久しぶりの短編集、思ったよりハマらなかった短編集だった。昭和30年に発売された単行本を図書館で借りてきたら、現在新潮社から出ている文庫本と収録作品が異なっていて、そういうこともあるのか…となっていた。
単行本には、花火、離宮の松、水音、新聞紙、不満な女たち、卵、海と夕焼、旅の墓碑銘、ラディゲの死、地獄変、鰯売恋曳網が収録され、本文庫本には、みのもの月、山羊の首、大臣、魔群の通過、花山院、日曜日、箱根細工、偉大な姉妹、朝顔、旅の墓碑銘、ラディゲの死、復讐、施餓鬼舟
旅の墓碑銘とラディゲの死だけが共通。まずは文庫本を読んだ形。
文庫本の中では「みのもの月」「朝顔」「旅の墓碑銘」「ラディゲの死」あたりは好きだったけど、どれもめちゃくちゃ好き!というほどにもならなくて、残念笑。
「みのもの月」は17歳の時の作品!みのも=水面。
「どうぞお心を昔にかえして下さいまし。どうぞ再びわたくしに会うと仰言って下さいまし。御戻り下さいまし。後生。お戻り下さいまし。…」から始まる女と男のやりとり。
女が縋っているような出だしだが、途中で立場が逆転するも、男がすげなく断られ出家・逝去となる。最後の「瓔珞のかげからどうぞわたくしに繽紛と花のはちすをお降らし下さいまし、はるかのそらにかかる無量の琴のねを、この地上にあって哀しみにたえております女の耳におきかせ下さいまし、わたくしは、みのもの月でございますから。」という最後の文が美しい
「旅の墓碑銘」単行本によると、「「火山の休暇」「死の島」に続く連作の一篇で、菊田次郎という作者の分身をして、作者の制作心理を語らしめようとした小説であるが、私はかういう遊びに飽きたから、これから先、菊田次郎の登場する作品が、また生れるかどうかは定かではない」そうだ。
火山の休暇は『岬にての物語』、死の島は『鍵のかかる部屋』で読んでいるはずだが直線で繋がらなかった。
「君は生命に觸れなかつたのか」
「君はその指でもつて生命に觸れるとでも言ひたげだね。猥褻だね。生命は指で觸れるもんぢやない。生命は生命で觸れるものだ。丁度物質と物質が觸れ合うようにね。それ以上のどんな接觸が可能だらう。…それにしても旅の思ひ出といふものは、情交の思ひ出とよく似てゐる。事前の欲望を辿ることはもうできない代りに、その欲望は微妙に變質してまた目前にあるので、思ひ出の行爲があたかも遡りうるやうな錯覚を與へる」