午後の曳航 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 1555
レビュー : 175
  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101050157

感想・レビュー・書評

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  • ★★★
    13歳の登は、隣の母の部屋への除き穴を見つける。
    父は5年前に死んだ。母の房子は33歳の女盛り。
    そして目撃した、母と船乗りの竜二が抱き合う姿、刹那に響き渡る汽笛。
    その瞬間は登にとって人間の美の頂点というべき特別な光景だった。

    竜二は一見寡黙だが内心に大仰なロマンスを持ち合わせていた。
    登は竜二に理想の男の幻想を見る。
    登には”首領”を中心とした、メンバーを番号で呼び合う仲間たちがいる。
    首領は少年たちに、残虐性を孕んだ美学、哲学を説く。

    竜二は房子との結婚のために船を降りる。
    そこここで見え隠れする小さな違和感。
    竜二が普通の男になることに自分の美学が崩れた登は、
    ”首領”の先導により少年たちと共に、竜二を洞窟へと誘う。
    少年たちはその幼い手に、麻酔やナイフを持っていた…。
    ★★★

    前半「夏」は、男と女が出合い、少年の危うい思春期を示し、そして別れによりギリギリに保たれた理想の描写。
    後半「冬」は、理想の瓦解。
    母の恋人に殺意を抱きますが、マザコンとかオイディプスコンプレックスとかではない、あくまでも自分が理想とする男の幻想が崩れることを防ぐための怒りが原動となっている。そして三島自身の、自分自身である少年に殺されたいという欲望も含んでいるそうな。

    しかし登の殺意がなくても、竜二自身にも迷いがあり、このまま結婚しても常にどこか別の所を見る生活だったのかな。竜二と房子が完全に幸せな状態でないように書いたのも、危うい均衡を保っていると思う。

    ≪以下ネタバレ≫

    三島由紀夫のノートによると、小説の終わった後に、少年たちの解剖シーンも準備していたようですね。
    前半で自分たちの理性の訓練のために猫を殺し解体することとつながっているようで。
    しかし前半の猫でその可能性を示し、後半はここで辞めたのはよかったと思う。

  • 三島由紀夫の文学について語られる時について回る物語の復権について、個人的にはあまり興味がない。なので、まるで古典から参照したかのような登場人物たちの造形にはへぇとしか思わない。ただ、この作品で現実とのリンクとして少年法が語られた時には唸った。

  • 母親の裸体をのぞき穴から夜毎に見つめ続ける13歳って…… まずそこがおかしい!

    のぞき穴から見える部屋。さらにその部屋の窓越しに見える海、聞こえる船の汽笛。それらが13歳にとっての世界の全てだ。母親が新しい恋人を部屋に連れ込んで以来、その少年の世界が崩れ始め……

    一方、母親の恋人となった船乗りが船を捨て、陸に上がりそこで日常生活を営もうとすると、彼の世界もまた崩れ始める。

    奇妙な二重構造を持った小説で、どう物語が転がっていくのか見当もつかなかったが、最後は少年と元船乗りの世界が奇妙な一致を見る。

    この作品でも三島の変態ぶりが見事に発揮されている。女の汗と肉の匂いがむんむんして、匂いフェチの私にはもうたまりません! 官能小説より官能的。

    かの松井秀喜が敬愛する小説家が三島だそうで、中でも一番のお気に入りがこの作品だそうだ。これって、「私は変態です!」って宣言しているようなものじゃないのか?

  • 頁数少なめだが中身は超ハード。さすがは天才・三島由紀夫と感じる作品。危うさと艶かしさが同居する前半部「夏」から加速的に凶気が増幅していく後半部「冬」に移行していく構成、思春期の複雑な感情をより研ぎ澄ます心理描写。どちらも見事だ。
    そして圧巻は戦慄のラスト。グロテスクなのにスタイリッシュ。何ともかっこいい一文で締め括られている。
    昭和30年代にこの作品を書いた三島の頭の中はいったいどうなっているのか。時代を先取りするどころか完全に超越している。

  • 三島作品第2弾。前半は美しいけれど何となく物足りなさがあるけれど、エンディングに向かうにつれてちょっとした凶気が滲み出ていき、最後は衝撃的な結末。13歳であんなに考えていなかった。少し血腥い話をあんなに綺麗に書けるなんて、やっぱりすごい作家だったんだな、と改めて感服。

    • くどうさん
      初めまして!!
      凄い作品でしたね。ほんとに...!!
      少年たちのあの危うさがほんとに怖かったですね!
      初めまして!!
      凄い作品でしたね。ほんとに...!!
      少年たちのあの危うさがほんとに怖かったですね!
      2018/10/26
  • 酒鬼薔薇聖斗の出現を予言した!やっぱり三島は凄い!!という意見もあるようだが、それはそれで置いておいて良い事象だとは思う。頭でっかちで美学を持った少年達の持つ、純粋で歪んだ「大人」という概念と、彼らの繊細で残酷な心を上手く表現した、危うい一作という印象だ。

    芥川の『羅生門』よろしく、本来の結末はもう数ページ存在していたらしいが、あそこで終わらせるのが正解だろう。『ライチ光クラブ』が好きな人にお勧めしたい。

  • 私にとっては初・三島由紀夫だった。さすがだな~という感想。
    三島氏自身はエリート育ちなのに、よくこういう小説を書けるなと思う。少ない登場人物の心理描写が鋭く光っている。
    物語は、主人公の少年とその母、母の恋人で船乗りの男がメインで、少年の仲間たちも影響する。少年はある日、壁の穴から母の新しい恋人と母との情事を覗き見てしまう。少年は船オタクで、航海に強い憧れがあった。3人の視点から次々に映し出される心もようが鮮やかである。
    よくこの手の格調高い小説には、理解不能な比喩や、文字面を眺めても頭に入ってこない表現も散見されるが、三島の本にはそれがなく、美しい文章でありながら、ストレートに響く。それがまた複雑で矛盾しつつも容赦ないのに、病みつきになってしまうのである。
    とても面白かった。三島の他の本もぜひ読みたい。

  • 成長と大人を悪だと決め込み、それを拒絶するために危ないことを行う少年たち。
    私も小学生くらいのころに、大人と自分は異なる生き物で、絶対にそうならないと思っていた。
    でも現在、私は当時忌み嫌っていた大人になってしまった。
    大人になると、かつて自分もそうだったはずの子どもが怖くなるなんて、奇妙な感じ。

    純粋さと、信じ深さと、残酷さは、もう忘れてしまった。

  • 緻密な構成にため息が出る。
    主人公は前半で完璧なる均衡を構築し、後半でそれが崩れそうになるのを必死に防ごうとする。美や理想のための作品だ。不気味なまでに美しい。
    穴を見ている時の主人公のポーズなど、至極些細なところにも意味がある。それを考えるのも楽しく、緻密さにまたため息が出る。


    題にある「曳航」とは船が船をひく様子の事で、「曳航」と「栄光」をかけている。その理由は、英語での題を読むとわかりやすい。「The Sailor Who Fell From Grace with the Sea」、即ち「海と共に優雅さを失った船乗り」。一人の男が栄光を失って行く、その様子が描かれた作品、という事が題からも暗示されているのだ。

  • 海とともに生きてきた船乗りの男が安定を求めて陸に留まる。恋した女との陸での永住を決意し、女の子どもの良き父親になろうと父親らしく振る舞おうとする。船乗りの竜二に憧れていた少年にとってこれはぞっとするような裏切りだった。

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著者プロフィール

三島由紀夫(1925.1.14~1970.11.25) 小説家、劇作家。
東京生まれ。学習院時代から文才を注目され、1944年、東大入学と同時に『花ざかりの森』を刊行。47年、東大卒業後、大蔵省に勤務するも、翌年辞職。49年、『仮面の告白』で新進作家として地位を確立。『金閣寺』『鏡子の家』『近代能楽集』など、強固な美意識で彫たくされた作品を発表。海外での評価も高い。68年、楯の会結成。『豊饒の海』の最終回を書き上げ、陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地東部方面総監室に立てこもり、割腹自決。

「2017年 『告白 三島由紀夫未公開インタビュー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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