平凡 (新潮文庫)

  • 新潮社 (2019年7月26日発売)
3.58
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感想 : 89
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  • 本 ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101058344

作品紹介・あらすじ

妻に離婚を切り出され取り乱す夫と、その心に甦る幼い日の記憶(「月が笑う」)。人気料理研究家になったかつての親友・春花が、訪れた火災現場跡で主婦の紀美子にした意外な頼みごと(「平凡」)。飼い猫探しに親身に付き添うおばさんが、庭子に語った息子とおにぎりの話(「どこかべつのところで」)。人生のわかれ道をゆき過ぎてなお、選ばなかった「もし」に心揺れる人々を見つめる六つの物語。

感想・レビュー・書評

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  • わたしは常に、非凡でありたいと思って生きている。非凡でないと、生きている価値がない。そんな風に思いながら生きている。
    だから、自分が平凡であることに気づいた時、そんな自分を、嫌悪する。
    そして、最近なんで自分が非凡であることにこだわっているのか、考えてた。
    そんなタイミングでブックオフをうろうろしていた時に目に入ってきた作品だ。
    あと数ページで読み終わる本の次に読む作品のタイミングとしては最高だ。

    角田光代作品の隠れた名作の1つ。
    角田さんの作品は、作品数が多いだけにまだまだ読んだことのない作品は多く、これからもこうして名作に出会えるのかと思うと、ワクワクが止まらない。

    『平凡』
    特に表題作である『平凡』

    この短編集、「もしあっちの人生を選んでいたら」「こっちの人生を選んでいなかったら」みたいなものが作品全体を通してのテーマになっているのだけれど、ではなぜ「もしも」とか、全体を貫くものではなく、短編のひとつである『平凡』をタイトルに選んだのか。

    おそらくそれは、『平凡』がCDで言う「A面」だからだろう。
    そしてわたしはやはり表題作の『平凡』が一番よかったのである。

    しかし非凡でありたいわたしとしては、どこかで『平凡』以外の短編を一番印象に残った作品としてあげたいところである。
    だけど表題作を一番に選ぶわたしは結局「平凡」なのである。

    これってなんていうか、BUMPといえば天体観測、みたいな現象で、結局わたしはとことんマジョリティなんだなと実感する。(ちなみにBUMPに関していえば『天体観測』ではない)
    でもね、なんかさ、かっこつけて通ぶりたいじゃん!
    この『平凡』という作品の中の、別の作品を「一番よかった」と、言いたい。そしてたぶん、それを言う人がいたとする。わたしはたぶん、そっちに流されて、すっかり通ぶったように、誰かに言う。「あの作品さ~、『平凡』ってタイトルだけど、実際読んでいくと『いつかの一歩』の方がいいよね~!」なんていう風に。
    そう、言いたいだけなのである。
    うざい!うざすぎる!
    だけど、そういうのは、ある。これは認めざるを得ない。
    きっとこの「言いたいだけ病」(村上春樹症候群に近い)はきっとこれからもずっと続いてくんだろう。

    でもやっぱり。
    AppleMusicでたくさんの曲を聞いて、かっこいいバンドに出会って「うおおおお!自分だけのかっこいいバンド見つけたーーー!」と思ったら結構有名で、すでにものすごい数のフォロワーがいたり、「この曲!かっけーーーー!」と思った時にはすでにオールナイトニッポンで推されてたり、結局わたしの感性なんて「平凡」そのものなのである。

    わたしには、素敵な俳優さんが薦めるこむずかしそうな本よりも、やはり売れてる本や受賞作品の方が面白いのだ。

    わたしは平凡だ。紛れもなく平凡だ。
    こんな自分が嫌だ。
    だけど、紛れもなくそれが自分だ。
    マイノリティになりたいくせにうまくマイノリティになりきれない自分。
    もうかっこつけないでそんな自分を可愛がって生きていきたい。
    流行ってるものを「ふーーーん」て斜めに見るんじゃなくて、いいものは「いい!」って言いたい。
    「流行ってるから」じゃなくて、それがダサい時だけ「ふーーーん、ダサくない?」って言いたい。

    ああ、一生懸命非凡であろうとしたけど、やっぱりわたし、平凡みたい。
    でも、平凡なのに、平凡なりに生きてない気がする。でも、それもこの作品を読んだ後じゃ、それも平凡なのかも。

    平凡な大人たちの、非凡な6つの物語。
    40歳手前には結構きました。

    解説P260「人生に無限の可能性を見ているとき、『平凡』は確かに呪いの言葉だったろう。けれどもある程度、年を重ねてみればその言葉は祈りや祝福に似ていると気付く」

    秋田公立美術大学の「凡人診断」
    ちょっと面白かったので暇つぶしにやってみてください。
    https://www.akibi.ac.jp/bonjin/result09.html?countTen=4226

    ちなみにわたしは→凡人度60%
    凡人奇人の分かれ道
    凡人度が平均以上に高いあなたは、凡人として平均的な人生を幸せに送るか、才能を開花させ芸術世界で刺激的に生きるか、その岐路に立っている人間です。あなたの感性はごく普通の人と近いものはありますが、その裏には大きな才能が隠れています。クリエイティブな世界によりディープに触れていくことでその才能を開花させ、より刺激的な道に進んでみてはいかが?

    • 5552さん
      naonaonao16gさん、再びお邪魔します!

      凡人診断、盛り上がってますね。
      念のため(しつこい!)今度は適当に三回目を行いまし...
      naonaonao16gさん、再びお邪魔します!

      凡人診断、盛り上がってますね。
      念のため(しつこい!)今度は適当に三回目を行いましたがやはり凡人でした 笑
      いくらあがいても凡人だと腹をくくりました。
      ところで、非凡に憧れていると、そういう(風に見える)人がとても魅力的にみえませんか?
      例え性格に難があろうとも、素敵に見えたりしませんか?
      私はそういう傾向が強いです…。

      引用部分、ちゃんと「解説」って書かれてらっしゃいますね。
      見落としました。失礼しました。

      私は実家で認知症の祖母のお手伝いをしていて、会社に通う仕事はしてないので今は気楽です。
      今日は、朝の四時半に、デイサービスに行く!と、祖母に起こされました 笑
      昼間デイサービスに行っている間、暇なので『暇と退屈の倫理学』のタイトルに目がいきました。
      國分先生の本、他にも読んでみたいです。

      あと、『平凡』、牛○石鹸みたいな表紙が素敵です。かわいい。本編に出てくるのかな。
      「平凡」って、実は、甘くて、安心する、いい匂いがするものかもしれませんね。



      2022/04/04
    • naonaonao16gさん
      myjstyleさん

      こんばんは!
      コメントありがとうございます^^

      コメントだと少しお久しぶりですよね!
      お元気でしたか?...
      myjstyleさん

      こんばんは!
      コメントありがとうございます^^

      コメントだと少しお久しぶりですよね!
      お元気でしたか??

      繊細、面白い、二度読み…
      嬉しすぎるお言葉ありがとうございます!!

      歳を重ねて、祈りや祝福にまみれるって幸せなことですね。
      わたしは歳を重ねているのにメンタル幼すぎるわ、嫉妬などのネガティブな感情と戦っていることが多いので、そのように思えるmyjstyleさんが本当に羨ましいです!
      と、言いつつ、そうした負の感情が読書と結びついて有意義な読書になることもあるんですけどね。

      ブクログの使い方ってそれぞれですよね。
      わたしはただここを表現の場としているのでこんな感じのレビューになってしまってます笑
      読みたいと思ってもらえるのは嬉しいです!ありがとうございます!
      2022/04/04
    • naonaonao16gさん
      5552さん

      こんばんは!

      凡人診断、ここまで盛り上がるとは…笑
      しつこいくらいがちょうどいいです笑
      急にアクセス数あがって...
      5552さん

      こんばんは!

      凡人診断、ここまで盛り上がるとは…笑
      しつこいくらいがちょうどいいです笑
      急にアクセス数あがって驚いてないといいんですけどね、秋田公立美術大学笑
      そしてもはやこの診断、凡人以外の結果はなく、全員凡人として評価されるのでは、という気がしてきました。

      "非凡に憧れていると、そういう(風に見える)人がとても魅力的にみえませんか?
      例え性格に難があろうとも、素敵に見えたりしませんか?"

      これについてなんですけど。
      まさにこれです。
      先日、関係性は伏せますが「naonaonao16gは普通の人が猫を拾っているより、ヤンキーが猫を拾う方に魅かれがちですよね?確かに後者の方が愛がありそうだけど、普通の人が猫を拾う方が愛に溢れているに決まってる。そういう人と幸せになってほしい」的なことを言われ、はっとしました。
      わたしはまさしくそれで、だから普段口数の少ないバンドマンが恋愛の曲とか歌ってると一気に好きになってしまうというか。単純化するとギャップ萌えってやつかもしれないんですけど。

      不倫報道でアンチが大量発生してしまったゲス極の川○さん、わたし彼が大好きなんですね。彼の才能って本当に素晴らしいものがあって、目を離せないのです。まさに非凡な人です。

      おばあさまとの暮らし、大変そうですがいいですね。
      わたしの祖母は90を過ぎ、最初は文句を言いながら行っていたデイサービスは今や居心地がいいみたいです笑
      今月末帰省した時にまたデイサービスの話を聴くのが楽しみです。

      表紙の牛○石鹸、気になりますよね。
      とても可愛らしいですが、実は本編には出てきてないです爆
      2022/04/04
  • naonaonao16gさんのレビューを拝見して、気になった本。

    誰しも、人生の岐路がある。そこで、もし選んでいたら
    歩んでいたであろうもう一つの人生。
    その「もう一つの人生」を想像する人々を描いた6つの短編。

    今の自分が辛かったり不満だったりすれば、「もう一つの人生」を羨むのだろう。
    僕にもそんな時期があったな…と。
    (決して、今の結婚生活に不満があるわけではありません…念のため。)

    ただ、この小説を読んで思った。
    もう一つの人生を歩む、もう1人の自分と今の自分はきっと必ずどこかで出会う。
    その時、もう1人の自分を祝福できるようになれば素敵だな、と。
    さらに言えば、もう1人の自分に羨まれる自分になることだって、決して不可能ではない、と。

    そんな希望を感じる短編集です。

    • naonaonao16gさん
      たけさん

      こんにちは!
      ゴールデンウィークだというのに、なんだか身体の調子がよくなくて…
      やっとブクログにログインしました

      読んでくださ...
      たけさん

      こんにちは!
      ゴールデンウィークだというのに、なんだか身体の調子がよくなくて…
      やっとブクログにログインしました

      読んでくださったの、嬉しいです!

      最後、いいですね。
      だけさんのレビューはいつも、現実を受け止めた上で希望を感じさせていて、すごく素敵だなと思います。

      わたしはもうひとつの人生を思い描いてばかりですから。
      2022/04/30
    • たけさん
      naonaoさん、こんばんは!
      体調いかがですか?
      ゴールデンウィークの後半は快調になることをお祈りいたします。

      さて、「平凡」おもしろく...
      naonaoさん、こんばんは!
      体調いかがですか?
      ゴールデンウィークの後半は快調になることをお祈りいたします。

      さて、「平凡」おもしろく読ませていただきました。ありがとうございました!

      レビュー褒めていただいて嬉しいです。

      僕ももうひとつの人生、というか理想の人生をよく思い描きますよ。もう1人の幸せそうな自分は羨ましいです。

      だけど、逆に今よりもっとツキのないイケてない人生もあったはずなのに、そっちはなかなか思い描くことができない…
      もしかしたら、そっちを思い描くことの方が大切なのではないか、とも思うんですよね…
      2022/04/30
    • naonaonao16gさん
      たけさん

      体調かなりよくなりました!
      低気圧、天敵です…!
      後半はフェスに行く予定なのでどうかこのままの体調でいってほしいものです。

      確...
      たけさん

      体調かなりよくなりました!
      低気圧、天敵です…!
      後半はフェスに行く予定なのでどうかこのままの体調でいってほしいものです。

      確かに、もうひとつの人生を思い描く時って、「こちら」の人生でうまくいっていない時が多いので、もっとうまくいってない人生ってあんまり想像しないですよね。
      今よりイケてないかもしれないことを思うと、今の自分の人生は満たされているのかも知れませんね。
      2022/05/01
  • 『人生って最初からあるのかしら、それとも、できていくのかな。できていくとしたら、いつのどの一歩がその後を決めていくんだろう』

    今ここにいる私は、今までの人生の『どの一歩』によって決定づけられたのだろうか。そんな風に考えながら過去を振り返ってみる。親の言いなりで決まった高校進学という過去があった。運も実力のうちっていい言葉だなぁと思った大学入試の結果という過去があった。そして、第一希望だった会社の最終面接をまさかの絶対にあり得ないはずの寝坊でドタキャンした過去があった。人生の大きな分岐点だけを思い返してみても、あの時の親の、自分自身のそんな誰かの意思が、もしくは結果論の積み重ねによって今の自分が出来上がっていることに気づきます。それはその時の自分の全てをかけたチャレンジでもあり、あれよあれよと何故かそうなってしまった成り行きの結果でもありました。もちろん、それも含めて全ては最初から決まっていたという運命論的な考え方もあるかもしれません。しかし、そうではなく、無限の可能性の中から、その瞬間瞬間の選択が今の自分自身を作り上げているという考え方も出来ると思います。そんな後者の考え方をとった時、最終面接に寝坊しなかった自分の人生をふと思い浮かべる時があります。たまたまその会社のビルの前を通った時、その中で働いている自分を想像する自分。なんの意味もないそんな想像の世界。でも、そんな想像をする時に限って、自分自身が今の人生に迷いを感じ、悩んでいることにも気づきます。順風満帆の人生を歩んでいる時には決して見えてこない幻、いたかもしれないもうひとりの自分。『どこかで生きている、窓を開けなかった自分』、そんな物語が詰まった短編集がここにあります。

    『もうひとつの人生』をテーマに、人生の色んなシチュエーションにおけるもうひとつの可能性を思い浮かべていく6つの短編から構成されたこの作品。いずれの短編で取り上げられている内容も決して突飛なことではなく、普通にありうる『選んだ』、『選ばなかった』の選択の結果であるため、自分がかつて歩んだ道、そして分岐点に似たものを思い浮かべる方もいるかもしれません。いずれも重厚な描かれ方をしているため、短編というよりも中編を読んでいるかのような印象も受けます。でも短編らしく、ふわっとした結末の締め方も一方で共通していて読後の印象はどちらかと言うと軽やかです。

    そんなこの作品は、一編目の〈もうひとつ〉からこのテーマにいきなり真正面から突っ込んでいきます。『結局旅行は四人でいくことになった』という物語のはじまり。『私、正俊、野村こずえと福田栄一郎とで、ギリシャのアテネ・サントリーニ島六泊八日の旅』をすることになった四人。『私と正俊、こずえと栄一郎という組み合わせになり、私たちの部屋は隣同士だった』という四人は二日目から2組に分かれて行動します。『島の北端にある町、イアをぶらぶらと散策』していた私と正俊。そんな時『一軒の店から騒々しい言い合いの声が聞こえてきて私たちは足を止めた』、『耳に届くのは日本語で、そしてどうやら、こずえと栄一郎の声だった』という驚きの展開。『信じられない、くるんじゃなかった』と言うこずえ。『ああおれもそう思うよ、悪いけどおれ今からチェックアウトしてくるわ』と栄一郎は怒りの声を上げて、結局バラバラにその店を後にした二人。『こずえと栄一郎は私たちの結婚パーティで出会った』という二人は『だれも期待していないのに恋に落ちた』という展開。なぜなら『双方既婚者だったのにもかかわらず』という裏事情。それぞれ夫婦関係が上手くいっていなかった二人。でも離婚までは考えないそれぞれの事情。そんな二人がそろって『私』夫婦の夏の旅行に同行したという今。『あんなに派手な喧嘩をしていたのだから、二人はこないのではないかと思った』という翌日の朝食。でも何もなかったかのように現れた二人は、それどころか『頼みがある。結婚式を挙げたいんだ』と突然の申し出を『私』夫婦にします。『でもこの島にいられるのはあと三日だよ。式場をさがして、衣装をさがして、なんて無理だよ』と止める『私』。でも懇願し続ける二人の強い思いに揺れだす『私』…というこの一編目の短編、設定自体はかなりかっ飛んでいるようにも思いますが、この短編集の中でもこの作品のテーマを最も考えさせるものでした。

    『私は今ここにいて、私の人生らしきものを生きていて、ここからはもう出られないと思ってる』と考える こずえ。『人生らしきもの』という表現に今の自身の人生を否定する気持ちが滲んでいます。そして、『出てしまったらもう自分の人生ではないと思ってる』、と不満足ながらも今の人生が自分の人生であり、今の人生を歩んでいく他ないことも理解しています。しかし、その上で『でもそうじゃない。今いるところから出れば、きちんともうひとつ、私の人生がある。そう思いたいの』、と自分が選ばなかった道が別にあって、その道もまっすぐに続いていると思いたい気持ちがこの願いの中によく現れています。作品では、そのもうひとつの道への一歩を踏み出す勇気が推進力となって物語が進んでいきます。しかし一方で主人公の『私』は、『もうひとつの人生なんかないよ。きっとそんなものはないよ』、とそんな考え方を否定します。でも、そんな『私』も決して順風満帆な人生を生きているとは思っていません。でも『自分の人生らしきものから、いかなる意味でも私たちは出ることはできないよ。私たちにあるのは、今、とそれ以外、だけだ』、と こずえとは正反対に考え、『もうひとつの人生』を否定します。そしてこんな風に結論します。『私と正俊がいっしょにいなかったとして、という仮定は、もし私が犬に生まれていたら、という仮定と、なんら変わりはないに違いない』、というある意味の割り切り。『もうひとつの人生』を究極的に言い表すとこのようになるという諦めの感情がここにはあります。『人生は無数の選択から成り立っている』、でもそれをどう捉えるかは考え方ひとつとってみても正解はないのかもしれません。

    『いつか、会いたいと思いますか、もうひとりに』

    選ばなかった人生の先に『もうひとりの自分』がいるとして、このように聞かれたらあなたはどう答えるでしょうか。『無数にいる、今の「私」と違うところに立っているだろう「私」のだれよりも、「私」は今、しあわせでなければならず、「私」に選ばれなかった幾人もの「私」に、負けたと思わせなければならない』。今の自分に、自分の選んだ道に疑問を感じた時、選ばなかった自分のことを思い浮かべる瞬間は誰にでもあると思います。でも、それらの無数の可能性の中の自分と今の自分とを比較して、今の自分が、いつも優位にあるようにと強迫観念に駆られるようになると、それはもう辛いだけの人生だと思います。もうひとりの自分、可能性の中の存在である自分、そんなものはやはりいない、そして今の自分の人生を悔いなきものにしよう、そう考えるのが結局は幸せなんだろうな、と私は思います。一方でそう考えないと、生きているのが辛くなる、考えれば考えるほどにキリのないテーマなんだとも思いました。

    とても奥深いテーマを、身近なシチュエーションを用いて重くなりすぎないように短編としてふわっとまとめたこの作品。ふと、自分が今までしてきた選択の歴史、そして結果論の歴史を思い起こさせてもくれた、そんな印象深い作品でした。

  • もしもあの時…
    あの時が人生の岐路だったと気付く時がある。
    どこかで違う選択をしていたら今はなかったのだなと思う。極々平凡な暮らしだが、あそこで違う道に進んでいたら今現在はなかったのだと思うと迷わず(?)歩いて来られた事がまずは嬉しい。手に入らなかった、大きかったかもしれない幸せより、手に入れた小さな幸せを愛しみながら生きたい。
    この短編集はどれも面白かったが《月が笑う》が一番好きだ。泰春さんの幸せな未来が見えるようだ。

  • もしもあ〜していたら!あ〜していなかったら!と思い悩む人たちの短篇集。

    一番すきなのは、猫を捜す「どこかべつのところで」

    あ〜わかる〜って思ったのは、必死でブログを更新する「こともなし」

    ですが、どのお話も面白かったです。
    大きい小さいに関係なく、日々何かを選択しながら生きているので、とても共感できました。

  • もしあのときああでなかったら、今ごろ私はどんな人生を送っていただろう。そんな「あのとき」という一点や、ありえたかもしれないパラレルワールドに思いを馳せてしまう、我ら凡人たちの短編集。
    とても良かった。最後の話は泣いた。
    以下、心に残ったフレーズ。といっても適当に縮めたりしているので正確な引用ではありません。

    ■もうひとつ
    「もうひとつの人生なんかないよ」
    ■月が笑う
    「許さないことはこわい、と感覚的に思った」
    ■こともなし
    「だって、幸せじゃないと困るじゃない。…今まで『もし』で別れた幾人もの私がよ。」
    ■いつかの一歩
    「人生って最初からあるのかしら。できていくものだとしたら、いつのどの一歩がその後を決めていくんだろう」
    ■平凡
    「ど平凡に生きていてほしいっていうのは、呪いっていうより願いに近いよね」
    ■どこかべつのところで
    「かなしみも後悔も、一ミリグラムも減ることはぜったいにないけれど、ただ、それを背負ってしまったという一点で、こんなふうに見知らぬ人と共鳴し合える」

  • とても読みやすかった。
    誰しも、もしもって考えてしまうよなぁと思いながら読み続け。
    また、登場人物の誰かしらに似てるような人がいるのかな?と思いながら読みました。

  • 6つの独立した短編集です。どんな人でも1日に数えきれない選択をして生きている。もしも、あの時違う道を選んでいたら、自分には別の人生があったんだろうか。その人生は今よりも、素敵なものなのではないだろうか。その考えが6つの作品には共通しています。私自身も60年以上生きてきて、よく考えてしまいます。でも今日も生きているということは、数えきれない選択は誤っていないのではないかと考えます。たとえ第三者が今の私の状態を見て客観的に幸せに見えないとしても。なんだか本の内容には、全く触れていないような気がするのですが、読み終えて、そのように考えさせてくれた作品です。

  • もしあのときこうだったら、と今とは違っていたかもしれない自分の姿、相手との関係を思い描く人たちを描いた短編集。

    相手と別れたり離れたりしても、意識すらしないところでその人との過去にとらわれていたり、一見幸せそうな料理ブロガーの主婦も心のうちでは、人には言えないモヤモヤを抱えていたり、多くの人が表に出せないでいる、そして、出さないようにすることで余計に消化できずにいるモヤモヤをうまく描き出している。
    読んでいて、共感とは言えないまでも、あー、こういうことかとストンと落ちるところもあった。

  • もし、あの時
    おにぎり
    みぞれ鍋
    酒房トラ
    靴売場

    じわじわきます
    図書館から借りた本

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著者プロフィール

1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部文芸科卒業。90年『幸福な遊戯』で「海燕新人文学賞」を受賞し、デビュー。96年『まどろむ夜のUFO』で、「野間文芸新人賞」、2003年『空中庭園』で「婦人公論文芸賞」、05年『対岸の彼女』で「直木賞」、07年『八日目の蝉』で「中央公論文芸賞」、11年『ツリーハウス』で「伊藤整文学賞」、12年『かなたの子』で「泉鏡花文学賞」、『紙の月』で「柴田錬三郎賞」、14年『私のなかの彼女』で「河合隼雄物語賞」、21年『源氏物語』の完全新訳で「読売文学賞」を受賞する。他の著書に、『月と雷』『坂の途中の家』『銀の夜』『タラント』、エッセイ集『世界は終わりそうにない』『月夜の散歩』等がある。

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