巡礼 (新潮文庫)

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  • 本 ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101054179

感想・レビュー・書評

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  • 生きることは、巡礼なんだなぁ。

  • 最初はゴミ屋敷の主人と近所の住民とのトラブルの話かと思ったら、ゴミ屋敷の一家の歴史が描かれていく。どんな人間にもそれまでに至る当然の過程があるのだが、普段見えない部分を掘り下げて、読者もそのストーリーに引きずり込まれていく。読み終わった後で読む前とは違う自分に気づかされる。

  • ゴミ屋敷と化した家に独りで暮らす下山忠市の生涯、それに悩まされる向かいの家の吉田家や、ワイド・ショーの取材にこたえる矢嶋富子、そして町やそこに暮らす人びとの変化を見てきた田村喜久江などの登場人物たちの心理をたどった小説です。

    著者の作品はおおむね、小説であれエッセイであれ、「近代」もしくは「戦後」という時間を生きてきた人間の精神の軌跡をえがくという手法がとられており、本書もその基本的な手法を共有しています。ゴミ屋敷をめぐる問題については、一人で暮らす老人の孤独といった、現代という時間だけをとりあげるかたちで語られるのをしばしば目にしますが、そうした表層的な見かたを越えて、大きな変化を遂げた戦後という時代に目を向けたところに、著者のねらいがあったように思います。

    他方、忠市の弟である修次が、実家の惨状をテレビで知ってそこへ駆けつけてからの展開は、やや性急に感じられます。これも著者の小説にありがちなことではあるのですが、「時代」とそれを生きる「人間」をえがいたことで目的は達せられており、小説としての「締めくくり」を仕上げるのに、それほど関心がなかったのではないかと感じてしまいます。もっとも、忠市の生きてきた戦後という時間と空間は現代にもつづいており、われわれ自身もおなじ時間と空間を現に生きているのだと考えるならば、「締めくくり」などないのかもしれません。

  • ゴミ屋敷の設定とタイトルとのバランスに惹かれ思わず手にとった。ボタンのかけ違えの妙。血の繋がりの強さを感じた。そして、衝撃のラスト。生きることは難しい。ドラマになったら、話題になりそうな一冊。

  • 人に歴史あり、なのだ。
    そうしなくて良ければしない、のだ。

    そこを見つめる人でありたい。

  • ハードブック 2009年8月25日発行 \1400円を、読んだ。
    初めて読む橋本治氏の本。

    どうして、真面目な男が、自宅をゴミ屋敷にしたのか?
    戦時 少年時代を過ごし、一家の長男として、荒物屋を継ぐ為に、努力を重ね、結婚もしたのに、幼い子供を死なせてしまい、妻とも、姑問題もあり、離婚してしまって、人生の歯車が、狂ってしまう。

    今の時代、若い人たちは、断捨離と言って、不要な物を、家に置かない。
    人との、付き合いも、淡白になってしまっている。

    昔の人は、家になければ、自分で作ったり、修理したりしていた。
    購入する事、自体、物が手に入らなかったのであろう。
    「もったいない」と言う精神が、身体の一部にしみこんでいるのである。

    そう言いつつも、私も、母親のまねをして、包装紙、紙袋、ビニール袋を、保存していて、先日、整理したばかりである。
    昔の本、毎日読む新聞、DM、チラシに、手紙等、ちょっと、置いておくと、紙袋に一杯になってしまう。

    まして、この本の主人公の忠市は、ゴミを拾って来る。
    溜まる一方。
    ゴミ屋敷になるには、心がどうしようもなく折れ曲がる程も、屈折したおもいが、込められている。
    何もしたくない気持ちが、片付けると言う作業をやめさせる。
    足の踏み場が無くなっても、自分の居場所が、小さくなっても片付けられない。
    弟の修次が、ゴミ屋敷の報道で、兄の忠市のところへ駆けつけ、掃除に繰り出す。

    片付けたあとは、お遍路さんへ向かうのだが、、、、
    兄の死には、少し、哀しすぎるし、もう少し、弟と、過ごす事をさせてやりたかったようにおもう。
    でも、もし、長生き出来ても、上手く、この世を過ごせるかどうかも、疑問であるから、作者の終わらせ方が、正しいのかもしれないと、思いながら、本を閉じた。

    生きることは、難しい。
    長寿大国、日本であるが、自分がどのように、人生を歩めるか?と、思ってしまった。

  • ゴミ屋敷。
    そこに住むのは老いた男性。

    自分が何者であるか、何者でもないのか、もはや混濁した意識の中でただ「集めなければ」と思っている。しかしそれは他人にはごみとしか映らず、それは分かるものの認めたくない老人は周りを攻撃し、さらにうちに閉じこもる。

    元は荒物屋。
    近所の大きな荒物屋に奉公しながら仕事を学び、いつか店を継ぐものと思って頑張っていた。妻をめとり、実家に戻って高度成長の波に乗って店を大きくしたが、嫁姑の仲は悪く、せっかく生まれた子供も小児がんで死んでしまう。

    多分そこから人生の歯車が狂ったのだろう。堅気ではない女を後妻にし、その女に男と逃げられ、荒物屋という商売も限界を迎える。自分はどこで道を踏み外したのか。答えのないまま年を重ね、今のゴミ屋敷に至る。

    最後弟と共に家を片付け、それが最後の仕事だったかのように老人は安らかに死ぬ。何故か他人事とは思えなかった。

  • 戦後の雰囲気で、語られなかったことが実はたくさんある。「3丁目の夕日」のようにいいところばかり語られているが、そうじゃないこともありる。3.11のことも片付いていないまま走っている今を見ているのかもしれない。
    自分のしていることが無意味であるかもしれないということをどこかで理解している。しかしそれを認めてしまったら一切が瓦解してしまう。それが抑圧された絶望。

  • すごく良かった。

    人間は物語(意味)の中で初めて生きることができる。

    兄と弟が再会するシーン。「兄ちゃん!」。忠市の世界を理解し、共有している者による呼びかけによって、忠市が再びこの世に生きる者となっていく展開には感動で震えた。

    締めくくりでの忠市の死。死も生の延長なんやな。

    生きるってこういうことなんやろな。その過程を見事に描ききったのではないか。

  • 「昔はあんな人じゃなかったよ」
    ゴミ屋敷に住む老人の一生。

    ゴミ集めが「無意味」な事は判っている。が、その無意味を指摘されたくなかった。

    自分が巡るあてもない場所を巡り歩いていた事。 会いたい人に会いたい。 そう思いながらの生涯はとても判る気がする。

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著者プロフィール

1948年東京生まれ。東京大学文学部国文科卒。小説、戯曲、舞台演出、評論、古典の現代語訳ほか、ジャンルを越えて活躍。著書に『桃尻娘』(小説現代新人賞佳作)、『宗教なんかこわくない!』(新潮学芸賞)、『「三島由紀夫」とはなにものだったのか』(小林秀雄賞)、『蝶のゆくえ』(柴田錬三郎賞)、『双調平家物語』(毎日出版文化賞)、『窯変源氏物語』、『巡礼』、『リア家の人々』、『BAcBAHその他』『あなたの苦手な彼女について』『人はなぜ「美しい」がわかるのか』『ちゃんと話すための敬語の本』他多数。

「2019年 『思いつきで世界は進む』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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