生きとし生けるもの

  • 新潮社 (1955年1月1日発売)
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感想 : 6
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  • 本 ・本
  • / ISBN・EAN: 9784101060088

感想・レビュー・書評

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  • 光さすところ、日かげ有り。
    ならば人の世はどうか?
    作者の問いは至ってシンプル、かつ難解です。

    天は人の上に人を作らず・・・とは言いますが、
    人は、あらかじめ決められた運命からは、そうそう
    逃れられないのが普通です。
    個々人の目に見える景色は、環境の違いに大きく左右されている。
    こう言って差し支えないでしょう。
    恵まれた日なたにいる人、そうでない人、その差は歴然と
    存在するものです。

    この作品では、日なたにいることは必ずしもそれが手放しに
    人の成長にとっての恩恵とは限らず、
    日かげに追いやられる人々にとっては、恵みがないからといって
    成長できないと卑屈に思い込む必要もない。
    偏ったものの見方だけでしか物事を計れないと、
    世の中のことは鮮明には分からない、
    そんな事を、相互の世界線を通して説かれているのかな、
    と自分には思えました。

    裸一貫から鉱業会社と銀行をおさめる実業家となった
    曽根周作の成功は、日かげと日なた両方の世界を生き、
    どちらの経験も歯車としてかみ合った結果を表すもので、
    それ自体が一本の大きな樹であり、キーパーソンとして
    演出されていると言っていいでしょう。

    そこからあとに続く若者の姿は、日なた日かげの差はあれど
    どれも不完全で、どっしりとした幹から伸びた枝や葉でしかありません。
    作品そのものが途中やめの絶筆になっているので
    この後の具体的な展開はイメージするしかありませんが、
    周作の息子・夏樹は、日かげの人々と密に接することで
    日なたの世界で得難い経験を手にし、日かげの伊佐早精一郎は、
    夏樹の支援を受けるであろう弟の令二を通して、
    日なたの世界との接点が、見える視野を広くしていく、
    こんな風に、のちのストーリーが繰り広げられるのかなと、思った限りです。


    これまでたびたび山本有三作品を手にしてきましたが、
    一部に例外は存在しつつも、彼の作品には一貫して
    『不器用であたたかい日本人としての父性愛』が感じられる気がします。
    はっきりとした真意はことばにせず、下の世代は頭で考え、
    自分の力で気づいて欲しい。
    そんな奥ゆかしい心がここにも描かれていた様に自分には思えました。

  • 日の光と坑夫/失敗と葬別会/正義とひきょう‥etc.

    とても良かった。私は好き。

    50年も前に書かれているのに、文体は読みやすく、人の心の描写は今にも通じて変わらない。くどくなく、軽すぎず、固くて重い訳でもない。冗長な感じもするけど、ページをめくるのが心地よくなる。

    未完の作品と、読んで初めて知っただけに、最後まで読めないのが本当に惜しい。

  • 2012/03/22
    未完というのが本当に残念。
    読みやすくて、おもしろかった。

  • 新聞小説は会話の多いほうが読者に親しまれ易いという小説観を、山本有三は持っていた。直接話法や長い独白など様々に口語を取り入れて小説を構成する。

  • 山本有三の未完の名作です。おそらくまだ本すじに入るまでは書ききれていないのにもかかわらず、小説としてのスケールの大きさが分かる。叶わぬ願いだけど、完成した作品として読みたかったです。

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