楼蘭 (新潮文庫)

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レビュー : 35
  • Amazon.co.jp ・本 (327ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101063140

感想・レビュー・書評

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  • 久しぶりに読み返す機会があった、表題作を含めて12の短編集。

    表題作はヘディンの『さまよえる湖』に想を得た、砂の中に埋もれたかつてのオアシス都市の物語。穏やかな筆致で、さらさらとした砂の中から現れ、消えていった都市の運命が描かれる。「楼蘭」という地名は、当時の現地の呼び名「クロライナ」に漢字を当てたものだけど、あのように美しい漢字が当てられていなかったら、ここまで日本人のロマンを呼び起こさなかっただろうなとも思う。この字を当てて記録した、当時の名もない記録者のセンスに、心からの感謝と賛辞を。

    個人的ベスト3は、『狼災記』『褒娰の笑い』『補陀落渡海記』。『狼災記』は中島敦の『山月記』に比されることも多い人間の変化ものだけど、『山月記』よりももっと冷たくて厳しい、人間の業とそれに見切りをつけるための結末が待っている。『―笑い』は、笑わない寵姫が夷敵来襲ののろしを見たときにふっと見せた笑顔が忘れられず…と、愚行を重ねる皇帝を描いた、傾国の美女もの。のろしの火と美姫の笑顔の取り合わせが妖しく美しくて、印象的な作品。『補陀落渡海記』は、代々の住職が生きながらにして海の向こうの西方浄土を目指さねばならない寺で住職となってしまったがために…という主人公の迷いと周囲の期待(煽り)の息苦しさがすさまじい。

    いずれの作品も読後に「あぁ…」とやるせない思いにかられるものの、重苦しい余韻が後をひくということはない。主人公らのたどる運命には、諦念もあるのかもしれないけれど、自分たちの行きつく結末に覚悟を決めていたのかとも思われ、むしろ少し輝いていたりする。そこが希代のストーリーテラーと評された著者の筆のなせるわざかと。描かれた世界は重いものを漂わせているけれど、そこに垣間見える高潔さも感じるのが心地よく、何回も読み返したい短編集です。

    -----[2007.1.27にAmazonにアップしたレビューを、記録のためにこちらにもアップし、すこし書き直しました]-----

    • 花鳥風月さん
      Pipoさん こんにちは

      『褒娰の笑い』 昔何かで読んでとても印象に残ってます。これに収録されているのか…

      あの妖しい感じがけっこう忘れ...
      Pipoさん こんにちは

      『褒娰の笑い』 昔何かで読んでとても印象に残ってます。これに収録されているのか…

      あの妖しい感じがけっこう忘れられないです。また読んでみようかな、と思いました。
      2013/03/06
    • Pipo@ひねもす縁側さん
      花鳥風月さん、こんにちは。

      『褒娰の笑い』はそんなに深く突っ込んで書いているわけではないのに、じわじわきますね。軽々しさと深刻さのコン...
      花鳥風月さん、こんにちは。

      『褒娰の笑い』はそんなに深く突っ込んで書いているわけではないのに、じわじわきますね。軽々しさと深刻さのコントラストが巧みなのかもしれません。

      私も手放したり買い直したり、と折りに触れて気になる作品集です。
      2013/03/06
  •  オリエント情緒というかシルクロードロマンというかそういうのを感じたい時に
    ぱらっとめくって好きなとこを読んで満足する一冊です。
    ずっと手元に置いておきたい。

  • 中国西域を舞台としたものが中心の短編集。
    楼蘭の話は子供の頃になんかの本でも読んだけど、中央アジアっていまいち場所がよくわからない。

    このあたりも行ってみたいけど、お金かかるうえにハードそうだなぁ。

  • 挫折

  • ファムファタルがお好き

  • 『タクラマカン砂漠』という響きが好きです。

    生まれ変わるならタクラマカン砂漠に吹く風になりたいと思います。

    12編の短編 表題作の楼蘭は中央アジア、中国の西域を舞台とした古代弱小国の興亡の物語 立地的に大国の漢と匈奴の両方から支配と搾取が繰り返されるなか、細々と暮らしていかなければならない楼蘭の人々に無常さを感じます。

    他にも人間になる事と夫の浮気に制裁を加える事が出来なくなる葛藤を描いた羅刹女国!?
    即身仏に強制的に祭り上げられる側の内面を描く補陀落渡海記など心に何かが引っ掛かりずり落ちていくような短編集です。

  • 古代、西域に一時存在した国楼蘭を舞台にした「楼蘭」、同じく西域で起こった大洪水の話「洪水」、西域を制圧した英雄班張の物語「異域の人」他、全部で12編の短編。
    まぐあいを重ねるうちに狼に成ってしまう「狼災記」や、人食い羅刹女の国の話「羅刹女国」、意図せず渡海を強いられた住職の追い詰められていく恐怖を描いた「補陀落渡海記」等は割と面白かった。
    ところで、「百億の昼と千億の夜」に出てくる人工都市「ゼンゼン」の名前、楼蘭の人々が漢の命令で移住させられた「鄯善」という都市名から来てるんじゃないかなあ。何となく。

  •  歴史作品を中心に12編収録。楼蘭とは「中央アジア、タリム盆地のタクラマカン砂漠北東部(現在の中国・新疆ウイグル自治区チャルクリク)に、かつて存在した都市、及びその都市を中心とした国家の名称」である(wiki調べ)なんとロマンを掻き立てることか、更に「さまよえる湖」ロプノールの西岸に位置し、シルクロードが西域南道と天山南路に分岐する要衝にあって、交易により栄えたとある。日本人はシルクロードに弱い。なぜなら島国に住むわたしたちの感覚からして、大陸の雄大さは永遠の憧れなのであろう。

  • 人間の智慧と言うものは何と言っても浅いもので…己が身を亡ぼす地獄の門へ向かって一歩一歩足を運んでいたのであります。文章とはこういう事なのか。直接的でないのが好きだけど。

  • 四半世紀ぶりに取りて読む。中学生のときは李陵と比べて格段に低い評価をしていたが、改めてこれはこれで趣の深い作品である。

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著者プロフィール

井上 靖(いのうえ やすし)
1907年5月6日 - 1991年1月29日
北海道旭川で生まれ、天城湯ヶ島、三島・沼津で18歳まで過ごす。その時代までのことは『しろばんば』をはじめとした「自伝的小説三部作」に詳しい。金沢の第四高等学校(現・金沢大学)で詩作を始め、京都帝国大学を卒業後大阪毎日新聞社に入社。
小説『闘牛』で第22回芥川賞受賞、文壇へは1950年デビュー。現代小説、歴史小説、エッセイ、自伝的小説、シルクロード西域関連の作品、詩集など創作範囲は多岐に及ぶ。主な代表作に、『風林火山』『氷壁』『天平の甍』『おろしや国酔夢譚』などがある。
1964年日本芸術院会員に。同年『風濤』で第15回読売文学賞、1980年菊池寛賞、1985年朝日賞などをそれぞれ受賞。1976年には文化勲章も受章しており、多数の受賞歴がある。

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