- 本 ・本 (176ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101030012
感想・レビュー・書評
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1917年 志賀直哉が長年続いた父親との不和が解消した経緯とその時の両者の安堵感を描いた中編小説。
父子の深い確執が何故生まれたかについては、この作品には書かれていません。解説によると「大津順吉」「或る男、その姉の死」等に書かれているようです。女中との結婚への反対、大学中退、毒銀事件への関わりなど、幾つかが重なり、この小説の始まりのごとく、顔も合わさない状態が続いていたようです。
肉親であり家族であった二人の感情は複雑で、憎しみさえも感じる。
順吉は、一人目の子供を生後間も無く病気で亡くし、その子供の死に対する父親の態度が一層確執を深める。
しかし、二人の子供が無事産まれて、その出産に立会い、その生命に感動する。
他の家族の望みもあり、本人自ら、父親と対話する。父親の方も、これからの生活の中で息子との和解を望んでいて、言葉足らずとも二人は、和解する。
和解した後は数ページなのだけれど、父子も満ち足りた様子に、家族も産まれた子供も穏やか生活が約束されているようで美しい描写でした。
直哉忌 -
父子の確執と和解をテーマとした短編?私小説。
男は父親と対峙・葛藤してこそ一人前なので(カッコいい!笑)、少し期待をこめて読んだのですが、葛藤と和解にいたる心境について、私小説ならではの肝心の内面の部分の深みが足りない気がして(むしろイジイジしているきらいすらある)、短編(中編?)ということもあり、少し物足りませんでした。また、代名詞の多用と、短フレーズの文体、場面描写の唐突感なども状況をわかりづらいものにした一因だったような気もします。
ですが、本書の構成は、諍い→長女の死→次女の誕生→和解と、見事な三角形になっており、盛り上げから着地にいたるまでの描写がきれいですね。特に、長女の死と次女の誕生の場面は生々しく、本物語の両柱として主人公の心情の変化をリアルに転換させているところは面白かったです。それに、祖母、義母、妻、妹たちといった周囲の女性陣も、父子の諍いに一喜一憂し、和解に向けてやきもきする立場がとても良い。 -
男が父に持つ感情は、母に対するそれよりも実に奇妙であり、複雑であり、深層的である。
息子にしてみると、父は,母を犯した相手であり、種の授与者である。
憎しみにしろ、畏敬にしろ、慈愛にしろどれも一筋縄ではゆかぬ、割り切れなさがあると私は思う。
エディプス何ちゃらを持ち出すまでもなく、不和を孕む危険は、そこら中に転がっている。
憎しみというある種の愛情があることで、わだかまりを抱え、それを乗り越えようとするめんどくさい、父親と息子の関係。
その美しい面だけを掬い取るようにして描いてあるので、読後感が爽やかだ。
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志賀直哉の作品は平易な文章で、あまり劇的な何かがあるわけではなく、最初はつまらなく感じました。
でも、本作は父子の心境が細かく書かれていて、大人になって読むと双方の気持ちもよくわかり、ラストはジーンときて泣いてしまいました。 -
大学生のころに初めて読んで、心をわしづかみにされた本。
テーマは、父と息子(主人公)の間にある溝の深い深い不仲。
そもそも小説にはなぜここまで不仲なのかがはっきりかいていなくて??なのですが、
志賀直哉本人が足尾銅山鉱毒事件で市民のために活動したことや、女中と結婚したい
といったことで、父親と衝突したことが、本作に根底にあるようです。
小説では、主人公に生まれた長女、その死をめぐって、不仲が加速しますが、次女の誕生をきっかけに、主人公の心持ちも変わり、、、
物語のクライマックスでは、父と息子がまさしく「和解」を遂げます。
この和解っぷりがとても気持ちよかった印象だったので、久しぶりに読みたくなり、手に取りました。
が、和解シーンに、昔ほどの感動がなく。
これはとても意外でした。感動したくて読み返したのに!
この10年の間に、私の中で主題が変わったのか(いや、それはない)、はたまた今まさしく私に子どもができることと、主人公の境遇が似ているから、変な感じになったのか。
10年前は意識しませんでしたが、むしろ、長女の死と次女の誕生シーンがとても印象的でした。死と生に、いのちの儚さと、瑞々しさが美しく描かれていて、感動しました。
また、10年後に読んでみよう。 -
淡々と男の生活が書かれていて特に面白いこともないけどなんか読めるな、からの父との和解の場面の突き刺さり方が凄かった。
平凡な日常が和解の場面を盛り上げていて、読み始めよりずっと読んでよかったと思える。
著者プロフィール
志賀直哉の作品






なんだか難しそうで、スルーして22日の中也忌に手をつけました。
谷崎の「陰翳礼讃」で「城の崎にて」に触れてい...
なんだか難しそうで、スルーして22日の中也忌に手をつけました。
谷崎の「陰翳礼讃」で「城の崎にて」に触れていたので、そちらはいつか読もう読もうと思いつつ遠ざかり…汗
おびのりさんのレビューに"感動"や"美しい描写"の文字があったので、改めて、志賀直哉はいつか読もうと思ったのでした←いつ!?
私は、詩が全くダメなんです。ほぼダメ。鑑賞下手。時々、挑戦するんですけど、玉砕。
そ...
私は、詩が全くダメなんです。ほぼダメ。鑑賞下手。時々、挑戦するんですけど、玉砕。
そして、志賀直哉なんですけど、文章はとても読みやすく、理解しやすいです。好みはもちろんあると思いますが。暗夜行路は、読んだことあるのですが、印象が薄くて、別の作品にしてみました。
来年は、是非どうぞ。
読みやすいとのこと、志賀直哉を読んでみようかなーと思い始めてます♪
とは言え知らなさすぎるので、『城の崎にて』にしようかなぁ。...
読みやすいとのこと、志賀直哉を読んでみようかなーと思い始めてます♪
とは言え知らなさすぎるので、『城の崎にて』にしようかなぁ。
できれば薄いのがいいなぁ 笑
中也のレビューを読んでださって有難う御座います。
私は翻訳本が苦手です。
最近何故か、昔はダメだったハヤカワのディストピア小説は読めたのですが。
詩も、まだまだ好き嫌いが激しいし、間違った解釈もしがちなのですが、楽しく読めるようになってきました。
もしかしたらブクログのお陰なのかもしれません。