河童・或阿呆の一生 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101025063

感想・レビュー・書評

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  •  芥川龍之介、最晩年の作品集。
     「大導寺信輔の半生」という、冒頭の小説の書出しが好きだ。自叙伝的なものだと思うのだが、「大導寺信輔の生まれたのは本所の回向院の近所だった。彼の記憶に残っているものに美しい町は一つもなかった。…」で始まり、生まれた辺りには、穴蔵大工や古道具屋や泥濘や大溝ばかりで美しいものが何もなかったにもかかわらず、信輔は物心ついた時からその町を愛していたこと、毎朝、父親と家の近所へ散歩に行ったことが幸福だったことが書かれている。
     美しくないと断言しているのに、幼い時から愛着を持った町は、回想することが美しい。映画の回想シーンのように、淡い光に包まれている感じがする。
     標題作の一つ、「河童」は登山中に河童を発見し、追いかけた所、河童の国に迷い混んだ男の話。目が覚めると河童の医者が彼を診察しており、以外にも彼は河童の国で好待遇で歓迎される。河童の国にも医者も社長も技術者や詩人も音楽家も哲学者もいる。人間の暮らしと殆ど変わらないのだが、河童の国では、雌が気にいった雄を見るとなりふり構わず、追いかけて飛びつくことなど、人間と異なる部分もある。
    人間より技術が進んでいるので、次々新しい機械が発明され、工場の生産が上がると要らなくなった労働者は解雇されるどころか、殺され、食肉にされてしまうなど、残酷だが河童からすると「合理的」らしい面もある。解説にスウィフトの「ガリバー旅行記」のようなジャンルに属する作品らしいが、なるほど、異世界から人間界を風刺、批判しているような作品である。芥川龍之介という人はこういう作品も書いていたのだ。面白かった。
     「或阿呆の一生」は多分死を決意し、作品を友人の久米正雄氏に託している。自叙伝みたいなものらしいが、詩的で私には分かりにくかった。
     短い生涯だったが、年代によって作品の色が随分変わったいるのだろう。今度は若い時の作品を読もう。
     

  • 「大導寺信輔の半生」(だいどうじしんすけ)
    大正十四 年一月
    芥川の自書自伝ということ
    とても、とても興味深いです
    本所、牛乳、貧困、学校、本、友だち、、

    「玄鶴山房」(げんかくさんぼう)
    昭和二年 一、二月
    読み進めるうちにぞわぞわぞくぞく、、山房内の物理的には狭い空間での出来事。しかし内部の人間の仄暗い思いがどこまでも這うように広がっていくかんじがする。
    解説によると、これは“念には念を入れた、まったく用意周到な、細工のこまかい、小説である”と。

    「蜃気楼」
    昭和二年 三月
    文庫解説より“芥川がもっとも自信をもった作品であり、(中略)全篇無気味な美しさから成立っている。”

    「河童」
    昭和二年 三月
    kappa memo
    医者 チャック
    漁師 バッグ 最初に見かけた
    硝子会社の社長 ゲエル 資本家
    学生 ラップ
    詩人 トック 超人倶楽部
    哲学者 マッグ 超人倶楽部
    作曲家 クラバック 超人倶楽部
    裁判官 ペップ
    政治家 ロッペ クオラックス党
    新聞社社長 クイクイ プウ・フウ新聞
    音楽家 ロック
    元郵便配達員 グルック 万年筆を盗んだ
    長老

    これは何度読んでも傑作。大好き

    「或阿呆の一生」
    昭和二年 十月(死後発表)
    ほぼ遺書なんだろうけどもう死の淵にもう両足を突っ込んでいるであろう闇

    「歯車」
    昭和二年 十月(死後発表)
    未読、、、また別の機会に読む

  • この世とあの世の狭間をうつらうつらと漂っているような感じでした。
    自分を生んだあと発狂してしまった母親、そのことが芥川に深く暗い影響を与えているように思いました。
    「唯ぼんやりとした不安」のなか、薬物自殺をした芥川です。
    最期に彼の目には何がうつっていたのでしょうか。数え切れないほどの半透明の歯車でしょうか。
    最期に聴こえた音は何でしょうか。「le diable est mort」かもしれないと想像してしまいました。

  •  芥川龍之介最晩年の作品集。「河童」を除けば全体的に陰鬱で鬼気迫る短篇が多く、気分が沈んでいる時に読んだら危険かもしれないと思うほどに、負の引力が物凄かった。

     一番印象に残っているのは、「歯車」。世の中の様々なものに対し語り手は不吉な予感を抱いてしまい、どんどん追い詰められてゆく。自分の中の無意識が自己を破滅させようとする極限の精神状態が描かれている(気がする)。
    「或阿呆の一生」と共に、何かに絡め取られている感は、絶望している時に強く感じるもの。かなり危険な物語だけど、好みでもある。

  • 怖くて怖くて悪寒を感じながら読んだ
    私が今まで知っていた作者とは違う
    それでも惹きつけられる世界観に
    次々とページをめくってしまう
    心が軋む音が聴えそうな1冊

  • 「河童・或る阿呆の一生」芥川龍之介著、新潮文庫、1968.12.15
    215p ¥240 C0193 (2020.03.26読了)(1998.08.25購入)(1989.06.15/44刷)

    【目次】
    大導寺信輔の半生(1925年1月)
    玄鶴山房(1927年1,2月)
    蜃気楼(1927年3月)
    河童(1927年3月)
    或阿呆の一生(1927年10月)
    歯車(1927年10月)
    注解  三好行雄
    解説 吉田精一

    ☆関連図書(既読)
    「羅生門・鼻」芥川龍之介著、新潮文庫、1968.07.20
    「地獄変・偸盗」芥川龍之介著、新潮文庫、1968.11.15
    「蜘蛛の糸・杜子春」芥川龍之介著、新潮文庫、1968.11.15
    「奉教人の死」芥川龍之介著、新潮文庫、1968.11.15
    「戯作三昧・一塊の土」芥川龍之介著、新潮文庫、1968.11.15
    「侏儒の言葉・西方の人」芥川龍之介著、新潮文庫、1968.11.15
    「上海游記・江南游記」芥川龍之介著、講談社文芸文庫、2001.10.10
    内容紹介(amazon)
    自ら死を選んだ文豪が最晩年、苦悩の中で紡いだ奇跡の傑作6編。
    芥川最晩年の諸作は死を覚悟し、予感しつつ書かれた病的な精神の風景画であり、芸術的完成への欲求と人を戦慄させる鬼気が漲っている。
    出産、恋愛、芸術、宗教など、自らの最も痛切な問題を珍しく饒舌に語る「河童」、自己の生涯の事件と心情を印象的に綴る「或阿呆の一生」、人生の暗澹さを描いて憂鬱な気魄に満ちた「玄鶴山房」、激しい強迫観念と神経の戦慄に満ちた「歯車」など6編。
    「或阿呆の一生」と「歯車」は死後の発表となった。

  • 死後に発表された作品も含む、芥川晩年の短編が詰まった一冊。前半はそこまででもないが「ある阿呆の一生」からの3話は不穏な空気が漂っている。太宰治の作品かと疑ってしまうほど。

    自分が一番好きな短編は「河童」と断言できる。それほど面白い。一見するとユートピアなのかディストピアなのか分からない異世界を描写することで、当時の日本の社外風刺が透けて見えるのが面白い。
    ブラックなネタが満載でありつつ、芥川の素朴な雰囲気も残っており、非常に読み応えがある話。

  • 「玄鶴山房」はよかった。

    僕が数えただけで22ページで10人の登場人物が出てくる。これだけ登場人物の人間関係をこの少ないページで無駄なくそしてわかりやすくかけるって技量のせいかとも思うが、そこにうまさを感じない不思議さが残る。
    丸太の中に仏像の姿が見えるかのように、題材を前にどんどん彫ってイメージに近づけてるような印象もある。

    「蜃気楼」
    幻覚に戸惑う自分を、確かめるように題材としてしてみることで戸惑いを断ち切ろうとするのか、対峙しようとしているのか、結局この作品の中で幻覚や幻聴は(まだ)ない。
    小さい出来事は微かな彩りを持つが絵画的とは言えない感じもする。より詩的であるが故に最後の現実味のある会話に僕はほっとした。

    • 本郷 無花果さん
      おはようございます。
      芥川後期の作品ですよね。
      私はまだ心構えが出来ていませんので、積んでいる状態ですが、創作の対象が大衆から自身の内へ内へ...
      おはようございます。
      芥川後期の作品ですよね。
      私はまだ心構えが出来ていませんので、積んでいる状態ですが、創作の対象が大衆から自身の内へ内へ変わって行くその様(さま)には非常に興味があります。
      なるべく時を置かず読みたいものです。
      2023/09/23
    • がんちゃんさん
      コメントありがとうございます。
      芥川の作品をしっかり読んだのは初めてでした。
      まだ読みきれてないと思うので改めてチャレンジしてみたいと思いま...
      コメントありがとうございます。
      芥川の作品をしっかり読んだのは初めてでした。
      まだ読みきれてないと思うので改めてチャレンジしてみたいと思います。
      2023/09/23
  • 悲しくて痛々しい
    引きずり込まれそうになる

  • 芥川龍之介著『河童・或阿呆の一生(新潮文庫)』(新潮社)
    1968.12発行

    2018.5.16読了
    芥川龍之介の晩年の作品を収録した文庫本。芥川の作品では「蜜柑」が一番好きだが、この文庫本に収録されているのは、いずれも憂鬱で病的な気配を感じさせるものばかり。死を予兆していたかのように、自叙伝的な小説が目立つ。先人たちが残した本を読み漁ったり、宗教に救済を求めたり、晩年、芥川が精神的疲労に陥っていたことがよく分かる。残念ながら、それらは物質主義者の芥川の精神を救う手立てにはならなかった。鬼気迫る、そんな表現が一番しっくりくる。イカロスのように翼が燃え尽きてしまった人。才悩人、芥川龍之介。

    URL:https://id.ndl.go.jp/bib/000008586831

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著者プロフィール

1892年(明治25)3月1日東京生れ。日本の小説家。東京帝大大学中から創作を始める。作品の多くは短編小説である。『芋粥』『藪の中』『地獄変』など古典から題材を取ったものが多い。また、『蜘蛛の糸』『杜子春』など児童向け作品も書いている。1927年(昭和2)7月24日没。

「2021年 『芥川龍之介大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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