氷壁 (新潮文庫)

著者 : 井上靖
  • 新潮社 (1963年11月7日発売)
3.63
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  • Amazon.co.jp ・本 (633ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101063102

氷壁 (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

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  • とにかく、最初の2ページに心臓を鷲掴みにされてしまった。
    主人公・魚津恭太が山から東京の都会に返ってくるシーンである。彼が「山から帰ってきて、東京を眼にした時感ずる戸惑いに似た気持」が、こう描写してある。

    「暫く山の静けさの中に浸っていた精神が、再び都会の喧騒の中に引き戻される時の、それは一種の身もだえのようなものだ。ただそれが今日は特にひどかった」。

    この文章を読んで、私はこれは傑作に違いない、と思った。この清冽で、しかし同時に冴え冴えとしたこの文章に、ぴったりと吸い込まれるような気持ちになったのだ。


    しかし、読み進めていくうちに、どうもあの予感は違ったのかなぁ、という気持ちが強くなってしまった。
    文庫裏のあらすじを読んで、てっきりドラマチックな「山あり谷あり」の展開を予想していたので、読み進んでも読み進んでも激情に駆られる場面が出てこないというか……ぶっちゃけてしまうと、修羅場が全然ないなぁ、と思って物足りなく思えてきてしまったのである(^^;)。

    主人公を含め、登場人物たちは清らかでありながら、何かと頑固な人間が多い。しかし、彼らは我を通すわけではなく、かといって物分りがいいわけでもなく、ごく淡々と事態を受け止めようとする。
    そこに葛藤はある。しかし打算的なものや、疑いはない。憤りはある。しかし、あてつけや嘘はない。
    そこが私にはどうも、透明すぎる気がしてしまったのだ。私は自己主張が強い困った人間なので、彼らが欲や見栄を出さないことに「?」となってしまうのである。

    魚津も美那子も、結局最後まで「何もなく」終わる。私はそのことにとても驚いた。そして、井上靖は清廉な作家なのだなぁ、でもこれが多くの人に愛されたのだなぁ、と思うと、またそのことに驚いた。

    私はこの本のことを、ドラマチックというにはあまりに静かで、透明な作品だと思った。あくまで、私は、である。

  • 昭和38年出版の本
    その時代が感じられて 面白く読ませてもらいました

    自分でも 山に登るのが好きなので 他にも山岳小説を読んでいますが その中でも この本は面白い方でした

    おすすめしたいです^_^

  • 2017.09.10読了

    名作である。その一言に尽きる。

    本書を読み進めていた一週間余り、気持ちが沈み込んで行くのを静かに感じていた。読了して一夜経ったいまも、何とも言えない感情を抱いている。

    誰も幸せにはならない結末である。それが却って現実の世界を描いている様に思えた。新田次郎の「孤高の人」も好きな作品だが、登山家の心境というものが描かれている作品が、私は好きらしい。

    来週、涸沢へ登る。

  • 上高地に行く前にと思い読んだ。昭和のナイロンザイル事件がモチーフ。山の迫力、美しい文章、新鮮ささえ感じた。名作は衰えないと改めて思った。ストーリーとして、最後は残念。徳沢園を訪れるのが待ち遠しい。

  • 穂高方面に紅葉狩りに行った際に氷壁の舞台等の掲示が現地にあったため、読んでみた。
    しかし、wikipediaに記載のあるような当時の事件を下敷きにしている割には、公開実験の偽りについては触れず、滑落した主人公に「不倫」という随分と低俗なテーマを付加している。
    なんだか、このような作品を描く作家が巨匠といわれる意味が分からない。

    死者に対する冒涜ではないか?

    読む価値なし

  • 再読。前回読んだのはおそらく30年以上前。先日行った上高地で見た穂高の峰々や岩壁が思い出される。山はいい。

  • 穂高の人を寄せ付けぬ厳しい山の姿。その山に挑む男たちの友情の物語。こういう話ってかなり熱くなるんだよなあ。そして高度成長期の昭和が舞台なのも興味深い。会社や夜の新宿の場面など。

    まるで映画のようにイメージを喚起する文章だ。一緒に自分も雪山を歩いている気にさせられるから不思議だ。

    男同士の友情、彼らの運命を分けたザイル、彼らの周りの女たちとの恋情。様々な要素が詰まった骨太なエンタテインメント。確か、NHKでドラマ化されていた気がするが、今度見てみようと思う。

  • 都会の喧騒や小坂の滑落死に関する世俗の憶測と、人間を寄せ付けない美しい山・自然との対比。そこに男同士の友情と人妻である八代美那子への許されざる恋愛感情が絡んできます。

    山が好きな方や物語として楽しみたい方には良いと思いますが、私のように文学的に優れた表現や世間一般に理解されがたい特異な思想や物の見方を求める者にとっては物足りないと感じます。
    所詮TVドラマ化できてしまうという時点で目指す方向性が違ったのかもしれません。

    かなりの長編ですが、内容としては「ザイルは本当に切れたのか」という点が延々と語られており、冗長という印象があります。
    また表現という点では、敢えて伏せることによって暗示してくれれば良いのに国語の解説のごとく1から10までしっかり説明してくれるので、良い意味でのモヤモヤ感がありません。例えば‥

    ”ガスの流れの中に魚津は立ちつくしていた。後方には美那子がいる。前方にはかおるがいる。”

    こんなことは言われなくても分かっていることであって、この長編のハイライトに至っていちいち余計な説明をされると読後の爽快感をそがれます。

    ただ、描かれる人間模様は面白いのではないでしょうか。
    常に冷静沈着で的確な判断をする魚津が、俗世間と隔離されていたはずの山に美那子への思慕を持ちこんでしまった結果、心乱れ、落石に打たれて死ぬという展開は、八代美那子という女性の危険なまでの魅力を読者に強く印象付けます。
    一方で美那子については、もう少し「危険、不吉、誘惑」というキーワードが似合うような、巨大なエネルギーで引き込む暗く深遠な人物として徹底的に描いてほしかったです。美那子はまだきれいすぎます。笑

  • どんどん読み進める感じにはならなかった。
    ラストはしんみりきた。

  • 今後の反省として、具体に何があったというわけではないが、調子にのったことは書かない。書くなら誰にも見られないように。本はけしてけなさない。特に人の好きな本はけなさないこと。

    文章、筆致、個人的にはかなりしっくりくる。固すぎず、柔らかすぎず、文章のかみごたえが最適。
    登場人物はそれほど多い方ではないと思うが、丁寧に描いてあり、展開も飽きさせない。ここぞという時の心理の描写の仕方が、単なる不倫とか単に友情の物語とは異なると、私には思われました。それこそが作者の力量なのか。
    思ったよりも悲劇的な終幕だったし、全体にやはりやや暗い影は消えない。それでも、どこか清々しさも感じる。

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