豊饒の海 第三巻 暁の寺 (あかつきのてら) (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.58
  • (181)
  • (219)
  • (449)
  • (48)
  • (5)
本棚登録 : 3018
感想 : 227
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101050232

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 松枝清顕の親友であり、飯沼勲の弁護人となった本田繁邦は五井物産の招きで通訳の菱川とバンコックに招待されます。

    本田は四十七歳になっています。
    そこで、暁の寺(ワット・アルン)を訪ねます。
    その後、王族のバッタナティド殿下の一番末のお姫様に謁見することになります。

    そのお姫様、月光姫(ジン・ジャン)は七歳で物心ついてから「自分は日本人の生まれ変わりで、自分の本当の故郷は日本だ」と言っていて、頭がおかしいと思われては王室の恥になるから外国へ連れ出すことはできないので、幽閉されているのだという話を本田は菱川から聞きます。

    本田は清顕の夢日記にあった記述を思い出しその姫が清顕の生まれ変わりと確信します。

    本田は月光姫に会うと、姫は「本田先生!何というお懐かしい。私はあんなにお世話になりながら黙って死んだお詫びを申上げたいと足かけ八年というもの今日の再会を待ちこがれてきました。私を日本へ連れ帰ってください」とまさかの返事をしました。

    姫の子どもらしい愛くるしさに本田は惹かれていきますが本田はひとり帰国します。帰国の翌日に真珠湾攻撃が始まります。
    本田は懐かしくなってふと、松枝家に立ち寄ると九十五歳になった女中の蓼科に会い、聡子が元気にしていることを聞き出します。


    そして第二部では本田は五十八歳になっていて十八歳になった月光姫が日本に留学してきて再会します。
    そして本田はなんと月光姫ジン・ジャンに恋をしてしまうのです。

    本田の恋は全く実らず、ジン・ジャンに本田が清顕の思い出の品である、エメラルドの指輪を与えるも、一度は本田に突っ返してきて、最後は指輪のことなど眼中にありませんでした。

    この巻では本田が主人公ですが、ストーリーは面白かったのですが、何をいわんとしているのか今ひとつわかりませんでした。老いらくの恋の虚しさでしょうか。何かもっと深い意味がありそうな気がしますが。

    本田は清顕であり又、勲でもある月光姫に恋心を抱いてしまったのですが、それははかなく散ったのです。

  • 豊穣の海第三巻、今度はタイの姫ジンジャンが生まれ変わりとして本多の前に現れた。今作からは主に本多視点で物語が進み、感情が細かく描写されているように感じた。

    前半部分では本多がタイやインドで見た光景や唯識論等、輪廻転生に重きを置いた物語だった。そんな経験をした本多の見る世界を追うことができて非常に面白かった。しかし、後半からは本多の性欲の話がメインになり、それまでの話との繋がりがよく分からなかった(というより難しくて読み取れなかった)。そのため、徐々に物語にのめり込めなくなっていった。

    それでも随所に描かれている哲学的な議論は面白く、また美しい言葉には心を動かされた。

    遂に最終巻まで来た。楽しみ。

  • 輪廻転生についての三島由紀夫の見解は、一回読んだだけでは難しくて理解できなかった。けれど三島がインド受けた感銘は言葉で表せられないものだったのではないかと感じた。
    ストーリーに関しては、本巻では今まで傍観者・観測者として転生する清顕、勲を見届けてきた本多が主人公として描かれている。今までの彼からは想像できないような常軌を逸した行動の数々(例えば覗きetc.)には驚かされた。それとともに、本巻の転生者ジン・ジャンのもつ純粋さが、私にとっては本多の歳を重ねた内外面の醜さを露呈させるものに思えてしまった。
    三島由紀夫の輪廻転生観は、仏教における刹那滅で合っているのかな?

  • 谷崎潤一郎作品を読んでいるのかと何度か錯覚した。

  • 1996/08/28
    タイ旅行の前に読んでおこうと手に取る。
    長い3冊だった。
    気持ちが沈む。あまりにもこの本の人生への悲観が今の私を楽に感じるくらい。
    とにかく今の私はダメダメ、もっと強くもっとカッコよくなろうって。
    以前はここまで人の目が怖くなかったはずなんだけど。

  • 傑作だと思う。
    ただ、作者の思いなのかとにかく作品にのめり込まれて、自分を失いそうになるくらいのインパクトがある。

  • 語り部(見届ける者というか)として通しで登場する本多はもう50歳を過ぎていて、僕とほぼ同い年(読んでて結構辛い)。

    三島は、ここでも冷徹に歳をとることの過酷さを描いている。
    彼はたまたま弁護した裁判の結果、巨万の富を得ているが、お金があったとしても年齢からは逃れられないことを際立たせているように思う。

    第1巻で若き2人を破滅に導くこととなった蓼科が95歳で再登場したとこに驚いたが、これも老いの厳しさと業を描いていて、印象に残った。

    タイとインドへの旅、タイの王妃ジン・ジャンの妖しい魅力などから4部作の中でも最もカラフル。小説としてもここまでの3冊はどれも面白く、さすがだなと思う。

  • 三島由紀夫の小説に足りないものは何か。
    それがわかったような、、、。

    この世を創っている仕組みに関与していないのだ。
    いや、批評精神がないとでも言おうか。
    作者の資質なのだから芸術性が削がれるわけではないけど。
    むしろ芸術上の美学が濃くあるのだが。

    さて第三巻にいたって脇役の「本多」が主人公に躍り出てきた。

    第一章と二章に分かれている。

    第一章のタイ、インドへ「本多」が旅行してつぶさに見た、
    「輪廻転生」の仏教哲学を詳しく語る部分は圧倒される。

    「唯識(ゆいしき)」「未那識(まなしき)」「阿頼耶識(あらやしき)」
    の言葉が飛び交い煙に巻かれた感じである。

    ただ、永遠に続くことはなくて絶えず流れているのがこの世であり、
    「いまここ」を生きるという仏教の根本理念はわかるが。

    一章と二章の落差。

    この一章に三島由紀夫が自殺を決意したこのなぞときがあると文庫の解説者はいうが、、、。
    うーむ?

    第二章の老齢になった(といっても58歳、いまならまだまだなのに?)
    のあきれる姿、これでもかこれでもかと猥と雑を描く筆のさえは何事かと思う。

    この司法の場で仕事する人物の、言うなれば世間知らずがおもしろい。
    しかし「情熱な悲恋」と「壮絶な自刃」行動の純粋な見守り手だった彼が、
    やっと人間性を取り戻したのかもしれない。

    ひょんなことから億万長者になり、老醜をさらすような、贅の限りを尽くし、色香に迷い、ばかなことをする、執着する、最低、、、。

    落ちるところまで落ちた先は、、、という作者の心づもりがある。
    というとうがちすぎでつまらないようだけれど。

  • 第3巻「暁の寺」。

    世界は、一瞬一瞬ごとの滝-。未来も過去もなく、ただひたすら今この瞬間だけが存在するのみ。

    豊饒の海も3巻目にして哲学的な論考が随分な紙数を割いて語られる。ロマンチックなストーリーがただ続くだけでは、ダイイングメッセージとしての本小説が意味をなさないので、必要なパートなのでしょう。

    この仏典を解釈するパート、そしてインドへ取材旅行をした上で書かれたヒンズー的死生観のパート、どちらもゆっくり考えたいのだけれども、先が気になるので第4巻「天人五衰」へ急ぐ。

  • 「奔馬」で推理した次の転生「少女、南の島」は当たっていたし、転生者の軽挙妄動も一途な情熱も今回はお休みだ。そしてなんたらあっけない、というか付け足したようなend。
    これは読む側の問題なのだが、流麗で華美な名文にいささか食傷してきた(笑)。けっこう飛ばし読みをしてしまった私を(文学の)神よ、お許しください。

    食傷したので大好きな安部公房を読みたくなったが、そういえば三島と安部は一歳しか違わないのであって、2人の対談などを読むとまあ、頭が良すぎて何を言っておるのかわからない。純然とした日本的なものを描く三島と、透徹と冷然と現代を描く安部という両者の作風の違いはまるで書かれた時代が違うかのようだ。
    さらには作風を異にするこの2人の評価が、揃って海外でも高いというのも面白い。しかしこの小説の巨人がいたなんてすごい時代だな。

    というわけでせっかく調子よく3冊読んだんだから安部に寄り道せず、この勢いで4巻目「天人五衰」へ!

全227件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

本名平岡公威。東京四谷生まれ。学習院中等科在学中、〈三島由紀夫〉のペンネームで「花ざかりの森」を書き、早熟の才をうたわれる。東大法科を経て大蔵省に入るが、まもなく退職。『仮面の告白』によって文壇の地位を確立。以後、『愛の渇き』『金閣寺』『潮騒』『憂国』『豊饒の海』など、次々話題作を発表、たえずジャーナリズムの渦中にあった。ちくま文庫に『三島由紀夫レター教室』『命売ります』『肉体の学校』『反貞女大学』『恋の都』『私の遍歴時代』『文化防衛論』『三島由紀夫の美学講座』などがある。

「1998年 『命売ります』 で使われていた紹介文から引用しています。」

三島由紀夫の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
三島由紀夫
三島由紀夫
三島由紀夫
三島由紀夫
遠藤 周作
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×