- 本 ・本 (241ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101036014
感想・レビュー・書評
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「単語の意味の歴史をたどることは、やがてその民族の心情や文化の歴史をたどることである」(あとがき)。
本書前半では、“うつくしい”“まかる””うるわしい““あじきない”など、具体の言葉を取り上げて、時代時代の意味や用法、その変遷などを解明していく。
はるか昔、古文で学んだことを思い出し思い出ししながら読み進めたのだが、言葉というものはやはり変わるものなのだなあと感じたし、本書では、どうしてそのように変化したのかについても詳しく解説してくれるので、とても勉強になった。
後半では、「日本語の歴史」と題して、日本語何千年の大きい流れが大掴みに描かれる。
ひところは国語のローマ字論やカナモジ論の運動が盛んだったことなどを思い出したし、漢字の字数制限は今でも議論されているし、著者が懸念を示していた以上にカタカナ英語は増加の一途である。
国語政策は全ての日本語を母語とする人間に関わる問題である。古い本ではあるが、日本語について考えるための基礎的な素養を得るのに大変参考になると思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
大野晋(1919~2008年)氏は、日本語の起源や変遷についての研究で優れた業績を残した国語学者。特に、『岩波古語辞典』の編纂や、日本語の起源を古代タミル語にあるとしたクレオールタミル語説で知られる。『日本語練習帳』(岩波新書/1999年)は発行部数192万部のベストセラーとなった。(岩波書店調べ/2008年時点/同時点で岩波新書として発行部数第2位)
本書は、1958~60年に朝日新聞の学芸欄に断続的に掲載された文章を書き改め、新しい項を加えて出版され、1966年に文庫化されたものである。
本書の構成は大きく二つから成っており、前半では、7つの項目(美、祈りと願い、尊敬の論理、愛するもの、不愉快な感情、若い人たち、文化の流れ)に分けて、58の言葉(「美」の項なら、うつくしい、きよし、なまめかしい、こころにくい、さびしい、だて)について、それぞれの言葉の由来、伸長、変化が詳しく説明されている。そして、後半では、書籍化された際に加えられた、総説としての日本語の歴史が示され、日本語の成立、文字の獲得、漢字・片仮名・平仮名の関係、印刷文化の普及、西洋語の受入れ、言文一致、敗戦後の国語問題が語られている。
前半の各語の変遷からは、日本の言葉が日本人の考え方をどのように決めて来たか、また、日本人の考え、感覚がどのように言葉に反映して来たかが、具体的に理解でき、「言葉が人間を作るということと、人間が言葉を作っていくということ-これは、言葉の実際の場で働く、重要な二つの力である。この二つの力が螺旋のようにぐるぐる廻って、かわるがわるに働きながら日本語の長い歴史を作って来た」という著者の言葉が実感できる。また、私は歳を重ねるごとに、美しく優しい響きの大和言葉が自然に使えるようになりたいと思うようになったが、そのための参考にもなる。
また、後半の日本語の歴史については、学校教育も含めて断片的な知識は有りつつも、通史的に捉える機会は多くなく、大変役に立つものだった。本書が書かれた当時は、太平洋戦争敗戦後の国語改革(漢字使用を制限して日本語表記を単純化しようとする動き。漢字廃止やローマ字化などの極論すらあったという)の余波が残っていたと思われ、著者は本書を次のように締めくくっている。「単なる復古主義では、今後の新しい機械文明による文字の広汎な伝達の必要に応えることができないであろう。それと同時に、行きすぎた便利主義によって、言語の厳密な表現、正確な表現を削り去るならばそれは文化の低俗化だけをもたらすであろう。言語や文字は、どんな文化においても、厳密に、正確に、正当性をもって維持されなければならない。言語における必要な改革は、常に公正に行われなければならない。それによってのみ言語は文化の媒体、文化それ自身として人間生活に重要な貢献をするのである。この両者を考え合わせ、・・・どんな道をとることが最善であるかを発見すること。それが今後の国語政策の課題である。そのためにも、日本語の歴史を静かに真剣に顧み、そこから出発して将来の文化の発展へと進まなければならない。」
具体的な単語の意味の歴史を辿ることにより、日本民族の心情や文化の歴史を辿り、更に、日本語の歴史を辿ることにより、我々日本人が将来どのように生きていくべきなのかをも考えさせてくれるような一冊である。
(2021年4月了) -
数多くの独創的な語源にかんする研究成果を盛り込んだことで知られる『岩波古語辞典』の編集者も務めた著者が、日本語のいくつかのことばをとりあげ、そのことばの由来とそこから読み取ることのできる日本人の生活や考え方について論じている本です。
日本語から文化論へと説きおよんでいく議論に多少引っかかってしまうところもありましたが、著者の博識と独創的な発想力が随所に見られ、日本語にまつわるエッセイとしておもしろく読みました。 -
日本語の神は唯一神のゴッドと異なる。天皇陛下は神であるがゴッドではない。仏の旧字は佛で「人に非ず」の意である。印象としてはこちらに近い。畏れ多くも天皇陛下(※後続にも)は基本的人権を有さないのでその意味でも人(国民・市民)ではない。
https://sessendo.blogspot.com/2020/03/blog-post_30.html -
かなり久しぶりの再読。日本語に対する鋭敏な感覚で、言葉のなりたちを分析していく。「かすか」と「ほのか」の違い等、なんとなく違うと感じつつ自分で言語化できなかったことをうまく説明されると爽快感がある。
大野晋は学者としては結構癖のある人らしいけれども、言葉への感覚は一流だなと感じる。随筆として楽しみに、あるいは学問する人ならとっかかりとして読むのがよさそう。 -
興味深いような、どうでもいいような。
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ようやく読み切った。
ずっと手許に置いていながら、なかなか読み進められなかった。
古文の授業で、どんな単語帳を使っていたか。
自分の学生時代のものは覚えていないのだけど、今は『古文単語の整理法』を愛用している。
巷では565やマドンナが有名か。
言葉と意味というのは、本当のところでは分かりにくいように思う。
意味調べが、ただの調べになってしまうのは、きっとそこにある。
言葉には繋がりがあって、背景があって、イメージがある。
それは言語化するのに難しいこともあり、比喩を用いた方が分かりやすいこともあるだろう。
初めの方に「きよし」と「さやけし」、「かすか」と「ほのか」という言葉を取り上げている。
同じカテゴリの中で、どう違いを感じるか。
そういう、言葉の持つ広がり、背景をていねいに取り上げてくれている一冊だった。
まさに『日本語の年輪』であり、そこから、言葉を生み出した先人の目が見えるようにも感じた。 -
高校時代、読書感想文の課題図書だったので購入。
あの時にはひたすら消化するだけだったが、
今、改めて読むと、日本語の面白さに感心、感動。
こういう知識がさらっと出てくるような人になりたい。 -
高校時代に興味をもっていた分野
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言葉から日本語の歴史をたどり、また、日本語が生まれ消え、変容してきた軌跡を印象的な言葉で綴る名著です。
特に、愛するものを説く箇所で、奈良時代の女性の歌がしっかりと大地に自分で立つ印象を与える理由を妻問婚の習慣に求め、それが平安時代に以降、徐々に嫁取り婚に変わっていくのとともに、女性が日本語の歴史から姿を見せなくなっていくと論じていく箇所は畳み掛けるような説得力があります。また、源氏物語の終局の描き方に、女性の運命の大きな転換が迫っていることを平安時代に早くも観て取った紫式部の天才の発露であると説く箇所(108頁)も白眉です。
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