暗夜行路 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.45
  • (75)
  • (127)
  • (262)
  • (32)
  • (9)
本棚登録 : 2361
感想 : 167
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (640ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101030074

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 再読。
    最初の謙作の女遊びのあたりは全然覚えていなかった。見る女見る女に淡い恋心を覚え、恋とは言えないまでも心にかかってくる感じ。芸者の登喜子に惹かれて何かと口実をつけて通いつつ一喜一憂する感じ。次第にそれで物足りなくなって、ただ芸者と遊ぶのではなく放蕩淫蕩に傾くこと。リアルな青年の姿に感じた。
    その生活から抜け出すべく一人赴いた尾道で、ずっと一緒に暮らしてきた祖父の妾お栄への結婚を申し込み、反対に出生の秘密を知らされる。父との確執はここがピークで、後篇では語られない。
    時代かもしれないけれど、謙作の結婚の申し込み(愛子、お栄、直子)はいずれも、本人が兄に相談し、その後は全部人任せだ。それが謙作の奥手なところなのか、そういう時代だからなのか、そもそも謙作は奥手なのか積極的なのかわからない。謙作は好き嫌いがわりにはっきりしていて、結構気分屋。不機嫌になったり不愉快になったりしているけれど、ノンアサーティブなわけでもなく、違和感があると結構突き詰める性格だと思う。前読んだ時は、現代版源氏物語のような、自分勝手な暴君としての謙作が印象に残ったが、そうではなくて、普通のやや気難しく気分屋な、普通の男、という感じがした。謙作の思索、論理的な思考と、感情的な部分とが同居したリアルな人間が感じられる。

  • 博多の水炊きみたいな作品。ダシのきいたベースに食感の変化が鮮やかで、ボリュームがあるように思えた具材もすっきりと食べ終えることができた。

    イライラは終始するんだけど本当に怒るべきところで怒ることができない人っているよね。明らかな相手の過ちに対して「過ぎたことは仕方がない&拘ることは全方向においていい結果にならない」とか努めて冷静にいうくせして、自分の思い通りにならない些細な事に終始イラっとして不機嫌になっちゃうあたり、愛らしさのない不器用さが主人公にはある。

    なんだか睡眠についての描写がやたらと多い気がした。まずもって神経質でワガママっていう設定の時点で快眠に縁のない人種だとは思ったけど、幸せを求めようとする程度には人間的で、伯耆大山の山肌と一体になったかのように朝を迎えるシーンなんか彼の作中ベスト睡眠ではないか(病に倒れただけだが)

    にしても時任氏は直子さんに出会えて本当に良かった。彼が「自分で自分のために」引っ張り出し続けた過去の因縁は、人生に苦悩する理由を正当化してくれるいわば呪われた武器のようなもので、その武器によるダメージを一手に引き受けながらもなお寄り添い続けた直子さんの真心が、時任氏の呪いを徐々に解いていってくれたんだろうな。そういう意味で「心から赦した」のは時任氏ではなく直子さんの方だと思うけども。

    巻末の解説にもあるけれど、確かにこれは恋愛小説だったなと読み終わって振り返って見てそう感じる。愛を表現できない不器用な男と健気な女性の物語。面白かった。

  • 2021夏の読書。
    序詞の文章のキレの良さがまずすごい。
    前篇の終わり方の「豊年だ!豊年だ!」は割と衝撃的に淫靡。
    後篇の最後で突然視点が切り替わるところで普通に声が出た。

    結局のところ抗うことのできないことが次々と起こる人生を受け入れて生きるということを言っている、とまとめてしまうのは乱暴だろうか。

    主人公、母親、祖父、お栄さん、直子、お由、竹さん、みんな置かれたところで必死に咲こうとしている花のよう。

    大山の夜明けの描写は良い。山陰に旅に行きたくなる。

  • 始:私が自分に祖父のある事を知ったのは、私の母が産後の病気で死に、その後二月程経って、不意に祖父が私の前に現れて来た、その時であった。

    終:「助かるにしろ、助からぬにしろ、とにかく、自分はこの人を離れず、何所までもこの人に随いて行くのだ」というような事を切に思いつづけた。

  • ずいぶん長いので細切れに読んだ。そのせいで前半あたりはかなり忘れてしまったが、忘れてしまうほど、ストーリーのインパクトは大してない。
    が、客観的に見れば一見問題なく営まれている日常生活の中で、自分にだけなぜか立ち込めてしまうなんとなく晴れ晴れしない曇った心、そういった気持ちの描写が非常にリアルでとても共感できたし、それを表現できるところにこの人の凄さを感じた。
    随筆的な魅力を持つ小説。
    関係ないが、この作品に「暗夜行路」というタイトルをつけるところに的確な言葉選びのセンスを感じる。

  • 主人公の苦悩に溢れた人生を描く。
    癇癪など、自信に起因することも多いが、共感もできる。

    なにが?と言われると困るが、読みづらかったが、読み応えがあり満足感がある。

    本は636までページを振ってある。
    そのつもりで読んでいたら、564ページで突如終わってしまった。あとは、あとがきと注釈、解説である。
    注意していれば分かったことではあるけど、急に捨てられたような、そんな気持ちになってしまった。

  • 今年、いちばん時間をかけて読んだ本だ。

  • 読むのに時間が掛かりましたが、読了後はいい気持ちになりました。
    生まれ持っての宿命だったり、なぜ自分だけ?と思うような不幸は確かにあるけれど、乗り越え、受け止められたことに安心しました。
    最後は光が差すようで、トンネルから抜けられたような感じ。
    もう少し歳をとってからまた読みたいと思います。

  • たまには純文学を、と思ってみたものの途中まで読んで何年も積読していた一冊。
    なんで暗夜行路を選んだかというと、野島伸司のドラマみたいな、設定が自分の好みのだったから。

    前半はただひたすらダラダラしていて読むのに根気が必要だった。

    主人公・謙作の周りの人に対する横柄な態度にイライラすることもあったけど、
    自分が母親と祖父の間に生まれてきた子供であること、2度も求婚を断られていること(しかも親しい間柄の人に)、子供の死、妻が他の男と過ちを犯したこと、など自分を見失うような事が沢山ありながら
    作中にも描かれているように、自分の意志によって幸せになろうとしてきたことは純粋に凄いと思った。
    並の人ならどれか一つのことでもダメになりそうだし、自分ならきっと立ち直れなかっただろう…。


    この後に夏目漱石のこころを読んだので、先生が弱く感じてしまった笑

    それにしても裏表紙の書き方だと直子が自らの意志で浮気したのかと思ったけど、実際は本人の意志じゃないし、彼女自身も辛かったんだろう、、

    風景描写が評価されているようだけど、自分には良さが分からなかった。まだまだ修行が必要だな。

  • 主人公が内なる葛藤と戦い、ときに道を外れながらも自我を強く立て直そうとする物語。
    物語と心境がとにかく淡々と描かれている。虚構が一切なく、読みやすいが文学としての自由さが少なくかんじる。ある意味とても理論的で男性的な小説。

    ポイント
    ・人生の課題は外部ではなく自身の内部にある。そのためその課題に打ち勝つには自分で自我を強く保たないといけない
    ・愛情は常に感情の変化である

著者プロフィール

志賀直哉

一八八三(明治一六)- 一九七一(昭和四六)年。学習院高等科卒業、東京帝国大学国文科中退。白樺派を代表する作家。「小説の神様」と称され多くの作家に影響を与えた。四九(昭和二四)年、文化勲章受章。主な作品に『暗夜行路』『城の崎にて』『和解』ほか。

「2021年 『日曜日/蜻蛉 生きものと子どもの小品集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

志賀直哉の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×