- Amazon.co.jp ・本 (640ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101030074
感想・レビュー・書評
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博多の水炊きみたいな作品。ダシのきいたベースに食感の変化が鮮やかで、ボリュームがあるように思えた具材もすっきりと食べ終えることができた。
イライラは終始するんだけど本当に怒るべきところで怒ることができない人っているよね。明らかな相手の過ちに対して「過ぎたことは仕方がない&拘ることは全方向においていい結果にならない」とか努めて冷静にいうくせして、自分の思い通りにならない些細な事に終始イラっとして不機嫌になっちゃうあたり、愛らしさのない不器用さが主人公にはある。
なんだか睡眠についての描写がやたらと多い気がした。まずもって神経質でワガママっていう設定の時点で快眠に縁のない人種だとは思ったけど、幸せを求めようとする程度には人間的で、伯耆大山の山肌と一体になったかのように朝を迎えるシーンなんか彼の作中ベスト睡眠ではないか(病に倒れただけだが)
にしても時任氏は直子さんに出会えて本当に良かった。彼が「自分で自分のために」引っ張り出し続けた過去の因縁は、人生に苦悩する理由を正当化してくれるいわば呪われた武器のようなもので、その武器によるダメージを一手に引き受けながらもなお寄り添い続けた直子さんの真心が、時任氏の呪いを徐々に解いていってくれたんだろうな。そういう意味で「心から赦した」のは時任氏ではなく直子さんの方だと思うけども。
巻末の解説にもあるけれど、確かにこれは恋愛小説だったなと読み終わって振り返って見てそう感じる。愛を表現できない不器用な男と健気な女性の物語。面白かった。
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2021夏の読書。
序詞の文章のキレの良さがまずすごい。
前篇の終わり方の「豊年だ!豊年だ!」は割と衝撃的に淫靡。
後篇の最後で突然視点が切り替わるところで普通に声が出た。
結局のところ抗うことのできないことが次々と起こる人生を受け入れて生きるということを言っている、とまとめてしまうのは乱暴だろうか。
主人公、母親、祖父、お栄さん、直子、お由、竹さん、みんな置かれたところで必死に咲こうとしている花のよう。
大山の夜明けの描写は良い。山陰に旅に行きたくなる。 -
始:私が自分に祖父のある事を知ったのは、私の母が産後の病気で死に、その後二月程経って、不意に祖父が私の前に現れて来た、その時であった。
終:「助かるにしろ、助からぬにしろ、とにかく、自分はこの人を離れず、何所までもこの人に随いて行くのだ」というような事を切に思いつづけた。 -
ずいぶん長いので細切れに読んだ。そのせいで前半あたりはかなり忘れてしまったが、忘れてしまうほど、ストーリーのインパクトは大してない。
が、客観的に見れば一見問題なく営まれている日常生活の中で、自分にだけなぜか立ち込めてしまうなんとなく晴れ晴れしない曇った心、そういった気持ちの描写が非常にリアルでとても共感できたし、それを表現できるところにこの人の凄さを感じた。
随筆的な魅力を持つ小説。
関係ないが、この作品に「暗夜行路」というタイトルをつけるところに的確な言葉選びのセンスを感じる。 -
主人公の苦悩に溢れた人生を描く。
癇癪など、自信に起因することも多いが、共感もできる。
なにが?と言われると困るが、読みづらかったが、読み応えがあり満足感がある。
本は636までページを振ってある。
そのつもりで読んでいたら、564ページで突如終わってしまった。あとは、あとがきと注釈、解説である。
注意していれば分かったことではあるけど、急に捨てられたような、そんな気持ちになってしまった。 -
主人公が内なる葛藤と戦い、ときに道を外れながらも自我を強く立て直そうとする物語。
物語と心境がとにかく淡々と描かれている。虚構が一切なく、読みやすいが文学としての自由さが少なくかんじる。ある意味とても理論的で男性的な小説。
ポイント
・人生の課題は外部ではなく自身の内部にある。そのためその課題に打ち勝つには自分で自我を強く保たないといけない
・愛情は常に感情の変化である