- Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101060019
感想・レビュー・書評
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この作品をあえて大きい潮目で捉えると、父親編・母親編、としてふたつに分かれていて、そのくくりの中にも具体的な主役、脇役の区別は特になく、守川家の人間たちは全て、心に罪の意識、咎、劣等感の類を抱えていて、それぞれ自分なりの『真実』に対して、頑なにそれをまっとうしようと葛藤する姿を見せる群像劇になっています。
劇作家の作る文学なので純文学ほど堅苦しくなく、ライトノベルほど砕けてない、山本有三のこの雰囲気が好きですね。
個人の主観における『真実』は、結局のところ『思い込み』でしかなく、万人を納得させる真実も無ければ、誰一人受け入れることのできない真実も決してないわけですが、義平とむつ子のような両極端な人間どうしが絡み合ったことで生まれる歪みが、その次の世代にも繋がってしまうことは悲しいことだな、と。
この時代における政略的な縁談が生み出した弊害などについて、著者なりの意見を風刺として表されたのがこの1作だったのかな、と、今は思います。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
路傍の石とならんで山本有三の名作と言われる作品。
何も語らぬ厳格な父と娘と息子の一見平凡な家族。その父の生き方,母がいないわけ。「人生を"真実一路"に生きようとしながら傷ついた人々の,不幸だが真摯な姿を描いた不朽の名作」と評されています。
中盤くらいの父の遺書あたりがクライマックスで,もっとも感動しました。その父の生き方に共感できる人も多いのではないかなぁと思います。その後は決してハッピーエンドではないです。むしろその対極ですが,単に悲惨な小説で終わらないのはこの父の生き方を中心にそれぞれの人物が"真実"に生きる生き方が作品から伝わってくるからなのでしょう。
父義平の娘しず子が,父と血がつながっていないことを叔父から話されたあと,しず子に叔父は話す。
「今日まで,ずうっと自分の子として育ててきたのだから,どこまでも自分の娘として嫁にやりたい。心からそう思っているのだ。――うちあけなかったのは,ただ隠しているのではない。うそを言っているのではない。そこには,事実を越えた大きな真実があるのだ。事実を語ることは,だれにでもできる。が,真実で押し通すことは,そう誰にでもできることじゃないよ。」
父から娘への遺書
「この件については,あるいは小生がここに改めてことわらずとも,あなたはもう何もかも知っているのかもしれませぬ。どうも知っているような気がしてならぬのです。小生はときどきあなたのことばのはしばしや,動作のうちにそれを見て,ぎょっとすることがしばしばあります。それで,私はある時,思い切ってあなたに尋ねてみようと思ったことがありましたが,わざとやめました。小生も知っていて言わず,あなたも知っていて言わない。それは明らかにうそのつき合いです。しかしながら,このうそのつき合いの中に,なんとも言われない,甘い味があるのです。私はせっかくの,その味を台なしにしたくないと思って,ついに黙っておりました。人生と申すものは実に複雑多様なるものにて,うそは絶対に悪とされていますが,このうそがあるために,いかほど人生がなめらかにされているか,はかり知れないと思います。」
内容はこれだけではないですが,この部分がなんとも好きです。 -
年頃の娘・しず子と小学生の息子・義夫の幸せを切に願う父・義平。会社で経理担当を任される厳格な性格。曲がったことの嫌いな父ではあったが、義平には子らの幸福のために守るべき秘密があった。しず子は血のつなっがった娘ではなく、また死んだとしていた母は生きていた。「うちあけなかったのは、ただ隠しているのではない。うそを言っているのではない。そこには事実を超えた大きな真実があるのだ。事実を語ることは、誰にでもできる。が、真実で押し通すことは、そう誰にもできることじゃないよ。」としず子に諭す素香おじさまの言葉は重い。
大人の事情があり家をでた母・むつ子は縛られるのが大嫌いで勝気な感性の人。彼女も義平との結婚前には不幸なことがあった。登場人物それぞれが真実と信じる道をひたすら歩み続ける様をVIVIDに描いた不朽の名作。昭和のホームドラマの原点が凝縮された作品と感じている。ラストシーンの運動会で、「畜生」と思いラストスパートをかける義夫の負けん気の強さは母むつ子の血か。 むつ子が愛した隅田は化学者。個人的には試行錯誤に没頭する材料研究者の姿はうまく表現されていると感じる。交流範囲の広い作者におそらく知り合いが居られたと思う。木材不燃剤や蛍光物質の開発など 言葉に少し血が騒ぎました(私事ながら化学研究者でしたので・・・)。蛍光材料やLEDなど今であれば、隅田の発明で一儲けできたはず。時代の流れを感じます。昭和49年12月10日56刷320円。 -
人それぞれが思う真実というものがあり、そこに一路に向かっていくそれぞれの人物の姿が描かれている。周りの人に迷惑をかけながらも発明に向かう隅田、その成功を信じ続けるむつ子、血のつながらない父と互いに真実を告げることなく看取るしず子、勉強はできないが自分の得意とする競争に信念で走り続ける義夫。真実とは何でもいいのだ。ただそれが自分にとっての真実だと信じる道をひたすら進む。私も人に左右されることのないそんな自分の真実を一つでも持ち続けたいものだ。
山本有三の本に出会って再び本の面白さを思い出した。 -
ストーリーに入り込むまで少し時間がかかったけど、やっぱり日本語好きだなあ、綺麗だなあと。お父さんの遺書は涙なしでは見られない。みんながみんな不器用で、優しくて温かい。最後に「真実一路」がずしんと心に突き刺さる。これこそ不朽の名作です。
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誠実さも罪になる。自己に忠実に生きれば、成り立たないこともある。嘘と真実。誰も責められない真実がある。はたして自分はどうだろうか?と考えさせられる
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それぞれの真実を探して、もがき苦しむ。
小学生の義夫も自分なりの真実を見つけようともがきながら成長していく。
生きていく上で、もがき、傷つくことも大切だと思わせてくれる。
何が真実かは、自分で見つけ出さなくてはならない。
不朽の名作。 -
父と娘、母と息子それぞれの真実一路。
みんな真実一路ですが、それぞれの一路は少しずつ少しずつ、違っていました。
何ともやるせない物語です。
真実一路の旅なれど 真実、鈴ふり、思い出す。
うちあけなかったのは、ただ隠(かく)しているのではない。うそを言っているのではない。そこには、事実を超えた大きな真実があるのだ。事実を語ることは、だれでもできる。が、真実で押(お)し通すことは、そうだれにでもできることじゃないよ。
─ 158ページ
女が母おやになるのはなんでもないことです。そんなことはどんな女にだってできることです でも母おやであることはなかなかできることではありません このことはよくよく思案していてください
─ 410ページ -
素晴らしく人から尊敬されるようなことでないけど、その人にとっては一本筋通して真実一路に生きてるということもあるのだなぁと。
他人を傷つけたり振り回してもそう生きることは臆病な自分にはできない。
一方で、だからこそ、そんな風に生きれる、その人のためならなりふり構わないと思える人を見つけられることは羨ましくもある。 -
雑誌の連載小説ということもあるのか、読みやすかったです。
家族とそのヒミツというテーマなのでだれでも取っ付き易いのではないでしょうか。
不器用だが真面目な父、ダメンズ好き母、可愛げのない子供と今も昔も変わらないよくある家族の不幸が描かれてます。
幸せになろうとして、自分の心を偽ったり忠実であろうとしてドツボにはまってしまう、人間ってそういうものですね。
子供は夫婦の不幸によって人並みの幸せが得られず苦しむのですが、それに負けず突破してほしい、そんなラストでした。