婦系図 (新潮文庫)

  • 新潮社 (2000年6月29日発売)
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本 ・本 (432ページ) / ISBN・EAN: 9784101056043

感想・レビュー・書評

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  • 早瀬主税(ちから)という、オイオイ、と思われるむちゃぶりのドイツ文学士の主人公をめぐる、女性たちの純情あり、妖艶あり、きらびやかで哀れなものがたり。というさしずめ、現代ので言うところのエンタメ(ピカレスクというそうな)は、とても面白かったです。

    文章がべらんめえ口調だったり、美文調なのも古さ加減が心地いいし、解説(四方田犬彦)で述べられている構成の危うさも、どんでん返しのおもしろさでおつりがくると思います。ちなみに吉田精一解説は大褒めです。

    100年前にこんなユーモアに富んだ現代にも通じるものが書かれたとはびっくりですが、私事を言うと、母方の曾祖母が講談本を読むのが老後の楽しみだったという、母の思い出話が真実に思われてきます。

    このひいおばあちゃんというひとは旦那が飲んだくれの風来坊で、役所での給料日に押しかけ代わりに受け取り、給金の中から米・醤油・味噌を買い、残りを全部渡してやり、おかずは自分の針仕事で賄ったというのです。

    旦那が山梨の田舎で身上をつぶして江戸に出、深川に住み、子供の祖父は兵学校から海軍に、大叔母(妹)は看護婦に育てた、強い女性なのです。

    晩年、海軍軍人の息子に養われながら、孫の母と同じ部屋で暮らし「一生の分働いたので、もう何もしない」と読み物にふけり、呉、佐世保、台湾と息子の転勤転勤の際は、深川の医者に嫁いだ姉娘の所に滞在、遊んでくらしたというのです。

    小説の中とはいえこの小説の時代背景と重なる曾祖母を想い、さながらの気分を味わいました。
    大げさに言えば人間への愛は時代が古くても変わりないのであります。

  •  中盤まで展開が進まず,かつ,酒井先生があまりに冷徹な言葉と態度で,心優しくたおやかな芸妓たちを見下すものだから,自伝小説とわかっていても辛く,哀しく,読むのが苦痛だったが,中盤で一挙に話が転じたかと思えば,そこから怒涛の展開に読後しばし呆然。

     女性の着物,髪型,手回り品への執拗なほど細部に込み入った描写や,椿姫のマルグリットのごとき「男のために身を引く女」の登場はいかにも鏡花らしい。しかし,他の作品であれば「幸薄の女は儚い身となるも,男はつねに生き延びる」のが定石のところ,本作はそこから外れている。男でも身分卑しき者は例外ということか。

     当時隆盛をみたとかいう舞台などより,本作こそ小村雪岱の挿絵で読んでみたい。

  • 泉鏡花は好きな作品が多いが、何回かトライして読み終えられなかった婦系図。先日、金沢の泉鏡花記念館に行ったのを機に再トライ。
    途中ちょっとよく分からなくなってしまったが、最後は一気読み。
    ようやくあらすじが分かったので、いずれもう一度じっくり味わって読んでみたい。

    泉鏡花は男性で、あの時代の人にも関わらず、常に女性の悲しみに自然と寄り添っているから、作品も普遍的になるのだろう。
    この作品は義理人情がテーマにあるといわれるみたいだが、義理人情のイメージともちょっと違う気がする。義理人情よりもっと深いというか。

  • 泉鏡花の名作。
    新派の舞台の原作として有名だが、読むのは初めて。
    なるほどな~、音読の時代ならではの流麗な文章。
    人と人との結びつきに、涙が出るのは、今も生きる鏡花の筆力。

  • 俺をとるか女をとるかで有名な鏡花の代表作のひとつですね。
    しかし、そのメロドラマ部分はすごく有名なのに、この婦系図のメインストーリーっていうものはあんまり知られてない気がする。かく言う私も、鏡花館の展示を見て、そのストーリーのぶっとびさwを初めて知って思わずフイタくらいですw
    どれだけぶっとんでいるかは、是非読んで知ってください。

    結婚したい女性の素性やらなんやらをいちいち調べ上げてから結婚するだと? ふざけんな! と友人河野英吉(河野家)にかみつく早瀬の姿からは、「愛と婚姻」という檄文を発表した鏡花そのものが感じられました。特に最後のシーンの口上はめっちゃ胸が打たれて、目頭も熱くなりました。
    目頭が…といえば、私はこの作品を読むまでずっと、紅葉にあたる酒井先生はお蔦を許してくれないのかなと思っていたら、最後の、お蔦臨終のシーンで許してくれるんですよね。「俺が悪かった」って。……紅葉は最後の最後までお鈴さんと鏡花の仲を許してくれなかったけれど、この作品の酒井先生は許している。作品の最後は阿鼻叫喚だけど、私はこの点に惹かれたなあ。
    鏡花は創作を、小説を書くことで何をやりたかったのだろう? 幻想小説を書く一方で激しいものも書いて、現実とは反対のことを描き、奇跡を描いたりする。
    この作品を読んだおかげで大体卒論の方向性が定まった気がするのでした。作品論じゃなくて作家論になっちゃいますねホント…

  • 12月歌舞伎座の天守物語に続いて、10月歌舞伎座の仁左玉婦系図も読んでみようと思い。
    鮮烈

    スタンダールの赤と黒を連想。
    ミュージカルは観たことあるけど小説は読んでいないのでこの機会に読んでみて理由を探したい。

  • 背ラベル:913.6-イ

  • give up!
    今度、気が向いたらチャレンジしてみます。

  • 序盤は「エモい!エモ過ぎる!この先どうなるんだろう…」とどきどきしながら読んでいたけれど、中盤以降は衝撃の展開、一体何の話になってるんだ?と思っている内にまた衝撃の結末。ただし、個人的にはちょっと引いてしまう感じでした。そっちにはいかないで欲しかった。序盤の二人をもっと見ていたかったので、残念。

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著者プロフィール

(いずみ・きょうか)
1873年金沢市生まれ。1893年、「京都日出新聞」の「冠弥左衛門」連載でデビュー。主要な作品に、「義血侠血」(1894)、「夜行巡査」(1895)、「外科室」(1895)、「照葉狂言」(1896)、「高野聖」(1900)、「婦系図」(1907)、「歌行燈」(1910)、「天守物語」(1917)などがある。1939年没。近年の選集に、『泉鏡花集成』(ちくま文庫、全14巻、1995-1997)、『鏡花幻想譚』(河出書房新社、全4巻、1995)、『新編 泉鏡花集』(岩波書店、全10巻+別巻2、2003-2005)、『泉鏡花セレクション』(国書刊行会、全4巻、2019-2020)など、文庫に『外科室・天守物語』(新潮文庫、2023)、『高野聖・眉かくしの霊』、『日本橋』(ともに岩波文庫、2023)、『龍潭譚/白鬼女物語 鏡花怪異小品集』(平凡社ライブラリー、2023)などがある。

「2024年 『泉鏡花きのこ文学集成』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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