真夏の死―自選短編集 (新潮文庫)

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レビュー : 81
  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101050188

感想・レビュー・書評

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  • 表題作「真夏の死」のように、ある大きな悲劇が偶然に起こったとき、私たちはそれに意味付けをしようとする。例えばどうして私の兄弟は戦争で死ななければならなかったのかという問いに対して、それはたまたまその時代に生まれたからという解答をすることを私たちは拒むだろう。この作品で言えば朝子が「あのような大きな怖ろしい事件に出会うだけの資格が自分たち夫婦に在ったかどうか」を疑い、「一度たりと人間的な事件の相貌を帯びなかったのではないか」と思うようなことを私たちはするのである。
    悲劇が天命であると思い、仕方がなかったと諦めることはとても残酷なことである。なぜならそれは「自分の涙と悲嘆のすべてが徒労にすぎないという別の恐怖」を味わうことであり「通念のために、二人の子と一人の老嬢を犠牲に供した」ということを暗に認めることになるからだ。
    こんな恐ろしいことが他にあるだろうか?
    そしてそれだけではなく「あれほどの不幸に遭いながら、気違いにならない」ことや「思い出の習慣もいつのまにか失われ、命日の読経や墓参の時に涙の流れないのがふしぎとも思われなく」なることも同じように残酷なことである。
    しかし人は忘れていく。朝子が恐怖に慄きながら次第に忘れていったように私たちは悲劇を忘れていってしまう。そしてどれだけの不幸に陥っても自己の存在に対してその不幸が襲いかからない限り不幸の当事者であったことすら疑わしくなってしまう。もしかすると自己の存在に対して起こった不幸であっても当事者であることを忘れてしまうのかもしれない。

    『真夏の死 -自選短編集』が世に出たのは発行年を見てもわかるように三島由紀夫が自決する数ヶ月前のことである。となるとこの自選短編集に選ばれた作品には三島にとって何らかの意味があると考えるのは不思議なことではない。では三島は「真夏の死」をどんな思いがあって選んだのだろうか?僕はそれは日本にとっての大きな悲劇を日本人が忘れていってしまっていたことへの恐怖感だったのではないかと思う。25年という月日は短いようで長い。悲劇を忘れるには十分過ぎる時間だ。変わりゆく街並みと忙しい日々、そして異常なほどに素早い復興と成長とともに歩んだ25年ならなおさらだろう。そしてその恐怖感が朝子が次の宿命の到来を期待するように三島に宿命を期待させていたのではないか。

    悲劇を忘れていってしまう人間の心理と悲劇の無意味という残酷な事実を描いた名作。

  • 文章の美しさ…
    こういう言葉が出てくる作家はごく少数です。
    古い本でも難なく読め
    そのレベルの高さには
    ただただ感服するばかり…

    表題作は子どもをなくした親の
    悲しい心理をリアルに表現しています。
    どんなに月日が経とうが
    子どもができようが、その傷は消えようがないのです。
    それが、最後に結集されているように思えます。

    それと定評の恋愛に関しての作品も秀逸。
    どの作品も、高品質です。

  • 最も敬愛する文豪の短編集。
    『花ざかりの森・憂国』も良かったけど本書も素晴らしかった。
    美しく研ぎ澄まされた日本語の洪水。
    一文一文ごとに唸りながら読まざるをえない。
    どの短編も印象に残って鮮明に思い出されるな。

    一編ごとの簡単なレビューでも。

    『煙草』:戦後の混乱期に描いた少年の精神的飛躍。誘惑に揺れる青春期の描写が秀逸。
    『春子』:最後の一節の巧みな表現に感服。
    『サーカス』:人間の闇の部分を描いた作品。全体から伝わる禍々しい感じ。
    『翼』:どこか幻想的で寓話っぽい。
    『離宮の松』:ただただ悲劇。奇怪な行動でも納得させられてしまうのが凄い。
    『クロスワードパズル』:珍しくサスペンス調で楽しく読めた。
    『真夏の死』:表題作。感情描写の巧みさに畏敬の念すら覚える。今まで読んだ短編の中でも指折りの作品。実話ベース。
    『花火』:これもなかなかミステリアス。
    『貴顕』:淡々とした文体にゆるやかな悲劇が描かれる。美とその盛衰がモチーフの作品。
    『葡萄パン』:石原慎太郎や村上龍を思わせるアプレゲール。最近特に好きだわこういうの・・・。
    『雨の中の噴水』:コントの中にも鋭い表現が見え隠れしてる。

  • 『サーカス』
    初読当時は、
    少年の死の上に落下する、少女の姿ばかりが鮮やかでした。
    しかし再読後、私の気持ちは悲劇を生み出した団長に寄っています。
    何故でしょうか、時のなせる業なのかしら。
    この人は事件を求める全ての創作者の分身かもしれない。

    『真夏の死』
    「自分の感情の不正を疑う」ということに共感しました。

  • 一番好きなミシマ作品

  • 離宮の松が大好きです。あぁ、これは私だ的な。

  • あまりにも晴れたのどかな昼間ほど死を想起させるという恐ろしさ

  • 三島由紀夫の自選短編集です。『煙草』『春子』『サーカス』『翼』『離宮の松』『クロスワード・パズル』『真夏の死』『花火』『貴顕』『葡萄パン』『雨のなかの噴水』を収録。のちの作品を連想させるものもいくつかあり、三島入門本としては最適です。中でも好きなのは『真夏の死』『雨のなかの噴水』シュールな作品です。『真夏の死』は最初と最後が同じ場面なのですが、物語を最後まで読んで初めてその意味が分かります。ある意味恐い作品でした。最初の部分を読むと子供達と海で遊んでいる普通の家族、最後を読むと・・・海へ来た本当の理由が見えて来ます。同じ場面なのにいきさつを知るのと知らないのとでは印象が全く違い、作品そのもののイメージまで変わってきます。

  • 短編集です。
    色々なお話が詰まっています。
    ある一遍に使われた表現に、無理矢理目をこじ開けられたような感覚を覚えました。
    やはり才能というのは、恐ろしいです。

  • はまると怖い三島マジック。

著者プロフィール

三島由紀夫(1925.1.14~1970.11.25) 小説家、劇作家。
東京生まれ。学習院時代から文才を注目され、1944年、東大入学と同時に『花ざかりの森』を刊行。47年、東大卒業後、大蔵省に勤務するも、翌年辞職。49年、『仮面の告白』で新進作家として地位を確立。『金閣寺』『鏡子の家』『近代能楽集』など、強固な美意識で彫たくされた作品を発表。海外での評価も高い。68年、楯の会結成。『豊饒の海』の最終回を書き上げ、陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地東部方面総監室に立てこもり、割腹自決。

「2017年 『告白 三島由紀夫未公開インタビュー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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