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本 ・本 (368ページ) / ISBN・EAN: 9784101042817
作品紹介・あらすじ
ご一新から五年。花見客で賑わう上野の山に、かつて南町奉行を務め、「妖怪」と庶民から嫌われた 鳥居耀蔵の姿があった。失脚し、 二十三年の幽閉の末に耀蔵が目にしたのは 変わり果てた江戸の姿。明治を、「東京」を恨み、孤独の裡に置き去られていた男の人生は、金春座の若役者・滝井豊太郎と出会ったことで動き始める。時代の流れに翻弄されながらも懸命に生きる人々を描く感涙の時代小説。
感想・レビュー・書評
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レビューに入る前に少しばかり前置きを。
以前読んだ『咲かせて三升の團十郎』にて、歌舞伎など娯楽全般を取り締まった南町奉行 鳥居耀蔵。『咲かせて…』ではさすが團十郎一座の天敵とだけあって、話し方は陰湿、目つきや顔色もとことん悪かった。舞台であれば、青い隈取りが施されているに違いない…
しかし意外にも、(團十郎の他に)読後わが心に留まったのは鳥居耀蔵だった。気になって調べた末、晩年の彼が登場する本書にヒットした…というのが経緯である。
計6話がおさめられており、いずれも1話完結型。タイトル及びストーリーは全て能や狂言の演目にちなんでいる。あれだけ嫌悪していた娯楽に全話丸ごと関わるのは、見方によれば滑稽に映るだろう。
直属の上司だった水野忠邦を裏切った罪により23年間幽閉されていた耀蔵(以下、本書に合わせて胖庵(はんあん))が、維新後の東京を嘆くところから物語は始まる。『咲かせて…』では風紀取締のついでに私欲に走る悪代官だったが、ここでは真面目一辺倒の遊び心がない人間という描写だ。
そして徳川家のバックアップを失った若き能楽師との思いがけぬ接触が、頑なだった胖庵の心を溶かし始める。
「何が古く、何が新しいかなぞ、考えるな。ただ己の道だけを見つめ、そのために精進すればよい。それが新しき世を器用に渡れぬ者の定めじゃ」
不平を垂れながらも胸中では相手のことを認めていたり、かつての江戸を懐かしんでいる。老い先短く何の権力もない孤独な隠居に成り下がっても、今の自分に出来ることをしたい。
だから、衰退の途を辿る能の道を選んだ豊太郎を自分と重ねたり、自分が出会った人々の窮地に四の五の言わず駆けつけた。(ご隠居が暗躍する図が水戸黄門チックだったし、毎回ナイスタイミングなのもちょい引っかかったけど笑)
それから、胖庵と行動を共にする豊太郎くんの思いやりスキルが16歳とは思えない高さ!彼もまた出会った人々のために東奔西走。そのうえ胖庵の現役・幽閉時代をリアタイで知っているわけじゃないのに、彼の心痛を不憫に思い、誰よりも慕っている。
読後胖庵の最晩年を調べてみると、物語のラストから翌年、多くの子や孫に見守られ臨終を迎えたという。
好好爺ではなかったと思う。ただ新しき世に取り残された人々の世話を焼く一方で、いつも家族のことを気にかけていたのは確かなのだろう。
團十郎が表立って人々の心を救ったヒーローだとすれば、晩年の胖庵はさながらダークヒーローか。 -
ご一新後の江戸の変わり様に一喜一憂する人々。
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天保の改革で蘭学や歌舞音曲を弾圧し、「妖怪」と嫌われた鳥居胖庵。維新後の変化を嫌う胖庵は、あるとき若くして能を志す若者・豊太郎と出会う。急速に進む近代化のなかで、古いものにこだわって生きる二人の、ねじれながらもつながりあう人間関係が心を打つ。
胖庵と豊太郎には、いくつものねじれがある。かつて能を弾圧し嫌う胖庵と、その能を志す豊太郎。70を超える老齢の胖庵と、10代と若年の豊太郎。偏屈で居丈高な胖庵と、素直でまっすぐな豊太郎。なにもかもが対称的な二人。それでも、世の中が変わっていくなか、かろうじて江戸の匂いを残す能が、胖庵にとって心の拠り所のようにもなっていた。でもだからといって、胖庵はそれを認めようともしない。
それでも、二人はどこか通じ合っている。ねじれのなかの、二人をつなぐわずかな「つながり」が、鈍いながらも確かな光となって私たちをつかむ。そしてその光は、なぜか「古いものでもきっと残っていくに違いない」という未来への希望も感じさせてくれる。 -
明治初期の 負け組となった人々の矜持
古いとき新しいとかではなく 自分の信じることをすれば良い
物事を大局から見ることができる人が どれぐらいいるだろうか。 -
28年振りに維新後の東京変な戻って来た悪役界の超大物 鳥居耀蔵を通して、江戸時代の文化が失われていく町の様子を描いた作品。
妖怪とまで言われながら徳川の世を守りたかった鳥居からすれば西洋風にかぶれた風潮が許せなく、また自分が弾圧してきた能や大衆娯楽がかたや凋落、かたや逞しく生き残っている様を見て複雑な心情のなかでの行動など、非常に上手く描かれている。
この話は現代にも通じるところが多く、グローバルスタンダードとタイパ、コスパの波に負けず日本の伝統を残していきたいと思いました。 -
202210/面白かった!鳥居耀蔵になんならちょっとした愛嬌も感じるほど、さすが澤田瞳子うますぎる…。感涙と胸アツの読後感、名残の花というタイトルも納得、見事だ。
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鳥居耀蔵を主人公にしたら、一筋縄ではいかない作品になるだろうと思ったけど、さすがに、澤田さん、非常に面白い話だった。歴史は一面からばっかり見てはいけないということだろう。
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華々しい経歴の主人公が
失意のうちに老いて登場すると
普通は、回想で物語が展開するが
この作品は違う。未来に進み
ジジイがいい感じに成長していく。
1話目と後半で別人のような
イケメンならぬ
イケジジイへの変化が
面白い! -
「妖怪」と恐れられた元南町奉行の鳥居耀蔵。
失脚し、23年もの幽閉の後、目にしたのは
明治なり「東京」とかわった街の姿だった・・・
老武士の憤懣
能役者たちの矜持
それでも生きていかなければならない人々を描いた良作
著者プロフィール
澤田瞳子の作品






本書は単行本の方で読みました。
鳥居耀蔵を良い役の主人公だなんて、そんなの許せん!
という気持ちから紐解い...
本書は単行本の方で読みました。
鳥居耀蔵を良い役の主人公だなんて、そんなの許せん!
という気持ちから紐解いたのです。でも、許せんのは変わらないけど、読んだら、まぁこういう老後も良いかなと思いました。
許せん、という気持ちは40年前の日本思想史研究室のみんながそれで意見が一致したからです。
こんにちは。コメント有難うございます!
悪代官 鳥居耀蔵が主人公⁇と、半ば恐いもの見たさで今回拝読しました笑 歌舞伎が...
こんにちは。コメント有難うございます!
悪代官 鳥居耀蔵が主人公⁇と、半ば恐いもの見たさで今回拝読しました笑 歌舞伎が好きなので、それを排斥しようとした耀蔵を自分も鼻持ちならんやつだと考えていました。
彼の肩を持つようなレビューになってしまいましたが、長年の幽閉も手伝って少しはこたえたのかなー…とは思っています。許そうとは思いませんが…笑