宴のあと

  • 新潮社
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  • 本 ・本 (239ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101050164

感想・レビュー・書評

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  • nhk bs の「今夜はトコトン三島由紀夫」を観て再読モード。
    まずは「宴のあと」。

    うーん、これ大学時代にいきがって読んだが当時わかったとは思えんな、、、
    腐敗しまくりの選挙の内幕モノ的に楽しんだのだろうか?記憶がない。

    今読むと、人生の終盤戦が視界の彼方に見えてきた中年世代にとってストーリーや描写がピリピリきすぎる。
    あえて自分なりにテーマを見つけるなら、「人生の終盤戦で初めて、自分には縁のないと思っていた高みに登れるかも、しかもそこで自分は意味のある役割を果たせるかもという幻影を見てしまった者の狂気とその崩壊」であろうか。

    カネよりもなによりも、私は今必要とされている、という感覚。あるいはセンスオブミッションというか、使命感。そうしたものがより人を転落させるのかもしれない。

    しかし同時に、その使命感に身を投げ打ったほんの一瞬の煌めきは人生を棒に振るほどの価値がある、というメッセージもいつもの三島由紀夫とも言える。これだけ濃厚なのにふとした描写に爆笑できるところも三島全開。

  • 内なる情熱を秘めた福沢かづが政に踊り商に踊り、やがて宴のあとが訪れる。冒頭のやや静謐で穏やかな雪後庵での幕開けから、都知事選での山崎の清廉潔白の希求に反してかづが先陣を切った革新党の泥臭い地を這う戦術と神輿は問わない保守党の物量作戦が対照的で本作品に華を添える。三多摩地区での敗戦を聞いたときのかづの事切れ、この描写に三島由紀夫氏の心情描写の素晴らしさを感じる。最後の最後に、墓ではなく雪後庵に執着するかづに、女性が備える本質的強さを思う。

  • 学生時期に・・読んだ・・内容は政治的闘争と料亭女将の生き方・・位しか記憶にないが、裁判の事は「有った」だけ記憶にある。

    やはり、作品を読むにも時期があるもんだと改めて思う。二十歳前の人間には視えるものが無さ過ぎ・・
    新潟出身で秀才であったろう野口の上り詰めた先に見えた夢と瓦解。
    苦労の連続で、こちらも上り詰めたかづという女の夢と瓦解。
    登っていく途中で触れ合った一瞬の結婚  その先は身体の距離に対し、見事に離れていく心が見事に綴られる。

    随所に三島の描写力、使われる多種多彩な表現に舌を巻きつつ、案外スラスラ読めた。
    出だし、二人が旅するお水取りの光と影のシーンは眼前に繰り広げられているようで作中のピークじゃないかな。
    他、かづの「衰えを見せぬ肉体、肌」の描写も女から見ても惚れ込みそうな。。

    ピークの突端の選挙戦。
    野口の心がうわの空・・というか・・
    英国仕込みの虚栄は裏付けする冷笑やユーモアが皆無・・平常心の保ち方は不機嫌面‥で十分に目に浮かぶ。

    そして文字通りの宴のあとの空虚感・・二度度政治にはかかわらないという野口は当然としても・・
    アンナに固執した墓の妄念が掻き消え、苑の再開で生の下火を燃やしていくラストは「女は強い」と世の常を見た思い。

  • (「BOOK」データベースより)
    もはや恋愛と無縁だと思っていた料亭の女主人福沢かづは、ある宴席で、独り身の野口雄賢に強く惹かれた。熱情と行動力を備えたかづと、誇り高き元外相の野口は、奈良への旅を経て、結婚する。野口は請われて革新党候補となり、夫妻は選挙戦に身を投じることに。モデル問題で揺れた作品ながら、男女の浪漫の終焉を描いた小説として、国内海外で高く評価された。都知事選をモデルとし、日本初のプライバシー裁判に。

  • 明朗なようで複雑さを孕んでいる。それでいて人の情というもの、対人感情と政治的感情の皮肉さも感じられた

  • 題名から想起される侘しさ、寂しさに惹かれて読んでみた。最後は登場人物たちが帰るべきところに帰ったという印象だった。一見優しそうだが堅物で論理的で秩序だったイデア世界の妄想の中にに生きるピュアで現実の汚さを受け入れられない老人と、自由奔放で非論理的で情熱的な老婆が、今一度人生を咲かせようと試みるもそれも結局宴のあとの試みであった、という話。

  • 今の自分に深く突き刺さった一冊。
    主人公であるかづは行動派、それに対する夫の野口は理論派というより理想派。
    教養があって学問を好む夫は頭が硬くその理想を追うばかりに民衆の支持を得られない。一方かづはその内なる熱望と財産を武器に夫の支援をし続け、そして気付かぬうちに政治の本質を遂行していくこととなる。
    学問と違い、政治や企業といった人を動かすことが必要な分野においては理論や理想が時に障害となり得る、企業での研究・サイエンスを仕事とする自分に野口を少し重ねて得た教訓である。
    山﨑の最後の手紙に全てまとめられてて、種明かしされた気分。

  • 三島由紀夫の作品に初めて触れた。三島由紀夫については全く知識はなく、自決した人くらいのイメージしかない。

    その作品も荒々しいのかなと思っていたが、そんなことは全くなく、綺麗な風景描写、丁寧な心理描写、そして緻密なストーリー構成がなされており、とても素晴らしい作品だった。

    かづと野口はお互いに持ちえないものを有しているからこそ惹かれ合い、自分のよさで相手を包み込もうしたのだろう。これが、相手の色を自分の色に変えるというものではなく、相手の色との違いを認めて違いに引き立て合うよう関わりがとれていたら、もっと違った形での結末があったのではと思う。
    まぁ、そうなると著者が訴えたい世の中に対するメッセージなどは盛り込めなくなっちゃうんだろうけど。

    もっと他の作品にも触れてみたいと思うことができたので、よい出会いだったと思う。

  • 繊細な描写が全体として印象的だった。かづが野口と恋に落ちるまでの流れも、感情を直接的に表現する言葉はあまりないのにすごくリアルでドキドキした。選挙戦に入ってからは、初めは本当に「野口のため」だったかづの活動が徐々に「かづ自身が輝くため」に移行しているように感じられ、かづが離縁を選ぶまでの流れもとても自然に読み進められた。一方の野口がかづの返答に対して憎しみの感情を現す場面では、彼が心から、かづとの穏やかな老後を夢みていたのだろうと思えて切なくなった。

  • 社会的現実を直接文学化した作品として海外でも評価された作品のようです。日本の非政治的風土を皮肉を込めて表現したと、あらすじを読んでから読み始めました。
    2人の対照的な夫婦の気持ち、性格を踊らせながら書いていくことにより、当時の政治を皮肉っています。
    印象に残ったのは最後の山崎の手紙です。「選挙があらゆる偽物の幸福を打ち砕き、野口氏もあなたも、裸の人間を見せ合う事になったという点で、本当の意味で、不幸で合ったとは言えない」

    主は、当時の政治背景が分からない若者であるので共感は出来ませんでしたが、三島氏の使う文章はやはり引き込まれます。

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著者プロフィール

本名平岡公威。東京四谷生まれ。学習院中等科在学中、〈三島由紀夫〉のペンネームで「花ざかりの森」を書き、早熟の才をうたわれる。東大法科を経て大蔵省に入るが、まもなく退職。『仮面の告白』によって文壇の地位を確立。以後、『愛の渇き』『金閣寺』『潮騒』『憂国』『豊饒の海』など、次々話題作を発表、たえずジャーナリズムの渦中にあった。ちくま文庫に『三島由紀夫レター教室』『命売ります』『肉体の学校』『反貞女大学』『恋の都』『私の遍歴時代』『文化防衛論』『三島由紀夫の美学講座』などがある。

「1998年 『命売ります』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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