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本 ・本 (304ページ) / ISBN・EAN: 9784101050393
作品紹介・あらすじ
三島が初の小説「酸模」を書いたのは、日中戦争が本格化していく1938年、13歳の時。本書は、以降時代の流れにそって各年代から9篇を精選した。二十代の作品からは奇癖をもつ女を描く「手長姫」や、兄妹の異様な短篇「家族合せ」、虚ろな日本人の姿を切り取った「S・O・S」、三十代は技巧冴える「魔法瓶」、怪談「切符」、四十代の問題作「英霊の声」など。などてすめろぎは人間となりたまひし。「英霊の声」は、〈天皇と日本〉を根本から問う永遠の問題作。
感想・レビュー・書評
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「本流ではない支流から眺めてもやっぱり三島は三島」という感じの短編集でした。
大正14年生まれのため、満年齢と昭和の年数が一致し、45歳で壮絶な死を選んだ三島由紀夫。13歳の処女作を皮切りに各年代から計9篇の小品を収録しています。
羅列になりますが、本書収録作品と書かれた年齢、それから、三島の主な代表作と書かれた年齢は以下のとおり。
【本書収録作品と書かれた年齢】
酸模―秋彦の幼き思い出…13歳
家族合せ…23歳
日食…25歳
手長姫…26歳
携帯用…26歳
S・O・S…29歳
魔法瓶…37歳
切符…38歳
英霊の声…41歳
【三島の主な代表作と書かれた年齢】
仮面の告白…24歳
潮騒…29歳
金閣寺…31歳
憂国…36歳
サド侯爵夫人…40歳
豊饒の海(※四部作)…40〜45歳
マイナー(本書)、メジャー(代表作群)のどちらにも、年代ごとの傾向、それから変遷には、やはり共通点が多く感じられて、同じ人が書いたことが妙に腑に落ちます。
強い個性はそうそう隠れないというか。
個人的に感じた年代別の傾向は以下のとおり。
13歳…観念的・希望的
20代…俗物的
30代…技巧的・象徴的・厭世的
40代…破滅的・変態的
今回、年代別に、つまり、三島の年齢を意識しながら作品を読むことになって興味深かったのは、三島作品の最大の特徴である論理性と無駄のない配置美が、20代後半に徐々に形作られていき、29歳の「潮騒」にて、「三島様式」として確立されたことがよくわかった点。
そして、31歳の代表作「金閣寺」につながるという…。
それから、嬉しかったのは、「日食」と再会できたこと。学生時代の模擬試験で出題された時、女の独占欲を描いたなんてことのない話なのに、なぜだかひどく印象的で、切に続きを読みたいと思いながら、出典をすっかり忘れてしまったために長年出会えなかったもの。
あれがまさか、三島の作品だったとは。
でも、確かに三島な面があります。
そして、模試に掲載されていた短い文が全文だったとは…。
本作品集は、三島作品を読んだことのない人が初めて読むには、きっと、どの話も短すぎて物足りないし、理解し難い部分があると思います。
どちらかというと、(私のように)代表作の一部だけを書かれた年代を無視してバラバラに読んでいる「三島ビギナー」で、三島の世界観の変遷を辿ってみたいような人におすすめです。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
13歳から41歳まで、三島の新潮文庫未収録短編9作。アウトテイク集みたいなものだと思っていたが、三島を理解する上で思っていた以上に重要な作品もあった。スルーしなくて良かった‥‥
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今年(2020年)は三島由紀夫の没後50年ということで、新潮文庫の三島本が大幅リニューアルしたようですが、こちらは新潮文庫未収録作を集めた短編集新刊というので手に取りました。1作ごとに、発表年と時代背景の簡単な説明があり、とても親切。他の文庫もそうなったのかしら。
「酸模(すかんぼう)」昭和13年、三島13歳の処女作。近所の丘に刑務所が出来、そこから脱獄囚が逃げたというので、丘で遊ぶのを禁じられた幼い少年が、迷子になって偶然脱獄囚と遭遇し…というお話。少年の無垢さが脱獄囚を改心させる、童話のようなおもむきもあるけれど、残酷なような気もする。13歳でこれを書いた三島はやっぱり早熟の天才。
「家族合せ」昭和23年。両親を亡くし堕落した兄妹のいびつな関係性。幼い頃女中たちの下品なジョークのせいで、歪んだ性的トラウマを刷り込まれてしまう不幸。
「日食」昭和25年。4頁の掌編。戦争で盲目になった夫を持つ女性の歪んだ独占欲が短い中に見事に表現されている。
「手長姫」昭和26年。タイトルから、なんとなく王朝もの、あるいは昔話風なのを想像していたら全く違いました。裕福な華族のお嬢様なのに、なぜか手癖が悪く、万引き常習犯となった女性につけられた綽名が「手長姫」。盗まずとも何でも買える家に生まれても、ほとんど欲しいと意識しないままに様々なものを盗んでしまう彼女は、資産目当ての相手と結婚するも、その夫の変な性癖のせいでさらに不幸になり、最終的には精神病院へ。奇妙で物悲しい。
「携帯用」昭和26年。現代でいうキャバ嬢にはまってしまったサラリーマンが、そのために会社のお金に手をつけ…。タイトルの携帯用というのはラジオのことで、この物語の男と女にとって、そのラジオに対する認識がまったく違う=互いについての思い入れの違いの象徴となっています。
「S・O・S」昭和29年。瓶詰されたS.O.S.のメッセージがみつかる。そのメッセージが書かれた経緯は…。それぞれ不倫を認め合ってる夫婦の、夫のほうの愛人になって巻き込まれた女性のお話。
「魔法瓶」昭和37年。海外で仕事中に、昔の恋人と再会した男。魔法瓶でお湯がぶつぶつ音を立てるのを怖がる子供のエピソードがうまく生かされている。元カノとよろしくやって調子こいてた男がしっぺ返しをくらう感じ。
「切符」昭和38年。商店街の集まりに出かけた仕立て屋の男が、妻を自殺に追い込んだ(と彼が思いこんでいる)時計屋の男の姿をみつけ、彼に意地悪をしてやろうと、遊園地のお化け屋敷に誘うが…。どんでん返しがあり、まさかの幽霊譚。個人的にはこれがいちばん面白かった。
「英霊の声」昭和41年。帰神(かむがかり)の会に参加した語り手の記録という形式。憑代になった若者に憑りついた、二・二六事件の蹶起将校の霊と、第二次大戦の神風特攻隊の兵士たちの霊が己れの憤りを語る。延々、霊の独白が続くので、朗読劇のような奇妙な迫力があり、演劇的な効果があった。三島は能の様式を意識して書いたらしい。悲憤慷慨する霊の気持ちに全面的に共感はできないが、ある意味彼らの言っていることは間違っていないと思わされる部分もあり。問題作なのは間違いない。 -
2021年4月
短編集だが、「英霊の声」以外は読んだことがなかった。
三島由紀夫が23歳の時に書いたという「家族合わせ」は主人公の主税が作者自身と重なる部分がある気がして、『仮面の告白』に大ハマりしていた学生の頃に読みたかったなぁと思った。
若い頃に書かれた作品もすべて細部まで神経が行き届いていて三島由紀夫らしい。
豊穣の海あたりになると華麗な描写がたまに胸焼けするので、これくらいの短編集が読みやすくていいかもしれない。 -
潮騒や金閣寺くらいしか三島さんの小説は読んだことがなく、なおかつストリーも覚えていないので彼の壮絶な最期のノンフィクション本を読んだのをきっかけに彼の短編集を読んでみた。「酸模」は13歳の時の作品だとか。すごすぎる。13歳が書く文章じゃないと思う。でもほとんどの作品がよくわからない。「携帯用」ラジオに対する主人公とその女の認識の違いが書いてあるけど、それが何に繋がるのかわからない「SOS」そのSOSに妻の皮肉を見破ったとあるけど、どんな皮肉?「魔法瓶」もそう。かろうじて「手長姫」と「切符」だけはわかった。
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年代順に短編を九つ集めた作品集。驚かされるのが、第一作品の「酸模」が齢十三の時の作品である事実。すでに三島文学の芳香が漂い、その早熟さに驚嘆する。その他の作品はどれも毛色が異なるが、共通するのはどこか一点で別世界に放り込まれるような、異質の場所に放り込まれる居心地悪い感覚である。
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読後感想とは少しずれます。私はラジオリスナーで、NHKも民放局も好きです。作家のインタビューや朗読、ブックレビューなど、読書にも大いに関連します。聞くところによると文化放送、TBSラジオ(元東京放送)などは今年開局70周年を迎えるそうです。この三島の短編集には70年前(1951年)に発表された『携帯用』という作品が収められています。携帯用ラジオというものは当時かなり新しい、値の張るものだったでしょう。青年が堕ちていく人間心理のミステリーです。ほかに『魔法瓶』という作品もあり、名詞に昭和史を感じます。
著者プロフィール
三島由紀夫の作品





