武蔵野 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101035017

感想・レビュー・書評

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  • 武蔵野に住む知人に見せたいと思い購入。
    表題作「武蔵野」のうち、特に第二章は情景描写がすばらしく、秋から冬にかけての武蔵野の自然の移ろいの美しさ、そしてそれを表現しうる日本語の奥深さや作者の感受性の豊かさを味わうことができる。
    著者は自らの実体験から、武蔵野の良さは、楢を中心とした広い林と野原の変化に富む美しさにあり、また自然と生活が密接しているからこそ、一つ一つの小径に人懐こい趣深さを感じられるところにあると分析している。またそれを感じるには「傾聴」が重要と説いている。

    心の中にたいせつにとっておきたい表現が多いので、ここに記しておく。特に、作者自身が「この耳を傾けて聞くということがどんなに秋の末から冬へかけての、今の武蔵野の心に適っているだろう。」と記しているだけあり、「音」の表現がとても良い。

    「月を踏んで散歩す、」
    「今日は終日霧たちこめて野や林や永久の夢に入りたらんごとく。午後犬を伴うて散歩す。林に入り黙坐す。犬眠る。水流林より出でて林に入る、落葉を浮かべて流る。おりおり時雨しめやかに林を過ぎて落葉の上をわたりゆく音静かなり」
    「夜更けぬ。風死し林黙す。雪しきりに降る。燈をかかげて戸外をうかがう、降雪火影にきらめきて舞う。ああ武蔵野沈黙す。」
    「もしそれ時雨の音に至ってはこれほど幽寂のものはない。山家の時雨は我国でも和歌の題にまでなっているが、広い、広い、野末から野末へと林を越え、杜を越え、田を横ぎり、また林を越えて、しのびやかに通り過ゆく時雨の音のいかにも幽かで、また鷹揚な趣きがあって、優しく懐しいのは、じつに武蔵野の時雨の特色であろう。」
    「武蔵野の路にはいみじき実がある。
     武蔵野に散歩する人は、道に迷うことを苦にしてはならない。どの路でも足の向くほうへゆけばかならずそこに見るべく、聞くべく、感ずべき獲物がある。武蔵野の美はただその縦横に通ずる数千条の路を当もなく歩くことによって始めて獲えられる。」
    「生活と自然とがこのように密接している処がどこにあるか。じつに武蔵野にかかる特殊の路のあるのはこのゆえである。」


    幽か しずか
    懐しい ゆかしい
    訪う おとなう
    静蕭 せいしょう 自然の静蕭を感じ
    私語く ささやく 武蔵野の時雨のさらに人なつかしく、私語がごとき趣 時雨が私語く
    永久 とこしえ
    日の微温き光 ぬるき


  • 明治時代の秋の武蔵野(渋谷から国立あたり?)の雑木林にTimeSlipした気持ちになれた。せっかく住んでる町なのでこういう確度から味わうのも良いものだ。

  • 独歩の短編小説集。もっとも、独歩は短編の創作がほとんどであるが。以下、印象に残った作品。
    『武蔵野』
    かの美しい落葉樹の林は今やいずこ。懐かしき時代の追憶を想起させるような読後感。
    『源おぢ』
    惨憺たる人生の敗北者である主人公を、抑制された文語調で淡々と記した佳品。
    『忘れえぬ人々』
    無名の文学者がゆきずりに会う市井の人々について記す。独歩と対極にある人々の印象が、自身の印象に焼き付けられたものか。

  • 僧坊の精進料理に品を加えて市井に出したような作品。素朴でありながら味わい深いもの、全く味のしないもの等々、数多くの品々が出てくるけれども、その料理が生まれた背景というか包括する世界観が理解できた途端、全てが納得感のあるしっかりしたものになるというか。

    個人的には源叔父⇄初恋の対照と、武蔵野の美しさ、たき火のありありとしたリアル感、鹿狩のまとまりの良さがそれぞれ印象に残った。自然主義派を興し、短篇の名手と呼ばれる国木田独歩。作品それぞれが彼の人生を色濃く映したものになっているる。作品ひとつひとつにインパクトを求める限り彼の良さは分からない。あくまで短篇を読み進める上で帰納的に分かってくるものなんだろうな。美味しいと思うかどうかはさておき、初めて頂くジャンルだったので新鮮でした。

  • 毎年「武蔵野」だけを秋に読む。
    文体も描写も大大大好き。

  •  表題作の「武蔵野」目当てに読み始めたが、それがやっぱり一番よかった。
     「武蔵野」より、『武蔵野を散歩する人は、道に迷うことを苦にしてはならない。どの路でも足の向く方向へ行けば、必ずそこに見るべく、聞くべく、感ずべき獲物がある。』の心地よさ。
     小説は自然描写が綺麗だった。
     収録されている短編で好きなのは切なさと虚しさが心に来る「源叔父」、人生とはなんぞやと問いたくなる「まぼろし」、ほんわかしたり突き落としたり「鹿狩り」、微笑ましい「初恋」。
     ほんわかまったりで来てから最後で落としてしんみりさせる形式が多い印象。

  • 銚子生まれ……なのでゆかりの作家には違いないが、小説の題材となった武蔵野をはじめ、銚子を題材とした作品は本書にはない。自然主義ということをひしひしと感じる短編集だった。文語体の作品も七五調のようにテンポよく読み進められた。言文一致の文章は、それよりも自然と感情を現代の読者に理解しやすいものだった。「小春」のようなエッセイとも言える短編も新鮮だ。

  • 武蔵野の情景描写が読み進めていくと出てくる。短編で読み応えはあるが眠くなる。埼玉のあたりや川崎とかも出てきた。

  • 武蔵野のほか十七編がおさめられている。
    「武蔵野」を読み始めでは、なんと退屈な文章なのだろうと感じた。しかし読み進むにつれ、情景描写や自然な話の流れに引き込まれていくようであった。
    大変読みやすい現代口語調の作品もあるが、文語体の作品もあるので読むのに多少骨が折れた。
    他の作品も読んでみたい。

  •  小学生の頃から書名を知っている本だが、この年になって初めて読んだ。
     といってもまだ表題作の「武蔵野」だけだが。
     独歩が「武蔵野」と言っているのは、大部分が
    当事住んでいた 渋谷村の周辺であり、今そこに
    行っても面影は無い。
     だが後半 境(現在の武蔵境)から桜橋を経て、
    玉川上水の堤を歩く場面がある。解説によればこちらは
    今も面影を残すそうなので、今度行ってみよう。

     読み終わった。自分にとって読みやすい話と読みづらい話が混在している。

    武蔵野・・・前半やや読みづらく、後半読みやすい。
    郊外 ・・・・読みづらい。
    わかれ・・・・
    置土産・・・・
    源叔父・・・・読みづらい。話も悲しくて。
    星  ・・・・
    たき火・・・・
    おとずれ・・・
    詩想 ・・・・読みやすい。
    忘れえぬ人々・真ん中。
    まぼろし・・・
    鹿狩り ・・・普通。
    河霧  ・・・
    小春  ・・・
    遺言  ・・・
    初孫  ・・・
    初恋  ・・・読みやすい。一番好き。
    糸くず ・・・読みやすい。でも楽しくない。

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