野菊の墓 (新潮文庫)

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レビュー : 152
  • Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101048017

感想・レビュー・書評

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  • 「民さんは野菊のような人だ」この有名な一文は知っていましたが、小説をしっかりと読んだことがありませんでした。明治時代に発表された作品ですが、とても読みやすかったです。

    2歳年上の民子と政夫の恋はとても初々しく清らかなものでした。初恋になるんでしょうね。この時代はまだまだ封建的で年上のお嫁さんなんてもってのほかだし、好きな人と結婚することは難しいものでした。
    だからそばに愛する人がいなくても、心が繋がっていること。がとても大切なことだったんだと思います。2人は政夫の中学入学で離れ離れになっても、民子が余所へお嫁に行ってもお互いを想う気持ちはこれっぽっちも揺るがないものでした。
    想うだけの恋。嫉妬や疑心に苛まれるわけでもなく、ただただ相手のことを想うだけの恋。
    それがどれだけ美しく可憐なものなのか。

    初恋は実らないというけれど、2人にも民子の死という悲しい結末が待っていました。
    茄子畑で見た立派な入日。入日を拝む民子のしおらしい姿。野菊が大好きだと言う民子。山畑で食べたお弁当。村を離れるときに見送りにきた民子……
    そんな民子がいつまでも政夫の心の中で生き続けるのでしょう。そして、政夫からの手紙を胸に亡くなった民子も政夫への想いを貫き通したのでしょう。

    ……民さんは自分の年の多いのを気にしているらしいが、僕はそんなことは何とも思わない。僕は民さんの思うとおりになるつもりですから、民さんもそう思っていて下さい。……

  • 「野菊の墓」伊藤左千夫。1906年の小説、新潮文庫。
    ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」も、真っ青な、ムズキュン恋愛ドラマです。
    ま、オチは楽しくはないですし、ダンスはありませんが。

    関東近郊の農村の、ちょいといいとこの、15歳のお坊っちゃん。
    親戚の女の子で、坊っちゃんの家に下働きに住み込みで来ている、17歳の女の子。
    このふたりが、子供の頃から仲良くて、だんだん初恋になっていって、両思いだったんだけど、女のほうが年上だし、周りが反対して引き裂かれ。女の子は病気で死んでしまった。
    と、いうだけの話なんです。
    コレが素敵な小説です。
    #
    あまりにも有名なンだけど、読んでないなあ、というよくある小説で。特に理由もありませんが、読んでみました。
    オモシロイ。
    読みやすい。
    もうほんと、冒頭に書いただけのお話なんです。

    若いふたりは、毎日のように仲良くしています。
    ただ、微妙に立ち位置は違います。
    お坊っちゃんの政夫くんはお坊っちゃんで、東京の学校に進むことが決まって。
    民子ちゃんは所詮、働きに来ている立場。家事に追われています。文章を書くこともできないんです。
    ちょっと農作業に一緒に行く、とかが、言ってみれば素敵なデートなんです。
    周りがだんだんと、「あのふたりはちょっと恋人みたいぢゃないの」と、心無い当てこすりを言うようになって。
    そのあたりのストレス感が、「ああ、田舎ってこうだよなあ」という妙なリアル感。
    民子のほうが年上だ、ということもあって。政夫が東京に進学して、帰省してみるともう民子は家にいなくなっています。
    実家に帰した。そして、嫁に行くことになった、と。
    そして会えないまま歳月が過ぎて、今度は連絡があって帰省してみたら。
    なんと民子さんは婚家で苦労した挙句、お産がうまくいかずに病死してしまった…と。
    なんともはや、なハナシなんです。
    #
    これがまた、とっても素敵にポエムのような心情豊かな中編小説なんです。
    どこまでいっても、ピュアなんです。プラトニックなんです。
    政夫くんと民子ちゃんにとっては、いっしょにいて、おしゃべりして、農作業とか行って、そんな日常のひとつひとつが、「いっしょにいると楽しいね」なんです。Hとか、そんなの考えもしていません。
    そして、そんな仲良しだったふたりが、恋になっていくステップというか、果実が熟すような温度が、ものすごくくっきりと心情、描かれます。ムズキュンなんてものぢゃないです(笑)。
    そこから先に、ふたりの仲は熟すことなく、ポッキリ終わってしまうんです。現実としては。
    でもだから、お互いに気持ちの中では、終わってないんですね。
    もともと肉体的に性的にどうこう、ということぢゃない訳で。
    誰と結婚しようがどうしようが、瞬間冷凍された「恋」は生きているんですねえ。
    ただもちろん、嫌なことをいわれて、陰口を言われ、親大人のプレッシャーで嫁いだ民子さんは、ほんとに哀れです。
    (ま、現代風に考えれば、結婚した夫のほうだって哀れなんですけれどね)
    そして、民子さんから、政夫さんに連絡できないんですね。文章書けないですから。携帯もメールもラインも無いし…。
    #
    民子さんが死んだあと、握りしめていたのが政夫くんからかつて貰った手紙だった、というラストは、思わず知らずグッと来ちゃいました。そこまでの語り口の素晴らしさ。
    #
    悲劇で、女々しいといえば女々しいのですが、あまりにも無垢な少年少女のお話なんですね。だからなんだか、辛いけど明るい不思議な物語。
    最後は無論、涙、ナミダなんだけど、なぜだか不思議に、いじけた味わいにならない。そういう、他者攻撃とか、恨み節になっていかないポエムな読後感。
    恥ずかしいと言えば実にハズカシイ小説なんですが、素敵な恋愛物語であることは間違いなく。
    奇跡のようなキラキラした少年少女ストーリー。
    #
    そして、このハナシ、伊藤左千夫さんの自伝的実話なんだそうです。
    伊藤左千夫さんにとって、これは処女小説だったそうで。どこかで読んだのですが、仲間の集まりで、作者本人が朗読して発表したそうです。
    そして、最後に自ら慟哭してしまったそう。
    #
    新潮文庫で読んだのですが、「野菊の墓」の他に「浜菊」「姪子」「守の家」の短編3つが入っていました。
    かつての親友の家を訪れたけど、あまり楽しくなかったという「浜菊」。これはちょっと面白かった。
    それから、野菊の墓と同じく自伝的風合いの強い「守の家」。
    これは、もっと少年だった頃のお話で、子守娘と坊っちゃん子供の愛惜のお話。
    10代くらいだろう、という子守娘の、男の子への愛情がこれまたピュアで、グッと来ました。
    どうやら伊藤左千夫さんはこっちに持っていくと強いんですかね。
    #
    「野菊の墓」は何度か映画にもなっています。
    なんと松田聖子さんが民子を演じたバージョンもあるはずです。それは未見。
    大昔に見た、木下恵介監督の「野菊の如き君なりき」(1955)が、なんにも覚えていないんですが、かなり泣けた、という記憶だけ残っています。
    またいつか、再見したいものです。

  • 「民さんは野菊のような人だ。」「政夫さんは野菊がお好きですか?」「僕、大好きさ。」このシーンが一番好きです。

  • 何度目だか忘れたけど、気持ちをピュアに戻したい時に好適な小品。いつまでも色褪せないでホントに古風だけれど 純粋で甘酸っぱくて もどかしくて切なくて、そうだ自分にもこんなのに近い気持ちの時が かつてあったよなぁ 等と大昔を回顧したり ね 笑。あっと言う間に読めるし。

  • 純愛物なのに、文章が情緒に欠けるなぁ…と思って読んでいたけれど、最後の三文は美しい。政夫と民子の想いを凝縮した文章。
    「号泣した」という感想をよく聞くが、わたしはそこまでではなかったかな…?

    「野菊の墓」「守の家」は切なく悲しく、「浜菊」は少し皮肉めいていて、「姪子」は暖かみがあったので、この一冊でいろいろな話を楽しめた。

  • 純粋で、初々しく、そして悲しい恋を描いた表題作。民子との別れや民子の病死の場面はいかにも古典的な感じ。むしろ序盤から中盤、政夫と民子との日常の描写が秀逸。特に2人が山畑の綿を採りに行く道中、民子を野菊に、政夫を竜胆に例えて、互いの気持ちを伝えあうところがこそばゆい。燃え上がるような恋もよいけれど、抑圧された環境下での静かな恋もまたすばらしいものだ。
    表題作以外の『姪子』『守の家』も心が温まる佳作。

  • 「好きの定義とは?」などと中学生じみたことを吐露していたら、涙なしでは読めないと本書を知人に紹介され読んでみました。涙なしでも読めました。小説に答えを求める月間9冊目。「貴方は野菊みたいな人です」→「私は野菊が好きです」。こんなこと言ってみたいわ!やっぱりひかれるからやめとくわ!一番泣きたいのは政夫の筈なのに、周りを思って気丈に(?)振る舞うのは優しさなのか。我を忘れて怒り狂っても、それはそれで深い愛情な気がするけども。こんな場面においても自分を殺すなよと思う。

  • なんて純粋な二人なのだろう。素晴らしい恋。
    「民子は嫁に往った。此一語を聞いた時の僕の心は自分ながら不思議と思うほどの平気であった。僕が民子を思っている感情に何等の動揺を起こさなかった。」
    政夫の民子を思う気持ち、民子の政夫を思う気持ちは、何があっても変わらないということがわかる一文。民子が政夫といるときの無邪気さ、嬉しさが、読んでいるこちらにまで伝わってきてつい微笑んでしまう。

  • 青空文庫さんにて。2人が本当に初々しくて、清らか。切なくて仕方がないけど、それがまた好き。当時の社会を如実に書き出している、ということで授業ですすめられた作品。

  • 当時の時代性がはっきり見えるほど台詞の中のカタカナ遣いと言い回しがいいなぁとひしひし…これは当時に生きている人じゃないと絶対に書けないものだと思う。同時代研究が実に楽しそうな作品。恋だの愛だの、考えずに一緒にいられたらいいのにという二人はとても清純で美しい。それに加えてその美しさは小説の中でしか美しくなりえないのだということも教えてくれる気がする。切ないなぁ…。

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