色彩の息子 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101036137

作品紹介・あらすじ

しっとりとぼくの体にまとわりつく真っ赤な声の染み(赤)。夜明けの孤独を泳ぐようにかきわける青白い顔の女(青)。病んで忌まわしい白い心の病室に、鍵をかけ封印してきた女(白)。心の奥底に刻印されてしまった劣等感という名の黒子(黒)-。妄想、孤独、虚栄、倒錯、愛憎、嫉妬、再生…。金赤青紫白緑橙黄灰茶黒銀に偏光しながら、心のカンヴァスを妖しく彩る12色の短編タペストリー。

感想・レビュー・書評

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  • 嫌でも滲み出てしまう劣等感などのほの暗い感情も丁寧に美しく描かれていて、どんどん読み進められた。
    同じような感情でも、その感情を抱く人や生まれ育った環境ひとつが違うとこんなにも変わるものなのかと。
    誰一人同じ感情を持たないように誰一人同じ色を持たない、決して明るい色ばかりでは無かったけど、文章が繊細だからか不思議と綺麗だった。
    人と触れると心は色づく。

    装丁がとっても素敵で一話一話読み進めるのにうきうきした。

  • 装丁が素敵で即買い
    すごく短い短編で空き時間に1話ずつ読んだ
    12人のそれぞれの色のあるストーリー

  • 12篇のうち多くは、苦手なタイプの話。
    ただ1篇、「埋葬のしあげ」がものすごく好きで、人生が変わった1冊を聞かれたらこの本を挙げる。
    人と出会うことで価値観は広がるし、自分が本能的に見下している相手すらも、自分には無い思考を持っている。偏見を砕く出会いというものが日常の中にあり、そこに救われることがある。それを信じたくなった。

    ほかの短編については、山田さんの作品にありがちな、気まぐれな貞操観念・男に支配されることを悦びとする女性・性だけで繋がる人間関係・不倫の付き合いなどが散見される。そのへんはチョット私には合わなくて読みながらタジタジしてしまう。

  • 「あとがき」で著者は、「色を持たない言葉というものを使って、色の世界を描きたいと思った」と述べており、それぞれがテーマとなる色をもつ短編12作が収録されています。

    「男のものになることを楽しむという、最も利己的で、精神的な女のお遊び」をたのしむ女性と、そんな彼女の態度に苛立ちながらも彼女から離れられない男をえがいた「陽ざしの刺青」は、著者の作品にしばしば登場するタイプの主人公が登場する一編です。

    「黒子の刻印」は、双子の姉妹でありながら、美人の妹とはちがって顔に大きなホクロがあることにコンプレックスをいだく姉の話です。芥川龍之介の作品などに見られるようなテーマをあつかっており、ちょっと背筋の冷たくなるような結末も用意されていて、きれいにまとまった物語に仕立てられています。

    一つひとつの物語はかなり短いので、作品世界をていねいにつくり込んで構築された作品といった印象はありませんが、ドラマティックな設定やある程度わかりやすいキャラクターを配して、ときにブラック・ユーモアを利かせた内容もあって、たのしんで読むことができました。

  • 明るいところに人は集まる。光と影なら光。ポジティブで笑顔で幸せな色は他人を惹き付ける。本当にそうだろうか。貴方は自分の幸福の色を知っていますか。その幸せは、他人の不幸に慰められ感じているものではないの。私じゃなくて良かった、私より幸せじゃなくて良かった。心のパレットを真っ黒に塗り潰してしまえば、そこから貴方は何色を作り出せるの。大丈夫、ちゃんと自分で変えることが出来るのだから。いつの間にか心は青く澄んでいた。貴方はまだまだ泳いでいける。金槌な私は緑を感じ歩けばいいの。それでも進めないのなら歌う。
    音に言葉に感情が揺さぶられるまま透明な滴がすべて流れ乾く頃には、鼻を赤く染めて笑う、何よりも美しく白い貴方がいるかもしれません。

  • 山田詠美の短編集。心の奥深いところをナイフで切りつけて、さらに奥をえぐってくるような小説で、最初は一話目を読んだだけで本棚にしまってしまったけれど、改めてチャレンジ。相変わらずの甘ったるい暴力性と、親しみやすさのある詩的な文体にうんざりしながらもぐいぐい引っ張られて、結局最後まで一息に読んでしまった。物語にそぐわないパステルカラーの色紙が意地悪。嫌な小説だと思った。「蜘蛛の指輪」は好き。

  • 初山田詠美。友達と本を勧め合いっこした。
    その時に勧められた本その1。

    おおおおおおおう、これはちょっと、エロい。
    不適切な表現だと思って類語辞典で検索したけれど「スケベ」とかしか出てこなかったから仕方がありません。ええと、なんていうか、ちょっと性的。悪い意味じゃなく。

    いやしかし、「私だって捨てたもんじゃないはず」とか、「いい人でいると楽」とか、「夜中に世界で一人ぼっちになるような気分」とか、共感できる感じ。そして女性が怖い。生々しい。妙にリアルで、今でいうところの「肉食系」と言うやつなのか、アグレッシブで虎視眈々とした、怖い女がいっぱい出てくる。

    それにしてもとにかく文体が好み、とても読みやすかったです。
    所々作品テーマカラーの色紙が挟んであるのもいい感じ。
    他に勧めてもらったのも読むぞ-!

  • 短編集なのも手伝って、読みやすかった。
    各章にそれを象徴する色のページが綴じこまれていて、不思議な小説だった。
    一番怖いなと思ったのは黒子の章。不幸の種を蒔いているのは自分なのかもしれない。
    でも、自分では気付いていないから、自分でもどうしたらいいか分からなくて、
    黒子をとってしまったりするのだろう。それが原因だと思てしまっていて、
    他にどうしていいかわからない。
    だけどどうやったら彼女は、自分で不幸を招き寄せることをやめられるのだろうか?
    黒子が彼女のコンプレックスで、嫌なものであることには違いない。
    傍からどう見えようとも、彼女は苦しんでいる。
    苦しんでいるのは彼女。

    他人事ではないな、と思った。

  • 話の流れや構成は陳腐なのに、言葉の選び方がとんでもなく簡潔で的確で舌を巻いてしまいます。
    非常にクレバーなお方だなぁ、この話は好きじゃないけど素直に凄い。

    ・・・・・・と思ったのも最初の4話まで。
    「病室の皮」からはそれすら無くなってしまいました。
    順番に並んだアルファベットとか等差数列とか、そういう普遍で分かりきったものをつらつらと並べられている感じがして非常に退屈でした。読んでいて楽しくないのです。ハッピーエンドじゃないからとか、事件が起こらないからとか、話が暗いからとかでは全然なくて、私はむしろそういう話が好きなのですがしかし、小手先で小説書いてる感じを強く受けてしまったのが原因なのでしょう。
    作者が器用すぎる。それが逆に私を冷めさせてしまいました。


    09.08.04

  • 色をモチーフにした「陽ざしの刺青」「声の血」「顔色の悪い魚」「高貴なしみ」「病室の皮」「草木の笑い」「白熱電球の嘘」「ヴァセリンの記憶」「雲の出産」「埋葬のしあげ」「黒子の刻印」「蜘蛛の指輪」の12編の短編を収めている。
    いずれもきらりと光る鋭利さをもって胸に迫ってくる作品で、息をつく暇もなく夢中で読んだ。

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著者プロフィール

1959年東京生まれ。85年『ベッドタイムアイズ』で文藝賞受賞。87年『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』で直木賞、89年『風葬の教室』で平林たい子文学賞、91年『トラッシュ』で女流文学賞、96年『アニマル・ロジック』で泉鏡花文学賞、2000年『A2Z』で読売文学賞、05年『風味絶佳』で谷崎潤一郎賞、12年『ジェントルマン』で野間文芸賞、16年「生鮮てるてる坊主」で川端康成文学賞を受賞。他の著書『ぼくは勉強ができない』『姫君』『学問』『つみびと』『ファースト クラッシュ』『血も涙もある』他多数。



「2022年 『私のことだま漂流記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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