盗賊 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101050041

感想・レビュー・書評

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  • 新潮文庫版の武田泰淳氏の解説が過不足なく今作を評している。自分も最終章を絶賛する一人。

  • 初期の作品なので読みにくかった。
    失恋した2人の男女が死を決意し、それを誰にも知られることもなく実行する話。表面上は相思相愛の男女で、そんな2人の姿は周りからはさぞ幸せそうに映っただろう。だが実際は死という終着点へと静かに、単調に進んでいく。自死を誰にも気付かれないで成し遂げる。周囲の人間はあたかも結婚したことによる幸福によって死んだのだと思うがそうではない。彼らは失恋した時から、初めから死ぬつもりだったのだ!それはさながら完全犯罪のようだった。

  • 三島由紀夫23歳の処女長編。彼はすでに19歳で短篇集『花ざかりの森』を上梓していたが、この最初の長編小説には初期の三島の作風が色濃く反映されている。すなわち、あらゆる意味において、きわめて観念的な小説なのだ。ここでは、生も、そして死もまた観念の中にしか存在しない。当時の三島には早熟と夭折の天才、ラディゲが強く意識されていたようだが、内容や小説作法は三島に独自のものだ。ただし、こうした登場人物たちの心理のありようを克明に、かつ分析的に描いていくといった手法は、やがては物語りそのもの中に解消していくのだが。
     全体としては、観念的に過ぎる小説だが、作中では第4章「周到な共謀(上)」で、清子が伝家の短刀を取り出すあたりが最も小説的で、また三島らしい表現だ。

  • (2023/12/04 2.5h)

  • 舞台っぽい感じがした。
    仮面のロマネスクとかうたかたの恋とかそういう、、、柴田作品にありそうな感じ(好き)

    と、思っていたら解説でツルゲーネフの初恋の話題があって(バウで合いそう!)と思った。

  • ひとつひとつの文章に読み応えがあり、主人公に共感はできないが追体験をすることは不思議とできた。

    盗賊という表題が表す内容が短い最終章で明らかにされると同時に、それまでの文章が一気に頭の中に蘇るような構成になっていて、読後感がとてもよい。

  • 三島由紀夫23歳の時の長編の「試作」で、確かに30代の時の長編などに比べれば話のなめらかさや言葉遣いなど、名前を伏せられて読んだら、三島由紀夫だとは思わないかもしれないような初々しさが垣間見える。

    章に名前を付けたり、章の始まりにエピグラフを入れたり、そういった試みも面白い。結婚初夜に心中を遂げた二人は傍から見れば愛し合うがゆえに死んだように見えるが、その実互いの心中には別の相手がいた…という構成は、洒落ているし、その後の金閣寺やら青の時代やら宴のあとやらでの実際の事件と、そこに至る人物の内面を描く三島の十八番の萌芽ともいえるのだろう。

    …そうですわ。私たちは出合いました。私たちは前世からその約束をしていたのですわ。…私はもう、生きていることの夥しい浪費に耐えられなくなりました。死ということは生の浪費ではありませんわね。死は倹しいものです。…死という手段にまで依った私の愛の吝嗇が彼を破滅させる日を待って死ぬのです。…花が散り果実が熟れて落ちるように、私たちも季節の命ずるままに死へ歩み入る時が来るのでしょう。誰にもまして私達は幻影の真の価値を知っています。世間の人たちは、私達に、幸福な初恋人、幸福のあまり共に死んだとしか思われない恋人同士の幻影を見出すでしょう。しかしこの誤った幻影も、私達の懐く幻影同様に空しく、それ故に久遠であり、究極に於て私達のそれと一つ物であるとはいえないでしょうか (第三章 出会より)

    「何のために生きているかわからないから生きていられるんだわ」ー彼女は寧ろこう言いたかったのだ。『私と藤村さんとは何のために生きているかはっきり知ってしまったから死ぬのだが、もしかしたらそれが現在の刻々を一番よく生きている生き方かもしれない』と (第四章 周到な共謀(上))

    「家に伝わっている刀なの、清子これを使うつもりだったの」…彼は刀身を抜いてみた。あたりの空気が色を失って冴えた。…解けない算術を彼は繰り返した。その白い咽喉+銀の短刀。それが=血潮と死、という風にどうしてなろうか。白と銀とからいかにして赤が生れえよう。彼女はこの算術を誤ったのではなかろうか。(第四章 周到な共謀(上))

    …清子と明秀は、自分でない自分の姿と、自分である相手の姿とが、微妙に交錯するように思われてそこに立ちすくんだ。…そして鏡同士は、その幻を介してのみ語り合うことができた。形と影とは隈なく相照らし、見分けがつかなくなった。形である影が、影である形と、親しげに微笑をとり交わすこともできた。…(第四章 周到な共謀(上))
    …この幻影の仮面ーその抱く幻の着物にすぎない明秀を認知しえた。清子が明秀の空しさを清子自身の空しさとすりかえ、明秀も清子の空しさをわがものとして、二人は全く入れかわった正反対の方向を正反対の宇宙を夢見ていた。そこに二人の無上の共感が根ざした。二人は各々の背後に率いるはてしれぬ虚空によって充たしあったのである。(第五章 周到な共謀(下))

    美子は顔をあげてはじめてまじまじとこの類いまれな美貌の青年を見詰めた。二人の目が傍目には甘美に出会った。しかし目を合わせた途端に、二対の瞳は暗澹とみひらかれ、何か人には知られない怖ろしい荒廃をお互いの顔に見出だしでもしたかのように、お互いに相手の視線から必死にのがれようとし、この醜悪な予感が彼らの目から彼らの頬へと移行し、その頬を夜明けの海のような暗い青みがかった色調で覆い、その唇を死灰の色と味わいで充たすのに任せたまま、しばらくは恐怖に縛められて立ちすくんでいた。美子のほうが先に、戦慄しながら、辛うじて二歩三歩後ずさりした。二人は同時に声をあげてこの怖ろしい発見を人々の前に語りたい衝動にさえ駆られていた。今こそ二人は、真に美なるもの、永遠に若きものが、二人の中から誰か巧みな盗賊によって根こそぎ盗み去られているのを知った。(実行ー短き大団円)

    改めて二人が情死したことは報告の形で一文述べられているだけで、その時間の前後、その日の前後のことは一切語られていないのがいいよね。私だったらそこを描きたくなってしまう。

  • ゆっくり呼んでしまうと行ったり来たりしてしまう小説を読むのに足踏みしてしまう。

    ただ情景展開が進むだけではなく、男女のお互いの心理的な背景や感情を己の価値観や性格を冷静に分析している様があり、2人の情死は冷静なもので淡々と計画的に勧められたものであったと考えられる。生きている理由から死への理由というものが、本来の失恋から来るものと呼ばれると考えるには、原田美子とのエピソードが薄く、彼女への愛の深さや厚みをもう少し描いてほしかったとも考えられ、脆さがあった様に思う。

  • 表題はメタファーなのだろうけど、全体としてとても難しかった。最後の盗賊の説明も理解できたかどうか、わからない。

  • 「今こそ二人は、真に美なるもの、永遠に若きものが、二人の中から誰か巧みな盗賊によって根こそぎ盗み去られているのを知った。」
    最後の一文に全てが詰まってて狼狽した。心中の理由が愛し合ってるわけではないというね…いつにも増して最後に向かって見事な運びだった。しびれる読書体験

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著者プロフィール

本名平岡公威。東京四谷生まれ。学習院中等科在学中、〈三島由紀夫〉のペンネームで「花ざかりの森」を書き、早熟の才をうたわれる。東大法科を経て大蔵省に入るが、まもなく退職。『仮面の告白』によって文壇の地位を確立。以後、『愛の渇き』『金閣寺』『潮騒』『憂国』『豊饒の海』など、次々話題作を発表、たえずジャーナリズムの渦中にあった。ちくま文庫に『三島由紀夫レター教室』『命売ります』『肉体の学校』『反貞女大学』『恋の都』『私の遍歴時代』『文化防衛論』『三島由紀夫の美学講座』などがある。

「1998年 『命売ります』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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