永すぎた春 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101050102

作品紹介・あらすじ

T大法学部の学生宝部郁雄と、大学前の古本屋の娘木田百子は、家柄の違いを乗り越えてようやく婚約した。一年三カ月後の郁雄の卒業まで結婚を待つというのが、たったひとつの条件だった。二人は晴れて公認の仲になったが、以前の秘かな恋愛の幸福感に比べると、何かしらもの足りなく思われ始めた…。永すぎた婚約期間中の二人の危機を、独特の巧みな逆説とウィットで洒脱に描く。

感想・レビュー・書評

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  • 三島由紀夫によるラブコメ。
    家柄の違いを乗り越えて晴れて婚約者となった若い男女に課せられた一年三ヶ月の婚約期間。ロミオとジュリエット効果が薄れたゆえの倦怠期と危機、そして成長を、周囲の人々の姿とともに、一年の巡りを通して描いています。

    T大法学部に通う郁雄と、古本屋の娘の百子。二人は一月十五日に婚約した。但し、結婚は郁雄が大学を卒業する来年の三月まで待つことが条件。

    二人は幸せを噛み締めながらも、「公認の仲」となっては、逢瀬も百子の自宅訪問となって単調な日常と化してしまい、なんだか味気なく、違うものを求めてみたり。
    相手とは違うタイプの異性に誘惑されたりすれば、ちょっと意識が向いてしまったり。

    そんな日々の中で、決して悪い人ではないのだけど思慮なく感情の赴くままに動いてしまうタイプの郁雄の母や、浮世離れしているようで意外と頑固な百子の兄の言動に振り回されたりもして。
    かと思えば、予想外のところから本当に悪意のある人物に遭遇してしまったり…。

    全体的にはなんてことない展開なのだけど、さっぱりした語り口と、主役の二人以上に、周囲を固めるキャラの個性と人間臭さがしっかり機能して展開をリードしていて、サクサク読めるし、後味も良い作品です。

    個人的には、郁雄の歳の離れた友人である、妻子持ち学生の宮内君が好き。なんだか掴みどころないけれど落ち着いていて、ちゃんと友人の相談事を聞く彼は、本編では全く書かれてないけれど、きっと、いろんな経験をして今そこにいるんでしょう。

    この作品は、三島の代表作となった「金閣寺」と同時期に書かれていたそう。
    重苦しいものを書きながらも、思考の整理や、はたまた、溜まって濁る感情の息抜きとして、平凡生身の人間が織りなす喜劇を書きたかったのでしょうか。
    (それにしても、4月に出会ってから半年後の9月に結婚を意識、周囲を説得して翌1月に婚約って、令和の今でも、なかなかのスピードですが…。却って、「燃え上がる期間」よりも長くなった一旦クールダウンできる婚約期間があったの、よかったんでない?と、いい歳したおばちゃんとしては思ってしまう。階級を超えた恋愛結婚がまだ珍しかった昭和30年ごろは、この設定こそドラマチックだったのかな。)

    ちなみに、タイトルの「永すぎた春」からは、幸せな二人に悲劇が襲いかかるような印象を持たれるかもしれませんが、そんなことはなく、ちゃんとハッピーエンドなので、ご安心ください。

  • 婚約が決まったが結婚式はおよそ1年後、それまでは肉体的な繋がりを持たない夫婦の間に起こる出来事を描いた話。
    確かに、婚約が決まったとなれば恋の好敵手は消えて、世間一般的には幸福だと云われるものだろうが、当人たちにとっては味気ない不幸に近いのかもしれないと思った。
    個人的には、「結婚するんだったらさっさとしなさい!」みたいな三島の投げやりなメッセージ、それでいて純粋な恋模様を尊ぶ様相が感じ取れた。
    やっぱり文章が洗練されているので、こうした大衆寄りの小説だとしても何だかんだ絢爛豪華な作品になってしまうのは氏の力量か。

  • 三島由紀夫に関しては何作か読んだが、まさに純文学といった内容。

    男女が婚約をしてからさまざまな災難や困難に晒されてはそれに立ち向かうという内容だが、登場人物の行動に妙にリアリティがあるところが面白い。
    身分違いと言って結婚を反対されたり、婚約後に浮気のような行動に知らず知らずのうちに流されていたりだとか、取り止めもないような出来事が流れるように描かれている。

    ただ、個人的には刺激が少ないなあという印象。終わってみれば割と円満というかプラスにもマイナスにもなってないような。純文学って難しい。

  • 潮騒もそうであるが三島由紀夫のこういう美しい恋愛作品はとても好きである。

  • 法科大学生と、大学の門前に店を構える古書店の娘とが婚約してからのおよそ1年間に渡るラブコメディ。まさか三島がこんな軽妙な昔の大映映画みたいな話も書いていたとは知らなかった。

  • 軽くて明るいエンターテインメント小説としてあっという間に読んじゃいました。同時並行で『金閣寺』を連載しながら、こちらを息抜き的に書いていたのだろうとは思いつつ、同時並行って単純にすごい…笑

    読んだ感想としては、三島の『音楽』と同じように、結局話もメインカップルはハッピーエンドと、より大衆向けということもあるかもしれないが、なんというか可愛いなと思ってしまいました。
    タイトルも洒脱ですよねえ~~

    郁雄と百子のすったんもんだは可愛さもあり、郁雄ママも愛嬌があるし、と面白かったです。そう、単純に楽しかった。

    個人的にはT大学(東大じゃなくてT大というのはなんでかな、そっちの方が当時おしゃれな感じがしたのかな?)の周辺うろうろが懐かしくもあって、人一倍心が動いていた。同じ法学部の友達に勧めようと思います笑

    …学生同士は、こんな会話をしながら、正門へ出る道のいちょう並木のあいだを歩いていた。…午後の講義がおわる。空はまだまだ明るい。春である。…カツカツと靴音を立てて、正門を出るときの心持…それに上野の花はもうおしまいだから、大学の裏門から池ノ端へ出て、お花見をしようなどという酔狂な気持ちも起きない…(p.9)

    法学部の建物は安田講堂前の正門側で、そこの銀杏並木がありありと目に浮かぶ。上野の桜が綺麗な時は、大学の裏門から池ノ端に出てお花見に行ったり、授業をエスケープして美術館に行ったりしたした笑と、なつかしさがこみ上げてきました。

    私たちの時は一番厄介なのは三年生の民法第三部だったけれど(私たちのすぐ後から民三が必修でなくなったと聞いて驚いたものだ)、
    …厄介の第一は民法第二部で、この科目で優をとるのは、並大抵なことではない。その上、第二学年からは、商法第一部とか、行政法第一部とか、煩雑きわまる新科目が加わっているのである。…(p.26)
    という紹介がそうそうそうなのだよ、とまた懐かしくなって、美しい学生生活の思い出がよみがえってくる笑

    あの学生時代に戻りたいものです

  • 結末は、バットエンドを期待してしまった。それだけ、夫の心が弱い描写とかが好きだった。こんなにストーリーから考えたのは久しぶり。面白いと思えたからかな。

  • 紆余曲折ありながらその愛を確かなものにしてゆく若者ふたりのラブストーリー。郁雄と百子の恋愛はどこまでも爽やかでどこまでも快活で、立ちはだかる幾多の障害さえも糧にし成長していく。

    物語としては一本調子でラストもハッピーエンド。『永すぎた春』という題名も前向きな意であり、やや物足りなさを感じてしまったのは私だけであろうか。ゆえに東一郎とつたの恋の悲哀が輝る。

  • とてもライトな作品。読みやすかった。障害や苦難がある恋愛の方が燃える、というのを体現した作品。

  • 郁雄と百子が揃いも揃って不器用ながらに色々考えて相手の気持ちを読んで動いているのが微笑ましかった
    意志の強さ大事、思い切りも時には大事

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著者プロフィール

本名平岡公威。東京四谷生まれ。学習院中等科在学中、〈三島由紀夫〉のペンネームで「花ざかりの森」を書き、早熟の才をうたわれる。東大法科を経て大蔵省に入るが、まもなく退職。『仮面の告白』によって文壇の地位を確立。以後、『愛の渇き』『金閣寺』『潮騒』『憂国』『豊饒の海』など、次々話題作を発表、たえずジャーナリズムの渦中にあった。ちくま文庫に『三島由紀夫レター教室』『命売ります』『肉体の学校』『反貞女大学』『恋の都』『私の遍歴時代』『文化防衛論』『三島由紀夫の美学講座』などがある。

「1998年 『命売ります』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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