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本 ・本 (240ページ) / ISBN・EAN: 9784101050201
感想・レビュー・書評
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三島再読シリーズ。
太平洋戦争直後、東大在学中に怪しげな金融会社を設立し、大きな富を手にしながら自ら命を絶ったという実在の人物にインスパイアされた作品。
、、、ということになっているが、私的には若い頃の三島の典型的な自意識過剰独白モノの一つ。
彼の後期の傑作群のようにビジネス小説としても圧倒的に面白い、というほどではなく、むしろ言葉の知恵の輪パズルのような観念的な議論をエンタメする小説と私は解釈した。
「誠は今ほどこの無垢な女を愛している瞬間はないように感じたが、今に限って彼はこの種の感情をゆるしておきたくないと思った。人間の弱さは強さと同一のものであり、美点は欠点の別な側面だという考えに達するためには、年をとらなければならない」(p168)。
えーい、このややこしいやつめ!
もっとシンプルに生きろシンプルに。と、感じるのは私が十分に「年をとった」からであって、こういう観念に絡めとられながらそうだオレはそこらへんの凡人と違ってクールに自分を相対化してるんだ、と実は熱く感動している若い読者は今もたくさんいるに違いない。
若さゆえの自分の能力への全能感とそれが嘘っぱちかもしれないことへの一抹の不安、そして圧倒的な金銭を手にして舞い上がるあの感じ。
三島の言葉で言えば「架空の天職にとり憑かれていながらも、この天職を軽蔑することを片時も忘れていない男の情熱」(p152)。
これを読んで私が個人的に思い起こしたのは、現代で言えば「投資銀行のバンカー」という職業であった。あくまで「たとえば」ですよ。でも、ああ、いつの時代もこういうのってあるんだなと。
しかし、これを執筆したときの三島はまだ20代か。なんでこんなになんでもお見通し感出せるんだ。 -
三島にも凡庸な作品がある。それでも戦後経済などに対する視点や描写は相当に鋭い。「明日をも知れぬものはかなげな紙幣の風情が、明日をも知れぬ欲望にとってふさわしい道連れのように思われた。」
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「あらゆる絵具を混和すればパレットは真黒にしか彩られない」
多くの不幸は〈欠乏〉の姿で来る。
〈過剰〉の不幸に気づく人は少ない。
少年の心と戦後混乱期の闇金融。
蝕んだのはどちらが先か。
回転中のコマだけが放つ虹色を、
真実でないと誰が言える? -
これ現代文のテストで出たら3割くらいしか取れなそう あと3回読み直したい
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本編の物語よりも、途中途中で、作者が物語に「ちなみに」ってノリで茶々を入れる技法がシニカルで凄いインパクトを持っている。文豪の凄み。
アフォリズム(短いぴりっとした表現で、人生・社会・文化等に関する見解を表したもの。警句)っていうらしい。 -
前半と後半の作風が違う
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他者不信と独自の自尊心をもった東大生の川崎誠。
合理主義を崇拝し大学で数量刑法学を研究する傍ら、銀座で高利ヤミ金を主催する。目的も動機もない生の軌跡のなかに戦後青年の実像を描くというあらすじ。戦後に起きた「光クラブ事件」の山崎晃嗣をモデルにした小説。
しかし、これがそれほど・・。
戦後青年の実像を描くのなら、前半の生い立ちと父との関係の描写は主題と矛盾する。逆に後半の合理主義と高利貸しの描写で戦後日本の実像を浮き彫りにするのなら、前半の彼の人格形成過程はテーマとずれる。著者も認めているように本作は失敗作だったようだ。
でも、個々の描写で良いなぁと思う箇所は多々ある。前半の一校時代の友人・愛宕との出会い。実はこの小説で最も読み応えあるのが誠の生い立ちである前半部。あるいは借金の取り立てで相手の身包みまで巻き上げるヤミ金社員たちの豪胆さ。主題だのなんだのを気にしなければ楽しめる。 -
私の記憶の中で一番最初に見たドラマは「青の時代」。オープニングとタイトルぐらいしか思い出せないけど、なんとなく印象に残っていて、古本屋でこのタイトルが目について「えっあのドラマって三島由紀夫が原作だったのか」とすかさず手に取った。
けれど内容はそれとは違う別物で、堂本剛とは違う「青の時代」がしっかりと描かれていた。
父の期待や、他人からの過剰な評価。
自分の思いに反して膨れ上がる、周囲が期待する「誠」のイメージについて行こう必死になる。そうではなく自分の思う「誠」を生きたいと思うようになった主人公は頭が良いのにとても不器用で、私なら今のあなたにこう言ってあげたい、と思わせる。
でもそれは私のエゴでしかなく、主人公の頭の良さや、考察について行くのに必死になりました。
著者プロフィール
三島由紀夫の作品






三島由紀夫って、前々から読んでみたいと思いつつ、手が出ないでいるんです。
そんなこともあって、例のグーグルの「Bard」に...
三島由紀夫って、前々から読んでみたいと思いつつ、手が出ないでいるんです。
そんなこともあって、例のグーグルの「Bard」に聞いてみたんです。
「三島由紀夫を読んでみたいんだけど、どれがいい?」って。
そしたら、出てきたのが、「仮面の告白」、「金閣寺」、「潮騒」、「鏡子の家」。
その並びがおススメの順番ってことではないと思うんですけど、「金閣寺」より「仮面の告白」が先に出てきたことが、(三島由紀夫を知らない自分としては)意外でした。
あと、「潮騒」はわかるけど、「鏡子の家」って、そんなにおススメな小説なんですか?
それも意外でした。
ちなみに、「盗賊」というのが気になっていて。
「最初に読むのが『盗賊』は適当でない?」と、あらためて聞いたら。
「他のに比べてわかりにくいからおすすめしない云々」と。
そんな風に、なかなか考えさせてくれる回答が返ってきて面白かったです。
ちなみに、三島由紀夫をそれなりにお読みになっているnaosunayaさんとしては、Bardのその回答、どう思われますか?
よかったら教えて下さい。
バードに聞くのがいいですね笑
では私なりに饒舌に語りますね。
まず、三島の作品の傾向を語るのにそもそも二分法はほ...
バードに聞くのがいいですね笑
では私なりに饒舌に語りますね。
まず、三島の作品の傾向を語るのにそもそも二分法はほんとうは不可能なんですが、三島作品はざっくり社会派系と恋愛系に分けられる気がしています。もちろん大半の作品がベン図のように重なり合ってますが。
もう一つの軸としてこれも強引な二分法ですが、甘美系と酷薄系があるんじゃないか、とも勝手に思っています。
で、何が初読でおすすめか、となるとやはり年齢の影響が大きいと思うんですよね。
高校か、大学くらいな、主人公の世代的にも、脳内はどうせ99%色恋でしょうから恋愛甘美系で「潮騒」社会派フレイバーで「仮面の告白」、そしてオレこそは他を圧倒する感受性の持ち主だ、という中二病が完治していないなら断然「金閣寺」ですね。
もし相応に社会経験を積んでいるなら、社会派系かつ酷薄系の傑作「宴のあと」でしょうか。これは政治物エンタメでもあり人生後半の寂寥感も味わえ、しかもギャグがおもしろいというミラクル作品です。
個人的には恋愛系かつ社会派系の至高の作品、「春の海」を勧めたいがここでつまづいて三島が嫌いなるのはもったいないので、やはり初読のおすすめではないかなと。
ちなみに「盗賊」は読んでないと思います、あるいは読んだとしても忘れてる。
鏡子の家、も社会派系の傑作と思いますが初読向きですかね?
所要を拝見する限り本ぶらさんが、三島をお好きになる可能性は高いと思います。では。
「三島作品はざっくり社会派系と恋愛系に分けられる」というnaosunayaさんのそれは、なんとなく...
「三島作品はざっくり社会派系と恋愛系に分けられる」というnaosunayaさんのそれは、なんとなく感じてはいたんだけど。でも、頭の中で明確になっていなかったので、あー、なるほど!とかなり納得でした。
ただ、「甘美系と酷薄系」の甘美系はともかく、酷薄系というのが全然イメージできなくて。
であれば、naosunayaさんが酷薄系のおススメとしてあげている「宴のあと」、それから読んでみるか!と。
そんなわけで、とりあえずアマゾンで「宴のあと」を見てみたら、ふと、「美しい星」というのが目について。
つい、そっちを先に見てみたらw、「自分たちは他の天体から飛来した宇宙人であるという意識に目覚めた一家云々」という紹介文に、な、なんだ、これは!? これは面白そーだぞ、と(^^ゞ
というわけで、naosunayaさんのおススメからは全然外れてしまって、申し訳ない限りwですけど、私的には「美しい星」が三島由紀夫の最初の本として適当そうだという結論に至りましたw
とはいえ、naosunayaさんのおススメがなかったら、たぶん「美しい星」に気がつくこともなかったと思うので、ホント感謝です(^^)/
三島由紀夫を読んだわけではないですが、あらすじ等を見ていると感じるのが、子供の頃に親がテレビで見ていたメロドラマのような設定だなぁーってことなんですよね。
それは、もちろん三島由紀夫がメロドラマを真似たわけではなく、たぶん、メロドラマが三島由紀夫の小説を真似たってことなんだと思うんですけど。
つまり、三島由紀夫(の小説)って、当時はそのくらい世の中に影響を与えていたのかもしれないなーって。
そういう面でも、楽しんでみたいですね。
ということで、また、よろしく。