夏草冬涛 (新潮文庫 い 7-18)

  • 新潮社 (1970年4月1日発売)
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本 ・本 (743ページ) / ISBN・EAN: 9784101063188

感想・レビュー・書評

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  • 「自伝三部作」の第二弾。小学校を卒業し、浜松中学に進学した洪作は、その後沼津の中学に転校して、三島の叔母のもとに身を寄せることになります。

    洪作は親戚の「かみき」の家を訪れて、蘭子とれい子の姉妹と再会します。思春期を迎えたばかりの洪作は、あいかわらずのわがまま放題の美少女たちにとまどい、彼とともに徒歩通学をしている同級生の増田と小林の二人とともに、自意識をもてあまして落ちつかない気持ちにさせられます。

    一方で洪作は、一つ年上の金枝を中心とするグループに魅かれていきます。金枝は級長でありながら、タバコを吸ったり授業をさぼったりと、多少不良少年めいたところをもっていましたが、海外文学に通じていました。ほかに、スポーツ全般が得意で、歌を詠むという意外な趣味をもつ木場、大人びて他人のふところに自然に入り込むことのできる藤尾、動作は緩慢ながらも人並外れた記憶力をもち成績優秀な餅田など、ほかの生徒たちとはちがった個性をもっており、やがて洪作は彼らの仲間にくわわって、それまで知らなかった世界を知っていくことになります。

    本作の舞台となっている時代はおそらく大正から昭和に入るころだと思われますが、ローティーンの少年たちに特有の自意識のありかたが見られる一方で、現代の少年にくらべてずっと大人びている部分と、反対に初心な部分とが見られるのも、興味深く感じました。

  • 読了

  • この作品は井上靖の長編小説。産経新聞に1964年9月27日~1965年9月13日まで 連載され、その後、新潮文庫などで出版された。
    内容[編集]
    井上靖の小説の中でのジャンルとしては、自伝的なものに属する。 井上靖沼津中学校3~4年の頃がモデルとなっており、 しろばんば(小学生時代)、の次、北の海(高校受験浪人)の前である。 しろばんばで登場する、三島の伯母、祖父文太、かみきの家の蘭子、れい子、 母七重(会話のみ)が、再び登場する。
    あすなろ物語との関係は、2節の「寒月がかかれば」と時期的に一致し、寺の娘 雪枝(実名:幸子、夏草冬濤では郁子)が登場するなど共通点がある。
    しろばんばでは、小学校卒業までが記されているが、井上靖は、一浪後、 名門浜松中学校に首席で入学する。その後、父の転勤に伴い、沼津中学校に 転校し、三島の伯母(父の姉)の家から通う事になる。夏草冬濤は、その三年 の夏からスタートするが、当初、秀才型だった洪作(井上)が、詩や文学を好む 一見不良ぽい上級生に魅かれて行き、徐々に成績が落ちて行く過程が描かれている。

    小説中に登場する妙覚寺(夏草冬濤では妙高寺)には石碑があり、井上靖の歌で、
    思うどち 遊び惚けぬ そのかみの 香貫 我入道 港町 夏は夏草 冬は冬濤
    がある。題名はそこから採ってきたものと思われる。 また、藤尾(実名: 藤井)の詩、

     カチリ
     石英の音
     秋

    も記されているが、井上は後に、この詩を見せられた時に 衝撃を受け、文学を志すきっかけとなった、と語っている。
    以下、小説中の人物と実名の対応関係を記す。
    藤尾: 実名 藤井
    木部: 実名 岐部
    金枝: 実名 金井
    郁子: 実名 幸子

  • 井上靖の自伝的小説で,小学生時代を描いた「しろばんば」の続編にあたる小説.中学生になって親元をはなれてくらすちょっと気弱な洪作だったが,だんだんと1学年上のちょっと不良っぽいが,人間的魅力あふれる藤尾,木部などとまじわるようになっていく.それに比例して成績は下がっていくが,あまり気にせず自由奔放に生きていく.伊豆の故郷に帰って「しろばんば」の舞台で昔をふりかえる部分は感動的だ.「しろばんば」を読んでいるとそれだけますます.あと女の子に対する少年ならではの恥じらいの気持ちは昔の少年時代を思い出してやまない.最後のシーンで藤尾,木部らと土肥に旅に出る場面は,少年らのよむ詩にあわせて,洪作は舟の中,青空の下眠っていくが,なんとも美しい情景だった.

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著者プロフィール

井上 靖 (1907~1991)
北海道旭川生まれ。京都帝国大学を卒業後、大阪毎日新聞社に入社。1949(昭和24)年、小説『闘牛』で第22回芥川賞受賞、文壇へは1950(昭和25)年43歳デビュー。1951年に退社して以降、「天平の甍」で芸術選奨(1957年)、「おろしや国酔夢譚」で日本文学大賞(1969年)、「孔子」で野間文芸賞(1989年)など受賞作多数。1976年文化勲章を受章。現代小説、歴史小説、随筆、紀行、詩集など、創作は多岐に及び、次々と名作を産み出す。1971(昭和46)年から、約1年間にわたり、朝日新聞紙面上で連載された『星と祭』の舞台となった滋賀県湖北地域には、連載終了後も度々訪れ、仏像を守る人たちと交流を深めた。長浜市立高月図書館には「井上靖記念室」が設けられ、今も多くの人が訪れている。

「2019年 『星と祭』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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