婦系図 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101056043

感想・レビュー・書評

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  • 早瀬主税(ちから)という、オイオイ、と思われるむちゃぶりのドイツ文学士の主人公をめぐる、女性たちの純情あり、妖艶あり、きらびやかで哀れなものがたり。というさしずめ、現代ので言うところのエンタメ(ピカレスクというそうな)は、とても面白かったです。

    文章がべらんめえ口調だったり、美文調なのも古さ加減が心地いいし、解説(四方田犬彦)で述べられている構成の危うさも、どんでん返しのおもしろさでおつりがくると思います。ちなみに吉田精一解説は大褒めです。

    100年前にこんなユーモアに富んだ現代にも通じるものが書かれたとはびっくりですが、私事を言うと、母方の曾祖母が講談本を読むのが老後の楽しみだったという、母の思い出話が真実に思われてきます。

    このひいおばあちゃんというひとは旦那が飲んだくれの風来坊で、役所での給料日に押しかけ代わりに受け取り、給金の中から米・醤油・味噌を買い、残りを全部渡してやり、おかずは自分の針仕事で賄ったというのです。

    旦那が山梨の田舎で身上をつぶして江戸に出、深川に住み、子供の祖父は兵学校から海軍に、大叔母(妹)は看護婦に育てた、強い女性なのです。

    晩年、海軍軍人の息子に養われながら、孫の母と同じ部屋で暮らし「一生の分働いたので、もう何もしない」と読み物にふけり、呉、佐世保、台湾と息子の転勤転勤の際は、深川の医者に嫁いだ姉娘の所に滞在、遊んでくらしたというのです。

    小説の中とはいえこの小説の時代背景と重なる曾祖母を想い、さながらの気分を味わいました。
    大げさに言えば人間への愛は時代が古くても変わりないのであります。

  •  中盤まで展開が進まず,かつ,酒井先生があまりに冷徹な言葉と態度で,心優しくたおやかな芸妓たちを見下すものだから,自伝小説とわかっていても辛く,哀しく,読むのが苦痛だったが,中盤で一挙に話が転じたかと思えば,そこから怒涛の展開に読後しばし呆然。

     女性の着物,髪型,手回り品への執拗なほど細部に込み入った描写や,椿姫のマルグリットのごとき「男のために身を引く女」の登場はいかにも鏡花らしい。しかし,他の作品であれば「幸薄の女は儚い身となるも,男はつねに生き延びる」のが定石のところ,本作はそこから外れている。男でも身分卑しき者は例外ということか。

     当時隆盛をみたとかいう舞台などより,本作こそ小村雪岱の挿絵で読んでみたい。

  • 泉鏡花は好きな作品が多いが、何回かトライして読み終えられなかった婦系図。先日、金沢の泉鏡花記念館に行ったのを機に再トライ。
    途中ちょっとよく分からなくなってしまったが、最後は一気読み。
    ようやくあらすじが分かったので、いずれもう一度じっくり味わって読んでみたい。

    泉鏡花は男性で、あの時代の人にも関わらず、常に女性の悲しみに自然と寄り添っているから、作品も普遍的になるのだろう。
    この作品は義理人情がテーマにあるといわれるみたいだが、義理人情のイメージともちょっと違う気がする。義理人情よりもっと深いというか。

  • 泉鏡花の名作。
    新派の舞台の原作として有名だが、読むのは初めて。
    なるほどな~、音読の時代ならではの流麗な文章。
    人と人との結びつきに、涙が出るのは、今も生きる鏡花の筆力。

  • 俺をとるか女をとるかで有名な鏡花の代表作のひとつですね。
    しかし、そのメロドラマ部分はすごく有名なのに、この婦系図のメインストーリーっていうものはあんまり知られてない気がする。かく言う私も、鏡花館の展示を見て、そのストーリーのぶっとびさwを初めて知って思わずフイタくらいですw
    どれだけぶっとんでいるかは、是非読んで知ってください。

    結婚したい女性の素性やらなんやらをいちいち調べ上げてから結婚するだと? ふざけんな! と友人河野英吉(河野家)にかみつく早瀬の姿からは、「愛と婚姻」という檄文を発表した鏡花そのものが感じられました。特に最後のシーンの口上はめっちゃ胸が打たれて、目頭も熱くなりました。
    目頭が…といえば、私はこの作品を読むまでずっと、紅葉にあたる酒井先生はお蔦を許してくれないのかなと思っていたら、最後の、お蔦臨終のシーンで許してくれるんですよね。「俺が悪かった」って。……紅葉は最後の最後までお鈴さんと鏡花の仲を許してくれなかったけれど、この作品の酒井先生は許している。作品の最後は阿鼻叫喚だけど、私はこの点に惹かれたなあ。
    鏡花は創作を、小説を書くことで何をやりたかったのだろう? 幻想小説を書く一方で激しいものも書いて、現実とは反対のことを描き、奇跡を描いたりする。
    この作品を読んだおかげで大体卒論の方向性が定まった気がするのでした。作品論じゃなくて作家論になっちゃいますねホント…

  • give up!
    今度、気が向いたらチャレンジしてみます。

  • 序盤は「エモい!エモ過ぎる!この先どうなるんだろう…」とどきどきしながら読んでいたけれど、中盤以降は衝撃の展開、一体何の話になってるんだ?と思っている内にまた衝撃の結末。ただし、個人的にはちょっと引いてしまう感じでした。そっちにはいかないで欲しかった。序盤の二人をもっと見ていたかったので、残念。

  • 面白かった...!言葉も平易だし、筋も明快で、鏡花作品の中ではだいぶ読みやすいのではなかろうか。主税と蔦の悲恋、先生との師弟関係、家族主義・河野家への復讐と話がどんどん展開して、面白かった。文章も調子が良く、登場人物の美しさもぴかいち。蔦と先生好きだった....

    まず蔦。一途に思いながら、主税に来客ある時はそっと身を隠し、また師の言いつけを守り、別れ二度と会えなかった人。恋しい男のために、身を引く様がもう涙だった...最期も先生が許してくれて嬉しいって、それだけを言うのがね...はあまじで好き...切ない...

    そして江戸っ子の先生!別れろ!って言うんだけど、そこまでのやり取りも、蔦の最期に駆けつける所も、決して人情がないわけではなくて、ずっと小気味が良い人だった。鏡花の実体験ベースということで、紅葉こういうところあったのだろうか。これは偉大な師匠だなあ笑

    最後に主税。おまええええと一回は絶対言いたい。蔦だけでなくて、菅子も道子も籠絡しおって!まあとはいえ蔦ありきなところが好きだったよ...すず夫人のこと好きだったんだろうなあと思いました。

    短編「湯島の境内」では別れる直前だったので、本作の悲劇的なエンディングには驚き。そうだったんだな...本当に鏡花たまらないなあ〜

    さて好きだったところは以下。
    (前編)
    「羽織が無いから日中は出られない、と拗ねたように云うのがねえ、どんなに嬉しそうだったでしょう。それに土地馴れないのに、臆病な妓ですから、早瀬さんがこうやって留守にしていなさいます、今頃は、どんなに心細がって、戸に附着(くッつ)いて、土間に立って、帰りを待っているか知れません、私あそれを思うと……」(四十三)

    「地方へ行かない工夫はないの?」と忘れたように、肩に凭れて、胸へ縋ったお妙の手を、上へ頂くがごとくに取って、主税は思わず、唇を指環に接けた。
    「忘れません。私は死んでも鬼になって。」
     君の影身に附添わん、と青葉をさらさらと鳴らしたのである。(五十九)

    (後編)
    「ぶるぶる震うと、夫人はふいと衾を出て、胸を圧えて、熟と見据えた目に、閨の内をみまわして、ぼうとしたようで、まだ覚めやらぬ夢に、菫咲く春の野をさまようごとく、裳も畳に漾ったが、ややあって、はじめてその怪い扱帯の我を纏まとえるに心着いたか、あ、と忍び音に、魘された、目の美しい蝶の顔は、俯向けに菫の中へ落ちた。(十九)

    「おお、半襟を……姉さん、江戸紫の。」
    「主税さんが好な色よ。」
     と喜ばれたのを嬉しげに、はじめて膝を横にずらして、蒲団にお妙が袖をかけた。
    「姉さん、」
     と、お蔦は俯向いた小芳を起して、膝突合わせて居直ったが、頬を薄蒼う染るまでその半襟を咽喉に当てて、頤深く熟と圧おさえた、浴衣に映る紫栄えて、血を吐く胸の美しさよ。
    「私が死んだら、姉さん、経帷子も何にも要らない、お嬢さんに頂いた、この半襟を掛けさしておくれよ、頼んだよ。」
     と云う下から、桔梗を走る露に似て、玉か、はらはらと襟を走る。(二十三)

    「未来で会え、未来で会え。未来で会ったら一生懸命に縋着ついていて離れるな。己のような邪魔者の入らないように用心しろ。きっと離れるなよ。先生なんぞ持つな。」(四十六)

    「咽喉が苦しい、ああ、呼吸が出来ない。素人らしいが、(と莞爾して、)口移しに薬を飲まして……」
     酒井は猶予らわず、水薬を口に含んだのである。
     がっくりと咽喉を通ると、気が遠くなりそうに、仰向けに恍惚したが、
    「早瀬さん。」
    「お蔦。」
    「早瀬さん……」
    「むむ、」
    「先、先生が逢っても可いって、嬉しいねえ!」
     酒井は、はらはらと落涙した。(四十七)

  • これは何を言っているのかさっぱり分からん。こんなにも言葉の通じない時代が明治の初めにあったなんて信じられんな、しかし。いつも読んでる時代小説みたいんじゃなかったのか、いや薄々分かっていたけども。
    というわけで、珍しく解説を読んでみて、ええ、主税さんってそういう役だったってことなの?!ってなぐらいに分かってなかった。てか解説読んでから本文読み直しても、非常にあいまいというか、まさにハイコンテキストていうか、その時代の日本人にしか分からん表現なんよね。
    というわけで、久しぶりに脳みそのシワが増えた感。
    あ、ラストもヤバいですよ。意味が分かっても意味分からんていうか。もうハチャメチャ。

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著者プロフィール

1873(明治6)年〜1939(昭和14)年)、小説家。石川県金沢市下新町出身。
15歳のとき、尾崎紅葉『二人比丘尼色懺悔』に衝撃を受け、17歳で師事。
1893年、京都日出新聞にてデビュー作『冠弥左衛門』を連載。
1894年、父が逝去したことで経済的援助がなくなり、文筆一本で生計を立てる決意をし、『予備兵』『義血侠血』などを執筆。1895年に『夜行巡査』と『外科室』を発表。
脚気を患いながらも精力的に執筆を続け、小説『高野聖』(1900年)、『草迷宮』(1908年)、『由縁の女』(1919年)や戯曲『夜叉ヶ池』(1913年)、『天守物語』(1917年)など、数々の名作を残す。1939年9月、癌性肺腫瘍のため逝去。

「2023年 『処方秘箋  泉 鏡花 幻妖美譚傑作集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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