- Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101035611
作品紹介・あらすじ
喜びも悲しみも、分かち合っていけたら――。1927年、関東大震災で妹を亡くした八重は妹の婚約者竹井と結婚し、同潤会アパートへ。最新式の住宅にも、自分同様に無口な夫にも戸惑う八重だったが、ある日、妹が竹井に送った手紙を見つけ……。時代の激流に翻弄されながらも、心通わせる相手と出会い家族をつくり、支え合って生きた四世代、70年の歴史。あたたかな気持ちで満たされる家族小説。
感想・レビュー・書評
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1927年、唯一の家族だった妹の愛子を地震で亡くした八重は、愛子の婚約者だった竹井と結婚した。
無口なもどかしい二人であったが、妹を失ったくやしさを竹井と分かち合うことができると感じたからである。
関東大震災直後に建てられた、当時としてモダンな鉄筋コンクリートの建物は、木造よりもずっと地震や火事に強い。
もう二度と同じことを繰り返したくないという竹井の切な願いに従う八重。
とても静かな、優しさに満ちた物語だった。
約10年ごとに、このアパートでの家族の暮らしが、連作短編のように語られていく。
親から子へ、子から孫へと受け継がれて四世代、70年の家族の歴史。
それらのひとつひとつは、ほんのささやかなエピソードだけれど、長い年月の間には、喜びも悲しみも何もかもが詰まっていて、感動で胸がいっぱいになる。
目頭が熱くなるような光景ばかりが思い浮かぶようだった。
エピローグで、このアパートに入居したての頃、竹井が八重に「なにか必要なものや、ほしいものはありますか」と尋ねる場面があった。
その答えこそが、家族が支え合って生きていくことの意味なのだと思う。
帯にあるように、まるで朝ドラを見ているような、素敵な終わり方だった。
しばらくこの余韻に浸れそうです。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
静謐。
およそ70年にわたる家族の物語。人が人を思いやり、縁を大切にしながら時代の波を超えていく。それも全て、このアパートがあればこそ。"帰るべき場所"があり、"大切にしたい人"と"思いやりの心"さえ持ち続けていれば、人は誰でも幸せになれる。そんな優しい気持ちになれる物語でした。
「ビブリア古書堂の事件手帖」もそうですが、この作者は、基本的に"誠実な人間"が好きなのでしょうね。特にこの作品では、それを感じました。読後感がとても爽やかです。 -
昔から風情ある同潤会の建物に惹かれていた。そして、団地やマンション等を舞台にした作品もまた好きなので、同潤会アパートで生きてきた四世代の物語と知ってものすごくそそられた。購入の決め手となったのは、第一話の「月の砂漠を」、アンソロジー「この部屋で君と」で既に読んでいたこと。是非ともあの話の続きを読みたいと思い手に取った。
関東大震災で妹を亡くした八重が、妹の婚約者の竹井と結婚し、出来たばかりの同潤会アパートで新婚生活を送ることとなる。アンソロジーでこの話を読んだとき、奥ゆかしすぎる八重がちょっとじれったく感じたのだが、今思えばこれはあくまでもファミリーヒストリーの序章だったのだとわかる。無口で無器用だけど、誠実な八重のキャラクターは、今後の展開の鍵となる。
第二話から、物語は俄然面白くなる。戦中、戦後、高度経済成長、ビートルズ、バブル、そして……。激動の時代、主役を変えながら紡がれるストーリー。人気作「ビブリア古書堂の事件手帖」の作者らしく、起承転結のはっきりした展開で、とても読みやすい。その一方で、たまに心に楔を打たれるような、鈍い痛みを感じさせる場面もあり。そして、たびたび登場人物の口から漏れる、「くやしい」という言葉。そのやるせない感情が爆発するたび、何ともいえない気持ちになる。
長いスパンで描くことができたのも、同潤会という建物の歴史のお蔭なのだろう。読了後、あちこちにちりばめられていた伏線がこんな形で回収されてたとはと気づく楽しみもあり。
帯文句にもあった通り、朝ドラ感ありますね。映像化してもらいたいな。 -
1927年から1997年まで、同潤会代官山アパートに暮らす一家四代に渡る家族の物語。
関東大震災や世界大戦、そして阪神大震災でのそれぞれの悲しみを乗り越えたり、辛い時には支え合い助けあっていく家族の姿に、同じように関東大震災でつらい経験をした私の祖父、阪神大震災で被災した私の祖父母と両親が重なり、涙でした。
家族の形も家もどんどん変わっていかざるを得ず、寂しくなることもあるけれど‥
「人は入れ替わり、家も変わっていく。
きっとこの先も色々なことが起こるだろう、
嬉しいことも、悲しいことも、家族で分かち合って生きていけたらいい。」
この言葉を胸に、新しい家族の形ができていくことを喜びに変えていきたいなと思いました。 -
1927年の関東大震災で妹を亡くした八重。元は妹の婚約者だった竹井と後に結婚し、同潤会アパートへ入居した。そこは鉄筋コンクリートで造られた最新式のアパートで、不慣れな八重は戸惑っていたが──。支え合って激動の時代を生き抜いてきた家族四世代、70年の歴史を追った小説。
1927年から1997年までのドラマを、アパートを起点にして描いていくという構成が面白い。最初は戸惑いしかなかった無機質な白いアパートが、家族の一部となって色づいていく。八重とともにぼく自身もアパートを帰る家のように感じていたのが印象深い。年代を切り取って綴られるエピソードはその時代を色濃く反映しつつ、時には『ビブリア古書堂の事件手帖シリーズ』で培ったミステリのエッセンスもスパイスにしていて面白い。
ぼくが一番好きなのは、竹井が病の中で3階へ向かうシーン。人生の伏線を回収するようにここで絆が繋がってくるのが熱かった。この場所に立ち会えてよかったなと感じられた場面。後半の進と奈央子の話もにやにやしちゃうあたたかさ。
また、「くやしい」という言葉の響きも胸に残る。震災という不条理さの中で、幸せを目前にしながら亡くなった妹。彼女への思いを「くやしい」という言葉で表したのが、ぼくの中でもすっと心に落ちてきて感情移入することができた。
「本当に辛い時は、逃げていいのよ」
「卑怯でも、無責任でもない。本当はみんな、そうして生きてきたの」
八重が言葉にしたこの思いは苦難の連続だったからこそ切実で、やさしい響きを秘めている。読み終わってから、プロローグを読み返すとなんて美しいと感じられる作品だった。 -
関東大震災で妹の愛子を亡くす
愛子の婚約者の竹井と八重は数年後結婚
同潤会アパートに住む
そこから年月を経て生きる4世代の家族の物語
激動のなかを支えあって生きていく
ドラマチックに描くのではなく
静かに淡々と描く
少しずつじんわり確実に心が温かくなる小説 -
1927年から1997年まで、1つの家族の4世代にわたる物語を、同潤会代官山アパートを中心に描いています。たったの70年なんだけど、関東大震災に始まり戦争を経て平成へと移り変わり、街の風景も文化も考え方もこんなにも変わっているんだということを再認識させられました。
読みごたえはあるけど決して難しい文章じゃない。これは幅広い世代に読んでほしいなぁ。 -
ビブリアの作者だからという理由で読んでみた。
物語に大きな起伏はないがそれでも情景や感情がよく表現されているなと感じた。特に登場人物の一人である進には感情移入する人が多そうだ。 -
関東大震災から始まって戦争など、辛い出来事が多いけど、家族の物語だからかどこか穏やかで優しい。それぞれが大切な人と出会いどんどん繋がって先へ先へと進んでいく。家族の風景と共にアパートがあって、どっしりと静かな存在感がある。