熱帯樹 (新潮文庫 み-3-36)

  • 新潮社 (1986年1月1日発売)
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本 ・本 (307ページ) / ISBN・EAN: 9784101050362

感想・レビュー・書評

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  • 林遣都くんのお芝居を見るために読了

  • 貸出状況はこちらから確認してください↓
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  • 三島由紀夫作品はどれも好きだが、この『熱帯樹』は隠れた名作のように思う。三島文学らしさが全面に出ていながら、戯曲としてもおもしろい。舞台を実際に観てみたかった……。

    あとやはり表現が良い。良すぎる。妖しさがあって、重みもある。そしてロマンもある。それぞれの表現ごとに匂いがあって、それもすべて花的な匂いじゃない。雨に濡れた舗道の匂いもあれば海の匂いもある。

    たとえば、病弱の郁子が小鳥に「そんないらいら啼かずに」なんて云う。その兄の勇が妹に見て来た海を語ろうとして、埋立地を「動かない巨(おお)きな船の甲板」と喩える。これらはどれも収録された三篇のうちの『熱帯樹』からの引用だが、これほどの表現が幾度もあらわれて、数ページごとに胸がいっぱいになってしまう。

    『熱帯樹』
    個人的にこれがいちばん好みだった。はじめ、建前と本音(しかしその本音もはたして本音かわからない)が行き交って、ゆったりと蒸し暑い森林に迷い込むような感じがした。罪を擦り付け合い、エゴとエゴの協約、エゴを美的に着飾るためのエゴ。怖ろしい艶めかしさがあって酒に酔ったようになる一作だった。

    『薔薇と海賊』
    聖らしい美しさとそのうらにあるドロドロとした血の感じがあった。それを半ば強引に、まったく純粋な美しさに(童話的世界)に移ろうとする。海賊を追い出し、薔薇だけにしようとする。汚いリアルを淘汰し、美しいファンタジーだけの世界。リアルがファンタジーを潰す話はよくあるけれど、ファンタジーがリアルを追い出す話は(個人的に)新鮮だった。

    『白蟻の巣』
    正直、これだけあまりしっくりこなかった。ただ刈屋への啓子の非難は面白かった。許しをすることの残酷さのような。

  • 「熱帯樹」「薔薇と海賊」「白蟻の巣」の戯曲を3編収録した本です。兄と妹の近親相姦ものの「熱帯樹」も好きだし、不思議な「薔薇と海賊」も好き。わいわいしているのに、寂しくて哀しい。道化師の哀しさ。中学生の時に読んで、かなり私に影響を与えた本かな…と思う。今にして思えば…。バレエの振り付家のベジャール作品を好きなのは、この本の影響があるからかもしれないなあ〜。

  •  読んでいるのは新潮社の『全集23 戯曲3』ですが、表紙があるのでこちらに。

     三島は「家族」というフレームが嫌いなんだろうな(幼少期を見ればそれはそうかという気もする)。財産を契機として登場人物それぞれがそれぞれに後ろめたさを持ち、それが嘘を生んでメビウスの輪の如く循環している。

     色欲は父-母-勇-妹間を媒介する「力」であり、三種三様に描かれている。

  • 現在は絶版になっている一冊で、いつも読んでいる新潮文庫の一覧には載っていないので知らなかった。たまたま市の図書館で三島由紀夫コーナーを覗いてみて、見つけたので借りてきました。
    三編の戯曲集で、どれが一番好きかと言われるとこれは難しい。やはり「熱帯樹」かなと思う。

    「熱帯樹」
    『岬にての物語』の「水音」にも書いてあったような気がするが(そうでなければどこか別のところで)、三島由紀夫の幼少時の千夜一夜物語との出会い、特に墓穴の中で抱き合ったまま死んでいった兄妹の話は、どれだけの影響を彼に与えたのだろう。

    実際にフランスで起こった事件がベースだというのだから本当に驚く。ギリシア悲劇の筋立てじゃあないか、物語は物語だからこそ美しいが、それは決して現実と離れたところでは生まれない薔薇なのだ。

    手を取り合って、二人で美しい優しい海に沈んでいく兄妹はなんと甘やかなのだろう。
    気弱な兄も、最後には決心し行動したのであって、そいう造形をしたところに三島の千夜一夜物語への愛情を伺うことができるのではないだろうか。
    禁忌とされる兄妹相姦も実際に描写することで、三品内では最も官能的。

    「薔薇と海賊」
    本当のラヴ・シーンとは、バレエのようなシーンだという。阿里子と帝一、女流童話作家と白痴の青年の恋物語。これはこれで美しい世界で浸れる。

    毀れた玩具の比喩は、『獣の戯れ』にも登場したね。

    「白蟻の巣」
    貴族的な古い血は全て死んでいて、新しい血が躍動しているという、どこかで読んだ構図。三島の戦後生き残ってしまったことで、自分が「死人」だという感覚や、白蟻の素に象徴されるであろう空洞感というものは、そういうことなのだろうと読むことはできたが、あまり痛烈に、痛切には伝わってこれなかったのはなんでだろう?(それは星3の理由なのだけれど)

    とはいえこれらは実際の戯曲なのだから、いつかは舞台で見てみたいと思います。

  • 2019年6月9日に紹介されました!

  • もはや私は劇団員となり、舞台で主役を演じている。
    古典劇、恋愛劇、姦通劇。なんでも来い。但し楯の会の入会は断固断る。

  • 実際の舞台を観てみたかったな〜 妖しい戯曲だった…

  • 三島由紀夫の30代前半に初演された、今ではややマイナーな戯曲3篇を収録。『白蟻の巣』は、幕切れが幾分もの足りない気はするものの、いずれも構成の妙と、緊張感が途切れることなく持続する、実に濃密なお芝居だ。散文作品では華麗な情景を描き出す三島だが、こうした戯曲では登場人物のセリフだけで物語世界を構築していくのであり、また別種の才能や工夫が必要だろう。そして、戯曲を読むと、三島の真骨頂はむしろこちらにこそあるのではないかとさえ思えるのだ。表題作の『熱帯樹』で描かれる兄妹の近親相姦の情念の表出は、とりわけ見事だ。

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著者プロフィール

本名平岡公威。東京四谷生まれ。学習院中等科在学中、〈三島由紀夫〉のペンネームで「花ざかりの森」を書き、早熟の才をうたわれる。東大法科を経て大蔵省に入るが、まもなく退職。『仮面の告白』によって文壇の地位を確立。以後、『愛の渇き』『金閣寺』『潮騒』『憂国』『豊饒の海』など、次々話題作を発表、たえずジャーナリズムの渦中にあった。ちくま文庫に『三島由紀夫レター教室』『命売ります』『肉体の学校』『反貞女大学』『恋の都』『私の遍歴時代』『文化防衛論』『三島由紀夫の美学講座』などがある。

「1998年 『命売ります』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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