鹿鳴館

  • 新潮社 (1984年12月24日発売)
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  • 本 ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101050355

感想・レビュー・書評

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  • 戯曲ということで喰わず嫌いで今まで読まずにいたが、四遍とも愉しめた‥‥反省。

  • 再読。表題作含む戯曲4作収録。

    「鹿鳴館」明治19年(1886年)11月3日の天長節(※明治天皇の誕生日)の日、鹿鳴館で舞踏会が開催される。主催するのは影山伯爵。妻の朝子は元・芸者で、華やかな場を嫌い出席しないつもりだったが、友人の大徳寺侯爵夫人・季子から、彼女の娘・顕子の恋人についての相談を受ける。彼の名は自由民権運動家・清原永之輔の息子・清原久雄。その名を聞いて朝子は顔色を変える。実は久雄は、結婚前に愛しあっていた朝子と清原永之輔の間にできた子供だった。現在、清原と朝子の夫は政治的に対立する立場になり、影山の暗殺計画が鹿鳴館の舞踏会中に実行されるとの噂があり…。

    かつての恋人&自分の産んだ息子のために奔走する朝子、彼女の裏切りを知り復讐を計画するその夫、それぞれの思惑が行き違い、思いがけない悲劇的結末に。鹿鳴館が舞台なので、ちょい役で伊藤博文夫妻と、大山巌夫妻も登場。三島の創作ノートによると、どうやら影山のモデルは井上馨、清原父のモデルは後藤象二郎らしい(とはいえもちろん二人の間にこんな曰くつきエピソードはない)明治の元勲には、桂小五郎や伊藤博文を始め、妻は元・芸者パターンは結構多かった。

    「只ほど高いものはない」かつて夫・虎吉の浮気に苦しめられた妻・成子。20年の月日を経て、かつての夫の年上の愛人・ひでが零落した姿で現れ、女中として雇ってほしいという。彼女への憎しみが忘れられない成子は、あえて彼女を雇い入れ、侮辱的な扱いをすることを思いつく。かつての美貌はすでに衰え初老のおひでさんを成子はこき使うが、次第に家庭はおひでさんに乗っ取られていき…。妖婦おひでさんの存在感が強烈。彼女には誰も勝てない。

    「夜の向日葵」ひまわりのように明るく無邪気で前向きな女性・柏木君子。夫はすでにないが裕福で楽しく暮らしている。かつて同じ男性を愛し争った親友の花子とは今も仲良しだが、花子のほうは太陽のような君子の存在に屈託を抱えている。君子の息子・和男が結核になり、花子の夫・園井のサナトリウムに入院することになってから、花子と園井の不倫が始まる。和男には慶子という恋人がいるが、病気快癒のため君子は慶子の見舞いを禁止、しかし花子は慶子に協力し、和男との密会を支援する。結果、和男は寿命を縮め…。収録作の中で一番の長編。親友の女同士二人の愛憎劇。

    「朝の躑躅」一幕のみの小品。裕福な草門子爵夫人・綾子に想いを寄せる商人の小寺は、彼女の夫の銀行が破綻したのを口実に、大金と引き換えに綾子との一夜を要求する。綾子は夫のために泣く泣く応じるが、その晩すでに夫は悲観して自殺していた…。運命の皮肉と、貞淑な妻のプライド。

    自作解題は、三島自身が上演パンフレットに寄せた文章など。

    ※収録
    鹿鳴館/只ほど高いものはない/夜の向日葵/朝の躑躅/自作解題

  • もともと言葉の美しさが際立つものが多い三島作品。
    それが戯曲となると、小説よりも言葉数が少なくなる分、言葉や表現ひとつひとつが吟味され洗練され、更に魅力を増しているように感じます。
    特に「鹿鳴館」。
    思わず声に出して読みたくなる作品です。
    いつか舞台で観てみたい戯曲のひとつ。


    • 地球っこさん
      sissy50さん、こんにちは。
      いつもレビュー楽しみにしてます♪
      わたしも今、三島由紀夫の戯曲『黒蜥蜴』
      を読み始めたところです。
      ...
      sissy50さん、こんにちは。
      いつもレビュー楽しみにしてます♪
      わたしも今、三島由紀夫の戯曲『黒蜥蜴』
      を読み始めたところです。
      江戸川乱歩の小説『黒蜥蜴』の翻案ですが、sissy50さんの仰るとおり三島作品の
      言葉の美しさに感動してます。
      声に出して読みたい作品……そんな気持ち、とても分かります。
      この戯曲も、それに加え耽美的でロマンチックな雰囲気で、原作よりかなり好き
      かも♪
      戯曲『鹿鳴館』とても読んでみたくなりました(*^^*)ご紹介ありがとうございます!
      よかったら、sissy50さんも戯曲『黒蜥蜴』お手に取ってくださいね。
      とっくに読んでおられたら、ごめんなさ
      いね^^;
      2018/11/30
    • sissy50さん
      地球っこさん。
      こんばんは。いつもレビューにいいね!をして下さりありがとうございます。楽しみにしているとのお言葉嬉しいです。
      『黒蜥蜴』...
      地球っこさん。
      こんばんは。いつもレビューにいいね!をして下さりありがとうございます。楽しみにしているとのお言葉嬉しいです。
      『黒蜥蜴』読んでるのですね!
      数年前に劇場でチラシを見かけて、観に行きたい!と思った作品ですがその時は結局行けず…
      本も読みたいと思いつつもまだ読んでいません。耽美的な戯曲作品はかなり好きな部類に入るのでこの機会に是非とも読んでみようと思います!
      『鹿鳴館』はオススメです!
      あと今ちょうど読んでいる『近代能楽集』もなかなかの面白さなので是非手に取ってみて下さい♪
      2018/12/01
    • 地球っこさん
      sissy50さん、おはようございます(*^^*)
      『近代能楽集』読んでみます♪
      うわぁ、楽しみ!ありがとうございます。
      sissy50さん、おはようございます(*^^*)
      『近代能楽集』読んでみます♪
      うわぁ、楽しみ!ありがとうございます。
      2018/12/02
  • 戯曲。お互いが察して欲しい察して下さいと思い、察してくれていると期待して、察してくれたと信じようとする。登場人物皆が自分本位だけど自己中心的ではない。結末は納得。何度読んでも言葉の美しさにうっとりする。
    2018.3.7

  • 嘘の付き合い、騙し合い。
    過剰なほどに、誰かが芝居を回さなければならない。

    華美にあろうとすればするほど浮き上がるそれぞれの美学と建前!嘘にすらならない嘘!
    だけどこれは舞台で、結論や解決は必要ないのだ。幕が閉まれば止まる美しいお人形の一瞬の記録なのだ。

  • 台詞に酔っ払いそうになる。
    ワインみたいな芳醇さで、ここの登場人物たちは、この世界から一歩でも外に出たら多分みんなを体調不良にしてしまう。でもこの世界をのぞいている分には良きお味…となって、そうでないと物足りない感じになる。これだーれだとセリフだけ見せられても、8割の確率で三島由紀夫と当てられそうだ。気になった台詞全て書き写していたら、腱鞘炎になりそう。
    世の中のことや、伝えたいテーマと紐づいて、人間ってこういうとこあるよね!というのがどのお話からも垣間見えて、なんかもう、ただただすごいなと圧倒されてしまった。
    井上ひさしの「芝居の面白さ教えます」を読んで読みたくなって手に取ったので、たぶん倍がけで面白く読めたと思う。

  • 表題作他「只ほど高いものはない」「夜の向日葵」「朝の躑躅」収録。どの作品もとても面白かったです。人のある行動が事態を思わぬ方向へと導いていくシニカルな展開は、善と悪、愛と憎しみ、真と偽、白と黒が立ちどころに引っ繰り返っては複雑な人間模様を描いていく。男女の機微、心的な駆け引きが捲し立てられ、破滅の予感が徐々に張り詰めて最後はふっつりと糸が切れるような「夜の向日葵」は人の優しさと残酷さは紙一重、幸福とは何も感じないことであると、幕が閉じた後、激しい虚無感を覚えます。「朝の躑躅」はラストの旭に染まった白い躑躅の花群れが鮮やかに見えるようです。悲劇の一夜が明けた朝はどんなに残酷な旭が射したことだろう。純白を汚す血汐の如く。「鹿鳴館」はタイトルからして浪漫を感じます。こちらも悲劇的な内容ですが、その悲劇すらも演じられたように美しい。「只より高いものはない」は女性は強かだなと思わせる作品。三島が描く女性は大体、強くてしなやか。

  • 彩り鮮やかでいつまでも口の中に甘さの残る和菓子

  • 戯曲集。
    三島の文章はちょっと苦手だったけど、戯曲ならすんなり読めるので好都合。たまんない濃密な美意識世界。
    「鹿鳴館」「只ほど高いものはない」「夜の向日葵」「朝の躑躅」どれも面白い。

  • 政治と愛情における双方の偽りを、4人の男女を通して多面的に描ききる。その中での台詞一言一言が圧倒的に面白い。「菊の美しさは庭師の憎悪が花ひらいたもの」という台詞に鳥肌が立った。全編通して、三島の日本語表現の巧さが出ている。<俳優芸術のための作品>という戯曲だけに、舞台で、一流の役者が一流の表現を語るのを見たいという欲が湧き上がった。

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著者プロフィール

本名平岡公威。東京四谷生まれ。学習院中等科在学中、〈三島由紀夫〉のペンネームで「花ざかりの森」を書き、早熟の才をうたわれる。東大法科を経て大蔵省に入るが、まもなく退職。『仮面の告白』によって文壇の地位を確立。以後、『愛の渇き』『金閣寺』『潮騒』『憂国』『豊饒の海』など、次々話題作を発表、たえずジャーナリズムの渦中にあった。ちくま文庫に『三島由紀夫レター教室』『命売ります』『肉体の学校』『反貞女大学』『恋の都』『私の遍歴時代』『文化防衛論』『三島由紀夫の美学講座』などがある。

「1998年 『命売ります』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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