氷壁 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (640ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101063102

感想・レビュー・書評

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  • 有名作家の登山ものを読んでみたくなり挑戦。

    「山」がテーマではあるが、人を信じること、信じきることについて深く考えさせてもらった内容でした。

    自分が生まれる前の昭和。
    どこでもすぐタバコ
    給料前借り
    THE 昭和、常盤支社長がいい味出してます。

  • 名作といわれて、未だ読んでない本が結構あります。本書はその1つでした。井上靖は中学の時の読後感想文で「あすなろ物語」を読んだり、現国の教科書で「夏草冬涛」の抜粋を読んだ記憶が薄っすらある程度でした。
    最近、山岳漫画「岳」や登山家の物語に接するうちに、そういえば「氷壁」を読んでいないということを思い出し、早速チャレンジ。
    結論から言えば、物語としての面白さは「中くらいかなおらが春」でしたが、処々に出てくる描写のうまさは格別でした。例えば、夫人が若い娘を見て嫉妬する様(P275)、主人公とかおるの会話で「日本一だというものを兄に教育されました」というやりとり(P395)、純真一路のかおるが主人公に好きと告白する場面での一言「兄は自分のやりたいことをやって命を捨てました。私も、自分のやりたいことをやろうと思いましたの。でも、もう駄目ですわ。私、今泣いていますけど、魚津さんのことをあきらめるのがつらくて泣いているんではありません。自分が兄のようにやりたいことをやって命を捨てられないのが悲しいんです」(P534)、魚津の死を社員の前で報告する常盤のスピーチ(P587~)、常盤が魚津と縁があった二人の女性に食事を誘うときのセリフ「彼を素直に信じられる我々だけで彼をしのびましょう」(P613)などの珠玉のフレーズが忘れたころにやってきます。小説家の構想力や筆力が基礎体力だとすれば、「魔法のフレーズ力」は生まれ持った天性のものなんでしょう、まさにそこが井上靖という作家の真骨頂だと思いました。

  • この『氷壁』を
    わたしは1966年(昭和41年)25歳の時に読んでいる
    こんなことはどーでもいいことなのだが

    18歳の時から読んだ本のタイトル・作者・日付を
    忘れずにノートしているのでこんなに詳しくわかるのである

    そのことでいいことがある
    実はこの本を読んだのだけれどすっかりストーリを忘れてしまった
    しかし、この日付により読んだ当時を思い出すことができる
    結婚はしていた、まだ子供も生まれていなく
    通勤していて、公団住宅団地の生活

    きっかけはなんで読んだのだろう
    この本がベストセラーになったのが昭和32年だそうだから
    41年なら約10年後だ
    ザイルが切れたとか登山とかにわたしが興味があったとは思われない

    自分で購入したのか、借りたのかもわからない
    購入したのなら今も持っているはずだから
    借りたのだろう、はたまた父の本だったのか
    父は山登りが好きだったから

    と、とりとめのないこんなことはいい
    ロングセラーだったのだ
    今だって文庫本重版多く読まれているのだから

    読んでおどろいた
    これは通俗小説(ちょっと古!)じゃんか
    有名なナイロンザイルの強さなんかどーでもよくて
    でもないが、登山の科学的ドキュメンタリー風ではなく
    男の友情にひとりのよろめき美貌女性がからむ恋愛物語

    とは井上靖さんに大変失礼のようだが
    小説が低俗といっているのではない
    今読んでも立派に、しかも真摯に書かれているし
    文章とはこういうものを言うのだと思う

    このころはこんな小説が新聞小説であり、流行であり
    ベストセラー本になって出版界を潤していたんだなぁと
    感慨しきり
    他にも『挽歌』『美徳のよろめき』『鍵』『楢山節考』などなど

    ところで、昨日は「昭和の日」だった
    新聞を開いて「あれ?いつのまに「みどりの日」が...」
    とボケたのだが、もう2007年には変わっていたんだってね(笑

    記事には
    昭和がわたしたちのようなもろ生きた人たちにも
    知らない若いひとたちにも
    懐かしがられている、とあったが

    なるほど、なるほど
    ベストセラー本などの出版界事情も
    昭和時代はけたはずれだったのだから
    なにがなし、もの悲しくも懐かしいことよ

  • サラリーマン登山家の魚津は、友人小坂と凍った岩壁を登っていた。途中、支えていたナイロンザイルが切れ、小坂が墜落死。なぜザイルは切れたのか。ザイルの不良か、失恋による小坂の自殺か、それとも魚津の技術ミスか。

    現実の「ナイロンザイル事件」をもとにしたストーリーだが、個性豊かな登場人物は完全に作者の想像。特に魚津の会社の上司、常磐がいい。無口な登山家や学者、女性たちを圧倒するしゃべりで存在感を発揮。彼を主人公にしたスピンオフを作ってほしいくらいだ。

    当時の男女関係は登山のように慎重でゆっくりと進めるべき。登山家であれば何も考えず、ただ登るために山へ来るべきで、山で愛する人を想うなんて以ての外。それと同様、複数の人を愛するなんてとんでもない。

  • あらすじ
    新鋭登山家の魚津恭太は、昭和30年の年末から翌年正月にかけて、親友の小坂乙彦と共に前穂高東壁の冬季初登頂の計画を立てる。 その山行の直前、魚津は小坂の思いがけない秘密を知る。 小坂は、人妻の八代美那子とふとしたきっかけから一夜を過ごし、その後も横恋慕を続けて、美那子を困惑させているというのだ。
    感想
    •小阪、魚津両氏の冥福を祈ります。
    •大正池、河童橋、徳沢小屋、涸沢ヒュッテ、
    穂高小屋を見てみたい。
    •常盤、かおる、美那子との偲ぶ会に参加したい。
    •1956年に書かれた小説だか古さを感じ無かった。
    •著者、井上靖に敬意表する。

  • 北アルプス穂高岳で、コンビを組む相方を滑落死で無くした。その相方の不倫相手との関係性や、ザイルの不良、自殺説、殺人説などに振り回される魚津恭太。単独行で、最後は自ら命を落とす。
    冬山登山部分以外の人間模様が内容の中心。

  • 当時の新宿から出る特急の描写がいい。

  • とにかく、最初の2ページに心臓を鷲掴みにされてしまった。
    主人公・魚津恭太が山から東京の都会に返ってくるシーンである。彼が「山から帰ってきて、東京を眼にした時感ずる戸惑いに似た気持」が、こう描写してある。

    「暫く山の静けさの中に浸っていた精神が、再び都会の喧騒の中に引き戻される時の、それは一種の身もだえのようなものだ。ただそれが今日は特にひどかった」。

    この文章を読んで、私はこれは傑作に違いない、と思った。この清冽で、しかし同時に冴え冴えとしたこの文章に、ぴったりと吸い込まれるような気持ちになったのだ。


    しかし、読み進めていくうちに、どうもあの予感は違ったのかなぁ、という気持ちが強くなってしまった。
    文庫裏のあらすじを読んで、てっきりドラマチックな「山あり谷あり」の展開を予想していたので、読み進んでも読み進んでも激情に駆られる場面が出てこないというか……ぶっちゃけてしまうと、修羅場が全然ないなぁ、と思って物足りなく思えてきてしまったのである(^^;)。

    主人公を含め、登場人物たちは清らかでありながら、何かと頑固な人間が多い。しかし、彼らは我を通すわけではなく、かといって物分りがいいわけでもなく、ごく淡々と事態を受け止めようとする。
    そこに葛藤はある。しかし打算的なものや、疑いはない。憤りはある。しかし、あてつけや嘘はない。
    そこが私にはどうも、透明すぎる気がしてしまったのだ。私は自己主張が強い困った人間なので、彼らが欲や見栄を出さないことに「?」となってしまうのである。

    魚津も美那子も、結局最後まで「何もなく」終わる。私はそのことにとても驚いた。そして、井上靖は清廉な作家なのだなぁ、でもこれが多くの人に愛されたのだなぁ、と思うと、またそのことに驚いた。

    私はこの本のことを、ドラマチックというにはあまりに静かで、透明な作品だと思った。あくまで、私は、である。

    • Pipo@ひねもす縁側さん
      個人的には、「何もない」関係が物語を引っ張る力は、今の小説よりも、前の時代の小説のほうが大きかったように思うんです。トラウマや痴話喧嘩で枚数...
      個人的には、「何もない」関係が物語を引っ張る力は、今の小説よりも、前の時代の小説のほうが大きかったように思うんです。トラウマや痴話喧嘩で枚数稼ぐな、と(笑)。

      井上靖の『楼蘭』などにも、「この男女には絶対何もありえない」という関係が出てきますが、スペクタクルで高潔で、なかなかよろしいですよ。
      2013/02/09
    • 抽斗さん
      なるほど、「高潔」という言葉はぴったりですね。井上作品を読むと、ひそやかな気高さ、みたいなものを感じますものね。。

      うーん、「何もない」関...
      なるほど、「高潔」という言葉はぴったりですね。井上作品を読むと、ひそやかな気高さ、みたいなものを感じますものね。。

      うーん、「何もない」関係でもいいと思うのですが、それでも何というか、私はそこに登場人物の「欲」をもっと読みたかったのかもしれません。
      2013/02/09
  • 人は何故山に登るのか、、、恋愛と友情と、、、いろいろ絡んで、ザイルが切れる事故からの闘い。

  • ナイロンザイル事件の顛末の詳細かと思いきや、それはあくまで背景である男女の心の機微を描いた話だったので些か拍子抜けした。
    ただ、山に登る者の心の有り様を、見事に言い得ており、常盤という狂言回しの口から、主人公に代わり雄弁に語られている。また、他人の真実は他人が推し量れるものではないし、他人の思う真実は、そのまま信じてあげたいものだと教訓めいたものが心に残った。
    美耶子という女は、私は嫌いである。

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著者プロフィール

井上 靖 (1907~1991)
北海道旭川生まれ。京都帝国大学を卒業後、大阪毎日新聞社に入社。1949(昭和24)年、小説『闘牛』で第22回芥川賞受賞、文壇へは1950(昭和25)年43歳デビュー。1951年に退社して以降、「天平の甍」で芸術選奨(1957年)、「おろしや国酔夢譚」で日本文学大賞(1969年)、「孔子」で野間文芸賞(1989年)など受賞作多数。1976年文化勲章を受章。現代小説、歴史小説、随筆、紀行、詩集など、創作は多岐に及び、次々と名作を産み出す。1971(昭和46)年から、約1年間にわたり、朝日新聞紙面上で連載された『星と祭』の舞台となった滋賀県湖北地域には、連載終了後も度々訪れ、仏像を守る人たちと交流を深めた。長浜市立高月図書館には「井上靖記念室」が設けられ、今も多くの人が訪れている。

「2019年 『星と祭』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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