キッドナップ・ツアー (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.30
  • (117)
  • (288)
  • (659)
  • (114)
  • (25)
本棚登録 : 2884
感想 : 348
  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101058214

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • R2.5.7 読了。

     とても楽しめた作品でした。
     2か月前に突然、家を飛び出した父親が娘ハルの前に現れて、ユウカイしてしまうところから物語は始まっていく。ハルは大衆の面前で大声で助けを求めたり、父に隠れて母親に電話したりもするが、次第に父親との奇妙なユウカイ旅行が終わらなければいいのにと思うようになっていく。
    だらしなくて、情けなくて、お金もない父親と電車に乗ったり、夜の海で星を見ながら2人で漂う気持ちよさを味わったり、夜の墓地で肝試しを一緒にしたり、キャンプ場で野宿したりしていく中で、それまで内気で色白だったハルが、日焼けして人と話すことにも楽しめるようになってと成長していく姿も印象的でした。ダメだと思うお父さんでも何気ないことや時間を共有することができて、ちょっぴりハルがうらやましく思えました。
     また、重松清さんの解説も温かい気持ちになれて良かった。

    ・「言いながら、思うように言葉がでてきてくれなくていらいらした。飢え死にしてみろって言いたいんじゃない。食いだめが失敗だったって言いたいんじゃない。私は、たとえば、あんたと花火をすることだけで心の底からうれしいって思うんだって、駅前で、今までだしたことがないくらいの大声でわめいてあんたを逮捕させちゃったことだけで何かをやったって思えるんだって、そういうことを言いたかった。たとえあんたの知ってる百人の子供が心の底からうれしいって思ったことがなかったとしても、私の前で、百人とはちがう私の前でそんなことを言うべきじゃない。」
    ・「いつもの私だったら、自分がこの世の中でもっとも汚らしい子供のように思えて、これ以上ないほど悲しくなったと思うけれど。ガラスに映った、どの子供より汚らしい自分の姿を私は、なかなかいいじゃん、と思った。たとえおかあさんが眉間に何本しわを寄せたとしても。ガラスの中からこっちを見ている子供は、生まれたときから、ずうっとだれかといっしょに、全国各地を逃げまわってきた、たのもしくかっこいい子供に見える。」
    ・「知らない男の人に話しかけられて、いい感じの答えがかえってきて、言葉を交わすのってなんて気持ちがいいんだろう。」
    ・「だけどおれがろくでもない大人になったのはだれのせいでもない、だれのせいだとも思わない。だ、だから、あんたがろくでもない大人になったとしても、それはあんたのせいだ。おれやおかあさんのせいじゃない。おれはあんたの言うとおり勝手だけど、い、いくら勝手で無責任でどうしようもなくても、あんたがろくでもなくなるのはそのせいじゃない。そ、そんな考え方は、お、お、おれはきらいだ。きらいだし、かっこ悪い。」
    ・「責任のがれがしたいんじゃない。これからずっと先、思い通りにいかないことがあるたんびに、な、何かのせいにしてたら、ハルのまわりの全部のことが思いどおりにいかなくてもしょうがなくなっちゃうんだ。」

  • 小学生も読むよ!と聞いて借りてみました。
    なるほど、小学5年生の女の子目線の話だし、簡単な漢字にもルビが振ってあり児童向けの作品なんだな。
    今どきの子供たちが最初に接する角田光代さんの世界なのかも知れません。

    自分と接する人達(おとうさん、親戚、旅先で出会った同じくらいの年の子、おとうさんの友達)との会話と
    言いたかったけど言わなかった(言えなかった)言葉が綴られて物語が進みます。
    特別大事件が起こるわけでもなく、日常ありそうな場面で感じている子供の気持ちがうまく語られていると思いました。

    小学生は自分と重ね合わせて読むのでしょうね。
    次は大人向けの角田光代さんの作品を読んでみることにしよう。

  • おとん、何がしたかったんや…
    起こっていることの裏側が明らかにならないまま。あくまで子ども視点を貫いたから?もやもやでもなく、何か、こう、着地しなかった感があり落ち着かない。

  • 世間から見てどんな父親でも子どもに愛情が伝わっていたら、その子どもだって父親に情が湧くものなのだな。

    父親は情を伝えるのが下手だったのか、情が薄かったのか… この年になっても私という人は…。
    凄い自己嫌悪やら負い目やらなんとも嫌な気持ちを抱えてたけど、この年になって私みたいな気持ちで育った人が意外に多いことを知った。
    そういう時代だったのかな。

  • 突然のユウカイ、段取りの悪いツアーに、正直呆れながら読んでいたのですが、実の親子にしかわからない絆、みたいなものが光って見えるような気がして、最後は安心しました。

  • 初読みです。目線は小学5年生のハル。
    夏休み初日におとうさんにユウカイされたハル。
    旅行気分でついて行ったものの、豪華ホテルも
    ジャグジー付の風呂も贅沢な食事もない。
    おとうさんにはお金がないからだ。
    夏休みとしてイメージできることは、表面的にはやった。
    少しばかりの期待と、苛立ちと、諦めが交互にやってきて
    少しずつ汚れていくかわりに、何かが変わっていく。
    ただ・・・最後が切ない。
    お互いに軽いセリフを交わしてるけど、
    それって、普通の事じゃないでしょ。
    だから切なさが後を引きましたぁ~
    他の作品も読みたくなりました。

  • 二人の娘の父親として、何か大事なことを彼女たちに残すことができたのか、自問自答してみます。

    • kuroayameさん
      初めまして♪。
      私には子供がいないのですが、この作品父子家庭で育った私の境遇から、もっと遠慮せず疑問に思ったことなどたくさん話しておけばよ...
      初めまして♪。
      私には子供がいないのですが、この作品父子家庭で育った私の境遇から、もっと遠慮せず疑問に思ったことなどたくさん話しておけばよかったなんて考えさせられました★。
      この本と出会うことによって、娘さんお二人との接し方など見つめるヒントとなったみたいで、とっても羨ましいです♪。
      2012/09/05
  • 大人も楽しい、大人だから楽しい児童文学。
    児童文学ってこんなおもしろかったのか。
    もっと早くから読書すればよかった。

    なんか、ユウカイの理由がなんかそれらしいかんじで説明されて、
    さわやかなラスト・・かな?と思いながら読んでいったのですが
    終わり方が良かったと思う。
    だって、主人公は小学5年生だから。

    小さい時に感じた、もうずっと忘れてた
    リアルな夏休みが読めばひろがります。

  • もっとカラッと楽しい誘拐旅行を想像していましたが、思いのほか私にはしんどかったです。
    200ページ程度の作品ですから、時間的にはさほどかかりませんでしたが、ハルの両親の行動に納得がいかなくて。

    別にいいんです、父親がダメ人間でも。
    自分勝手に誘拐して、娘との最後の思い出作りをするのであれば。

    でもおとうさんは、おかあさんとの交渉の材料にするためにハルを誘拐した。
    で、交渉が上手いこといかなかったので、ずるずると旅行する羽目になったんだよね。
    なんだ、その両親。

    どちらかというと感情をあまり露わにしないハルは、だけど何も考えていないわけではなくて、言えないでのみ込んだ言葉がたくさんある。
    両親は最後まで春のそんな気持ちに気がつかない。

    親だって、生きるのに一生懸命で、余裕がないこともあるだろう。
    でも、いつも子どもの方が親の気持ちをおもんぱかって我慢するのは、それは違うだろう、と思ってしまう。
    でもそれは、割とよく世間ではあることなのだろう。
    角田光代はそういうことに無自覚な作家ではないから。

    ”私が電話をかけた理由を私はちゃんと知っている。私もまざりたかったのだ。おとうさんとおかあさんの取り引きに。(中略)まぜてもらえなくてもいいから、それでもせめて私はおかあさんにこうきいてほしかったのだ。ハル、今楽しい?って。どこにいるの、ちゃんとしてるの、だいじょうぶなの、全部の質問のあとに、ねえ、ちゃんと楽しい?そうきいてもらいたかったのだ。”

    おとうさんに対する不満はたくさんあっても、最後にハルは「楽しかった」とおとうさんに言った。
    ならよかった、と私は思うしかない。
    けれど大人よ、私たちは子どもたちが言えずに飲み込んだ言葉がたくさんあることに対して、いつも自覚的でありたいと思うぞ。

  • 安い感動で親子の絆を強調した物語でないところが好感度高い。あくまで小学5年生の女の子目線で語られており、両親の取引内容とその結果や、その後の父と娘の関係などには一切言及されていない。その一方で、成長期の女の子特有の感受性による、他人あるいは自分の心の機微については実に細やかに、素直に描かれている。心と裏腹になるハルの態度も、娘に気を遣う父やそれに気づいたときのハルの感情も、誰しも覚えがあるもので、ああ、わかるわかる、と共感しながら(思い出しながら)読み進めることができた。
    物語全体を通して娘と父親のやりとりに終始しているところもいい。母親は終ぞその姿を現さないし、その姉妹は言わずもがな、ハルの記憶や言葉にしか登場しない。父と娘のみを軸に展開するにも関わらず、物語に閉じた印象を与えない、むしろ「親娘」ではなくそれぞれ立派な「個人」としての開けた人間関係を、終盤ハルは新たに見出したように思えた。その結果が爽やかな読後感を読者に与えているように思う。
    それにしてもハルはすごい言葉を父親に投げつけるなあ、でも言えなかった言葉の方がずっと多い(きっと父親も同じだろう)、その不器用さも愛すべき要素だな思った。

全348件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1967年生まれ。90年「幸福な遊戯」で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。著書に『対岸の彼女』(直木賞)、『八日目の蝉』(中央公論文芸賞)など。『源氏物語』の現代語訳で読売文学賞受賞。

「2022年 『にごりえ 現代語訳・樋口一葉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

角田光代の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
角田 光代
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×