- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101063041
作品紹介・あらすじ
官吏任用試験に失敗した趙行徳は、開封の町で、全裸の西夏の女が売りに出されているのを救ってやった。その時彼女は趙に一枚の小さな布切れを与えたが、そこに記された異様な形の文字は彼の運命を変えることになる…。西夏との戦いによって敦煌が滅びる時に洞窟に隠された万巻の経典が、二十世紀になってはじめて陽の目を見たという史実をもとに描く壮大な歴史ロマン。
感想・レビュー・書評
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高校時代に読んだのの再読。手元になかったので市立図書館で借りてきた。再読とはいえ、全然覚えていなかったからほぼ初読。
漢検の準1級の練習問題をやっていたら「敦」の字が出てきたのでそこからの連想ゲームで読んだ。
時代は宋の時代。西から宋を脅かす西夏との戦いが描かれる。「キングダム」を読んだ後だったから、戦いの描写がよりリアルに感じられた。
人の生き様、死に様、主人公の運命が二転三転する様を転がる球のようだな、と思いつつ読む。
いつの時代も獲った、獲られたの戦いなのだなぁと、むしろ日本の戦後70年くらいが例外であって、平和ボケしていると言われても仕方ないのかも、などと思う。まぁ、その日本の戦後もまた経済戦争を戦っていたのかもしれないけれど。
本には「大村智氏寄贈」のゴム印。ノーベル賞の大村先生が寄贈したらしい。本文中には先生が付けたと思われる赤鉛筆の印がところどころにあり。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
大陸の広さが目に浮ぶ作品でした。砂漠、ずーっと続く砂漠と、そして街の物語。人間のエネルギー、民族の興亡を感じました。
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1959年(昭和34年)。
散文的な筆致にもかかわらず、無性に旅愁をかきたてられ、その地を訪れて直に空気に触れてみたくなる。この小説には、そんな力があるように思う(私も昔、本書に触発されて莫高窟へ行った)。解説にあるとおり、この物語の主人公は敦煌をはじめとする西域の地、その興亡そのものである。人物はいわば風景の一部であり、流転する万象の一部にすぎない。そのような仏教的無常観を基調としながら(或いはだからこそ)、儚い生をひたむきに生きる人間の、なんと愛おしいことだろう。この小説のような、或いはこれ以上のドラマが実際にあったかもしれない。経典が実在するという事実と相まって、ついそんな空想を抱いてしまうような、浪漫に満ちた物語である。 -
20世紀初頭、敦煌で大量の経典が見つかった。それはかつて西夏に支配された敦煌が守るために莫高窟の穴に隠したものだった。壮大な歴史ロマン。
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おもしろかった
とくに後半に進むにつれてその内容に惹きつけられた
語学学習が趣味の私ですが、西夏文字に魅了されて故郷を離れ自分の人生を全うした行徳、素敵だなと思うと同時に、言語を身につけることで、普通に生きてるだけは出会えない人々や価値観に出会えるのは、今も昔も変わらないことだと感じた。
敦煌、いつか行ってみたいな -
中国西域でのちょうど1000年前の空想物語。都から遠くかつ広いゆえに宋時代の中国が統治しきれない西域、群小民族の覇権争い。現代のウイグル自治区の様相を思い浮かべてしまう、のと同時に、映画やTVシルクロードドキュメンタリーの映像記憶があるから、やすやすと思い浮かべるイメージが、なお空想を馳せさせて面白く且つ意義深く読んだ。
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世に残る文章ってのはこういうのをいうんだなと、この手の書物を読むたびに思う。
中国の歴史について基礎知識がほとんどないから、地図を見ながら、脚注を2度読み、なんなら本文も2度読んではじめて目の前に風景が浮かぶ。
コロナ終わったら絶対敦煌行く。莫高窟行く。 -
古い時代なのに、
色鮮やかな光景が思い浮かぶ。
賑やかな街や、荒々しい争い。
砂と岩と、人間の感情。
読書で世界旅行できた。
この作品は、井上靖の「天平の甍」と同様に、
同じようなテーマ、つまり貴重な経典や史書を
後世に残したいというミッションに身を捧げる
主人公の高揚感で満ちている。
今の時代、身を捧げて守り抜こうと思える
経典は、あるのだろうか。
やはりそれは仏教典や聖書、などなのだろうか。
科学技術などは対象になるのだろうか。
色々と面白く考えてしまう。
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実際に起こった出来事に結び付くまでの経緯を書いたってところに、すごい想像力だな、作家ってすごいな、と思いました。
【紙の本】金城学院大学図書館の検索はこちら↓
https://opc.kinjo-u.ac.jp/ -
敦煌で二十世紀に、洞窟から数万巻の経典が発掘された、というところが史実。その経典がどのような事情で、誰によって隠されたか、というところが作者のフィクション。
ひとつの史実から、ここまで物語を膨らませることが出来る、というところに単純に感動できる。物語構成的にも、ある意味、小説のお手本と云えるような安定感がある。
主人公の述懐するところ、運命に抗わずに生きてきたら途方もなく西の辺境にいる身、これは作者の憧憬でもあるのだろう。