豊饒の海 第一巻 春の雪 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.85
  • (682)
  • (484)
  • (890)
  • (32)
  • (13)
本棚登録 : 5158
レビュー : 604
  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101050218

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  • 『豊饒の海』は1巻「春の雪」2巻「奔馬」3巻「暁の寺」4巻「天人五衰」と、全4巻にも及ぶ大作です。
    この話には主人公が二人います。一人が本多繁邦。唯一全4巻を通して登場し、一種の語り部としての役割を担います。もう一人の主人公が、この本多の親友である松枝清顕です。ただ、これは1巻においての名前です。これがこの話の肝なのですが、清顕は転生を繰り返し、2巻、3巻、4巻は別の人物として登場するのです。そして、その全ての生まれ変わりと本多は再会することになります。本多は転生に気づきますが、清顕本人はそれに気づいていません。

    素晴らしいのは、いろいろな読み方ができることです。4巻を通して一つの話として読むのはもちろん、それぞれの巻で主人公やその性格が変わり、話全体の雰囲気もかなり変わるので単独作品としても読めます。いろいろな物語の要素が4巻分で楽しめるのです。ちなみにおおざっぱに一言で表すと、1巻は「恋愛」、2巻は「青春」、3巻は「官能」。そして4巻は一般的な言葉では言い表せず・・・しいて言うなら巻名の「天人五衰」でしょうか。
    また、1巻は大正、2巻は戦前昭和、3巻は戦中~戦後60年代、4巻で70年代と、時代も移り変わります。このように長い期間を描いているので、登場人物の変遷を眺められるのも面白い点。2巻で清純に描かれていた人が、3巻ではとんでもない年のとり方をしていたり・・・。登場人物の数も多く、それぞれ細かく描かれるため、群像劇としても楽しめます。
    あと、全体を通して鍵となる仏教思想については、軽くでもさらっておくことをおすすめします。

    私が特に好きなのは3巻。3巻は「起承転結」の「転」にあたり、前2巻から大きく変わる巻です。この巻では、インドのベナレスが登場するのですが、そのシーンがとにかく素晴らしく・・・。読んだ後、実際に三島が取材旅行に行ってものすごい衝撃を受けたというのを知り、だから描写がずば抜けていたんだな~、と納得。4巻中、最も幻想的かつ退廃的なのも好みです。
    3巻の「転」を経て、4巻で「結」にいたりますが、『豊饒の海』はラストがすごいです。読む前から「すごい」と聞いていて、心構えをしていたのですが、本当にすごかった。(語彙が貧困で申し訳ない・・・)私はこの終わり方はものすごく好きです。

    『豊饒の海』は三島の最後の作品で、この話が彼自身に大きな影響を与えたとも言われていいます。ただ、こんな話を書いてしまった後、次に書ける小説といったら、それこそもう何もないのだと思いました。

  • 三島由紀夫は敬遠してきた。
    「金閣寺」と「潮騒」、それからいくつかの通俗小説程度しか読んでこなかった。
    映画を見たことがあったかな。
    妻夫木聡と竹内結子が演じたもの。

    しかし、何という圧倒的な作品だろう。
    美しさを描くとはこういうことなのか、と思わされる。
    例えば源氏物語を読んで、絶世の美女、紫の上の描写を読んでも、古文というせいもあって、へえ、と思うだけだ。
    でも、この作品では、何か実体感を伴ったものと感受できるのはなぜだろう?

    清顕の友人、本多がいることで、例えば美と支配力の問題や、輪廻転生のモチーフが哲学的な深みをもつ。
    (そう言えば、シャムの王子は映画には出てきていただろうか? もしカットされていたら、結構平板な内容になっていたはずだ。)

    前半は清顕がプライドから聡子への思いに抗い、復讐心に燃えるところが面白い。
    時代設定が大正初期ということだからか、「清様も今に分かりますわ」というような、聡子の謎めいた言い方は、どこか漱石の藤尾やら、美禰子やらを思わせる。
    そうしてそれが清顕を苛立たせるのだが、若いなあ、と思ってしまう。
    ただ、聡子にはそこまで深いものを感じられないのはどうしてだろう。
    落飾して清顕を拒み続ける彼女にも、だ。
    それこそ源氏の浮舟が重なって見えてしまうからか?

  • 初心に帰って久しぶりに三島由紀夫を。
    初読時はたしか、あまりに雅やかな登場人物達と流麗な文章にただただ圧倒されながら読んでた気がする。
    改めて冷静に向き合ってみたら、夢と現実の交わりや仏教の思想、死生観なんかが散りばめられていて、三島由紀夫の描きたかった宇宙観の片鱗にたどり着けたような?

  • 三島由紀夫の遺作。主人公が輪廻転生を繰り返し、それを傍である人物が見守る。それぞれの巻が独立した作品としての性格を持ちながら、全体として大きな物語を構成している。
    あまり読みやすい小説とは言えない。かなり難解な部分もあり、挫折してしまう人もいるだろう。でも、読み続けていくとどんどん面白くなって、終わりに近づくほど止まらなくなる。
    結末も驚きなので、ぜひ最後まで読み通してほしい。

  • 三島由紀夫の最後の小説(4部作の1)。美しい言葉つかい、よどみない文章の流れ、すばらしい。
    純粋、美というものへのこだわりが強く感じられる。
    どうしても三島事件を思い起こしてしまう。

  • 松枝清顕の気持ち悪さと同居する美しさ。作者のこの時代、おそらく作者の生きた時代よりも単純で美しく見えた時代の象徴なのだろうか。豊饒の海の後の巻と比べての清冽さが狂言回しである本多の若さとも伴って心地よい。

  • 清顕青年の高貴な身分と美麗な外見とは裏原の、内面の唾棄すべき自意識過剰と冷酷が底なし沼の不幸へと自らを陥れてしまう。狙いすました格調高き文体で大正初期の不穏な平和を見事に描いている。

  • 久しぶりに再読中。最初に読んだときは主人公たちに近い年齢だったから、もっと共感しながら読んだ気がするのだけど、すっかり年を取った今となっては、彼らの若さゆえの愚かさを「あーあ、バカだなあ」という上から目線でしか見れなくなってしまった(苦笑)

    清顕も聡子も、まあ今でいう一種のツンデレで、ツンとデレのタイミングが噛み合わなかったばっかりに、とんでもないことになってしまう。彼らの恋は悲恋だけれど、それを悲恋にしてしまったのは実は自業自得で、ロミオとジュリエットのように親同士が仇なわけでもなく、身分違いというでもなく、双方「両想いです!」と宣言すれば、どちらの両親も祝福してくれて何の問題もなかったはずなのに。手に入らない他人のものになると思った途端、惜しくなる清顕の心理やくだらないプライドに同情の余地はない。聡子はさすがに可哀想だったけど。

    とはいえ、この四部作の主題はそこではないので、彼らの悲恋の成り行きは別として、三島の文章は非常に硬質で美しく鬼気迫るものがあってしんみりする。留学生のシャムの王子など、これ1作で読むとやや唐突な登場人物も、いずれ伏線になるので構成も綿密。

    清顕が最期に本多に告げる「今、夢を見ていた。又、会うぜ。きっと会う。滝の下で」という言葉には、いつも少し涙ぐむ。転生を信じていた三島は、自殺の日程を自分の誕生日の四十九日前にした(つまり誕生日に生まれ変わるつもりでいた)というのを何かで読んだけれど、彼の魂は今どこでどうしているだろう。

  • まさに三島由紀夫の傑作
    滅びの美学、優雅の毒が三島由紀夫の作品の中でも類を見ないような華麗で装飾的な文体で紡がれていく。さまざまなテーマを描き出しており、悲恋の王道のような筋書きでありながらも単なる恋物語に終始していない。

    清顕は絶対的に禁じられていた状況になったからこそ聡子を愛し始めたように思う。聡子を含めたその禁忌を犯す優雅、美しさを愛したのでは。本当に聡子自身を愛したのかは私には疑わしく感じられた。

  • 07.05.
    読みかけ。清顕の歪んだ愛情(><)
    たぶん幼い頃から聡子が好きだったんだよね。

    でも「追われるより追いたい」のが清顕の
    理想の恋愛の形だったんだろうね!

    聡子に縁談がきて、嫁入り確定!
    ってときに聡子に攻めこむ清顕。鬼畜w
    しかーし案外悪い気はしていない聡子。

    「そうそう、俺が求めてたのはこれよ!」
    といわんばかりに、いよいよ調子に乗ってきそうな清顕。禁断の香りがしてきた。

    07.08.追記
    読了。えっと、禁断じゃなくて純愛だったー
    清顕も、渦中にグルグルに揉まれてるうちに、自分の本心をまっすぐに捉えることができるようになり、聡子もその想いに応え。。。
    だからといって結ばれることはなかったのだけれど。

    物語終盤の清顕が出家した聡子に会いに行くくだり、
    清顕が馬車に揺られながら初デートのことを想い出す場面、切なすぎて涙ぼろぼろ!

    まぁ後半はちょっと三島チック満載すぎる感もあったけど、三島由紀夫作品の中では、間違いなくトップクラスの恋愛小説です!!!

    08.17.
    3回目の読了。だめだ、読めば読むほどきゅんきゅんする!
    儚く消えゆく定めの春の雪。
    溶けてなくなると分かっていても、いや分かっているからこそだったのか魅了される二人。
    溶けるのを見ないようにしている二人。
    4回目も読もう!

全604件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

三島由紀夫(1925.1.14~1970.11.25) 小説家、劇作家。
東京生まれ。学習院時代から文才を注目され、1944年、東大入学と同時に『花ざかりの森』を刊行。47年、東大卒業後、大蔵省に勤務するも、翌年辞職。49年、『仮面の告白』で新進作家として地位を確立。『金閣寺』『鏡子の家』『近代能楽集』など、強固な美意識で彫たくされた作品を発表。海外での評価も高い。68年、楯の会結成。『豊饒の海』の最終回を書き上げ、陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地東部方面総監室に立てこもり、割腹自決。

「2017年 『告白 三島由紀夫未公開インタビュー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

豊饒の海 第一巻 春の雪 (新潮文庫)のその他の作品

春の雪 (豊饒の海) 単行本 春の雪 (豊饒の海) 三島由紀夫

三島由紀夫の作品

豊饒の海 第一巻 春の雪 (新潮文庫)に関連する談話室の質問

豊饒の海 第一巻 春の雪 (新潮文庫)を本棚に登録しているひと

ツイートする