河童・或阿呆の一生 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 1980
レビュー : 174
  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101025063

感想・レビュー・書評

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  • 死後に発表された作品も含む、芥川晩年の短編が詰まった一冊。前半はそこまででもないが「ある阿呆の一生」からの3話は不穏な空気が漂っている。太宰治の作品かと疑ってしまうほど。

    自分が一番好きな短編は「河童」と断言できる。それほど面白い。一見するとユートピアなのかディストピアなのか分からない異世界を描写することで、当時の日本の社外風刺が透けて見えるのが面白い。
    ブラックなネタが満載でありつつ、芥川の素朴な雰囲気も残っており、非常に読み応えがある話。

  • 1大導寺信輔の半生
    恵まれぬ貧しい境遇の信輔の話。
    幼少から大学くらい迄でプツンと切れて終わる話。
    読書について、本について書かれている箇所は、
    今の自分には共鳴できて、読んで良かったと思う話だった。

    2玄鶴山房
    病に伏す舅の玄鶴とその妻。
    娘のお鈴と婿夫婦。玄鶴の妾と息子。
    玄鶴の世話係の看護婦。
    死を扱った作品。特に感想はなし。

    3蜃気楼
    夜の海の情景が良かった。
    鎌倉の由比ガ浜を思い出す。
    マッチの光が映し出す普段見えない情景。
    これも幻想的な話。

    4河童
    登山途中で河童の国に迷い込む男の御伽噺。
    そこには河童のマツグ著「阿呆の言葉」という「侏儒の言葉」そっくりの本があったりする。
    河童たちにとっての常識云々もそうだが、「人間は河童より進化していない論」「雄の河童を追い回す雌の河童の話」等々、面白い逸話が沢山溢れている。
    最後は夢落ちに近い結末だが、予想通りの結末。
    そんな事よりも河童の国も描写はとても面白い。

    5或阿呆の一生
    あまり好きではない。
    こういうテイストの作品なら歯車の方が断然好き。

    6歯車
    芥川作品の中でも最高傑作だと思う。
    幻想的で素晴らしい作品。
    現実と夢を交互に行き来している様な感覚。
    不思議とファンタジー小説のように感じる。
    死の匂いがする大人のファンタジー。
    何度も読みたくなる傑作短編小説。

  • 表題をベースにした皮肉と狂気と苦悩の小舞台を見て原作も購入。
    読む力が衰えているように感じるのはまぁ良いとして
    河童も好きだったけど歯車の方が気になった。
    色々読み方はあるのだろうけど、精神が衰弱した主人公は「何か嫌な感じがするもの」に追い詰められていく。黄いろいもの。モオル。ブラックアンドホワイト。エエア・シップ。嫌なものってのは逃げても逃げてもどこかで必ずその影をちらつかせるんだ。そうやって光のない、濃く深くなる一方の闇の中を進みいき詰まっていく様を描いているような。いやしんどい、身につまされるような、なんとも「食らう」小説だった。

  • 最晩年の短篇集。
    芥川龍之介の心のうちが垣間見えてる作品ばかりで小説としては面白いけど、読んでいて辛くなった。
    歯車の最後の言葉はかなり印象深い。

  • 2016.10.12
    河童のみ読了。すごく面白かった。一体どんなつもりで河童という架空の生物にあんな生活をさせたか知らないが、河童の論理は一見筋が通っているようで、やはり人間から見るとバカらしく見える、ということを通して、我々が自明視してる考えもくだらないものだということを言っているような気もした。何が正しい、何が間違っているなんて、何とでも言える、論理が通る話なんていくらでも作れる、論理だけ見るならどれだけ馬鹿げた話もそれっぽく語れるのだと。そうなるともうよくわからなくなってくる。河童がおかしいのか?人間がおかしいのか?主人公は精神病院に入っているという、しかし頭がおかしいのは主人公か、それとも周りの方か?我々はすごく危うい、何も根拠のない、ただ信じ込まされているだけの世界の中にいるのではないか?何て考えたり。他の作品は読み切れず。あんま芥川好きじゃないのかもしれない。

  • 1.芥川後期の作品は、読者の好みが分かれる。この本で注目すべきは『河童』。主人公が異界(河童の国)に迷いこみ、そこを舞台に社会風刺をする内容は『ガリバー旅行記』と少し似ている。

    2.遺作の一つ『歯車』は、川端康成・佐藤春夫が「傑作」と賞賛し、久米正雄・宇野浩二が「書きすぎて雑音が多い」と叩いた問題作。個人的には自殺へと向かう心理を冷静に描いた秀作だと思う。

    3.『或阿呆の一生』は友人の作家・劇作家の久米正雄に託した「芥川の自伝」だが、芥川には「私生活を暴露する勇気」がなかったため、「フラグメント(断章)形式」で曖昧なことしか書いていない。

    『或阿呆の一生』の登場人物は以下の通り。

    「一生独身だつた彼の伯母」→伯母のフキ。芥川の母親のフクは、彼を産んだ七ヶ月後に発狂してしまう。そのため、芥川は母の実家に預けられ、伯母に育てられた。

    「彼の先輩」→文豪・谷崎潤一郎。

    「ゴオグ・耳を切つた和蘭人」→印象派の画家フィンセント・ファン・ゴッホ。

    「先生」→芥川の師匠・夏目漱石。夏目漱石が『鼻』を絶賛したことが、芥川の作家デビューのきっかけになる。

    「彼の妻」→妻の芥川文。友人・山本喜誉司の姪。

    「『月』『彼女』『スパルタ式訓練』『雨』の彼女」→鎌倉小町園という料亭の女将・野々口豊子。芥川文の友人・相談相手。後に芥川の愛人になり、二人は駆け落ちを計画したが実行しなかった。

    「狂人の娘」→芥川の愛人・秀しげ子。彼女は人妻で、当時は「不倫=犯罪」であり、秀しげ子との関係に悩んだことも「芥川が自殺した理由」の一つという説がある。『歯車』でも「復讐の神」として登場。

    「或画家」→芥川の親友・小穴隆一。

    「彼の妻が最初に出産した男の子」→芥川の長男で俳優になった芥川比呂志。

    「彼の姉の夫」→西川豊。「保険金目当てに自宅に放火した」と警察に疑われ、鉄道自殺した。心身共に衰弱していた芥川が姉の家族の面倒を見ることになったことも「自殺した理由」の一つとされる。

    「彼の異母弟」→新原得二。芥川の実父・新原敏三と後妻フユとの間に生まれた息子。養子に出された芥川とは不仲だった。

    「背の低い露西亜人」→ロシア革命の指導者ウラジーミル・イリイチ・レーニン。

    「越し人・彼と才力の上にも格闘出来る女」→アイルランド文学研究家・歌人の片山広子。芥川が恋した女性だが、プラトニックな関係で終わった。芥川の後輩・堀辰雄の小説『聖家族』に登場する「九鬼」のモデルは「芥川龍之介」で、「細木夫人」のモデルは「片山広子」。

    「『火あそび』『死』の彼女」→芥川の妻・文の幼友達である平松麻素子。芥川は彼女と愛人関係にはならなかったが二人で心中を計画。だが芥川は心中せずに一人で自殺した。

    「彼の友だちの一人は発狂した」→作家・宇野浩二のこと。皮肉な話だが、芥川の自殺後、宇野浩二は快復して「芥川賞の審査員」までやっている。

    • karatteさん
      こちらこそフォローしていただきありがとうございます! お体を大事にして今後も読書を楽しみましょう。
      こちらこそフォローしていただきありがとうございます! お体を大事にして今後も読書を楽しみましょう。
      2013/04/19
  • 高校か中学の時に読んで以来の再読。
    その時は暗い本だなくらいにしか思わなかったのですが、
    いま読むと凄いですね。
    他の芥川作品も読み返したくなりました。

    とりわけ、最後に収録されている『歯車』は圧巻です。
    執拗に連想される暗いイメージを、
    繰り返される逆説と実在の小説への絶望的な解釈とが絡め取り、
    痛々しいほどに苛立ちと不安が表現されてます。
    そういう意味じゃ、いちばん先にこの作品から読んでもいいかもしれません。

    独特の文体が、また、不安定な状態を表すのに一役買っているのですが、
    それが分かるのも多少は本を読んでからでしょうし、
    中学生や高校生よりはもっと大人に薦めたい一冊です。

  • 乾いた世界の中に拡がる韻律の風景がある。生きる事への諦め、死へと一歩一歩と近づいて行く感覚がある。その感情には、恐れがある。それは何処までも拡がり続けていく、世界の茫漠さだろうか。無への恐れ、虚無を感じるが故の、死への固執。しかし、その絶望の中の死にも、どろどろとした賛美の詩が聴こえる。死への絶望の中にも、凄然とするような美しい退廃の美を感じる。韻律は、死を奏で、退廃の死は美を紡ぎ出す。彼が、死を悟ったのは、乾いた寂しさではないような気がする。

  • 大好きな芥川さんの本ですが、所謂古典ものしか読んでなかったので晩年の作品に挑戦。

    すごく面白くて好みなのは「河童」かな。晩年ということで、知識人ならではの苦悩が満ちている作品が多かった。にしても近現代作家さん方の「狂」に悩む姿は美しい。

  • 芥川最晩年の作品集。「蜃気楼」無雑作に並べられた写真のような心象風景の連なり。「或阿呆の一生」"人生は一行のボオドレエルにも若かない"の一文が、ふと皮膚に馴染む瞬間も、確かに在る。「歯車」芥川を自殺に追い遣った強迫的な"ぼんやりした不安"が何であるか、今日の僕には解しかねた。"そのうちに又あらゆるものの嘘であることを感じ出した。政治、実業、芸術、科学、――いずれも皆こう云う僕にはこの恐ろしい人生を隠した雑色のエナメルに外ならなかった。"

著者プロフィール

小説家(1892-1927)。東京帝国大学文科大学英文学科卒業。創作に励むかたわら、大阪毎日新聞社入社。「鼻」「蜘蛛の糸」など数多くの短編小説の傑作を残した。1927年、服毒自殺。

「2019年 『羅生門・鼻・蜘蛛の糸 芥川龍之介短編集 Rashomon, The Nose, The Spider Thread and Other Stories』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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