ぼくは勉強ができない (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101036168

感想・レビュー・書評

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  •  17歳の時田秀美はサッカーが大好きな高校生。恋人はショット・バーで働く年上の桃子さん。家族は、恋に生き、自分磨きに忙しい母仁子と、理解ある祖父の3人。
     何かしら他人とは違う価値観をもつ秀美は、クラスメイトには人気だが、一部教師には受け入れられない存在で…。恋・友情・家族・将来…「秀美」の目で見る高校生活とは…。

     自分に正直に生きることは、簡単のようでどこか生きにくい。ということで、もまれながら、年を重ねながら、何となく自分をごまかし、生きる術を身につけていくのが通常だけれど、主人公の秀美くんはそうでないから、ぶつかる、悩む、考えるわけです。
     周りの同級生と比べると、ピュアで大人っぽい秀美くん。アンバランスだけど、それこそ「強い」と「優しい」を兼ね備えた理想の大人に近いのではと思いました。

     さすがに高校時代にはほど遠いので、気になるのは母親の「仁子」の生き方や考え方。男の子の子育ては、知らず知らず自分の理想に育てようとしてしまうものなのかと気づかされました。
     一番考えさせられたのは、番外編の「眠れる分度器」。秀美の担任奥村の姿に、理想に燃えていた若かりし頃の自分を懐かしく思い出し、苦笑してしまいました。特に三角形の件(くだり)は、印象的でした。

  • でも、君は女にモテないじゃないか、と呟くのは痛快なことに違いない。 真実の許にひれ伏した愚か者の顔 吝嗇りんしょく 良い顔になりなさいと諭す人間が少な過ぎるのだ 排泄物も吐瀉物も体の中に隠し持っているくせに 虚無なんていう贅沢品で遊べるような環境に 誇るものって体しかないんだから 頭痛は高尚な悩みを凌駕する 悦に入っている 健康な肉体に性的なアピールを感じるわ。肉体って、即物的なものだもん。恋愛においてはね。解り易いっての?でも、精神状態も、健全だってのは困るのよ。もっと不純じゃなきゃ。嫌らしくないのって、つまんないよ。 日々は、確実に過ぎて行ったが、自分がそこに何を残して行ったかは解らない。飢えていると彼女は言った。僕も空腹だ。それだけを感じている。自分の贅肉を食べ尽くしてしまったのだろうか。 不純異性交遊はもうしません。コンドームも落としたりしません 凡ゆる世間の定義をぶち壊そうとすることから始まっていたのに気付いたのだ その逆説を証明することで 他人が語れる存在にはならないという決意だ と、すると、悲しみとは、健康体の特権なのか。 微笑みを口許に刻める瞬間てのは 仕方ないよ、時差ぼけ知らずなんだから 散らし寿司と、蛤の吸い物を作らせよう。 感覚がすれっからし 「でも、彼女だって、排泄するんだぜ。それの名称は、うんこって呼ぶんだぜ」 初心うぶ と言葉にならない冷笑を与えた警告者の登場する小説があった筈だ 媚や作為が嫌いだ 人は必ず媚びという毒を結晶させる 皮剥き器 ダンディズム 悪足掻き 「大富豪が射精を繰り返してたら、はたして、文学が生まれていただろうか、というような事を知りたいんですよ」 叙情は常に遅れて来た客観視の中に存在するし 校正刷り 見抜かれてる そういう幸福な錯覚を抱かせるリズムがある〈そりゃ、確かに、傍迷惑な奴だ。女の子のナイトなれない奴が、いくら知識を身につけても無駄なことである〉 彼の小気味いい言動の前に、大人達の回りくどい論理がことごとく粉砕されていく様子は、まさに痛快としか言いようがない。

  • 高校生の時に読んだ時より面白かったです。

    読んでいてドキッとさせらせる瞬間が多く、見透かされると感じました。本作で出てくる「父親がいない」という事実に対して無意識的に丸印、ばつ印をつけていることは多いなと反省しました。

    また10年後にも読んで、大切なものを再発見したいと思う良い小説です。

    こんな時代が巡るましく変わっている時代に30年前の内容で感動・考えさせられるのは本当にすごいことだなと感じました。

  • 最初に告白するが、読む前は正直山田詠美を舐めていたと思う。派手な恋愛小説家、というイメージで、名作とされるこの小説もリア充の薄ら寒い悩みを中心にした、青臭い青春モノだと思っていたのだ。だが冒頭の数ページを読んでその印象は一変する。言葉の一つ一つのリズムや感性が素晴らしい。たった一文だけで主人公の家庭環境や母親がどういう人物なのかが分かる。そこに世間のイメージする子育ての大変さや屈託なんてものはなく、さらっと書いているのがたまらない。地の文だけでなく、台詞もまた警句的である。主人公の思想は男なら誰しもが一度は考えたことであり、一度は言ってみたい台詞である。常識的な観点からはとても許容しがたく、セクシズムに満ちた発言ではあるのだが、「もてなくても構わない」というのは慰めにもならないし、ただの欺瞞でしか無いということを暗に示している。主人公はもてる側の人間だが、もてない側から読んでもこれは納得のいく台詞であるし、もてなくても構わないというのは何の救いにもならないのだ。そしてこれを、お勉強のできる人間に対して言うのが面白く、お勉強のできる人間はそういう恋愛を下だと見下している。そういった人間の欲望を露わにしつつ、こう言ってのけるのは確かに痛快であり、下世話さに対する愛着を感じる。主人公は現在の感性で語るならばリア充になるのだろうが、彼は勉強ができない。また一般常識から少し外れた存在であり、生育環境はマイノリティで、世間から貼られるラベルに対する敏感さがよく伝わってくる。女にもてることを執拗に強調するのも、承認欲求の表れで、認めてくれる人がいるからこその自分というのを主人公はよく分かっているのだ。その生き方に嘘は付いていない。他にも印象に残った台詞は多い。連作短編集の本作で、一番好きな短篇は「あなたの高尚な悩み」で、ここに出てくる台詞はどれも示唆に富んでいる。切羽詰まった生活実感の前ではどんな高尚な悩みも吹き飛んでしまうという、ごくごく当たり前の事に気づかせてくれるのだ。社会問題と戯れるのは、生活に余裕のある人間だけである。これに限らず、この作品全体を通して、お勉強のできて金を持っている人間が無意識的に踏みつけてきたもの、恋愛であったり即物的な生活実感であったりとかに、改めてスポットを当てつつ、そういったものを軽視する人間に対して強烈なカウンターパンチを浴びせているのだ。子供の頃に読みたかった連作短篇集ではあるのだが、むしろ大人になって読んだほうが得るものは多かった気がする。ここに描かれているささやかな幸せや即物的かつ俗っぽい生活実感などは、大人になって分かるようになった部分が多い。描かれている価値観に共感したのは久しぶりである。傑作。

  • 仁子が言う通り秀美は素敵な男になると思う。きっと男からももてるだろうな。「ライ麦畑でつかまえて」のコールフィールドは世の中のものすべてが気に入らないようだった。秀美は奥村先生みたいに先入観にとらわれた自分のものさしで人を決めつけることに異議を唱える。似てるように思ったけど、秀美はものすごくわかりやすい、良くも悪くも。少々、意地悪な言動が問題だけど、佐藤先生みたいな人には必要以上に悪態をついてしまうのはよくわかる。オイラはこの歳になっても直せずにいる。
    秀美はいくら成績が良く立派なこと言っていても、変な顔で女にもてないのは虚しいと言う。斉藤和義は「君の顔が好きだ」で”形あるものをぼくは信じる”と歌う。男も女もいい顔であることに越したことはないと、オイラは思う。お金と一緒で損はない。正しく使わないと思わぬしっぺ返しがあるかもしれないけ ど、やっぱり特の方が多いんじゃないだろうか。
    あとがきの山田詠美の言葉がよかった。”大人になるとは、進歩しすることよりも、むしろ進歩させるべきではない領域を知ることだ”。確かに年をとっただけで頭や性格が良くなるわけじゃないことは経験としてよくわかった。なりたい大人になっただけだ。

  • 秀美くんは、勉強はできないかもしれないけど、勉強よりも大切で生きていく上で必要なことをみんなより知っている。

    だけど、よかった。学生時代に秀美くんみたいな人に会わないで。会ってたら即惚れた。

  • 山田詠美さんの本を初読了。
    勉強は苦手だけど、人気者の高校生、時田秀美が主人公。
    『いい顔をしていない奴の書くものは、どうも信用がならないのだ。へっ、こーんな難しいこと言っちゃって、でも、おまえ女にモテないだろ。…』
    変に優等生的ではない価値観が溢れ、人間性溢れるキャラクターがテンポよく登場し、あっという間に読了。

    勉強出来なかった事には、共通点はあるものの、主人公のようにモテなかったのが甚だ残念である(笑)

  • かれこれ26年も前に書かれた本。
    タイトルから避けていたのだけれど。こんな開き直ったタイトル。

    山田詠美も江國香織も、ちゃんと言葉に出来る人。そうそう、そういう風に思うんだよ、感じるんだよということを言葉に変換してしてくれる。難しいと思うのに。それが作家なのか。

    高校生が「自分でいること」に素直で、羨ましい。あとがきで「同時代性という言葉を信じていない」とあるけれど、私もそう思う。本に出てくる子達を立派だ、こうだったらよかったのにな、とか思うことがよくあるけれど、実際その時代の自分ははなたれ小僧でそんな俯瞰で眺めてなんかいられなかった。もがいているのかどうかも自分でわかってなかったくらい。
    だから、作家だってきっとこうだったらよかったのになってことを彼らにさせているんだ、きっと。
    自分のその時代にはもっと不器用に手足をバタバタさせていたはずだよな、と自分と同じレベルに引き下げてしまうのはなんですが…。

    山田詠美はゆっくりいろいろと読んでいきたい。

  • かゆいところに手が届く言語表現の極み。痛快でした。
    空気を読まず、場を崩すようなことを言ってしまうのに、まったく嫌味じゃない。それは主人公の秀美くんの頭がいいからではなくて、健全だから。というのが最高ですね。秀美くんの周りにいる人たちも、独特な思想をもった人たちばかりだけど、みんな深刻じゃない。わたしは、ここで言うところの高尚な悩みでくよくよしがちな人間なので、そのあっけらかんとした性格が羨ましく、いいなぁと思いました。

  • 買ってよかった。読んでよかった。変わっていることは悪いことなんかなじゃい。悪くなんかないんだ。

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著者プロフィール

山田 詠美(やまだ えいみ)
1959年、東京生まれ。明治大学文学部中退。85年『ベッドタイムアイズ』で文藝賞受賞。同作品は芥川賞候補にもなり、衝撃的なデビューを飾る。87年には『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』で直木賞受賞。89年『風葬の教室』で平林たい子文学賞、91年 『トラッシュ』で女流文学賞、96年『アニマル・ロジック』で泉鏡花文学賞、2000年『A2Z』で読売文学賞、05年『風味絶佳』で谷崎賞、12年『ジェントルマン』で野間文芸賞、16「生鮮てるてる坊主」で川端賞を受賞している。その他の著書に『無銭優雅』『学問』『タイニー・ストーリーズ』『明日死ぬかもしれない自分、そしてあなたたち』などがある。

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