青の時代

  • 新潮社 (1971年7月27日発売)
3.30
  • (57)
  • (151)
  • (378)
  • (56)
  • (8)
本棚登録 : 2076
感想 : 163
サイトに貼り付ける

本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

本 ・本 (240ページ) / ISBN・EAN: 9784101050201

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 三島再読シリーズ。

    太平洋戦争直後、東大在学中に怪しげな金融会社を設立し、大きな富を手にしながら自ら命を絶ったという実在の人物にインスパイアされた作品。

    、、、ということになっているが、私的には若い頃の三島の典型的な自意識過剰独白モノの一つ。
    彼の後期の傑作群のようにビジネス小説としても圧倒的に面白い、というほどではなく、むしろ言葉の知恵の輪パズルのような観念的な議論をエンタメする小説と私は解釈した。

    「誠は今ほどこの無垢な女を愛している瞬間はないように感じたが、今に限って彼はこの種の感情をゆるしておきたくないと思った。人間の弱さは強さと同一のものであり、美点は欠点の別な側面だという考えに達するためには、年をとらなければならない」(p168)。
    えーい、このややこしいやつめ!
    もっとシンプルに生きろシンプルに。と、感じるのは私が十分に「年をとった」からであって、こういう観念に絡めとられながらそうだオレはそこらへんの凡人と違ってクールに自分を相対化してるんだ、と実は熱く感動している若い読者は今もたくさんいるに違いない。

    若さゆえの自分の能力への全能感とそれが嘘っぱちかもしれないことへの一抹の不安、そして圧倒的な金銭を手にして舞い上がるあの感じ。
    三島の言葉で言えば「架空の天職にとり憑かれていながらも、この天職を軽蔑することを片時も忘れていない男の情熱」(p152)。

    これを読んで私が個人的に思い起こしたのは、現代で言えば「投資銀行のバンカー」という職業であった。あくまで「たとえば」ですよ。でも、ああ、いつの時代もこういうのってあるんだなと。
    しかし、これを執筆したときの三島はまだ20代か。なんでこんなになんでもお見通し感出せるんだ。

    • 本ぶらさん
      こんばんは。
      三島由紀夫って、前々から読んでみたいと思いつつ、手が出ないでいるんです。
      そんなこともあって、例のグーグルの「Bard」に...
      こんばんは。
      三島由紀夫って、前々から読んでみたいと思いつつ、手が出ないでいるんです。
      そんなこともあって、例のグーグルの「Bard」に聞いてみたんです。
      「三島由紀夫を読んでみたいんだけど、どれがいい?」って。

      そしたら、出てきたのが、「仮面の告白」、「金閣寺」、「潮騒」、「鏡子の家」。
      その並びがおススメの順番ってことではないと思うんですけど、「金閣寺」より「仮面の告白」が先に出てきたことが、(三島由紀夫を知らない自分としては)意外でした。
      あと、「潮騒」はわかるけど、「鏡子の家」って、そんなにおススメな小説なんですか?
      それも意外でした。

      ちなみに、「盗賊」というのが気になっていて。
      「最初に読むのが『盗賊』は適当でない?」と、あらためて聞いたら。
      「他のに比べてわかりにくいからおすすめしない云々」と。
      そんな風に、なかなか考えさせてくれる回答が返ってきて面白かったです。

      ちなみに、三島由紀夫をそれなりにお読みになっているnaosunayaさんとしては、Bardのその回答、どう思われますか?
      よかったら教えて下さい。
      2023/05/21
    • naosunayaさん
      本ぶらさん、こんばんは。
      バードに聞くのがいいですね笑
      では私なりに饒舌に語りますね。

      まず、三島の作品の傾向を語るのにそもそも二分法はほ...
      本ぶらさん、こんばんは。
      バードに聞くのがいいですね笑
      では私なりに饒舌に語りますね。

      まず、三島の作品の傾向を語るのにそもそも二分法はほんとうは不可能なんですが、三島作品はざっくり社会派系と恋愛系に分けられる気がしています。もちろん大半の作品がベン図のように重なり合ってますが。
      もう一つの軸としてこれも強引な二分法ですが、甘美系と酷薄系があるんじゃないか、とも勝手に思っています。

      で、何が初読でおすすめか、となるとやはり年齢の影響が大きいと思うんですよね。
      高校か、大学くらいな、主人公の世代的にも、脳内はどうせ99%色恋でしょうから恋愛甘美系で「潮騒」社会派フレイバーで「仮面の告白」、そしてオレこそは他を圧倒する感受性の持ち主だ、という中二病が完治していないなら断然「金閣寺」ですね。
      もし相応に社会経験を積んでいるなら、社会派系かつ酷薄系の傑作「宴のあと」でしょうか。これは政治物エンタメでもあり人生後半の寂寥感も味わえ、しかもギャグがおもしろいというミラクル作品です。
      個人的には恋愛系かつ社会派系の至高の作品、「春の海」を勧めたいがここでつまづいて三島が嫌いなるのはもったいないので、やはり初読のおすすめではないかなと。
      ちなみに「盗賊」は読んでないと思います、あるいは読んだとしても忘れてる。
      鏡子の家、も社会派系の傑作と思いますが初読向きですかね?
      所要を拝見する限り本ぶらさんが、三島をお好きになる可能性は高いと思います。では。
      2023/05/27
    • 本ぶらさん
      おススメ紹介、ありがとうございました。
      「三島作品はざっくり社会派系と恋愛系に分けられる」というnaosunayaさんのそれは、なんとなく...
      おススメ紹介、ありがとうございました。
      「三島作品はざっくり社会派系と恋愛系に分けられる」というnaosunayaさんのそれは、なんとなく感じてはいたんだけど。でも、頭の中で明確になっていなかったので、あー、なるほど!とかなり納得でした。
      ただ、「甘美系と酷薄系」の甘美系はともかく、酷薄系というのが全然イメージできなくて。
      であれば、naosunayaさんが酷薄系のおススメとしてあげている「宴のあと」、それから読んでみるか!と。
      そんなわけで、とりあえずアマゾンで「宴のあと」を見てみたら、ふと、「美しい星」というのが目について。
      つい、そっちを先に見てみたらw、「自分たちは他の天体から飛来した宇宙人であるという意識に目覚めた一家云々」という紹介文に、な、なんだ、これは!? これは面白そーだぞ、と(^^ゞ

      というわけで、naosunayaさんのおススメからは全然外れてしまって、申し訳ない限りwですけど、私的には「美しい星」が三島由紀夫の最初の本として適当そうだという結論に至りましたw

      とはいえ、naosunayaさんのおススメがなかったら、たぶん「美しい星」に気がつくこともなかったと思うので、ホント感謝です(^^)/

      三島由紀夫を読んだわけではないですが、あらすじ等を見ていると感じるのが、子供の頃に親がテレビで見ていたメロドラマのような設定だなぁーってことなんですよね。
      それは、もちろん三島由紀夫がメロドラマを真似たわけではなく、たぶん、メロドラマが三島由紀夫の小説を真似たってことなんだと思うんですけど。
      つまり、三島由紀夫(の小説)って、当時はそのくらい世の中に影響を与えていたのかもしれないなーって。
      そういう面でも、楽しんでみたいですね。

      ということで、また、よろしく。
      2023/06/04
  • 三島にも凡庸な作品がある。それでも戦後経済などに対する視点や描写は相当に鋭い。「明日をも知れぬものはかなげな紙幣の風情が、明日をも知れぬ欲望にとってふさわしい道連れのように思われた。」

  • (2023/07/05 2h)
    解説読んで、なるほどアフォリズム!!

    著者自身は納得いってないみたいだけど、
    わたしは青の時代すきだなぁ。
    ピカソも青の時代がいちばんすき。

  • 「あらゆる絵具を混和すればパレットは真黒にしか彩られない」

    多くの不幸は〈欠乏〉の姿で来る。
    〈過剰〉の不幸に気づく人は少ない。

    少年の心と戦後混乱期の闇金融。
    蝕んだのはどちらが先か。

    回転中のコマだけが放つ虹色を、
    真実でないと誰が言える?

  • これ現代文のテストで出たら3割くらいしか取れなそう あと3回読み直したい

  • 本編の物語よりも、途中途中で、作者が物語に「ちなみに」ってノリで茶々を入れる技法がシニカルで凄いインパクトを持っている。文豪の凄み。
    アフォリズム(短いぴりっとした表現で、人生・社会・文化等に関する見解を表したもの。警句)っていうらしい。

  • 前半と後半の作風が違う

  • 読み終わった〜あまり刺さらなかったけど、他の作品と並行しながら25歳でこれを書き上げた、と思うと凄いんだよな…。光クラブ事件、正直知らなかったのと、Wikipediaに記載されていた実際の遺書も、ユーモアがあって(?)、ちょっと面白がらざるを得ないような、不思議な感覚…。
    そしてところどころ、沈める滝やら金閣寺やらを彷彿とさせる描写もあり、面白かった。

    「…戦争も平和もいろんな悪意と善意が根暗かった状態で、善悪どっちが勝ったということもありはしない。悪意がうまく使われれば平和になるし、下手に使われれば戦争になるだけだ」(愛宕)…「妥協じゃないよ。生活だよ。まずは生きなくちゃならない。…生きなければならぬ」(p.76)

    一九四〇年代の後半は生活の時代であった。人々は生活を夢みていた。インフレーションとは、貨幣が空想過剰に陥って、夢みがちになる現象である。夥しい不換紙幣も生活を夢みていた。戦争のおかげで永保ちのする無双を失った人たちが、今日買えば明日腐るかもしれない果物のような夢想のための、理想的な一時期をもったのであった。明日をも知れぬものはかなげな紙幣の風情が、明日をも知れぬ欲望にとってふさわしい道連れのように思われた…(p.84)

    まるでこの処女は、彼が一目に隠している仔猫のような柔弱な心の、彼の外部に形をなしてあらわれた存在のように思われた。金が出来たおかげで、二十五やそこらの青年が、中年男の精神的な遊びのたのしみを享楽するにいたったのである。(p.127)
    三島も同い年かあ…この後禁色を書くわけですが…

    閨房の描写ほどこの種の真実から遠ざかるものはあるまい。この奇妙な男女の閨房の一挙一動には、何かしら二重写しのようなものがあった。彼らは彼ら自身の行為の一つ一つを描写していた。そこには一種の純粋な行為の代理に、一種の合作が、一種の共謀が存在したのである。(p.168)

    ...とすれば、彼の存在と、彼の同質の存在との境目には、僕のような障壁はないにちがいない。支配したり、理解されまいと拒んだり、征服したり、非人間的な努力をしたりしなくても、彼の存在は、一種の薄い膜質のようなものの助けを借りて、地上のあらゆる存在と黙契を結び、やがては灝気にまで同化するにちがいない。確かに人間の存在の意味には、存在の意識によって存在を亡し、存在の無意識あるいは無意味によって存在の使命を果す一種の摂理が働いているにちがいない。...(p.180)
    何度か登場した青空を想起させつつ、この後の展開を暗示して幕。本人が実際にどう思っていたかは別として、これはこれで遺された遺書から読み取れる、一つの人間像だと思った

  • 他者不信と独自の自尊心をもった東大生の川崎誠。
    合理主義を崇拝し大学で数量刑法学を研究する傍ら、銀座で高利ヤミ金を主催する。目的も動機もない生の軌跡のなかに戦後青年の実像を描くというあらすじ。戦後に起きた「光クラブ事件」の山崎晃嗣をモデルにした小説。

    しかし、これがそれほど・・。
    戦後青年の実像を描くのなら、前半の生い立ちと父との関係の描写は主題と矛盾する。逆に後半の合理主義と高利貸しの描写で戦後日本の実像を浮き彫りにするのなら、前半の彼の人格形成過程はテーマとずれる。著者も認めているように本作は失敗作だったようだ。
    でも、個々の描写で良いなぁと思う箇所は多々ある。前半の一校時代の友人・愛宕との出会い。実はこの小説で最も読み応えあるのが誠の生い立ちである前半部。あるいは借金の取り立てで相手の身包みまで巻き上げるヤミ金社員たちの豪胆さ。主題だのなんだのを気にしなければ楽しめる。

  • 私の記憶の中で一番最初に見たドラマは「青の時代」。オープニングとタイトルぐらいしか思い出せないけど、なんとなく印象に残っていて、古本屋でこのタイトルが目について「えっあのドラマって三島由紀夫が原作だったのか」とすかさず手に取った。

    けれど内容はそれとは違う別物で、堂本剛とは違う「青の時代」がしっかりと描かれていた。

    父の期待や、他人からの過剰な評価。
    自分の思いに反して膨れ上がる、周囲が期待する「誠」のイメージについて行こう必死になる。そうではなく自分の思う「誠」を生きたいと思うようになった主人公は頭が良いのにとても不器用で、私なら今のあなたにこう言ってあげたい、と思わせる。

    でもそれは私のエゴでしかなく、主人公の頭の良さや、考察について行くのに必死になりました。

全163件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

本名平岡公威。東京四谷生まれ。学習院中等科在学中、〈三島由紀夫〉のペンネームで「花ざかりの森」を書き、早熟の才をうたわれる。東大法科を経て大蔵省に入るが、まもなく退職。『仮面の告白』によって文壇の地位を確立。以後、『愛の渇き』『金閣寺』『潮騒』『憂国』『豊饒の海』など、次々話題作を発表、たえずジャーナリズムの渦中にあった。ちくま文庫に『三島由紀夫レター教室』『命売ります』『肉体の学校』『反貞女大学』『恋の都』『私の遍歴時代』『文化防衛論』『三島由紀夫の美学講座』などがある。

「1998年 『命売ります』 で使われていた紹介文から引用しています。」

三島由紀夫の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×