- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101051819
作品紹介・あらすじ
「本をつくり、とどける」ことに真摯に向き合い続けるひとり出版社、夏葉社【なつはしゃ】。従兄の死をきっかけに会社を立ち上げたぼくは、大量生産・大量消費ではないビジネスの在り方を知る。庄野潤三小説撰集を通して出会った家族たち、装丁デザインをお願いした和田誠さん、全国の書店で働く人々。一対一の関係をつないだ先で本は「だれか」の手に届く。その原点と未来を語った、心しみいるエッセイ。
感想・レビュー・書評
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島田潤一郎さん起業のひとり出版社「夏葉社」。以前、島田さんが書店員の話を聞き取り、1冊にまとめた(共著) 『本屋で待つ』を思い出しました。島田さんの単独著作は初めてです。
作家志望の断念、身近な人の死、転職活動50社連続不採用から、33歳で会社を立ち上げるまで、さらに自分の(仕事をしていく上での)身の振り方が定まり、人との関わり方が綴られ、会社立ち上げまでの経緯や想いについて、十分伝わりました。
ビジネスツールや大量生産商品としての「本」ではなく、1人の作家の魂を大切に扱い、誰かに届けるという姿勢を続けることで、経営の方向性が確立していきます。鬱屈している日々に光をもたらしてくれるもの、その瑞々しさを掬い上げる本屋のあり方の一つの答えが示されている気がします。
選ばれた朴訥な言葉、温かい文章、行間から滲み出る人柄‥、とにかく読めば、島田さんの誠実さが判るし、これがそのまま文芸を中心とする独立系出版社「夏葉社」の本作りの魅力なのでしょう。
レビュー数が多く評価の高いことを、本の選択の指標とするのも大いに結構なことですが、古くて脚光を浴びずに埋もれている多くの本に対して、視野を広げたいと思わせてくれる1冊でした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
2008年、32歳の時に一人で出版社を立ち上げた島田潤一郎さんのエッセイ。終始落ち着いた空気の流れるエッセイで休日の午後に読むのにぴったりだった。当初作家を目指していて27歳までは定職についていなかったという島田さん。35歳までは色々なインプットしようと心に決めていたとのこと。出版社立ち上げのきっかけは、転職活動が全くいかない中、仲良くしていた従兄弟の死だった。量産型ではなく、心を込めて納得のいく1冊を作るスタンスを持つ島田さんの仕事ぶりはとても丁寧だ。自分が辛い時期に心を救ってくれた本全般への敬意や、営業の際丁寧に対応してくれた人たちへの感謝の気持ちなど、初心を忘れず、信念を持って真摯に仕事に打ち込む様子がとても良かった。島田さんは実は大企業の勤め人に最近まで憧れがあったとのことだが、この方の天職は明らかにこちらだろう。自分に合った環境がないのなら作ってしまおうという心意気や、本づくりへの自分の思いを曲げずに世の中に一般的な価値観にとらわれずに成功した島田さんは格好良く、元気を与えてもらった。
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なんかもう最初から最後(文庫版あとがきも解説も)まで、ずっと泣いてた。全部の文に線を引きたい、付箋でも貼りたいほど、ずっと心を掴まれていたし、寄り添ってもらっていた。
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先月とあるトークセミナーで、島田さんのお話を目の前で聞く機会があった。少し震えているようにも感じる緊張の面持ちで話し始めたその様子が、本の印象そのままでした。
その後の販売会で、お声をかけようとして泣きそうになり、言葉が詰まってしまった私を茶化さず慌てずぐっと堪えて、「(話が良かったと聞いて)よかったです。」と落ち着いた様子で応えてくれた、あの空気感が忘れられない。
思い出すたびに、背筋を伸ばすことになると思う。
こんな本に出会えて感謝です。
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丁寧な仕事をしている、という印象の夏葉社。独立系書店等でフェアを組まれ、読書好きの方の間で熱烈に支持をされているこの出版社について、その出版社を立ち上げた島田さんについて、詳しく知りたいと常々思っていた。
どういう経緯で起業しようと思い、どんな思いで本を作るのか。淡々とした語りながら、熱い気持ちが溢れている。理想だけではやっていけないけど、ビジネスに系統しすぎれば大事なものを見失う。当たり前のことだけど、そのバランスを取るのが本当に難しく、書店員時代の苦い経験が甦る。だから、真摯な仕事をしてくれる島田さんのような存在は出版業界の希望だなとつくづく思う。
本書の素晴らしさを津村記久子さんが的確に解説されていて、私は津村さんの文庫解説が大好きなのだが(本書の購入目的のひとつ)、今回も涙ぐみそうになるほどよかった。誰かにそっと寄り添ってくれる本。津村作品もそうだけど、本書も間違いなく、弱ってたり悩んでいたりする心にじんわり沁みる一冊だ。 -
ひとり出版社夏葉社を立ち上げ素敵な本を出し続けている島田さんが、出版社を作ることになった経緯や様々な苦労、本作りにかける思いなどを綴ったエッセイ。
夏葉社を立ち上げることになったいきさつは、『あしたから出版社』でも書かれているので、結構知られていることだと思うが、とても仲の良かった従兄の事故での急逝、息子を亡くしてしまった叔父、叔母の心を支えるために、ヘンリー・スコット・ホランドというイギリスの神学者の書いた一編の詩を本に仕立て、プレゼントしよう、その夢を実現するため出版社を立ち上げたのだった。
起業に当たってA4一枚の事業計画書を作り、その事業目的に「何度も読み返される、定番といわれるような本を、一冊一冊妥協せずにつくる…」としたことに、島田さんの本に対する思い、出版社という事業、仕事をしようとした思いが良く表れていると思う。
夏葉社の本は装丁や版型を含め丁寧な本作りだなあと感じていたが、本書ではそういった本を出していくための島田さんの哲学、考え方が丁寧に説明され、また、実際の仕事の進め方や全国の書店への営業、金銭的な苦労についての話などが具体的に書かれていて、自分たち読者にこうして一冊の本が届くのかとの感慨も覚えた。
「人生が一度きりなのであれば、ぼくはいまの仕事をできるだけ長く続けたい。/それくらい、ぼくはいまの自分の仕事が好きだ。/大好きだ。」(はじめに)
こんな思いで仕事をしたかったものだ。(嘆息)
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同世代で、こういう生き方している人がいるんだなあと思う。氷河期で正社員が当たり前じゃなくなって、派遣でもバイトでも何とか食いつないでいても足元グラグラ。何かあったときにてきめんに足元すくわれる。同時にネットが出てきて、時代の流れが早くなった。
本当に大切にしたいものは何なのか、それがあって生きている。この本の中に大事なものがいっぱいあった。 -
読みながら、温かい気持ちになれる本。
言葉づかいがやさしく、わかりやすいからか、文字を追うのが心地良くてあっという間に読み終えてしまった。
日々の「はたらく」をとおして、人との接し方や生き方などにおける「忘れがちだけど大切なもの」を教えてもらったような気がする。
「本」という存在や「読書」という行為についての島田さんなりの解釈も面白く、発見があった。
ほかの著書もぜひ、読んでみたい。 -
ひとり出版社“夏葉社”をされている島田潤一郎さんの、本への想いが溢れ綴られているエッセイ。本を扱う仕事に携わる人間として、悩んだ時にいつでも立ち戻れる場所がこのエッセイだと思った。終始涙が出そうだったのをこらえた。100人に1人、いやもっと少ないかもしれないけれど、そんな瞬間のために、その人のために、わたしも誠実に仕事をしようと思った。
著者プロフィール
島田潤一郎の作品





