吃音 伝えられないもどかしさ (新潮文庫)

  • 新潮社 (2021年4月26日発売)
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  • 本 ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101027616

作品紹介・あらすじ

店で注文ができない。電話に出るのが怖い。喋ろうとしてどもってしまい、変な人だと思われたくない……話したい言葉がはっきりあるのに、その通りに声が出てこない「吃音」。目に見えず理解されにくいことが当事者を孤独にし、時に自殺に追い込むほど苦しめる。自らも悩んだ著者が、当事者をはじめ家族や同僚、研究者、支援団体に取材を続け、問題に正面から向き合った魂のノンフィクション。

感想・レビュー・書評

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  • 吃音に悩んだ著書が多数の関係者に取材をしてくれたおかげで知ることのできる吃音の人たちの生きづらさ、世間の無理解。

    周りもおらず、発達障害や性的マイノリティは世間でのフォーカスが当たっているけど吃音については自ら情報を集めることでしか知識や理解ができないので今回手に取ってみた。予想を超えて当事者は辛く、精神的に追い詰められていた。知ることができてよかった。

  • 自身も吃音で悩んでいたことのある著者が、吃音に悩む人たちの現状、そしてこれからの展望などを関係者の心に寄り添いながらも忖度なく、真摯に取材を続けたノンフィクション。

    身近に吃音の人はいないけれど、仮にいたとして、子どもの頃に出会ったとしても、多分私はからかったりすることはない。
    けれど、彼らがどれほど苦しんでいるのかを理解もしなかったのではないかと思う。

    だって、言葉が出にくいだけでしょう?
    そんなの、もっと大変な障害を抱えた人がいるんだから、大したことないよ。
    なんて言うことはないけれど、心の中で思うことはあるだろう。
    その程度でしか知らなかったのだから。

    一見大したことなさそうだけれど、当事者の悩みは様々だ。
    人に知られたくないと思う人、理解してもらって少しの配慮が必要な人、個性として見てほしい人、障碍者として扱ってほしい人。

    当人たちの性格もそれぞれ、環境もそれぞれ。
    ひとくくりにできる正解なんてない。
    だからこそ、もっと彼らの話を聞いて、もっと理解を深めなくてはならないと思った。
    少なくとも、孤独のまま自死する人をこれ以上出してはいけないと強く思った

  • 浮き足立つことなく、絶望するでもない。
    著者も当事者でありながら、取材対象との距離も持つ。
    不思議なルポである。

    しかし、確かな情報、適切な取材がここにはある。

  • 蒔田彩珠目当てで見た映画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』からの本書。

    吃音は「他者が介在する障害である」という。(p.227)
    「通常一人でいるときには障害にならない。ほとんど常に他者とのコミニケーションに関連して生じる障害であると言える。どもるときに感じる苦しさは、言葉が詰まって言えないことそのもの以上に、相手に不快に思われたり驚かれたりすることに対する恥ずかしさや怖さによる部分が大きいように思う。」

    どもりや赤面の矯正が多くは根拠を持たないいわば詐欺的なビジネスであったこと。だがその多くは当事者によるものであり、自らを救済しようとする切実な営みであった側面もあること。

    吃音を克服すべき障害ではなく個性だと考える立場があり、それを理解しながらもやはり苦しいと言わずにはいられない立場もある。

    吃音の当事者が、そうではない子供と一緒にいるときには吃音が現れず、その存在が救いになっている例もあれば、吃音の子を持つ親が、心配のあまり先回りして子供にかえって負担をかけてしまうような事例もある。

    吃音者に対する時も、単にゆっくり待っていれば良いとは限らず、待たせていることが負担に感じられて辛いことがある。ならば発話を奪うようにして理解したようにふるまえばいいのかといえばそうともかぎらない。互いの信頼関係やその場の文脈などに深く依存する、まさしくコミュニケーションの不全なのであった。

  • まず知れてよかった

  • 息子が吃音。吃音者の苦しみを今まで分かった気になっていた事に気づいて涙が止まらなかった。この本には吃音者のありのままが書かれていて、特に希望や救いは書いていないけれど、社会が吃音というものを少しずつ少しずつ理解しつつあるのかなと感じた。

  • 吃音で思い出すのは、英国王のスピーチという映画。自分には知らない世界があった。吃音が、人の個性として認識され、より生きやすいように社会や人の寄り添い方が変わると良いなと思います。

  • 「重松清さんに解説を書いてもらうのが夢だった」、著者がそう話しているというのをどこかで聞いて、読んでみたいと思いました。

    何年も前、12月の大雪の日に重松清の『きよしこ』を読みました。つっかえながら話す子どもの様子が切なくて、涙がにじんだことを思い出します。

    吃音だけどステージでなら話せる芸人志望の青年を描く『実りゆく』、歌うことならできる少女を描く『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』、いろんな映画を観ました。でも、彼らの苦しみが死を考えるほどだとは思わなかった。

    本作には当事者への取材以外にも吃音の研究や教育についての歴史も書かれていて、今まで知らなかったことばかり。吃音って、ただのどもりでしょと思っていたことが恥ずかしい。もっともっと知りたい。

    映画『実りゆく』の感想はこちら→https://blog.goo.ne.jp/minoes3128/e/27115288d369b49b630ef10a5cebbcf9
    映画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』の感想はこちら→https://blog.goo.ne.jp/minoes3128/e/00a0efee939c63fcfaaa4068916776d0

  •  2021年5月の文庫新刊で店頭に並んでいて、何となく気になり購入しました。解説は重松清さんがされています。

    私は吃音について全く無知だったといえます。
    例えば吃音の種類:撥音(音をくりかえす)伸音(音をのばす)軟音(音が出ない、出にくい)という調べればすぐに出てくる事すらも知らないでいました。

    この作品はノンフィクションで、吃音を持つ人、その家族、治療にあたる人それぞれの目線で実体験とその時々の感情が繊細に綴られています。一つ一つのエピソードはとても重いです。

    吃音に馴染みがない私にとってはノンフィクションであることが半ば信じられず、読み終えるのに時間がかかってしまいました。そして、一人一人考え方は違うので、一概にこうだ!という結論は出ません。
    それでも読み終えてとても勉強になりました。
    言葉にすると空々しいですが、
    (思いやりと想像力、コミュニケーション)についてじっくり考えてみる機会にもなります。
    トゥレット症候群に悩む人にも参考になるかもしれません。


    メモ
    ・吃音を持つ人は、言葉を発することに緊張する、怖い、不安だという思いがつきまとう。
    一見普通に生活できているようだから、困っている事がうまく伝わらず尚更もどかしいと感じる。

    ・吃音がある事で、いっそ障害者として認定されたいという人もいれば、老年期に入っても治療をして、死ぬまでにどうにか思い通りに話したいという人もいる。

    ・言葉につっかえた時に、じっくり待って欲しい時もあれば、相手が先に言葉を発してくれて助かる時もあるということ。どちらの場合も体が力み、その後はとても疲れてしまう。

    ・訓練をじっくりやれば、話し方をコントロールする事でスラスラと話せるようになった方もいる。

    ・吃音が理由で残酷な嫌がらせを受けることは現在にもある。

    ・近年はSNSなどの発達もあり、リラックスできる空間、仲間を持つ事ができ、その事が励みになっている。

    ・吃音の原因はまだ解明されていないが、研究は進められており、染色体がキーワードになるかもしれない。

  • ジェンダーと同等にもっと光を当てるべきマイノリティ 幼少時代これに苦しむ子どもたちにどう寄り添うか、教師先生方にはしっかりと学んで欲しいし、ましてやそれを笑いにしか扱えないのは教師失格 多様性の目指す社会の一つは吃音者が生き辛さを感じない社会だと思う その苦しみと希望が描かれた本

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著者プロフィール

1976年東京生まれ。東京大学工学部卒業、同大学院修了後、旅をしながら文章を書いていこうと決意し、2003年に妻とともに日本をたつ。オーストラリアでのイルカ・ボランティアに始まり、東南アジア縦断(2004)、中国雲南省で中国語の勉強(2005)、上海で腰をすえたライター活動(2006-2007)、その後ユーラシア大陸を横断して、ヨーロッパ、アフリカへ。2008年秋に帰国し、現在京都在住。著書に『旅に出よう』(岩波ジュニア新書)がある。

「2010年 『遊牧夫婦』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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