- Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101050201
感想・レビュー・書評
-
唯物論と観念論は並立して存在する一方
けして交わることのないものである
で、あるがゆえに
人間は、物質的な不足のなかにありつつも
幸福を感じることが可能なのだ
…戦争の時代を経てなお、経済的に裕福な実家を持つ川崎誠は
そんな呑気なことを考えながら
しかし唯物論者きどりの女の気をひくために
父からゆずりうけた財産を増やそうと
投資に手を出した
そして詐欺師にひっかかり、大損ぶっこいたのだった
その時の悔しさが、彼自身にも詐欺師の道を歩ませた
宗教家でも社会主義者でもない彼にとって
所詮、物質的幸福と観念的幸福は切り離せないものだった
にもかかわらずそれでいて、彼は高いプライドの持ち主だった
正論家ゆえに傲慢な、父親への反発があったため
川崎誠は、あまのじゃくで依怙地な性格に育っていた
しかしその臆病さと狡猾さに助けられ
常に本音は隠し、周囲を欺いていた
…というよりは、自分自身すら欺いていたのかもしれない
つまり憎むべき父親のありようこそ
実は川崎誠にとっての理想我であるということに
彼自身気づいていなかった
だから川崎誠は詐欺師にも、ましてやくざにもなりきれない
いやそれはむしろ
父親のように社会から認められたい
その一心で始まる子供の火遊びにすぎなかった
光クラブ事件をモデルにした作品ということで知られているが
実際のそれとはかなり乖離しているようだ
三島にはありがちなことで
これも主人公の心理描写がくだくだしく、非常に読みにくい小説である詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
私の記憶の中で一番最初に見たドラマは「青の時代」。オープニングとタイトルぐらいしか思い出せないけど、なんとなく印象に残っていて、古本屋でこのタイトルが目について「えっあのドラマって三島由紀夫が原作だったのか」とすかさず手に取った。
けれど内容はそれとは違う別物で、堂本剛とは違う「青の時代」がしっかりと描かれていた。
父の期待や、他人からの過剰な評価。
自分の思いに反して膨れ上がる、周囲が期待する「誠」のイメージについて行こう必死になる。そうではなく自分の思う「誠」を生きたいと思うようになった主人公は頭が良いのにとても不器用で、私なら今のあなたにこう言ってあげたい、と思わせる。
でもそれは私のエゴでしかなく、主人公の頭の良さや、考察について行くのに必死になりました。 -
三島も4作目になりました。精神分析とその描写はほんとに詳細で繊細でなめらかで不器用で、気づくとつと共感をおぼえてしまう自分に怖さを感じる。男の人って多くの人がこんな風に父と決別するものなんですかね。しかしソシオパスな誠さんに振り回される女性たち、特に逸子さんのその後が気の毒です。
-
気に入った一文
かれらは当てずっぽうに、社会という無形のものに釣糸を垂れているのであった。
浮子は動いたろうか。
行変えがセクシー。メダカ程度の社会でいいから釣り上げてやりたいね。 -
2017/02/23 読了
-
大学時代に手に取った時には、読了しても多くが意味不明だったが、20年近くが経ち社会人として経験も培った今ならばと思い、再起。
流石に全てを理解するのは難解を極めるが、大学時代の感触を3割とすれば、今回は7〜8割方吞み込めた自信がある。
精神と物質世界の充足を相容れないものと峻別する、川崎誠の超現実主義。最終的に設計図と現実との乖離に敗北し、自ら毒を仰ぐ運命とはいえ、ともすれば幼子の意地にも似たその頑固さと一途さは、毎日に倦み疲れて理想と現実の狭間を彷徨っている自分にはなかなか眩しく見える。
金融に手を出さず、学者になっていれば終生の研究課題となっていたであろう数量刑法学も、理念そのものは非常に合理的で辻褄が合っている。客観性を標榜しつつも結局は裁判官の心証に依拠せざるを得ず、またその裁判官の主観が判例となって以降の類似案件を拘束する現代司法の先を行く、文明を進める思想になり得たのではないか?
無論、刑法の応報刑と教育刑という理念に真っ向からぶつかることになり、ある意味では罪刑法定主義さえも否定するため、現実に導入するには課題も多い(というより、法学会に革命でも起きない限りまず有り得ない)が、それでも人間の行為を定量的に評価するという試みは面白い。ユートピアか、あるいはディストピアかもしれないが、可能性だけは感じる。
実際に誰か提唱している学者はいるのかな…?
素材となる光クラブの事件から1年も経たずに上梓されたため、人物像は大部分が作者の創作であろうが、それでも戦後の焼け野原の中、現代よりもずっと広く映える空を見上げて、そこをカンバスとして誰よりも緻密に人生の設計図を描かんとした一個の人間に、一種の憧憬を感じたことは事実。
ただ、結局彼の幸せはどこにあったのだろうか?というところだけ最後まで疑問ではあった。
それと、どう言い繕っても結局クズであることだけは否定できない。プラグマティズムには憧れるけど、ここまで振り切ってしまってはいかんね。 -
三島由紀夫の作品を読む。主人公の幼少期から思春期における父親に対する反抗心は心の襞が上手く表現されており、どんな大人になるのか楽しみだった。しかし、実際に社会に出た時と前半の話との脈絡があまりないように思え少し残念だった。
主人公の誠が投資詐欺に騙された後、今度は仲間に誘われ自分が同じようなことをすることになるが、ここら辺が自分のような凡人には分からない感覚に思えた。
文学作品にしてはページ数も少なく読みやかった。 -
【291】
-
光クラブ事件をモチーフにした小説。
主人公 川崎誠は、あらゆるものを疑っているように見えて、権威に対しては疑うことを知らず、また、残酷な遊戯を行うことで、非凡な事象に作り変える、など、性格に難がある(というと平凡だが)人物。
そして、その性格に起因する合理性で自分の行動を制約し、学友の愛宕から、決して君は君の自由にならない、と言わしめるほど。
物語の前半では、主人公の性格、心理的な動きにスポットを当て、後半では、その性格に忠実に行動した結果、どういった顛末を迎えるか、が描かれている。