- 本 ・本 (448ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101046518
作品紹介・あらすじ
産婦人科医の北条衛は、伊豆中央病院に異動を命じられた。予期せぬ都落ち、しかも鬼の老教授が医局を支配していると聞く。着任早々、その教授と手術を行うはめになった衛。彼は、地域の命の砦を守る重責を感じつつ、個性ゆたかな先輩医師に学びながら成長してゆく。激務に疲れた衛に活力を与えるのは、伊豆半島の海と山の幸だった。現役医師が描く、興奮と感動の医学エンターテインメント。
感想・レビュー・書評
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伊豆半島。温泉や景勝地、魚の幸・山の幸にも恵まれた豊かな土地だ。
けれど近年、伊豆でも若者の流出とともに過疎化も始まっている。医療施設の減少も目立つがそれは産婦人科において特に深刻である。
そんな伊豆の産科医療を支えているのが伊豆中央病院、通称「伊豆中(いずなか)」だ。
伊豆の新しい生命の誕生を第一線で守る伊豆中産婦人科医たちの奮闘を描いた医療ドラマ。
北上次郎オリジナル文庫大賞。
なお物語は主人公の北条衛の視点で展開するが、第4話「城ヶ崎塔子の夏休み」のみ先輩医師の城ヶ崎塔子の視点で語られる。
◇
天渓大学医学部附属病院の医局員、北条衛に急な異動の辞令が出た。異動先は伊豆中央病院。
ここは産科救急特化型の施設である総合周産期母子医療センターであり、産科関連業務が中心だ。
東京の本院を離れるということは、最新の情報や先進医療から遠ざかるということに繋がる。だから地方への異動は、ただでさえ気が進まないものだ。
ましてや婦人科の腹腔鏡手術のエキスパートになるべく研鑽を積んでいた衛にとって、産科医療にしか携われない病院への異動は、キャリアの中断を意味する。
さらに衛の前任で赴任半年で逃げ帰ってきた佐伯によると、三枝教授によるワンマン体制や教授ルールと呼ばれる謎の決まりなど、息が詰まるような環境だと言う。
まったく気が重いだけの異動だが、衛には断るという選択肢はない。1年したら呼び戻すという口約束を信じてしぶしぶ伊豆に赴任したのだった。
そんな後ろ向きな気持ちで着任した衛を待っていたのは……。 ( 第1話「カイザーと着任祝いの金目鯛」) ※全5話。
* * * * *
主人公の北条衛が、数々の出産や帝王切開を介助し、さらに困難を極める手術の前立ちを務めることで、産科医として成長を遂げていくというストレートな展開ですが、非常に胸を打つストーリーになっていました。
医師としてのキャリアの中断を甘受し、悪い噂の絶えない職場へ赴いた衛。当初は警戒心をあらわにし、病院の体制に疑問を感じていました。
けれど彼を迎えた人たちの温かさや高邁な姿勢に触れるうちに、医療に携わる者に最も必要なものは何かということに、衛は気づいていきます。
衛の意識を変えていった人たちが、実に魅力的です。
まず、気難しい暴君のように見える院長の三枝教授。
実は伊豆の産科医療の将来だけでなく勤務医の人生にまで配慮する、懐の深さと情の深さを持ったリーダーです。
また、医師としての見識や手術で見せる判断の的確さ、手技の正確さやスピードは神懸かり的で、衛は思わず見入ってしまうほどです。
次に、衛の直属の上司である、産科部長の城ヶ崎塔子。
小柄でスリムな身体のいったいどこにこれだけのパワーが ⁉ と思うほど、 明るく周囲に気を配りつつチームを鼓舞し、急患の多い現場を引っ張り続けます。
また、患者に対しても行き届いた対応を忘れない姿勢は、衛の心を打つほどです。
その他にも、下水流明日香とスキンヘッド田川という2人の先輩医師、医局時代の後輩だったイケメン神里、塔子に心酔する看護助産師の八重も一騎当千の強者で、まさに役者が揃っています。
いずれも産科医療に誇りを持ち、常にベストを尽くそうと努める。その熱量は、読んでいるこちらの心まで熱くしてくれるようでした。
「医は仁術」。読後、最初に浮かんだのがこのことばです。
もちろん医師としての価値観は様々でしょう。だから東京の本院での順調な出世を第1に考える医師がいるのを批判するつもりはありません。
それでも、伊豆中に医師生命を捧げてキャリアを終えようとする三枝や塔子の高潔な精神に魅力を感じずにはいられませんでした。
余談ですが、毎話登場する料理やクラフトビールの美味しそうな描写も、作品の大きな魅力です。これもぜひ、お楽しみに!詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
伊豆といえば、駿河湾や伊豆高原など風光明媚な印象がある。日本の地形の始まりが凝縮されているようさえ感じる。そんな場所へ若手医師の北条衛が赴任する。本作は6編の短編で構成されている。
藤ノ木優さんらしく、食事と医療を上手く織り交ぜている。食べるということは生きるということでもある。金目鯛が食べたくなった。
医療現場での奮闘とほっとする場面とが絶妙なバランスだと感じる。ひとりひとりが患者のために向き合い、それを助け合う姿が美しい。医療現場に限らず、社会生活を送る上で、それはとても大切だと思う。
医療のAI化やロボット化は一面では技術として有効なのだろう。しかし、患者のケアは生身の人間対人間であるからこそ、温かさや優しさが伝わり、大きな治療薬となるに違いない。
そんな人間関係は北条衛にとって、大きな成長の糧となっていく。周りの塔子さんや三枝教授の人間性が支えとなっている。最新医療とは何をもって最新というのだろうか?冒頭で印象を記述したが、伊豆というはじまりの地は、新たな医療の始まりであったり、北条衛の本物の医師への始まりという意味で、このロケーションはピッタリだと感じた。 -
わたしの尽きぬ悩みの一つに「病院が遠くて通うのが大変」というのがあります。持病があり専門医に診てもらう必要があるのですが、住んでいる所は医療過疎地域です。
この小説は、同じく医療過疎問題を抱える伊豆半島が舞台になっていて興味深く読みました。
伊豆半島にある産科救急特化型の医療センターに、入局5年目の医師、北条衛が東京の大学病院から異動でやってきます。前任者から聞く話によると、この病院の医師たちは曲者ぞろい、トップの教授は頑固で絶対的な権力を持っているとのこと。
過疎地域に住むわたしは、病院の少なさや高度な医療を受けるためには遠方まで出向かなければならないことに不安を持っていますが、都落ちしてくる医師もまた、不安を抱えてやってくるんだろうなと思いました。でも、伊豆は観光地です。風光明媚な景勝地であり、地元でとれる食材をいかした美味しい食べ物がたくさんあります。食事の描写が素晴らしく、食べることは生きること、そして、幸せなことだと改めて感じました。
産婦人科は、命が産まれる瞬間に立ち会う「生」の喜びとともに「死」のリスクが隣り合わせにあります。伊豆半島の交通事情により、車の運転が困難な山道を2時間かけて妊婦が運び込まれるケースもあり、緊迫する場面の連続です。命を預かる現場で必要なことは何でしょうか。豊富な知識と高い技術を身に着ける努力は大切だと思います。でも、どんなに力を高めても、人は全知全能の神にはなれません。人として生死をわける危機に向き合う時、瞬時の判断、決断ができる底力は、日常生活の積み重ねの中にあるのではないでしょうか。自然や人といった身の回りの世界と日々関わりつながって、失敗したり傷ついたりしながら信頼を築き学んでいくことで、成長できるのが人間なのでしょう。
過疎地で暮らす不安の中に「あした」の希望を見せてくれる作品でした。 -
えがったよね。どの章が良いとかよりも通して5人のチームワークが完成したって事。ラストにほとんど出てない三枝先生登場と謝罪と北条の将来を守る絶対良い人 やっぱり伊織の手術は衝撃的で塔子の告白で震えた。大将の一言にワサビの涙腺のとあそこが1番良かったです。常に緊迫感のオペに対岸の美味しい食べ物に まぎわもこんな美味しんぼ的なリアル食の物語で一挙両得で得した気分です。三枝先生に自分の意思を伝える正解で 何故なら大将と女将に言葉を贈られたから。成長した未来のチームも見てみたい 北条良かったよ!
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職場で勧められた本。
終盤にかけて涙を堪えながら読んだ。
キャリアを積むことより大事なことがある。使命感や志のあるひととともに働けることは幸せだ。自分もそれに能う人間でありたい。そんな集団で働きたい。
三枝、田川、塔子さん。みんなすき。 -
都内の大学病院で腹腔鏡手術の手技を磨いていた北条衛は、伊豆中周産期センターへの異動を命じられる。しかも、鬼の老教授が医局を支配しているという悪評も聞こえてくる。
医療系の物語としても面白いんだけど、伊豆観光案内、伊豆グルメ情報誌?としても大変優秀。食べ物の描写がうまくって思わず夜中にビール飲んじゃったし、伊豆グルメを堪能しに行きたくなっちゃった。
自分のお産の事を思い出しつつ、お医者さん側から見るとこんな風なの?と思ったり。 -
静岡のおいしい食べ物がこれでもかというほど出てきて、描写もイメージしやすくとても読みやすい。クセが強めの産科メンバーもまた書かれ方が魅力的でどんどん引き込まれる。続編もあるのでそのまま抵抗感なく読めてしまう。、
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藤ノ木優『あしたの名医 伊豆中周産期センター』
2023年 新潮文庫
初読の藤ノ木優作品。
いやーおもしろかった!感動しました!
もともと医療系好きなんですが、書店で直感的にこれは好きそうだなと思い購入。
著者は現役の産婦人科医。
切実な現場も実体験としてあると思うので、とても鬼気迫る緊張感もありますした。
それに加えて伊豆のおいしそうなグルメや人情なども加わり、楽しく美味しい作品でもありました。
でもそのグルメ情報も最終的にはとても重要なアイテムとなっていたり。
終盤以降は切迫感と感動が怒涛に嵐のように押し寄せてきます。
こんなにも医療の緊迫感、楽しさ、おもしろさ、エンターテインメント性が融合された作品はないんじゃないかな。とても素晴らしい作品でした。
できることなら続編が刊行されればいいな。
その前に早速、刊行されている藤ノ木優全3作品を買ってきました。楽しみです!
#藤ノ木優
#あしたの名医 伊豆中周産期センター
#新潮文庫
#読了 -
今日買って3時間で一気読みしてしまった。著者が医師だからか、良い意味で患者と医師の描写には変に感情に訴えるような場面や表現はない。それでいて患者への思いや医師としての信念はじんわりと伝わってくる。自分の仕事への向き合い方はどうなんだと、ハッとさせられる言葉があちこちに。けして派手さはないけれどじっくりと心に響く、味わい深い一冊だった。あと、いつか必ず伊豆に行きたい!
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出産や手術シーンは、結構はっきりと描写されていて読み応えあり。絵や写真は無いのに、書かれている言葉だけでご飯が想像出来てしまった。お腹すいた。チームの皆が一丸となって妊婦さんを救おうとするシーンはドキドキハラハラ、感動。
著者プロフィール
藤ノ木優の作品





