写楽 閉じた国の幻(下) (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101033136

作品紹介・あらすじ

謎の浮世絵師・写楽の正体を追う佐藤貞三は、ある仮説にたどり着く。それは「写楽探し」の常識を根底から覆すものだった…。田沼意次の開放政策と喜多川歌麿の激怒。オランダ人の墓石。東洲斎写楽という号の意味。すべての欠片が揃うとき、世界を、歴史を騙した「天才画家」の真実が白日の下に晒される-。推理と論理によって現実を超克した、空前絶後の小説。写楽、証明終了。

感想・レビュー・書評

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  • 読了して、まさに写楽、証明終了したんじゃないかと思った。
    そもそも写楽という名前自体、写す楽しみと書く、という話になった時のパズルのピースがはまった感は鳥肌モノ。
    説を実証するために証拠の文献を集めていく過程は、学術研究の楽しさも感じられた。

    そして、カリスマ出版人の江戸っ子・蔦屋と、お調子者で気のいいオランダ人・ラスさんの友情には、意外にも涙腺が緩んでしまった。

  • 2022年2月4日読了。

    『東洲斎写楽』
    寛永六年・1794年の5月から1795年の正月までの10ヶ月間のみ突如江戸に現れ、140数点もの作品を猛烈な勢いで作り上げ、そこから忽然と姿を消した謎多き1人の浮世絵師。

    有名でも無名でも、他の絵師たちには生い立ちやエピソード・風貌・人柄など多かれ少なかれ何かしらの情報があるのに対して、写楽に限っては一切の情報が皆無である。

    文献も残っていなければ、版下絵・肉筆画・練習の為の絵などの類も、写楽のものだけは何一つ発見されていない。

    更なる謎として、『喜多川歌麿』や『葛飾北斎』を世に送り出し、江戸一番の版元として名を馳せた『蔦屋重三郎』が、無名の写楽を大抜擢し、黒雲母摺りという高価な材料を使った待遇でデビューさせている事。

    写楽と顔を合わせていたであろう『蔦屋重三郎』や、蔦屋組と呼ばれた『喜多川歌麿』『葛飾北斎』『十返舎一九』『山東京伝』などの有名人達が何一つとして写楽について語っていない事。

    『写楽=別人説』や『写楽は存在しなかったのではないか』など様々な議論がなされるが正体は謎のまま。


    北斎の研究を専門としていた『佐藤貞三』は、とあるきっかけで一枚の浮世絵の肉筆画を手に入れる。
    浮世絵とは基本的に美男美女・スターを描くものだが、その絵にはどう見ても美しくはない醜女が描かれていた。
    しかし浮世絵史上、ただ一つの例外として醜女を描いて有名になった絵師が存在したのだ。
    それこそがまさに『東洲斎写楽』

    まさかこれは写楽の肉筆画なのか?
    そうであればこれは時代を揺るがす大発見なのではないか?
    そんな事を考えている折、とあるビルの回転ドアによる事故に巻き込まれ、大切な人を失ってしまう。
    絶望の中、事故の原因究明の場で知り合う事になった機械工学の女性教授『片桐教授』と共に写楽の正体を探り始める。


    初の島田荘司氏の作品。
    構想20年という大作。
    写楽という存在は知っていたし、『奴江戸兵衛』はとても有名な作品なので観た事もあったが、ここまで謎の多い人物だという事はまったく知らなかった。
    作中で写楽の正体を著者の自説で明確にしているが、本当にそうなのではないかと思わせるほどリアル。
    どこまでが史実に沿った話なのか分からないが、とても面白い説で、読み終わった後の感想としては実際そうであって欲しいとすら思ってしまった。

    現代編と江戸編の2つの時代のストーリーから成り立っていて、現代編ではメインストーリーと写楽に関しての説明・推測が大筋。
    江戸編では実際どのような事になっていたのかという答え合わせ的なストーリー展開だった。

    無理に現代編のストーリーは必要ないんじゃないかと言う意見も多々あるようだが、ストーリーがいらないのであれば写楽に関しての文献や参考書でも読めばいいわけで、小説が読みたくてこの本を手に取った自分としてはストーリーありきで良かったのではないかと思う。
    語りきれてないのは否めないが…。

    江戸編は天保九年だの文政元年だの、年号がよく分からず苦手なので、初めのうちは読み辛さを感じたし、現代編は説明を丁寧にする為か同じ事を何度も解説していて読み辛さを感じて上巻は読むのがキツかった。

    しかし、下巻からの江戸編の面白さは格別。
    現代で言うところの敏腕プロデューサー『蔦屋重三郎』の漢気溢れる感じがたまらなくカッコいい。
    現代編の主人公『佐藤貞三』が魅力が無さすぎて、本当の主人公は『蔦屋重三郎』である。
    大手書店企業の『TSUTAYA』の名前の由来ともなっているらしく、『蔦重』の偉大さを感じた。

    作中にオランダの話が頻繁に登場し、フェルメール・ゴッホ・レンブラントといった画家達の名前があがっていた。
    自分の人生の中で唯一行った海外旅行がオランダであり、フェルメール・レンブラントの作品は美術館で鑑賞してきたが、アムステルダム国立美術館に写楽の浮世絵が展示されている事を全く知らなかった。
    日本の誇りとして鑑賞して来なかった事を心から後悔。

    著者が後書きでも書いていたが、上下巻合わせて900ページ以上あるのにページの都合上、伏線の回収がしきれていなかったり、書きたかった事を書ききれなかった事が心残りだそうで、続編を匂わせる発言をされていた。
    しかし、この本が発売されて10年近くたっているがまだその兆候は見られないので期待は薄いのかもしれない。
    実現するのであれば、読んでみたい。

  • この本を読んでしまうと、写楽の正体はコレしかあり得ないと思えてしまうのだけど、真実はどうなのだろう。

    ただこの本の面白さは、写楽の正体を解き明かしていく点だけでなかった。

    その過程で描かれる当時の江戸庶民の生活事情(倹約が義務付けられていた)や、将軍に謁見する為、出島からオランダ人がはるばる上京する江戸参府(彼らも厳しい監視体制下にあり自由行動が許されなかった)など、勉強になることが多かった。

    あと、浮世絵が絵師(下絵)、彫師、刷師、三者の分業で行われていたことも。彫り、刷りの過程を熟練の職人が行うことで、下絵のオリジナリティが薄まり、絵師写楽の正体の謎を深めた様だ。

    "写楽現象"に関わった人たち(本書の仮説の様だが)がまたいい。
    浮世絵の版元で蔦屋重三郎という人物も男気があって魅力的だし、若かりし春朗(北斎)の素朴さもいい。
    前半で生涯が描かれる平賀源内の天才ぶりもまた、興味深かった。

    現代編だけでなく、江戸編で生活者の目線で当時を見せてくれるあたりも上手い!と思った。
    現代編では主人公の厳しい現実が迫ってくるので読む方もキツイが、江戸編で救われる。

    でも何といっても、一見無関係に思える回転ドアの悲劇的な事故と、写楽作品、そして混血の女性教授の共通点には、こう来たか!と唸らされた。緻密なプロットがあったのね。

    ただ、あとがきによれば、思い入れが強い分想定以上に頁数が増え、書くはずだった裏ストーリーが一行も書けなかったらしい。

    確かに前半は説明的に長々と同じ内容を繰り返し描かれており読み進めるのが少々辛い。後半はスピード感がありサクサクいけた。
    裏ストーリーがあるなら続編も読みたい。

    あとがきで、以前の浮世絵軽視の風潮や初期の推理(探偵)小説への蔑視を"常識の暴力"と呼ぶ作者。固定観念を嫌い、浮世絵の常識を打ち破った蔦屋に敬意を払う熱い気持ちが伝わってくる。

    "写楽現象"の写楽の正体とは。個人的には今までそんなことを考えてみたことも無かった。
    でも改めて浮世絵を見比べると確かに写楽の(特に初期)は他と大きく違う。面白いなぁ。

    この本を読み終わった今、江戸時代の魅力的な登場人物や、人々の暮らし、歌舞伎や浮世絵、もっと安価に楽しめたはずの落語、色々なものに派生して興味が湧いた。
    しばらく江戸がマイブームになりそう。。

  • 写楽の正体を追う部分は面白かったし江戸歌舞伎の風景が描写されていて興味深かった。が、小説としてはイマイチ…。
    と思っていたらあとがきで作者自身が、「写楽論だけで分量がいっぱいになっちゃって、登場人物のストーリーいろいろ用意してたのに盛り込めなかったよー無念」って言ってた。え、失敗作宣言?
    でもまあ作者も、写楽の正体に関する自説を論じたかった、それが目的だったみたいなので、まあそれだったらいいんじゃないですかね…。小説だと思って読むと金返せって気分になるが、『写楽の正体』みたいな胡散臭気な新書だったら読み切れなかったかもしれないし…。

  • ある程度以上気に入った本しか本棚に登録しない主義なので、登録自体結構迷いましたが、単純につまらなかった訳でもなく、それなりに気持ちに残っているので登録することに。

    核である「写楽の正体」の推理自体は(学問的にどうなのかはともかく)面白く、蔦屋重三郎をはじめとする江戸篇の登場人物も魅力的でした。
    もともと蔦重が好きなのもありますが、ここだけでも評価に値すると思います。

    ただ、小説としては、自分のことしか考えていない主人公に全く魅力がなく、主人公を助ける女性教授も都合のいいキャラクターでしかないので、現代編で感情移入できる人物が誰もいないのがつらかったし、あからさまに実在の事件を思わせる導入部(遺族や関係者は話題になったことで傷ついたかも)に必然性が感じられないことにも苛立ちました。

    連載がおわったあと、単行本化に当たって、あるいは文庫化に当たって、大幅に書き直す必要があったんじゃないかと思うんですが…。

    蔦重が(もともと)好きなので、彼に免じて★2つ半ってところでしょうか。

  • 歴史検証ものとしても楽しめますが、純粋に写楽とは誰だったのかというフーダニットでもある。久々に、流石島田荘司!と拳を握りました。
    読み出したら止まらない止まらない。一気読み。きっちりとデータを並べ、推理の過程を書き込んでくれるので、読み手のこちらもさまざま思考を重ねながら読むことが出来る。その分、上巻が冗長過ぎた気もするんですがー…著者の思考の過程を読んでいるのだなと思えばそれもまた楽しくもあり。
    回収できていないエピソードがあり、その点がもやもやしますが差し引いても、この面白さ。流石です。

  • 面白かった! 確かに、回収されない伏線や説明されない疑問など、物語としての瑕疵はあるものの、ミステリー界の大御所島田荘司が今こんなに熱のこもった作品を世に出したことに感動。
    もちろん「写楽」の謎に対する解答は鮮やか。島田荘司ならではの答えだと思うし、説得力も抜群。これが正解!と思える内容だった。個人的には、解答に至る前の課題設定のしかたにも、というかそこにこそ瞠目。どんな仕事もそこがキモなんだよなぁ…などと、つい我が身を反省してしまった。

  • 謎の絵師写楽の正体は?
    実在する歴史上の謎に対し、小説の体をとりながらも、作者の膨大な下調べと長年の考察による新説をぶち上げる。このような小説を読むのは初めてかもしれない…

    自分は写楽について知識がないので、これが写楽論争に一石を投じ得るものなのかは分からないが、
    読んでいる限り状況証拠もいくつかあるしとても面白いと感じた。もちろん小説家ならではの創造力がその合間を埋めているのはわかっているが。

    なによりこのようなチャレンジングな小説を読んだのが初めてなので単純に感動した。
    実在しない絵師をでっち上げて完全フィクションを作ったのならこんなに感動しなかったろう。

  • 面白かった。写楽、しきうつし楽しみ。江戸の粋を見た気分です。鎖国という閉鎖的な環境に咲いた一輪の江戸っ子の意地。頭が下がる。命をかけてでも何かを遺す。教えられた気がします。

  • 凄い話だった。スケールが大きく興奮した。歴史物でもあり、ミステリーでもあり、謎解きの要素もあり。満足。

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著者プロフィール

1948年広島県福山市生まれ。武蔵野美術大学卒。1981年『占星術殺人事件』で衝撃のデビューを果たして以来、『斜め屋敷の犯罪』『異邦の騎士』など50作以上に登場する探偵・御手洗潔シリーズや、『奇想、天を動かす』などの刑事・吉敷竹史シリーズで圧倒的な人気を博す。2008年、日本ミステリー文学大賞を受賞。また「島田荘司選 ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」や「本格ミステリー『ベテラン新人』発掘プロジェクト」、台湾にて中国語による「金車・島田荘司推理小説賞」の選考委員を務めるなど、国境を越えた新しい才能の発掘と育成に尽力。日本の本格ミステリーの海外への翻訳や紹介にも積極的に取り組んでいる。

「2023年 『ローズマリーのあまき香り』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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