- Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101050249
感想・レビュー・書評
-
これほど濃密かつ壮大なのに、これほど不可解で虚しい作品ってそうそうないかもなあ…、とひどく侘しい気持ちで読み終えた三島由紀夫最後の大作「豊穣の海」。
或る一人の魂が、二十年の周期で転生と破滅的な死を繰り返してゆく。
それに呼応するように、一人の男「本多」が、明治中期から昭和後期までを生きた八十余年の彼の人生の中で、なんとかその「転生者」を破滅から救わんと、何度も手を差し伸べて悉く失敗に終わりながら、結局は彼の人生ごとどっぷり絡め取られていく…そんな狂気じみた様子が、仏教思想を根底に置きながら、「春の雪」、「奔馬」、「暁の寺」、「天人五衰」という四部構成で描かれる壮大なお話です。
本多の人生を生涯翻弄し続ける、ある人物の転生した姿は、同じものが一つもなく、多様です。
大正初期、宮家の妃となることが決まった伯爵令嬢・聡子との道ならぬ恋に身を焦がして破滅する、傲慢で美貌の公爵家の嗣子・清顕(きよあき)【春の雪】。
昭和初期、国の行く末を憂い、政府の要人暗殺に闘志を燃やして凄烈な死を遂げる勲(いさを)【奔馬】。
昭和中期、享楽と肉欲に身を染めて最期は呆気ない死を迎えるタイ王族の姫・月光姫(ジン・ジャン)【暁の寺】。
そして、昭和後期、本多が自身の人生の終焉を見越して、傲慢にも運命が変えられるか試みた最後の転生者は…【天人五衰】。
何度転生を繰り返しても、どの人生の最期も、無意味かつ虚しいもので、それがかえって、輪廻の業の深さのようなものを、「傍観者(記憶者)」である本多や、読者の心の上にひどく重苦しい色彩を持って痛感させていきます。
また、この四部作の凄いところは、単なる転生ファンタジーにとどまらないところです。
転生者の種々の人生を眺めるお話という側面は確かにあるけど、それ以上に、本多という一人の男の姿を通じて、一人の人間の一生における変質をつぶさに眺めるお話ともなっているのです。
第一の生・清顕の親友であった本多。
彼は、常に情熱の赴くままに破滅を招く清顕の魂とは対照的に、理知を持って己が人生を成功に導きながらも、年齢を重ねるにつれて、歪んだ悪徳や悪意をその身に蓄積させ、やがてそれらを、隠し持っていた傲慢さとともに、じわじわと表出させながら、順風満帆であった人生を、自身の手で破滅に近づけていきます。
友の魂をなんとか救おうとする善意の姿、世間一般からみた社会的地位のある紳士的な姿とは別の醜い一面が確かに存在し、それが時とともにとどめようもなく肥大化してゆくのです。
それは、ある意味では、情熱と破滅を繰り返す清顕の魂に対する憧れや、友の魂を救えないことに対する贖罪の気持ちの、歪んだ表出だったのかもしれません。
本多は、人生の終焉を目前にして、親友・清顕と彼自身の二つの人生を絡め取るに至ったある場所に宿願叶って六十年ぶりの来訪を果たしますが、そこでは、まるで、彼の人生を全否定するかのような残酷ともいえる結末が待ち受けています。
これには、読み終わった私の心が病みそうになりました。
この作品は、とにもかくにも、三島由紀夫の情熱とある種の病的ぶりがたっぷりと詰め込まれており、この最終原稿入稿直後に、例の乗り込み割腹自殺をしたとされる曰く付きの大作です。
壮大な長編で、見事な出来ですが、なかなかに重苦しい展開をしているので、心が元気な状態で、かつ、まとまった時間が持てる方のみにお勧めしたい作品ですね。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
第四巻の途中まで、物語はどんどん広がりを見せていながら、急に物事の終焉に向かって収斂されていく。それは主人公の老いに沿ったものだが、最終的には夢うつつの話になるという終わり方は、人生そのものが現実なのか夢なのか考えさせられるような物語。人は最期、たぶんそうやって人生を振り返るのかもしれない。
-
天人五衰。高校生のうちにどうしても読みたかった豊饒の海を読了。最終巻が一番早く読み終わった。華族から昭和初期、戦争、戦後…長いようで短いような濃い時間だった。透君と本多さん二人の視点から描かれていた。海だけを見ていた透君が他人を傷つけ、狂女を囲い…最初に登場した時の爽やかな印象とはかけ離れて行くのは面白い。まさか真面目な本多さんの老境がこのようになるとは。聡子さんの言葉に驚き。一冊の中で何回も予想できないような事件が起こった。
巻を重ねるごとに物語に厚み、奥行きが増すのは圧巻。何回も読み返したい。 -
夢の崩壊。
運命的な人間と世俗的な人間の違いはどうにも言葉で説明できないけれど、卑しい者が生き延びて美しい者にも終わりがあるこの世に、聡子の静かな目線が目を覚まそうとする。 -
ジン・ジャンの転生と思われる少年、安永透を養子にした本多繁邦。しかし転生の連鎖はついに絶たれてしまう。
-
『この世には幸福の特権がないように、不幸の特権もないの。悲劇もなければ、天才もいません。
あなたの確信と夢の根拠は全部不合理なんです』
76歳になった本多は転生の神秘にとりつかれ
ジン・ジャンの生まれ変わりを賭け、安永透を養子に迎える。彼は美しい容姿と並外れた知能を持っていたが…
最初からテンポよく非常に面白いと思って読んでいたが、
透の冷酷さが過激化してくるにつれて不快な気持ちになった。清顕や勲の冷静さ冷酷さとは違い、
自分は選ばれた者と信じ、
自分以外の全てを愛することのない透。
本多は信じていた運命から
大きなしっぺがえしをくらうことになってしまった。
三島由紀夫の当初の『天人五衰』の構想メモとは
まったくかけ離れた結末になった。
この本を三島由紀夫の遺書として読むならば、
本多の老いの苦悩、
透の自尊と絶望、
『あなたは最初から偽物だったのよ』と言い放つ慶子の言葉…
全てが彼自身の彼に向けた言葉にも思えてくる。
考えさせられるシリーズだった。
いまもまだ考えている。
いつかまとめることができたらまたレビューを書き直そう、
とか思っているくらいです。
著者プロフィール
三島由紀夫の作品






豊饒の海 第四巻 天人五衰 (てんにんごすい) (新潮文庫)に関連する談話室の質問
外部サイトの商品情報・レビュー
豊饒の海 第四巻 天人五衰 (てんにんごすい) (新潮文庫)を本棚に登録しているひと
-
- kozue
- 2019年11月1日に登録
-
- m'A`tsushi
- 2019年8月28日に登録
-
- itk
- 2019年8月2日に登録
-
- ゆぺこ
- 2019年8月2日に登録
-
- londonbookclub
- 2019年1月13日に登録
-
- 東京都市大学 学生選書ツアー
- 2018年12月19日に登録
-
- caligulasu
- 2018年10月4日に登録
-
- おと
- 2018年9月24日に登録
-
- riruke09
- 2018年8月25日に登録
-
- なかし
- 2019年12月1日に登録
-
- Wasabi
- 2019年11月29日に登録
-
- くどう
- 2019年11月1日に登録
-
- どぃ
- 2019年10月28日に登録
-
- ゆこ
- 2019年10月24日に登録
-
- 座高
- 2019年10月21日に登録
-
- K
- 2019年10月14日に登録
-
- mie580512
- 2019年8月23日に登録
-
- とみぃ
- 2019年8月7日に登録
-
- ぽみ
- 2019年7月31日に登録
-
- とりわけさん
- 2018年10月18日に登録
-
- chtk6s
- 2018年1月27日に登録
-
- borisvian1947
- 2016年6月5日に登録
-
- tomomorijp
- 2016年4月3日に登録
-
- hagi1976
- 2016年2月14日に登録
-
- tdk827
- 2015年12月1日に登録
-
- adafumii
- 2015年3月29日に登録
-
- くずこ
- 2014年6月23日に登録