青の時代 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101050201

感想・レビュー・書評

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  • 三島にも凡庸な作品がある。それでも戦後経済などに対する視点や描写は相当に鋭い。「明日をも知れぬものはかなげな紙幣の風情が、明日をも知れぬ欲望にとってふさわしい道連れのように思われた。」

  • 他者不信と独自の自尊心をもった東大生の川崎誠。
    合理主義を崇拝し大学で数量刑法学を研究する傍ら、銀座で高利ヤミ金を主催する。目的も動機もない生の軌跡のなかに戦後青年の実像を描くというあらすじ。戦後に起きた「光クラブ事件」の山崎晃嗣をモデルにした小説。

    しかし、これがそれほど・・。
    戦後青年の実像を描くのなら、前半の生い立ちと父との関係の描写は主題と矛盾する。逆に後半の合理主義と高利貸しの描写で戦後日本の実像を浮き彫りにするのなら、前半の彼の人格形成過程はテーマとずれる。著者も認めているように本作は失敗作だったようだ。
    でも、個々の描写で良いなぁと思う箇所は多々ある。前半の一校時代の友人・愛宕との出会い。実はこの小説で最も読み応えあるのが誠の生い立ちである前半部。あるいは借金の取り立てで相手の身包みまで巻き上げるヤミ金社員たちの豪胆さ。主題だのなんだのを気にしなければ楽しめる。

  • 医者の家に生まれた川崎誠は、幼い頃からひねくれた視点の持ち主だったが成績は良く、戦後は東大生となる。父からもらったお金を投資詐欺でだまし取られたことがきっかけで、友人の愛宕と軽い気持ちで金融業を始めることに。やがて面白いように人は騙されて、誠は「太陽カンパニイ」の社長となるが…。

    昭和25年の連載。前年に実際に起こった「光クラブ事件」をモチーフにしている。作中で誠は、いつでも飲めるように毒を持っていることが示唆されているのみだが、モデルになった現実の東大生のほうは自殺。三島自身は、のちの回想では本作をあまり気にいっていなかったらしい。

    実際の事件をモデルにしている点では『金閣寺』にも通じるものがあり、悪友の愛宕、素直な従弟の易など、キャラクター配置も金閣寺に近い気もする。家族を軽蔑しており、家族の存在が犯罪のブレーキにならないあたりも。とはいえボリューム的にも内容的にも金閣寺に比べてとても薄い。子供時代の性格描写に比べて、急に戦後の大学生となった主人公の言動はやや軽薄だし、ヒロインにも魅力がない。

    ただ三島にしてはわりあい読みやすく、さくっと終わる。本作での反省点が金閣寺に生かされたりしたのかな、と勝手に想像。

  • 思春期の父親が近くで嫌な気持ちの人いる

  • あなたは忘れることなんか決しておできにならないように見えますわ。


    「光クラブ事件」をモデルにしたお話。
    三島にしてはあっさりしていると思う。

    自意識過剰と自己嫌悪のぐるぐるの描き方はやっぱり気持ち悪くてよい。

  • 初三島作品。
    タイトルに惹かれて購入。
    実際にあった事件を題材とした話。
    構成として少年期から6年間を飛ばして
    戦後の話に突然移ったりもしたのだが
    三島自身もそれを自覚した上での発行
    だったらしい?今作は数多の作品の中でも
    とりわけ三島由紀夫の気質から離れて描かれた
    抽象的なものらしく、これを理解するためには
    他の作品も読むべきなのだろうと思った。

    主人公の誠の精神が、肉体の成熟よりも
    数段早く進んでいたせいで屈折した孤独と社会を
    蔑む趣味の悪さを持っているのには
    どこか人間らしさを感じたりもした。
    あんなに軽蔑していた友人の易を
    誰とでも容易に繋がることができる存在として
    妬んでいたようなシーンが対照的で印象深かった。


  • この小説は、作者と友人との会話で始まる。主人公のモデルとなった人物や、主題というよりはモチーフに近い内容を、序の段階で、対話という形式を以って説明されるのである。いわば料理の材料とレシピが明かされたわけである。

    そうして、詳細に語られた主人公の少年時代から、戦争、戦後へと軽々と突き進み、太陽カンパニイという会社を設立するところから、その破滅の予感までを描き、この小説は終わりを告げる。

    僕は、主人公の、意識的な冷酷さと、絶えず冷静でいようとする慎ましい努力が好きだ。ただ、内省に耽るあまり、周囲が見えていない。そういう世間知らずな一面は、どこか自分と通じる部分があって、なんとも好ましくない、嫌な感じをさせるのも、三島由紀夫の若者に対する観察力の素晴らしさを、宣伝しているに他ならない気がしている。

    結局のところ、この小説は素人目に見ても、何を目的としているのか伝わりづらい、中途半端な形で終わってしまっていた。

    主人公の精神を読むのか、ストーリーを追うのか。戦時中の若者達に氾濫していたニヒリズムを知ればいいのか。すべてが途中で投げ出され、投了した将棋盤を見ているような、どこか納得のいかないとは言い過ぎにしても、そういう心持ちにさせられた。

  • 唯物論と観念論は並立して存在する一方
    けして交わることのないものである
    で、あるがゆえに
    人間は、物質的な不足のなかにありつつも
    幸福を感じることが可能なのだ

    …戦争の時代を経てなお、経済的に裕福な実家を持つ川崎誠は
    そんな呑気なことを考えながら
    しかし唯物論者きどりの女の気をひくために
    父からゆずりうけた財産を増やそうと
    投資に手を出した
    そして詐欺師にひっかかり、大損ぶっこいたのだった
    その時の悔しさが、彼自身にも詐欺師の道を歩ませた
    宗教家でも社会主義者でもない彼にとって
    所詮、物質的幸福と観念的幸福は切り離せないものだった
    にもかかわらずそれでいて、彼は高いプライドの持ち主だった
    正論家ゆえに傲慢な、父親への反発があったため
    川崎誠は、あまのじゃくで依怙地な性格に育っていた
    しかしその臆病さと狡猾さに助けられ
    常に本音は隠し、周囲を欺いていた
    …というよりは、自分自身すら欺いていたのかもしれない
    つまり憎むべき父親のありようこそ
    実は川崎誠にとっての理想我であるということに
    彼自身気づいていなかった
    だから川崎誠は詐欺師にも、ましてやくざにもなりきれない
    いやそれはむしろ
    父親のように社会から認められたい
    その一心で始まる子供の火遊びにすぎなかった

    光クラブ事件をモデルにした作品ということで知られているが
    実際のそれとはかなり乖離しているようだ
    三島にはありがちなことで
    これも主人公の心理描写がくだくだしく、非常に読みにくい小説である

  • 気に入った一文

    かれらは当てずっぽうに、社会という無形のものに釣糸を垂れているのであった。
    浮子は動いたろうか。

    行変えがセクシー。メダカ程度の社会でいいから釣り上げてやりたいね。

  • 2017/02/23 読了

  • 三島由紀夫の作品を読む。主人公の幼少期から思春期における父親に対する反抗心は心の襞が上手く表現されており、どんな大人になるのか楽しみだった。しかし、実際に社会に出た時と前半の話との脈絡があまりないように思え少し残念だった。

    主人公の誠が投資詐欺に騙された後、今度は仲間に誘われ自分が同じようなことをすることになるが、ここら辺が自分のような凡人には分からない感覚に思えた。

    文学作品にしてはページ数も少なく読みやかった。

  • 日本におけるアプレゲール犯罪の1つと言われる光クラブ事件を題材にした小説です。
    だけど、ちょっと構成に問題がありそう。

    木更津での幼い頃の家庭の陰鬱さとかがしっかり描かれているのに、一高に入ってから戦争に行って帰ってくるまでの間が抜けています。
    で、いきなり高利貸し金融を始めて、愛人にしようとしていた秘書の女性が実は税務署員の恋人で、会社の情報を横流ししていたので会社をたたもうかな…ってところで終わっていた。

    三島さんらしい奥深い人物描写があって、もっと楽しめそうだったのにちょっと残念。
    光クラブ事件を題材にするのならば、社長だった東大生が自殺するところまで描いて欲しかったな…。

    でも、三島さんは死ぬことよりも生きることの方が難しいって思っていた人っぽいから、案外小説で簡単に自殺させないんだよね。
    『金閣寺』でも実際の犯人は裏山で自殺未遂をしているのに、たばこを吸って「さぁ生きよう」で終わらせていたんだものね。

  • タイトルが気になって読んだ。三島由紀夫はこれが一番好き。

  • 大衆文学が好きなお前らには私の小説は理解出来まい。と大上段より見下すような難しい言い回しは蟲づが走る。啓蒙思想家のつもりなんだろうか?そういう時代に生を受けた悲哀なんだろうか?

  • 耀子という女のミステリアスなキャラクターが魅力的。

  • 心理描写はさすがでしたが、全体としてぼんやりしている。解説があってやっとなんとなく読んだ気になるかんじ。

  • 解説に助けられてようやく何となくわかった気に。
    そうでなければどれを書きたかったのかが
    掴みにくいと感じた。

  • んーまとめると、主人公が大変にめんどくさいやつ。読みやすかった。

  • まあまあ。

  • 主人公に対する辛辣な皮肉が、
    全編にちりばめられています。
    読みやすくて、
    飽きの来ない方です。

    途中で話が変わる云々に加え、
    ラストがどうも、いやな感じで、
    読後感は非常に悪かったです。

    娯楽として楽しんで読むのは良いですが、
    ラストで、「これまでの話は何だったんだ!?」
    と、いやな思いをする羽目になるかもしれません。

    とまれ、ストーリーに、三島らしからず、
    腑に落ちない点があります。
    それが、実在の主人公の人生そのものなのかもしれませんが・・・

著者プロフィール

本名平岡公威。東京四谷生まれ。学習院中等科在学中、〈三島由紀夫〉のペンネームで「花ざかりの森」を書き、早熟の才をうたわれる。東大法科を経て大蔵省に入るが、まもなく退職。『仮面の告白』によって文壇の地位を確立。以後、『愛の渇き』『金閣寺』『潮騒』『憂国』『豊饒の海』など、次々話題作を発表、たえずジャーナリズムの渦中にあった。ちくま文庫に『三島由紀夫レター教室』『命売ります』『肉体の学校』『反貞女大学』『恋の都』『私の遍歴時代』『文化防衛論』『三島由紀夫の美学講座』などがある。

「1998年 『命売ります』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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