- 本 ・本 (368ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101054186
感想・レビュー・書評
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読みながら、小津安二郎の映画がいつも頭にあった。それから谷崎潤一郎の『細雪』も。それらが、シェイクスピアの『リア王』という補助線を与えられるやいなや(なんという驚き!)、頭の中で、まるで万華鏡が一挙にある模様を得たかのようにおさまった。
帯に、この小説の主人公は「昭和」だという高橋源一郎の言葉があったが、なるほどその通りだと思う。文三はむろん、静もまた「静かに」抵抗しているのだ。あまりにわかりやすい時代に移りゆこうとする時代の趨勢に。狂っているのは文三や静なのだろうか。
もうひとつ、読みながら、個人的に嫌いな三島由紀夫を思った。きっと橋本治は三島由紀夫を意識しながら書いていると思った。なぜなら、彼の名が一度も登場しないから。意図的に、彼の自殺の手前で本作は終わっている。「本作の感じ」がセンチメンタルに突き詰められれば、三島由紀夫になるのだと思う。しかし本作はいたってドライである。ひたすら分析的でありながらも心理小説である。それって三島への賛辞にも似ているが、橋本治は何より、飾り立てないところがいい。
橋本治に期待しているのは、三島由紀夫が残した痕跡から、ことごとく湿度をぬぐい去ってくれること。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
橋本治は実ははじめて読んだのだけれど、すっごく読みやすくて、おもしろかった。
敗戦後から60年代まで、三人の娘と父親、ごく一般的な家族が、昭和の歴史とともに描かれていて、読みごたえがあった。「公職追放」とかはじめて知った。そういう知らなかった歴史や、あと、大学紛争とかなんとなく知ってる歴史についてもすごく興味深く読んだ。
年代的には、娘たちがわたしの親世代くらいなんだろうけど、ここで描かれている昭和の家族の感じがなんだかすごくよくわかって。父親との距離とか、親戚との関係とか。今とは家族ってものが全然違うような気もするのだけれど。今の若い人が読んだらどう思うのかなあ。
戦後の家族とはいっても、三丁目のなんとかみたいな古き良き時代みたいなノスタルジーはなく、冷静な視線で淡々と描かれている感じで、読後感はむしろ寂しく暗いような……。
橋本治氏の著作をもっと読みたいと思った。 -
橋本治は19世紀も、20世紀も、江戸も、あれこれみんな総括して見せて、たぶん、最近の新書では「平成」も総括していたと思うが、おしまいには借金も総括して逝ってしまった。さびしい。
1969年で終わるこの小説は、「昭和」というよりも、「戦後」を総括して見せているとぼくは思った。
しつこく低いアングルで撮り続けながら、延々とナレーションを入れていく。ここで解説を入れているのは誰だと思っていると、細目の笑顔の作家の顔が浮かんでくる。笑うしかないようなものだが、そうは言いながら、という気分で、その世界へ引きずり込まれてしまう。いつもの橋本治だ。
戦後史をこの角度で書いている人はそうはいない。小熊英二の仕事を面白いと思う人は、橋本治を見逃してはいけないとおもう。
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どろどろの遺産争いが始まるかと思ったら、昭和の「お父さん」と娘たちの話だった。鈍くてプライド高くて愛を知らない真面目なお父さんの内側。あの時代の男の人ってああだったと思う。
何があるわけでもなくても、どこか切なくて最後まで読んでしまう。 -
若干女性に対する悪意が読み取れる作品。笑える悪意でないのが悲しい。父親も父親で、妻の一周忌に相手側の了承を得ず再婚発表などと普通に考えてありえなさすぎて、後からこじつけたような出来事が多い印象をうけた。ただ、昭和初期から中頃の時代が描かれているので、その当時のおもなる歴史的出来事が当時の人の目を通して描かれているのは面白い。
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文部省の官僚だった砺波文三は、終戦後に公職追放の憂き目に遭います。妻のくが子と環、織江、静の三人の娘を抱えて職をうしなった彼は酒に溺れた日々をすごします。やがて新たな職を得て、一家にふたたび平穏が訪れたかと思ったものの、くが子が病に倒れ、この世を去ります。病床にある妻を気遣いながらも、同僚の未亡人である窪園千鶴子の経営する小料理屋を訪れた彼は、彼女と関係を結びます。
妻が亡くなり、文三は千鶴子との再婚を考えますが、妻の一周忌でその話をもちだしたところ娘の環は猛然と反対し、文三は娘たちとともに妻のいない家で戦後という時代を生きていくことになります。やがて環や織江は結婚し、砺波家には文三の甥で東大受験をめざす高校生の秀和がやってきていっしょに暮らすようになります。文三は、娘たちや若い秀和の熱中する戦後の文化の隆盛に戸惑いながら、家のなかにも起こりつつある変化を横目でながめつつ老いていきます。
シェイクスピアのリア王の孤独に、戦後という時代を生きた文三のすがたをかさねあわせた作品です。この時代の世相にくわしく立ち入り、登場人物のそのときどきの心理が形成されていくロジックについて分析的なことばを書きつらねていく著者のスタイルは本作でも健在です。その一方で、孤独のなかへと沈んでいく文三と、恋人の石原と別れて家を出ていく静の将来に、著者がなにほどかの希望を託しているようにも思えて、興味深く読みました。 -
どこの家庭もそうとは言えないと思うけど
女を子供に持つ父親の葛藤を
見事に表していると思う
少なくとも私の父親も同じように考えたであろな、
というところが多々あった -
家族のすれ違い→中盤より、60年代の史実に重ねるように。ここから興味がもてなくなり、断念。
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