駅前旅館 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 317
レビュー : 42
  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101034058

作品紹介・あらすじ

昭和30年代初頭、東京は上野駅前の団体旅館。子供のころから女中部屋で寝起きし、長じて番頭に納まった主人公が語る宿屋稼業の舞台裏。業界の符牒に始まり、お国による客の性質の違い、呼込みの手練手管…。美人おかみの飲み屋に集まる番頭仲間の奇妙な生態や、修学旅行の学生らが巻き起こす珍騒動を交えつつ、時代の波に飲み込まれていく老舗旅館の番頭たちの哀歓を描いた傑作ユーモア小説。

感想・レビュー・書評

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  • 堅気な商売のようだが実は江戸前の粋な世界に浸りながら、駅前旅館の番頭におさまる主人公の、活き活きとした立ちまわりを回想体の文章により表現した著者ならではの面白小説。
    まず、その語り口が「古き良き」昭和の旅館とその周辺を再現していて面白い。べらんめい調だったのが、語り調になったり、旅館の隠語がみだり飛んだりと変幻自在だ。
    ひとつの話も脱線して別の話になっていきそれがまた面白く、実はさっきの話の前振り話だったのかと戻ってくることもしばしば。なかなかついていくのも大変です。(笑)
    番頭仲間でつるんだりとぼけたりする話や、旅館の泊まり客の様子も面白いが、主人公の派手だが結局はしぼむ淡い恋愛模様もそこはかとなく彩りを加えます。数々の与太話!も微に入り細に入る説明でついつい笑みがこぼれてしまいます。(笑)
    話が唐突に終わったような感じだったが、もっと続いていても良かったな。

  • 表紙のイラストを見て、ほのぼの系なのかと思ったら、思い切り寅さんの時代でした。

    昭和30年頃の、上野駅前の番頭さんの語りを元に、旅館の仕事や観光業界の裏の世界を興味深く描いたもの。
    映画にもなったことがあるらしいです。

    慣れた番頭さんたちの、客引きや、お客の値踏み(ふところ具合や出身地)、困ったお客のあしらい方や、夜の遊び場所の紹介の仕方やら…
    面白かったのは修学旅行の引率の先生たちで…
    番頭さん同士のお付き合いも、ライバルであり、友人でもある関係が面白い人間模様。
    まあ、根無し草でやくざな稼業な感じもしますが、語り手の生野次平さんは、一本筋の通ったお方でもありました。
    生野さんは能登の出身ですが、仲間の番頭さんたちの語り口など、江戸っ子のべらんめえ口調が残り、時代を感じました。

  • 戦後間もない上野にある柊元(くきもと)旅館に勤める番頭生野次平の視点で描いた作品。
    当時の世相や、旅館業界の裏事情的なものも盛り込まれ、次平に群がる面々のキャラも豊かでおもしろおかしく読めた。
    近頃はビジネスホテルに取って代わり、呼び込みではなくネット予約と化している。もし、表紙のような旅館が存在しているのならば、改札を抜けた瞬間ほっとしてしまうだろうと思った。

  • 今は少し懐かしいものとなってしまった駅前旅館。私たちの世代からすると、古き良き時代の旅館、というイメージです。
    そんな上野駅ちかくの旅館の番頭がこの物語の語り部。

    この主人公の番頭、めちゃくちゃ女たらしの助平みたいな行動ばかりしていながら、じつはちょっと肝心なところでヘタレ。でもそのキャラがいい。何より、幼い頃からずっと宿屋と親しみがあるだけあって、宿屋の規律不文律がすべてしっかりと身に付いている。そういう、けじめがきちんとあるところが、お客や同業者になめられず敬意をもって接してもらえるゆえんなのだと思う。

    この番頭を中心とする「慰安旅行会」のメンツがなかなかの個性派揃いで面白い。このメンバーが集まるとたいていろくなことがない…というよくある話の典型は、昔からあったものなんですね。

  • 上野駅前にある旅館の番頭の語りで物語が進み、ひょうきんな感じでとても面白く読めました。こういう業界(?)のあるあるは好きです。
    当時の言葉と風景もとても良かったです。

  • いつまでも感想を空白にしておくのもしゃくなので、他の方の感想も見ながら少しだけ記録。
    読み終えたら、その本をぱらぱらとめくって内容を思い出しながら感想を書く性質なのですが、どういうわけか、引っ越しのあわただしさに巻き込まれ、本書が見つからないのです。
    引っ越し前に読んだのが悪かったか…
    語り口は、とても軽妙だったことを覚えています。
    井伏鱒二というと、『黒い雨』が有名ですし、みんな大好き太宰治が「師匠、描写力が半端ない」とはしゃぐくらい写実的な方だと思うのですが、だからと言って決して重くはなく、廃墟同然の姿しか見たことのない駅前旅館の風景に、知らないはずなのにノスタルジーを感じてしまうくらいでした。
    それにしても、本当に、どこに紛れてしまったのか…

  • 駅前旅館を通じ、戦後日本人の生活がいきいきとえがかれている。エンタメ度は低いが写実的。戦後のふつうの人たちの生活を盗み見ているような面白さがある。ホテルや旅行関係の仕事の人や、昭和のノスタルジーに浸りたいときにおすすめ。

  • 本書を手にとった理由は、『駅前旅館』というタイトルと、懐かしい感じがする表紙の絵に、心を惹き付けられたからです。

    話は、東京上野あたりの駅前旅館の番頭・生野次平が語る宿屋稼業の裏話や、同業旅館の番頭仲間の色恋話などです。

    次平と於菊の再会、とりわけ辰巳屋で膝をぶつけ合う2人の場面はドキドキしました。中学生っぽい次平に好感を抱きました。
    高沢がドジョウを割いている場面では、今年の正月に「駒形どぜう」で食べたドジョウの味が口の中に蘇ってきました。

    いい加減で雑な人たちの話だけど、昭和らしい、ほのぼのとした作品でした。

  • 2018年9月7日読了。昭和の時代、どこでも見られた「駅前旅館」の番頭をつとめる生野が語る、番頭の仕事や挟持、他旅館との交流や女性への想いなど。井伏鱒二といえば「黒い雨」など重厚な社会派、というイメージがあったがこのように軽妙で面白い小説の書き手であったとは知らなかった!旅館業者だけに通じる隠語の数々や乗客を見極めるテクニックなど、その道のプロならではのトリビアの数々も面白い。最初のとっつきにくささえクリアすれば、昭和の文学には非常に面白い作品がいくらもあるのだなー。

  • 分からないコトバが沢山出てきて、調べながら読んだ。粋と諦念の空気がこの小説世界に流れている。あたかも自分がその場にいるような気分で読んだ。

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著者プロフィール

本名・満寿二。一八九八年(明治三十一)、広島県に生まれる。早稲田大学、日本美術学校を中退。一九二九年(昭和四)「山椒魚」「屋根の上のサワン」で文壇に認められる。三八年(昭和十三)、「ジョン万次郎漂流記」により直木賞を受賞。「鯉」「さざなみ軍記」「多甚古村」「丹下氏邸」「本日休診」(読売文学賞)「遙拝隊長」「集金旅行」「漂民宇三郎」(芸術院賞)「武州鉢形城」「黒い雨」(野間文芸賞)などの小説の他、詩集や随筆・紀行も数多い。六六年(昭和四十一)、文化勲章受章。九三年(平成五)没。

「2018年 『太宰治』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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