天平の甍 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101063119

作品紹介・あらすじ

天平の昔、荒れ狂う大海を越えて唐に留学した若い僧たちがあった。故国の便りもなく、無事な生還も期しがたい彼ら-在唐二十年、放浪の果て、高僧鑒真を伴って普照はただひとり故国の土を踏んだ…。鑒真来朝という日本古代史上の大きな事実をもとに、極限に挑み、木の葉のように翻弄される僧たちの運命を、永遠の相の下に鮮明なイメージとして定着させた画期的な歴史小説。

感想・レビュー・書評

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  • 733年(天平5年)聖武天皇の時代
    第九次遣唐使のお話
    船に関連する人材は元より、訳語者、医師、画師、僧侶ら総勢580名くらいが船四艘で出航する
    当時の目的として、宗教的、文化的なものであり、政治的意図は少なかったよう
    というのもこの時期の日本の大きな目標は、近代国家成立である
    外枠だけができて、中身は混沌としていたため、先進国唐から吸収しなければならないものが多くあった
    また、課役を免れるために百姓は争って出家、かつ僧尼の行儀も堕落(乱れているなぁ…)
    仏教に帰入した者の守るべき師範は定まっていなかった
    そのため唐よりすぐれた戒師を迎えて、正式な授戒制度を布きたい
    伝戒の師を請して日本は戒律を施行したかったようである
    それが留学僧の主な目的でもあったようだ

    奈良から日本最後の港まで騎馬で1ヶ月
    洛陽に着くまで蘇州から実に8ヶ月である
    想像を絶する船旅である

    さてその留学僧に選ばれた4人
    彼らは選ばれし時から、それぞれの運命に翻弄される
    そして20年近い時を経てそれぞれに変化が…

    【4人の留学僧】

    ■普照(ふしょう)
    当初戒師を招ぶことに興味を持たず
    自分が学び得る経典にだけ魅力を感じていた(マイペースだ)

    仲間の僧、栄叡の思いを引き継ぎ、鑒真を日本へ招聘しよう
    業行の写した経巻を日本へ持ち込みたいと思うように

    ■栄叡(ようえい)
    当初やる気があったが、「楽」に流される面も

    戒師の招聘に使命感を持ち始め、鑒真を日本に招聘する夢に取り憑かれ出す

    ■戒融(かいゆう)
    他の留学僧たちとはつるまず、単独行動
    「机に齧り付くことばかりが勉強か?」と普照に物申す(どの時代にもこういう人いますね!)

    「この広大な土地で僧衣をまとい布施を受けながら、歩けるだけ歩いてみる」といい
    いち早く一人出奔する

    ■玄朗(げんろう)
    頭脳明晰ながら、一つのことに深く入り込めない
    帰国したいが、小舟の渡航に不安(僧らしからぬ立ち振る舞いが多い)

    皆と別れ長安へ
    唐人の妻子を得る
    結局20年間留学僧として何も身につけなかったと嘆くが…



    【4人の僧以外の重要人物】

    ■業行(ぎょうこう)
    20年以上唐におり、どこも見ないし誰にも会わない日本人
    寺を渡り歩いてただ、ただ経論を写している
    「いま日本で一番必要なのは、一文字の間違いもなく写された経典だ」といい、写経に没頭
    他のことはすべて無関心


    ■鑒真(がんじん)
    留学僧たちの戒師の招聘の依頼に対し、
    「他に誰か行く者はないか
    法のためである
    生命を惜しむべきではあるまい
    お前たちが行かないなら私が行くとしよう」
    このように決意する

    この業行及び鑒真との出会いが留学僧たちの日本への帰国を決心
    業行が生涯をかけて写し取った経巻類を運ぶ
    鑒真を招聘する
    この2つのために普照と栄叡は長時間かけて準備し、遂行努力を重ねる

    幾多もの困難が立ちはだかる
    秘密裡のため、裏切りに遭い、投獄
    海賊の出没で航路が塞がれる
    時間をかけ準備した多くの将来品、仏像、仏具、食糧、薬品、香料(他にもよくわからない品々)
    途中坐礁し、船に積み込んだものが悉く浪にさらわれる
    食糧も飲料水もなくなる(雨水を飲んで渇きをしのぐ)
    飢餓と渇きに苦しむ
    それでも鑒真は再挙をはかる

    鑒真と普照並び栄叡は行を供にする
    師を得た気持ちで今までとは全く異なる勉強ができたという

    入唐から17年
    栄叡が志半ばで病死

    普照は高齢の鑒真を無理をしてまで日本へ渡来させることが本当に正しいことなのか迷い始める
    そのため、一旦鑒真と別れることを決意
    普照は次の船が来るまで業行の写経を手伝う
    自分の果すべき仕事に思えたという
    自分のことしか考えていなかったような普照が多くの人と出会い成長していく

    業行の最後
    「私が何十年かかけて写した経典は日本の土を踏むと、自分で歩き出しますよ…
    多勢の僧侶があれを読み、あれを写し、あれを学ぶ
    仏陀の心が仏陀の教えが正しく弘まって行く…」
    こんな会話をした普照は彼の思いをしっかり受け止めることができたであろう

    そしてとうとう20年の時を経て、普照は日本の地へ

    結局鑒真は
    12年間に5回も渡航し失敗
    視力を失う
    6回目にようやく日本へ上陸
    76歳までの10年間のうち、5年間は東大寺、残り5年間は唐招提寺で過ごし、多くの日本人は授戒を施した


    733年からおよそ20年間の話だ
    今から1200年以上前である
    このころ我々の祖先は何をするにも命がけであった
    命をかけて何かを成し遂げること…崇高で勇気ある姿
    誰もかれもが美しい
    普照も当初はなんとなく心が定まらず煮え切らない僧であったが、栄叡の熱意と志を引き継ぎ、はたまた業行の実績も引き継ぐのである
    彼は人に対してとても情が厚く、人との和を大切にすることができる人物であった
    運命に翻弄されながら、皆それなりの人生を手に入れる
    普照は人(誰しも)の素晴らしさを見いだすことを知った
    栄叡は信念を持てばそれが実現することを知った
    戒融はその目、その肌で感じることができる世界を知った
    玄朗は異国で家庭を持ち、生きる世界を知った
    業行は将来の日本の仏道を知っていた
    良し悪しじゃない「生きる」という姿にまぶしさを感じた
    歴史ロマンでもあるが、人間の底力を感じた
    命がけの人の行為が歴史を作り、日本という国を発展させたのだ
    心が震える書であった





    そのころ日本では、仏教の力で国を治めようとして寺や大仏を作りました。その建設のため、農民たちには重い税や労働が課せられ、苦しい生活を強いられていました。一方、その当時、僧(そう)には税がかかりませんでした。そのため、仏教をろくに知らないのに僧になって税をのがれようとする者が急に増え、仏教界はみだれました。そこで朝廷(ちょうてい)は、正しい仏教を教えてくれる僧を日本に招こうと、唐に遣唐使(けんとうし)を送りました。

  • フォロワーさんが大好きな作品だと紹介してくださいました。ありがとうございます!
    感慨深く読み終えることができました。

    鑒真来朝を実現させたのは、天平五年の第九次遣唐船で唐へ渡った無名の学問僧たちでした。彼ら、普照、栄叡、戒融、玄朗は誰ひとりとして優秀な留学僧として成功することはなく、それぞれが別の人生を歩むことになります。そしてもう一人、彼らの前に入唐していた業行も高名な僧とは決して言えず、一室に籠って、山程の経文の書写をやり、日本へ運ぶのが自分の役割として没頭しています。

    日本古代史上の大きな事実。その運命を担うのは養老元年の第八次遣唐船で入唐した、阿倍仲麻呂、吉備真備、玄昉の選りすぐりの優秀な、いわゆるエリート組の彼らではなく、無名の若き学問僧たちでした。運命が彼らを選んだ。そのことに、必ず何かの意味がある……と、私は強く思いました。
    鑒真という強く真っ直ぐな光を放つ星。その周りで頼りなく消え入りそうなほどの光りで瞬く小さな星々。私の中でそれらが誕生した瞬間でした。

    なかでも私が一番印象に残ったのは、日本へ帰る船の中で普照が見た夢とも現実ともなく、業行の叫びを耳にして目覚めたシーンです。

    『……巻物は一巻ずつ、あとからあとから身震いでもするような感じで潮の中を落下して行き、碧の藻のゆらめいている海底へと消えて行った。その短い感覚を置いて一巻一巻海底へと沈んで行く行き方には、いつ果てるともなき無限の印象と、もう決して取り返すことのできないある確実な喪失感があった。……』

    業行が生涯をかけて写した経典は、彼とともに海に沈んでいきます。業行にとっては絶望しかないはずなんだけれど、私はそれとともに懸命に生きた魂の儚さと美しさを感じる場面でした。
    全く関係ないのだけれど、夢枕獏著『陰陽師』に「二百六十二匹の黄金虫」という物語があります。『般若心経』の文字が、読む人がいなくなった淋しさから、自分のことを読んで欲しいとせがんで金色に光る虫となって僧の周囲を飛び回るという話です。海の中で業行の周囲を経典の文字たちが金色に光りながら舞う……それはどんなにか尊く美しいものでしょう。そんな幻想を見ていました。

    命をかけても届かないことがあります。
    だからといって、業行の今までの人生は無駄であったのでしょうか。決してそんなことはないはずです。
    懸命に知識を伝えようとするその意志は、必ず受け継がれていきます。おかしいかもしれないけれど、業行の経典が日本に届かなかったからこそ、後に空海が唐に渡ることになった……そう思えば海の底で経典は業行とともに時が満ちるまで眠っていただけなのかもしれないなと思うのです。
    確かに業行の書写した経典は届かなかった。でもそれは形を変え、次の世代へとしっかりと受け継がれていく。何も業行に限ることではなく、知識を伝えるために海を渡り埋もれていった数多くの命に繋がることのはずです。彼らの命の上に今がある、分かっているようで分かっていなかったと省みました。
    時を経て伝わってきた知識の裏には、歴史に華やかな名を残さずとも命をかけた人たちがいた。私はそのことをを決して忘れずにいようと心に誓うのでした。

    • hotaruさん
      地球っこさん、こんにちは。
      私もこの作品、大好きなんです。
      そして、地球っこさんと同じく、業行が海に沈んでしまうシーンが、一番印象に残ってい...
      地球っこさん、こんにちは。
      私もこの作品、大好きなんです。
      そして、地球っこさんと同じく、業行が海に沈んでしまうシーンが、一番印象に残っています。

      地球っこさんの素敵なレビューを読んでまた読みたくなりました。ありがとうございます。
      2020/01/13
    • 地球っこさん
      hotaruさん、こんにちは。
      同時でした!
      私も今、hotaruさんのレビューの方へコメントさせていただきました(*^^*)
      hot...
      hotaruさん、こんにちは。
      同時でした!
      私も今、hotaruさんのレビューの方へコメントさせていただきました(*^^*)
      hotaruさんの同じ想いになれたこと、嬉しいです。
      2020/01/13
    • hotaruさん
      地球っこさん、そうでした。
      新年のご挨拶がまだでしたね。
      今年もどうぞよろしくお願いします。
      地球っこさん、そうでした。
      新年のご挨拶がまだでしたね。
      今年もどうぞよろしくお願いします。
      2020/01/13
  • 何を今更の名作を、十数年ぶりに再読。
    齋藤孝さんの『なぜ本を踏んではいけないのか』の中で、「命がけでもたらされた本」と言う章に本著が参考として挙げられていた。
    観る眼を変えて再読したのだが、読んでみて良かった。本当に良かった。
    読後ひと月以上経つのに、いまだに目の前には遣唐使船で唐に渡った学僧たちの姿が遠景のように浮かび上がる。

    歴史ロマンなどという括りではとても語り切れない壮大な話で、登場人物は殆どが実在した人々。
    歴史的事実を忠実に織り交ぜ、ごく少ない資料から著者は想像力を巡らせて怜悧な筆致で書き上げている。清々しく、整然とした文章は本当に気持ちが良く、サクサクと読める。
    しかしそのテーマは痛切で深遠だ。

    船と言っても木造船で、追い風と潮の流れをのみ頼りにして進む。当然のことながら若き知性たちが海の藻屑となったことも数知れない。
    例え無事に渡っても、帰還出来るかどうかも分からないという不安さ。それでもなお彼らの心を駆り立てたものはなんだったのか。

    話は「普照(ふしょう)」という学僧を中心にして進む。
    一番情熱も実行力も持たなかった彼が、最終的には「鑑真」を伴って故国の土を踏む。
    他には「栄叡(ようえい)」「戒融(かいゆう)」「玄朗(げんろう)」の計4人の僧たち。
    唐に渡ってから知りえた僧たちも登場し、教科書でお馴染みの「阿倍仲麻呂」や「吉備真備」の名もある。

    わけても心惹かれたのは「業行」という老僧の言葉だ。
    『私の写したあの経典は日本の土を踏むと、自分で歩き出しますよ。
    私を棄ててどんどん方々へ歩いて行きますよ。大勢の僧侶があれを読み、あれを写し、あれを学ぶ。仏陀の心が、仏陀の教えが広まって行く。』

    ・・だが、「業行」の望みは海の底に消えることとなる。
    机の前でひたすら写経した積年の努力も水泡に帰してしまうのだ。
    それでも私はこの「業行」の思いに共感しないでいられない。
    もしかしたらすべてが無駄な行為かもしれない。
    それでもその先の夢のために、やり遂げずにはいられない。
    私たちの生もまた、そのようなものではないのだろうか。

    無事に経典を日本に持ち帰れるかどうかも分からず、また持ち帰ったところで日本に生かせるかどうかも分からない。
    それでも命を賭けた彼ら。それほどにひとの世の真理を説いた経典は価値のあるものだったのだ。

    タイトルになっている「甍」は、後半部分にわずかに登場する。
    「鑑真」が建立した唐招提寺の屋根の向うには、秋の青空が広がっていることだろう。

    • nejidonさん
      hotaruさん、こんにちは(^^♪
      コメントありがとうございます。
      これはとても素晴らしい作品でしたね。
      もっともっと沢山のひとに読...
      hotaruさん、こんにちは(^^♪
      コメントありがとうございます。
      これはとても素晴らしい作品でしたね。
      もっともっと沢山のひとに読まれてほしいという願いを込めたレビューです・笑
      はい、私も井上靖の著作の中では一番好きです。文章も美しいし。
      そして業行は非常に心惹かれる存在でした。
      学僧たちは皆あのようであったと思っていたら、ひとそれぞれだった
      というのも、無常を感じます。
      ところで先ほどhotaruさんの本棚で「絵を見る技術」を発見しました。
      あちらも大変読みごたえもある本です。
      レビューを楽しみにしておりますね。
      2019/10/06
    • 地球っこさん
      nejidonさん、こんばんは。
      とても感慨深く読み終えることができました。
      素晴らしい本を教えてくださりありがとうございました(*^^...
      nejidonさん、こんばんは。
      とても感慨深く読み終えることができました。
      素晴らしい本を教えてくださりありがとうございました(*^^*)
      でも感想がなかなか書けなくて。
      自分の語彙力のなさにトホホ……です。
      2020/01/13
    • nejidonさん
      地球っこさん、コメントありがとうございます!
      お読みいただいて、本当に本当に嬉しいです(^^♪
      「いいね」が何十個付くよりも、何万倍も嬉...
      地球っこさん、コメントありがとうございます!
      お読みいただいて、本当に本当に嬉しいです(^^♪
      「いいね」が何十個付くよりも、何万倍も嬉しいです。
      さすが、ノーベル文学賞候補になった方だけありますよね。
      文章から香り立つ気品と、底に流れる豊かさがまぁ素晴らしいと思います。
      読み手の気持ちを鼓舞するものがいつもあって、そこがたまらなく好きです。
      レビューがなかなか書けないのは、皆さん同じではないかしら?
      私もかなり時間を置いてから(落ち着いてから)書いたような。。
      まぁ、大体いつもそうなんですけどね。
      歴史的名作であればあるほど、「これ好きー!」なんて簡単に言えませんよ・笑
      でもこうしてレビューを読むことが出来てコメントまで下さって、地球っこさんと
      同じ本のことでお話出来てます。
      本て、素晴らしいですね!!
      2020/01/13
  • 奈良時代の最盛期である天平。その頃、唐から高僧・鑑真を日本に連れてきた僧侶・普照の物語。鑑真の渡航は当時では非合法的だった。天平二年、七年と出航するが難破。天平七年の遭難の際には海南島まで流されてしまう。そして天平十二年に渡航に成功。時間的、距離的に想像を絶する話です。

  • 先週、奈良を旅して寺を回った。現在の自分にも無縁ではない、日本の木造建築や大工技術の歴史に改めて触れたいという思いからだが、千年もの歴史に対して想像力が及んでいるかといえば、心許ない気持ちになっていた。そんなとき唐招提寺のおみやげ屋さんで見つけ、ふと手に取った本。


    奈良時代、仏教における「戒律」の師を連れ帰る使命を帯びて遣唐使船で唐へと渡り、のちに鑑真和上を日本へと招聘した僧たちを主人公とした歴史小説。

    己の命と、人生の大半を賭した任務に就いた者たちの生き様が、残された記録に基づいて淡々と描きだされる。歴史小説という分野をあまり読んだことがないが、千三百年も前の出来事を残された記録に基づきながら想像によって補いつつ進む文章に、過剰な脚色は控えられているのかもしれない。それでも後半へと読み進めるに従って胸が熱くなった。ディテールの抑制された行間から、無言の裡に確かな人々の魂が感じられるようだった。

  • 聖武天皇が治める奈良・天平の御世に実現した、唐の高僧・鑑真の来日の影で、それぞれの運命に翻弄された5人の日本人留学僧の約20年に渡る姿を、静謐なだけでなく、鮮明な視覚的イメージと説明しがたい感傷を読み手の胸に呼び起こす、独特な文体で描いた歴史小説です。  
    733年の第9次遣唐使船で、「普照(ふしょう)」、「栄叡(ようえい)」、「玄朗(げんろう)」、「戒融(かいゆう)」の20代の若き僧4人が留学生として入唐を果たします。中でも、奈良の都より派遣された普照と栄叡の二人は、十数後に実施される「だろう」第10次遣唐使船派遣までの間に、近代国家確立への道を模索しながらもいまだ迷走を続ける日本に、政治的・仏教的双方の理由から、戒律を授けてくれる高僧を先進国たる唐から招くという使命を背負っていました・・・。  

    彼らより30年近く前に入唐していた「業行(ぎょうこう)」を含め、命がけで海を渡った日本人留学僧5人でしたが、入唐後の運命ははっきりと分かれます。  

    入唐早々、大陸の広大さと不可思議な魅力の虜となり、「この国には何かがある」と、托鉢僧となって出奔し、消息を絶った「戒融」。

     唐へ向かう船の中で既に「祖国へ帰りたい」と弱音を吐くほどに意志薄弱で、入唐後も誰よりも帰国を願っていたくせに、皮肉なことに、唐の女と結婚して子供までなして還俗し、帰国叶わず唐の地へ骨を埋めることになった「玄朗」。

     祖国へ少しでも多くの知識をもたらそうと、広大な唐土各地に散らばる経典の写経に入唐後の50年近い人生を捧げながら、帰国の船が難破し、彼自身の命よりも大切にしていたすべての経典と共に、透き徹る海の底に沈んだ「業行」。  

    入唐9年目に唐でも屈指の高僧・鑑真に来日を打診して以来、ひたむきな情熱と行動力で鑑真来日のために立ち回りながら、異国の地で病没した「栄叡」。  

    そして、栄叡や業行ほどの行動力も情熱もなくだた彼らに引きずられていたようでありながら、誰よりも彼らを理解して手を貸し、在唐20年目の753年、広大な唐土を放浪した果てに高僧鑑真を伴ってただ一人、祖国の土を踏んだ「普照」。  

    戒律のために来日を決意した742年から来日した753年までの約12年の間に、5度の航海の失敗や愛弟子たちの死、老齢の身である自身の失明などを経験しながらも、一度も気持ち揺るがす異国へ続く海を渡った鑑真の重厚な姿と比べると、狂おしいほどにもがき続けて歴史の渦の中にひっそりと埋もれていった5人の日本人留学僧の姿はあまりにも小さくて儚く、それ故に却って心に染み渡ります。  

    抑制のきいた文体と鮮やかな情景描写が、人の運命の儚さを見事に表現しており、この作品を一層印象深いものにしていました。

    • 地球っこさん
      hotaruさん、こんにちは。
      『星と祭』から『天平の甍』に参りました。
      久遠の歴史の中で懸命に生きた人たちに想いを馳せることができまし...
      hotaruさん、こんにちは。
      『星と祭』から『天平の甍』に参りました。
      久遠の歴史の中で懸命に生きた人たちに想いを馳せることができました。
      でも、それを感想にするのは難しかったです。
      もどかしさに悶々としました。
      2020/01/13
    • 地球っこさん
      hotaruさん、同時にコメントしちゃったみたいです(*^^*)
      私の拙い感想へのコメントありがとうございました。
      業行のあのシーン、h...
      hotaruさん、同時にコメントしちゃったみたいです(*^^*)
      私の拙い感想へのコメントありがとうございました。
      業行のあのシーン、hotaruさんと同じような想いになれたことに、何だか胸が熱くなりました。
      あ、失礼しました。遅くなりましたが、今年もよろしくお願いします。
      2020/01/13
  • 井上靖は、中学生の頃に「あすなろ物語」を読んだものの面白いと思えず、それ以来敬遠してしまっていたのだけど、今回読んでみたら思いのほか読みやすかった。
    史実を元にしたフィクションだが、心理描写をあまり書き込み過ぎず、淡々と留学僧達の行く末が描かれる。
    その書かなさの加減がちょうど良く、僧達に心を重ねて想像しながら読むことができた。
    最後の真相を書き切らないところも憎い。
    読み終えてからも物語は終わらず、胸の中で続いている気分。

  • 近く、奈良を訪れる予定があるので、予習を兼ねての読書。

    書名だけは知っていた、有名な小説。
    イメージとしては、鑑真の来日にまつわる苦労の話、成功の話、えらい人の立派な話(乱暴な言い方ですみません)。
    だから、平成の世を慌ただしく生きている自分にはあまりにも遠くて、興味をもって読めないんじゃないかと思っていたのだけれど……良い意味で裏切られました。

    大きな歴史のうねりの中、むしろ印象に残るのは、登場人物一人ひとりの生き方で。
    特に、若い留学僧たち4人が、それぞれの道を進むなか、ちりぢりになり、目標を見失い、自分にはどうしようもない事象に流されながらもただ生きていく様子がが心に強く残りました。

    そして、これから本書を読む方のために詳しくは書きませんが、終盤のクライマックスが、圧巻!
    小説はほとんどの部分、淡々と出来事だけが述べられていて、登場人物の心の内に触れる箇所はごくわずかです。
    でも、だからこそ、人生の儚さと絶望が自分のすぐ近くに感じられて、胸をかきむしられました。

    留学僧の4人以外にも、たくさんの登場人物が行き交う、群像劇のような本書。
    また年を重ねたら、違う人物が気になったりしそうで、機会をみて再読してみたい1冊でした。

  • なぜ今これを読もうと思ったのかわからないが、心惹かれて読む。遣唐使、鑑真、唐招提寺…教科書では数行の説明で済まされることだけど、それに載ってない人々の想いがすごいことだなーと。今と距離感の全く異なる異国の地にそもそも往来することが奇跡的なことだしそこで何かをなすことの過酷さ。第1章で脱落しそうになったが、第2章からはサラサラ読めた。唐招提寺に行かねばと思った。

  • 鑒真和上のことは、歴史の授業で習いました。何度も難破の憂き目に遭い、視力を失った後も来日を諦めなかった不屈の人。第九次遣唐使の船で唐へ留学した僧・普照の視点で物語が進みます。渡航の困難にもめげない情熱に胸を打たれます。

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著者プロフィール

井上 靖 (1907~1991)
北海道旭川生まれ。京都帝国大学を卒業後、大阪毎日新聞社に入社。1949(昭和24)年、小説『闘牛』で第22回芥川賞受賞、文壇へは1950(昭和25)年43歳デビュー。1951年に退社して以降、「天平の甍」で芸術選奨(1957年)、「おろしや国酔夢譚」で日本文学大賞(1969年)、「孔子」で野間文芸賞(1989年)など受賞作多数。1976年文化勲章を受章。現代小説、歴史小説、随筆、紀行、詩集など、創作は多岐に及び、次々と名作を産み出す。1971(昭和46)年から、約1年間にわたり、朝日新聞紙面上で連載された『星と祭』の舞台となった滋賀県湖北地域には、連載終了後も度々訪れ、仏像を守る人たちと交流を深めた。長浜市立高月図書館には「井上靖記念室」が設けられ、今も多くの人が訪れている。

「2019年 『星と祭』 で使われていた紹介文から引用しています。」

井上靖の作品

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