地中の星 東京初の地下鉄走る (新潮文庫)

  • 新潮社 (2023年11月29日発売)
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  • 本 ・本 (528ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101047416

作品紹介・あらすじ

地下鉄を東京に走らせる。〈非常識〉な大事業を決意した早川徳次。経験も資金もゼロだったが、大隈重信、渋沢栄一を口説き、ついに上野―浅草間を開業する。日本初の自動改札機やATSを導入、日本橋三越本店直結の駅も作った。だが、ライバルが現れた。のちの「東急」の五島慶太である。地下鉄の路線をめぐる非情な戦いが始まった……。夢を追いかけた非凡な実業家の波乱の生涯を描く傑作。

感想・レビュー・書評

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  • 読み始めると停め悪くなった。そして素早く読了に至った。現代史というような範囲であるが、都市の歴史、産業の歴史というような色彩が濃い事項を背景とした、関係者達のドラマということになる。
    表紙カバーのイラストは「地下鉄の電車」と判る。本作は、現在の東京メトロの銀座線の御話しだ。表紙カバーのイラストは初めて走った電車をイメージしていると見受けられるが、現在の銀座線ではこの最初期の車輛を意識したデザインの車輛が活躍中ということも在る。(2022年に久々に立寄った東京で、その銀座線の車輛を見掛けた。古風な外観を意識する鉄道車輛というのは凄く好いかもしれないと思って眺めた。)
    「地下鉄」は、現在の大都市部では「在るのが当然の社会資本」で「便利な輸送サービス」で、大都市や周辺に住んで居る方にとっては「毎日のように利用」というモノだ。これが「国内では全く初めて登場する迄、或いは登場した頃」ということには想い等廻らないのが普通であると思う。そういう想い等廻らない、「当たり前なモノの初めて」というのは興味深いと思うのだが、本作は正しくそういう具合だ。地下鉄を建設して運行しようという想いを抱いた人が建設に向けて奔走し、やがて誰も実際に手掛けたことが無い工事の現場で奮戦する人達の動きが在って、工事が竣工して列車の運行が始まり、その後の様子が在る。本作は現在の東京メトロの銀座線が「初めての地下鉄道」として登場して行くような頃と、現在の東京メトロの銀座線の全体が姿を現して行くような頃の様子という物語である。
    早川徳次(はやかわのりつぐ)(1881-1942)という人物が在る。本作の主要視点人物の一人だ。色々な経過で“浪人”というような立場になった中で英国視察という機会を何とか得る早川徳次はロンドンの地下鉄を知って、東京にその地下鉄を建設して運行する事業を起こすことを夢見るようになる。着工迄のの奮戦や、路線が順次延伸されて列車が動く中での色々なことや、晩年迄の様子が本作で描かれる。
    早川徳次を主要視点人物の一人とした。他にも主要視点人物が在って、適宜それが切り替わり、現在の東京メトロの銀座線を巡る物語が展開している。
    道賀竹五郎(どうがたけごろう)という人物が在る。大倉土木の社員で、初めての地下鉄道建設で現場総監督となった人物である。5つの部門を各々束ねる監督達を指揮しながら工事に勤しんだ人物だ。この竹五郎の目線で、工事に携わった監督達のこと、彼らの相互の関係や、「初めて」という仕事の中で起こる様々な事柄が描かれている。
    五島慶太(ごとうけいた)(1882‐1959)という人物が在る。本作の最後に近い方で主要視点人物となっている。早川徳次の「東京地下鉄道」に対して「東京高速鉄道」という会社が登場する。浅草・新橋の「東京地下鉄道」に対して、渋谷・新橋の「東京高速鉄道」ということで、後に新橋で両者の路線が繋がって現在の東京メトロの銀座線が成立する。本作で、五島慶太は早川徳次が起そうとする事業に協力的だった官僚という立場から、“東横線”を起こして行く事業家になり、「東京高速鉄道」に関わって色々と在るという事柄が描かれている。
    早川徳次はかない苦しい資金繰りで、色々な不利な条件を乗り越えて「東京地下鉄道」の経営を続け、「軌道に乗った」とも言い難いかもしれない中、御本人は「半ば燃え尽きた?」という様子になったと見受けられる。そこに年来の知人、更に友人である五島慶太が殆ど同年代ながらも「父を超えようとする息子」という感じで現れ、2社の路線を結び付けて直通運転にしてしまう。前半の「挑戦の物語」に対するこの後半も少し引き込まれた。
    トンネルの彼方に輝く電車の前照灯は、地中に輝く星のように見えるかもしれない。そんな様子が当たり前になっていく現代への道筋を拓いた多くの人達の物語という本作はなかなかに面白い。広く御薦めしたい。

  • 日本に初めて地下鉄を通した人の物語。
    色々な登場人物の感情が描かれていて面白い。

    もっと長く描いて欲しかった。

  • 東京初、すなわち日本初、東洋初の地下鉄が完成するまでの実話

    創設者である早川徳次さんが主人公で、「前例のない大きなことを成し遂げたい」という気持ちから、イギリスで見た地下鉄を日本にも持ち込むと言うことを決めて、その事業の立ち上げから完成までの壮絶な物語が描かれていました

    地中に鉄道を走らせると言うことに対して、前列が無いので、懐疑的な意見が大勢を占める中、技術的、事業的に成立する見込みがあることを、泥臭く、コツコツエビデンスを積み上げていく姿は壮絶でした

    加えて、地下鉄敷設の工事に携わった面々にもスポットを当て、工事総監督を担った竹五郎さんはじめ、5人の監督、監督同士の意見のぶつかり合い、工事を進めるうえで立ちはだかる様々な困難、新しい技術を導入しながら、工夫しながら、なんとか完成させる姿も壮絶でした

    現在の銀座線、浅草から渋谷までの路線が完成するまでの紆余曲折がまとめられていて、面白かったです

    次回、乗車する機会があれば、色々思いを馳せながら端から端までじっくり乗ってみたいなと思いました

  • 日本初の地下鉄(土の中に電車を走らせるという発想‼️)を作り、地下鉄の父と言われた早川徳次。渋沢栄一が出てきたり、五島慶太とは因縁の相手だったり、今でこそ東京メトロだけれども一度は官のものであったりと、地下鉄普請の苦労もさることながら実名出てきてふうん、と思いました。この工事に携わった人たちを「地中の星」と呼びタイトルにしたセンスは素晴らしいです。

  • 地下鉄の父と呼ばれる早川徳次の生涯を描く。人の活力は欲望を源泉とするのだと改めて思う。何かを成したいと思う強い気持ちが歴史上の人物たちを動かし、金もないのに欧州に渡り、伝もないのに路線の認可を得て、首都のど真ん中で穴を掘り、東洋で初めて地下鉄を走らせた。某放送局の人気番組さながら正に挑戦者たちの物語りである。
    大正の時代に今日ある地下鉄の隆盛を想像し行動した早川徳次を賞賛したい。

  •  へぇーっ!ベルトコンベアは、日本で開発されたものだったんだ。地下鉄を1km造るのと、地上の鉄道を1km造るのでは、ずいぶんとコストがちがうんだ。
     ずいぶんと苦労しながら、主人公(早川徳次)は日本で初めての地下鉄を造った。ライバル敵意な存在である五島慶太のことを、これまでは、強盗慶太という呼び方そのもので理解していたが、この本を読んで、地上の鉄道を造りながら利益を上げて、地下鉄も手がけていった優秀な実業家だったんだとわかった。
     いい本でした。

  • 当時の時代の背景からこのような選択がされてることが勉強できた。感動というよりも学んだ側面が大きい。しかし、ラストの3人の会話、感動した。

  • 大事業に乗り出したのは早川徳次―地下鉄建設の歴史を知ることができる一冊です☝️渋沢栄一や五島慶太といったビッグネームも登場する一方で、現場で働く人々にスポットライトをあてた物語。これから地下鉄に乗るのも路線図を見るのも楽しみになりそう☺️

  • 日本で最初の地下鉄工事の物語。
    時代は第二次世界大戦の前、関東大震災のすぐ後に着工したことに驚いた。
    しかも東京のど真ん中に地下鉄を作るというチャレンジングな発想。
    早川徳次だけでなく、危険と隣り合わせの工事現場の人たちの苦労も描かれ、銀座線の歴史を十分に知ることができ楽しめた。

  • 日本で初めて地下鉄を通した経営者の生涯。演出はあれどほとんど史実なのかなと思われ、男の名誉欲や不器用さがリアルで面白かった。
    結構若い人が仕事の中心となって動かしてるのが意外であり(20代で親方とは…)、人手不足もあったのだろうが熱意ややる気で立場を得て地下鉄開通のような大仕事をやっているのが羨ましくもあった。

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著者プロフィール

1971年群馬県生まれ。同志社大学文学部卒業。2003年、第42回オール讀物推理小説新人賞を「キッドナッパーズ」で受賞しデビュー。15年に『東京帝大叡古教授』が第153回直木賞候補、16年に『家康、江戸を建てる』が第155回直木賞候補となる。16年に『マジカル・ヒストリー・ツアー ミステリと美術で読む近代』で第69回日本推理作家協会賞(評論その他の部門)、同年に咲くやこの花賞(文芸その他部門)を受賞。18年に『銀河鉄道の父』で第158回直木賞を受賞。近著に『ロミオとジュリエットと三人の魔女』『信長、鉄砲で君臨する』『江戸一新』などがある。

「2023年 『どうした、家康』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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