉の夫」→西川豊。「保険金目当てに自宅に放火した」と警察に疑われ、鉄道自殺した。心身共に衰弱していた芥川が姉の家族の面倒を見ることになったことも「自殺した理由」の一つとされる。

    「彼の異母弟」→新原得二。芥川の実父・新原敏三と後妻フユとの間に生まれた息子。養子に出された芥川とは不仲だった。

    「背の低い露西亜人」→ロシア革命の指導者ウラジーミル・イリイチ・レーニン。

    「越し人・彼と才力の上にも格闘出来る女」→アイルランド文学研究家・歌人の片山広子。芥川が恋した女性だが、プラトニックな関係で終わった。芥川の後輩・堀辰雄の小説『聖家族』に登場する「九鬼」のモデルは「芥川龍之介」で、「細木夫人」のモデルは「片山広子」。

    「『火あそび』『死』の彼女」→芥川の妻・文の幼友達である平松麻素子。芥川は彼女と愛人関係にはならなかったが二人で心中を計画。だが芥川は心中せずに一人で自殺した。

    「彼の友だちの一人は発狂した」→作家・宇野浩二のこと。皮肉な話だが、芥川の自殺後、宇野浩二は快復して「芥川賞の審査員」までやっている。

    • karatteさん
      こちらこそフォローしていただきありがとうございます! お体を大事にして今後も読書を楽しみましょう。
      こちらこそフォローしていただきありがとうございます! お体を大事にして今後も読書を楽しみましょう。
      2013/04/19
  • 池袋のブックオフ、¥105

  • 高校か中学の時に読んで以来の再読。
    その時は暗い本だなくらいにしか思わなかったのですが、
    いま読むと凄いですね。
    他の芥川作品も読み返したくなりました。

    とりわけ、最後に収録されている『歯車』は圧巻です。
    執拗に連想される暗いイメージを、
    繰り返される逆説と実在の小説への絶望的な解釈とが絡め取り、
    痛々しいほどに苛立ちと不安が表現されてます。
    そういう意味じゃ、いちばん先にこの作品から読んでもいいかもしれません。

    独特の文体が、また、不安定な状態を表すのに一役買っているのですが、
    それが分かるのも多少は本を読んでからでしょうし、
    中学生や高校生よりはもっと大人に薦めたい一冊です。

  • 独特な河童の世界に引き込まれる。

  • 「大導寺信輔の半生」
    必要以上に露悪的である
    自虐がかっこいいと思っていそうな内容だが
    それは半分間違ってると思う
    半分正しいと思う

    「玄鶴山房」
    いずれにせよ、人間最後は一人で死んでいくしかない
    死こそ唯一平等に与えられた個人の特権である
    しかしそれは生を謳歌する者にとっての恐怖でもある

    「蜃気楼」
    蜃気楼の見えることで有名な海岸を、昼と夜の二度にわたり
    妻や友人を連れて龍之介が散歩するという
    ただそれだけの小説であるが
    一日の変化が、丸ごと一枚の絵に凝縮された
    四次元的風景画とでも呼ぶべき、奇妙な迫力と美しさがある

    「河童」
    芥川の思う理想世界を、河童に託して描いた物語
    しかしそこに住まう河童どもは、ことごとく鈍感で無神経で
    他者に対する冷淡さを隠そうともしない
    自意識ばかり高い、物質主義者のご都合主義者で
    自虐すらナルシシズムを満足させるための道具とする
    それが、理想主義の正体であると
    芥川は見抜き、自己批判して見せたわけだ

    「或阿呆の一生」
    太宰にせよ三島にせよ川端にせよ
    小説家の自殺原因は、いずれもその根底に
    「才能の枯渇」への恐怖があると思う
    芥川は、一人の人間であると同時に
    一個の小説製造マシンでもあった
    彼の中では、常に人間とマシンがせめぎ合っていたようである
    人間性にこだわって小説を書き続けるならば
    彼はいずれ発狂を免れないだろうし
    マシンとして生きながらえる道を選ぶことは
    おそらく彼の自意識が許さなかっただろう
    そこで第三の道、と相成るわけだが
    しかし僕がこの「或阿呆の一生」を読んで感じたことは
    書けなくなる絶望からの逃避というよりも
    死を踏破し、戻ってこようとする妄想的な希望であった

    「歯車」
    何者かの意志が運命の歯車を回し、おれの命を狙っている
    そんなような妄想に恐れおののく芥川
    しかし心のどこかではそれを待ち望んでいたはずなのだ
    小説のネタになるから

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著者プロフィール

1892年(明治25)3月1日東京生れ。日本の小説家。東京帝大大学中から創作を始める。作品の多くは短編小説である。『芋粥』『藪の中』『地獄変』など古典から題材を取ったものが多い。また、『蜘蛛の糸』『杜子春』など児童向け作品も書いている。1927年(昭和2)7月24日没。

「2021年 『芥川龍之介大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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