藤十郎の恋・恩讐の彼方に (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101028019

作品紹介・あらすじ

元禄期の名優坂田藤十郎の偽りの恋を描いた『藤十郎の恋』、耶馬渓にまつわる伝説を素材に、仇討ちをその非人間性のゆえに否定した『恩讐の彼方に』、ほか『忠直卿行状記』『入れ札』『俊寛』など、初期の作品中、歴史物の佳作10編を収める。著者は創作によって封建性の打破に努めたが、博覧多読の収穫である題材の広さと異色あるテーマはその作風の大きな特色をなしている。

感想・レビュー・書評

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  • 菊池寛は初めて。
    歴史物といえば芥川龍之介がすごく好きなんですが、こちらの著作も、人物を描写する熱量のある文体が印象に残りました。
    忠直卿、市九郎、、藤十郎、俊寛…
    自分の感情やこだわりに苦悶した末、はっとした瞬間それまでの生き方を振り返り、全く違う心持ちで前に進んでいく主人公。人間の弱さと逞しさの両方が見事に描かれていました。

  • 菊池寛氏の歴史物10編を収める。吉川英治小説の解説によれば、これらの作品によって、菊池氏が封建思想の打破に努めていたことがハッキリするとある。そんな思想は抜きにして、読みやすいし、面白かった。『恩讐の彼方に』、何十年ぶりだろう。

  • 『藤十郎の恋』これはゾクゾクときました。こういう男、好きな人多いんじゃないでしょうか。時は元禄時代。名優として名高い男が、人妻との道ならぬ恋を、どう舞台で演じてよいのかわかりません。悩んだ末に彼がとった行動は、ひとりの女性に残酷な仕打ちをすることになりました。芸のためなら、鬼にでも人でなしにでもなるんですね。それでも魅力的に思えてならない男です。
    『ある恋の話』は、逆に女子なら分かる~ってなるんじゃないでしょうか。今の時代でも芸能人とかスポーツ選手とか、手の届かない人に憧れてる女の子の中で、同じような気持ちになってしまったって子いると思いますよ。
    『忠直卿行状記』も好きかも。自分が偽りの土台の上に立っていたことに気づいた忠直が、段々と周りを信じることができなくなり暴君度マックスになって乱行三昧。でもその背後には孤独感が付きまとっているのが見え隠れしてました。SOSを発信しているような感じです。それが憑き物が落ちたかのように穏やかに晩年を過ごした忠直。この二極化された人生に、とても興味を覚えました。
    これらの話や『恩讐の彼方に』にしろ、他の話にしろ、出てくる人物たちの感情が徐々に変化していく心模様の表現がとても好きです。そして菊池寛は封建制度の打破に努めたと解説に書かれてありましたが、なる程。時代に対して、これでいいのか、これは違うだろう。その考え方はおかしくないかい?と読者に問い掛けるような題目だったなと気づきました。

  • 【リアリティーショウ】
    世にある、人の惚れた腫れたをネタにするリアリティーショウというのが好きではない。どちらかというとお金を払って芸事を楽しむということには積極的なの方だと自覚しているけど、地上波でセミプロ同士がじゃれ合ってる様子を楽しむおおらかさは僕には無い。
    それほどまでにシナリオ通りか、そこを踏み外した本気なのかのせめぎ合いを楽しみたいのなら菊池寛の「藤十郎の恋」を読めばいい。
    青空文庫にもあって無料で手に入るし、20分くらいで読み終わる。
    これを読めば、芸事に人のリアルな気持ちを持ち込むことの危うさと、もしそれをやるとするならばどれだけの覚悟がいるかが分かる。決して愉快な気持ちになんかはならない。

  • 歴史物の短編集で、表面だけ見れば少しとっつきにくさを感じる作品なのに、読み始めると簡単に引き込まれてしまう。どの作品も魅力的なのだが、話の展開の面白さというより、登場人物の心情の描かれ方のリアルさがすばらしいと思った。どの人物にも多かれ少なかれ共感できる。
    『恩を返す話』『忠直卿行状記』『極楽』が特に好き。『恩讐の彼方に』はうっかり泣いてしまった。

  • 「ある恋の話」読了。
    ラジオで聞いて興味を持ったので読む。
    普段はハッピーエンドのフィクションを好んで読むが、こういった明治だとか大正時代の恋愛小説とも言えないような微妙な小説は、何も起こらないで終わるものが一番面白く感じる。

  • 短篇集です。「恩讐の彼方に」が、一番好みでした。最後の描写がなんとも感動的です。最後の「俊寛」も良かったです。どちらの作品も、どのような場所であれ、自分の役目と信じたことを貫き通すことで、認められたり、幸せが来るのかなって思いました。

  • 「大正から昭和の初めに当って、菊池氏の作品ほど、大衆の思想的、文化的啓蒙に貢献した作品は少ないと、いってもよい」(解説より)。なるほど、短編の中に教訓めいた展開が詰め込まれているように感じられたのは、意図的なようだ。歴史を題材としながらも創作の部分がかなり大きく、現代よりもよほど自由度が高い。

  •  短編揃いながら抜群のストーリーテラーのベスト盤。文豪という名声にビビッて手を出さないのはもったいない存在。
     殿様が故の心の疎外感をあぶり出した忠直卿行状記・ドリアングレイの肖像をモチーフにしたある恋の話・芸事を極めるために人情を切り捨てた藤十郎の恋、地獄の火焔は天国の退屈をも凌ぐものであることを諭させる極楽・見た目が人にとっていかに大事かを示す形・杉田玄白と前野良沢の諍いをとりあげた蘭学事始・小物の自尊心の滑稽ぶりをあぶり出した入り札・巷語られる史実よりも救いある俊寛、そして、何よりも極悪人の一生をかけての改心に感動を抑えきれない恩讐の彼方に。
    どれもこれも抜群に面白いです。注釈が多いですが知ってる用語は注釈を読まないほうがスラスラ楽しめるでしょう。

  • 文豪の名に相応しい一冊ではないかと思います。

    ほとんど現代の出来事ではなく、歴史上の出来事。
    想像はできても、自分達と違う世界の物語。
    違う世界故に入りにくいのではないか・・・という危惧がありましたが。

    情景等は確かに昔の世界観だけど、完全に登場人物の心は今も昔もそう変わりない。
    日本人が、持っているなんていうか道徳心とかそういったもの。
    倫理と情がぶつかりあうところ。

    そんなところがいきいきと書かれていて、本当に素敵な作品だとおもいます。
    「形」とかブラックユーモアの効いた作品もあり、楽しく読ませてもらいました。

    おすすめの一冊です。

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著者プロフィール

1888年生まれ、1948年没。小説家、劇作家、ジャーナリスト。実業家としても文藝春秋社を興し、芥川賞、直木賞、菊池寛賞の創設に携わる。戯曲『父帰る』が舞台化をきっかけに絶賛され、本作は菊池を代表する作品となった。その後、面白さと平易さを重視した新聞小説『真珠夫人』などが成功をおさめる一方、鋭いジャーナリスト感覚から「文藝春秋」を創刊。文芸家協会会長等を務め、文壇の大御所と呼ばれた。

「2023年 『芥川龍之介・菊池寛共訳 完全版 アリス物語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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